イラク戦争劣化ウラン情報 No.26      2006年10月30日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 吉田正弘

イスラエルがレバノン空爆でウラン兵器使用の重大証拠

 イスラエルが7/8月に行ったレバノン侵攻と大規模な空爆でウラン兵器を使用した重要な証拠が、欧州放射線リスク委員会(ECRR)の中心人物であるクリス・バズビー博士と劣化ウラン兵器研究者のダイ・ウィリアムズ氏によって公表されました。レバノン現地のヒアムなど爆撃地点のクレーター付近から採取した土壌サンプルから、環境バックグラウンドよりも高いウラン濃度で、明らかに濃縮ウランと考えられるウランが検出されたのです。バズビー博士はこれらがイスラエルの使用した爆弾に含まれていたことは間違いなく、バンカーバスタータイプの爆弾にウランが含まれているか、それとも小規模な核分裂を引き起こす新兵器が使われている可能性があると指摘しています。

 このサンプルは9月レバノン現地に調査のために入った、イギリスの劣化ウラン兵器の研究者ダイ・ウィリアムズ氏が持ち帰ったものです。氏はレバノン侵攻中にイスラエル軍がバンカーバスタータイプの爆弾で空爆を行ったと報道された地点で調査を行いました。グリーン・オ−ディットGreen Auditが公表した両氏の連名の報告書では、これらのサンプルのうち、ヒアム(khiam)とタイル(Taire)で採取した二つの分析結果を予備的な調査結果として公表しています。残りのサンプルについては更に分析が行われています。ヒアムのサンプル採取は爆弾のクレーターから近くの屋根に吹き飛ばされた土壌から行われましたが、このクレーターではガイガーカウンターの読み取り値は700nSv/hrという非常に高い値でした。ベイルートの放射線のバックグラウンド値は35nSv/hrですから、その20倍もの放射線レベルであったわけです。ヒアムの爆撃地点についてはレバノン科学研究委員会(Lebanese National Council for Scientific Research)のアリ・クベイシ博士がガイガーカウンターによる測定を行い、クレーターの縁の外側で50nSv/hr、クレーターの中心部で300nSv/hr、更に一カ所では800nSv/hrもの放射線レベルを確認したと報じられましたが、ダイ・ウィリアムズ氏がサンプル測定を行ったクレーターはそれと同じ爆撃地点です。いずれにしてもバックグランド値よりもはっきり放射能レベルの高いクレーターが存在することが確認されたわけです。

 持ち帰ったサンプルのうち2つ(ヒアムとタイル)はシンチュレーションカウンターでアルファー線とベータ線の測定を行い、ヒアムのサンプルについてはCR39プラスチック検出器を使ったアルファー線の測定が行われました。さらにハーウェル(Harwell)の研究所で質量分析器を用いて両サンプルのウランの同位体毎の測定が行われました。
 その結果は極めてはっきりしたものです。まず、ヒアムのサンプルはアルファー線の測定(2cmの距離から)ではバックグラウンド値の4倍のアルファー線が検出されました。ハーウェルでの質量分析器を用いた測定の結果、ヒアムの土壌サンプルは総ウラン濃度が182Bq/kgで、通常の土壌のバックグランド値である5-20Bq/kgを9倍以上上回って非常に高い値を示していました。一方、タイルのサンプルは11Bq/kgで通常の範囲にありました。

 更に驚くべき事に、ヒアムのサンプルではウラン238/235の存在比率は108という濃縮ウランを示す値だったのです。通常、天然ウランではこの比率は137.88という値をとり、劣化ウランは450程度の値を取ります。原子炉用の使用済み核燃料(元は3%程度の濃縮ウラン)では60という値を取ります。108という数値は、濃縮度が1%弱程度の濃縮ウランであることを示しているのです。タイルのサンプルの比率は131-141とほとんど天然ウランの範囲に入っています。この結果は、タイルのサンプルは濃度、同位体の組成ともほとんど天然ウランであり、従ってもともと土壌に含まれていた可能性が高いこと、一方ヒアムのサンプルには濃縮ウランが通常のウランの9倍以上も含まれていた事を示しています。この濃縮ウランの出所はイスラエル軍が使用した爆弾であることは間違いありません。

 バズビー博士とウィリアム氏はグリーン・オーディトの報告書の中で、このウランがどこから来たのかについては、@イスラエルが小さな実験的な核分裂装置を使ったか、それともAバンカーバスタータイプの爆弾に濃縮ウランが含まれているのか、どちらかしかあり得ないと言っています。@の可能性については他に存在を知らせる情報がないので、常識的にはAであると考えざるを得ません。イスラエルのレバノンでのウラン兵器の使用については、確たる証拠がなかなかつかめない状態が続いてきました。メルカバ主力戦車の発射する主砲弾についても、イスラエルが米国から劣化ウラン弾を購入したのは確かですが、実際にレバノンで使用したという確たる証拠を握ることは難しかったのです。しかし、今回は否定することのできない結果をイスラエルと米国に突きつけたと言えます。イスラエル軍に放射性物質でできた兵器を使ったことを認めさせ、その責任を取らせなければなりません。

 イスラエル軍はレバノン侵攻に際して大量のバンカーバスター(GBU-28/37)及びバンカーバスタータイプの貫通型爆弾を使いました。米軍はイスラエル軍の苦戦を見て戦争中にイギリスを経由して500発ものバンカーバスターを急遽供与しました。イスラエルが雨あられと落としたこれらバンカーバスタータイプの爆弾に濃縮ウランが含まれていた、あるいは貫通体自体が濃縮ウランでできていた可能性があるわけです。2002年にはウラニウム医療研究センターUMRCがアフガニスタンの住民調査からバンカーバスタータイプの地中貫通型爆弾が非劣化ウランでできている可能性を指摘しました。爆撃地点付近住民が通常の数十倍、二百倍ものウランで汚染されていたからです。今回はこの種の爆弾が濃縮ウランでできている可能性が問題となっています。いずれにしても、これら貫通型の爆弾に比重が高くて堅いウランが使われている可能性はますます高まるばかりであり、今回の調査結果はそのさらなる証明といえます。

 米軍当局、米政府、英軍などはこれらバンカーバスターやバンカーバスタータイプの爆弾がウランからできていることを否定していますが、その可能性は高まるばかりです。さらに、同じく米軍が否定している対戦車ロケットのライナーにウランが使われている可能性も大きいと考えなければなりません。

 米軍が供給し、イスラエル軍が使いまくったバンカーバスタータイプの爆弾に入っているのは放射性物質であるウランです。しかも劣化ウランよりも放射能のレベルの高い濃縮ウランが含まれているのです。イラク、アフガニスタンで住民や兵士に起こったこと−ウラン被曝による健康被害の続出−がレバノンでも起こっている可能性が高いのです。米軍・イスラエル軍によるウラン兵器の使用を徹底的に糾弾するとともに、全面的な住民と環境の科学的調査、健康調査を行うよう国連や国際機関に要求することが必要です。

 なお、関連する資料へのリンクを紹介します。
(1)Evidence of Enriched Uranium in guided weapons employed by the Israeli Military in Lebanon in July 2006 Preliminary Note(グリーン・オーディットによるバズビー・ウィリアムズ両氏の報告書)
http://www.llrc.org/du/subtopic/lebanrept.pdf
(2)UN priorities for investigating uranium and other suspected illegal weapons in the Israel/Lebanon conflict. August 2006 (ダイ・ウィリアムズ氏のレバノン調査報告)
http://www.eoslifework.co.uk/pdfs/u26leb806.pdf
(3)Robert Fisk: Mystery of Israel's secret uranium bomb (英インディペンデント紙(2006/10/28)のロバートフィスク氏による報告の紹介)
http://news.independent.co.uk/world/fisk/article1935945.ece
(4)Chris Bellamy: An enigma that only the Israelis can fully explain (英インディペンデント紙のクリス・ベラミー氏(軍事科学とドクトリンの教授)によるコメント)
http://news.independent.co.uk/world/middle_east/article1935931.ece
(5)Scientists suspect Israeli arms used in South contain radioactive matter(クベイシ博士の調査についての報告)
http://www.dailystar.com.lb/article.asp?edition_id=1&categ_id=1&article_id=74891