イラク戦争劣化ウラン情報 No.14 2004年3月16日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 吉田正弘
「ドラコビッチ博士調査報告集会の記録」完成
イラク戦争帰還のイギリス兵士から高濃度のウラン検出
WHOがウランの危険性の公表を差し止める
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(1)「ドラコビッチ博士調査報告集会の記録」完成
(2)UMRCイラク・ウラン被害調査カンパキャンペーンの継続について
(3)イラク戦争帰還のイギリス兵士から高濃度のウラン検出
(4)WHOがウランの危険性の公表を差し止める
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(1)「ドラコビッチ博士調査報告集会の記録」完成!============
たいへん長い間お待たせしてしまいましたが、ようやくUMRCのドラコビッチ博士の調査報告集会の講演記録の冊子「湾岸戦争・アフガニスタン戦争・イラク戦争での劣化ウラン/ウランによる深刻な汚染と被害を暴く」が完成しました。
この報告集には、
a.ドラコビッチ博士の大阪報告集会での講演とプレゼンテーションで使った図表、質疑、東京集会での質疑だけでなく、
b.UMRCのテッド・ウェイマン氏のイラク調査の詳細報告が含まれています。
とりわけドラコビッチ博士の講演は、湾岸戦争に参加した米英カナダ兵士のウラン被曝、米軍の攻撃によると思われるアフガニスタンの住民のウラン被曝、そして昨年9−10月に行ったイラク調査の速報を含んだ詳細なものです。
■UMRCドラコビッチ博士調査報告集会の記録・目次
・はじめに−−UMRCドラコビッチ博士訪日の意義について
UMRCイラク・ウラン被害調査カンパキャンペーン事務局
・UMRCドラコビッチ博士による調査報告大阪集会・講演録「湾岸戦争・アフガニスタン戦争・イラク戦争での劣化ウラン/ウランによる深刻な汚染と被害を暴く」
・イラク第2次湾岸戦争現地調査報告(T・ウェイマン)「ハシブからアカブまで」
・UMRCからの緊急報告−−イラクにいるNGOスタッフ、連合軍兵員、外国人請負業者、および一般市民へのウラン汚染の危険性の警告
■発行;UMRCイラク・ウラン被害調査カンパキャンペーン/アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
A4版、約80ページ。頒価は700円(UMRCへのカンパを含む)+郵送費
ご希望の方は署名事務局 e-mail: stopuswar@jca.apc.org まで。
■ドラコビッチ博士来日にあたっての資料集「アフガニスタン戦争での劣化ウラン/ウランによる汚染・被害の実態」の増刷ができました。頒価400円。博士の「クロアチアメディカルジャーナル」掲載の論文「診断未確定の疾病と放射能戦争」所蔵。合わせてお読み下さい。
(2)UMRCイラク・ウラン被害調査カンパキャンペーンの継続について====
UMRCイラク・ウラン被害調査カンパキャンペーンは、全国の皆さんからの多大な協力、ご支援を頂きまして、3月15日現在でカンパ総額は、223万4240円に達しました。3月12日に4300ドルを送金しました。皆さんのご支援に心より感謝申し上げます。
第1回送金(10月21日) 5000ドル、55万4250円
第2回送金(11月28日) 5000ドル、55万2250円
第3回送金(12月 9日) 3000ドル、32万5200円
第4回送金( 2月17日) 3000ドル、31万9500円
第5回送金( 3月12日) 4300ドル、48万1256円
なお、UMRCのイラク調査は現在分析中で、半数を超えるサンプルの分析結果がヨーロッパの研究所からUMRCにもたらされています。この結果については公表出来る形になり次第お知らせしたいと考えています。
また、UMRCによれば必要な調査・分析費用にまだ少し足らないと言うことですので、今後も被害調査カンパキャンペーンを継続したいと思います。事務局ではカンパ活動やドラコビッチ博士の報告講演集の売り上げの一部等で、今後もイラクのウラン被害調査費用を支援し続けます。改めて皆さんのご協力をお願いします。
例えば、学習会や講演会、集会などの場で、パネル・写真展などの場で、あるいは知人・友人など周りでカンパを集めていただければ幸いです。
今後もご支援頂ける方は、UMRCイラク・ウラン被害調査カンパキャンペーン事務局の振替口座までご送付ください。
(3)イラク戦争帰還のイギリス兵士から高濃度のウラン検出==========
イギリスの国防省湾岸戦争帰還兵疾病局の下で、湾岸戦争帰還兵の健康問題を検討しているDUOB(Depleted Uranium Screening Programme Oversight Board劣化ウランスクリーニングプログラム監督委員会)の議事録の中で、イラク戦争から帰還したイギリス兵士の中で尿中のウラン濃度が高い兵士がいることが報告されています。
委員会の第13回会議(2003年9月3日)の議事録の中(12ページから13ページに書けての部分)で「(e)コノリー氏[全国帰還兵/家族協会]はテリック作戦[イラク戦争での南部におけるイギリス軍の作戦]参加兵士の生物学的モニタリングの最新の内容を知らせるように求めた。ブラウン氏は、次のように述べた。約70人の兵員が今日までに検査を受けた、そのうち62人は尿中のウランのレベルがイギリス南部の平均と考えられる値だった。(30ナノグラム/リットル以下)。誰の尿も劣化ウランと思われる例外的な同位体比率を示さなかった。ドイツに配備されていた(そしてイラク戦争に参加した)兵士の中の少数の兵員は、天然ウランの同位体比だが、尿中の総ウラン濃度が数百ナノグラム/リットルであることが分かった。これまでDUが検出されたのはたった一人で、彼はDUの事故で負傷し体内にDUの破片が残っている「レベル1」の被曝を受けた兵士だ。ブラウン氏は、テストされた70人の内で24%は「自分はレベル1の被曝を受けた」と言っている。しかし、大部分の場合、彼らの部隊による被曝評価に一致していない。」と述べられています。
■ 70人のうち、1割もの兵士の尿から数百ナノグラム/リットルという非常に高い(日本でも米国でも一般には10ナノグラム/リットル程度と考えられる)、通常の数十倍のウランが検出されているのです。これだけでも異常なことだと思われます。そしてそれは劣化ウランではなく天然ウランの同位体比率を持つというのです。
もっと詳しいことが公表されなければ何とも言えませんが、これはイラクで大量に使われた貫通型の誘導爆弾が天然ウランの組成を持つ(ただし人工のU236を含む)可能性があることを裏付けている可能性があります。前に紹介したように、イギリス国防省はUMRCのイラク調査を非科学的、汚染は大したことはないと中傷しましたが、自分たちの調査結果でこのような値が出ていることをどう弁明するのでしょうか。
■ この劣化ウランスクリーニングプログラム監督委員会DUOBは湾岸戦争帰還兵の健康被害があまりに多い、異常なので調査を要求する兵士や家族の要求をいれて作られたものです。その中にはコノリー氏のように帰還兵/家族協会の代表やクリス・バズビー博士やモルコム・フーパー博士など著名な反対派の科学者も入っています。
この委員会は本来湾岸戦争の帰還兵の健康被害の調査のための組織です。しかし、イラク戦争帰還兵の尿から高いレベルのウランが発見された事で、今回の戦争の帰還兵の健康調査の範囲の拡大、ウラン汚染調査の拡大などの方策が必要になっています。
委員会の中では、これら今回の戦争の帰還兵の調査を委員会の任務に加える委員会の監視下で行うべきだとの意見と、政府の息のかかった研究所に調査をやらせて委員会の関与を排除し、ウラン被曝をできるだけ隠したい政府との対立が続いています。
■ この問題でもう一つの波紋を引き起こしているのがUMRCのアサフ・ドラコビッチ博士の湾岸戦争帰還兵士のウラン被曝調査研究です。UMRCは1999年に27名の米英カナダの湾岸戦争帰還兵の尿の調査を行いました。湾岸戦争から8年も経ってなおかつ、まだこれらの兵士のうち半数以上の16人の尿から劣化ウランが検出されました。これらの兵士は地上戦に参加しただけの兵士でした。
すなわち、「友軍の誤爆を受け体内に劣化ウランの破片が残っているケース以外は劣化ウランに被曝していない」という国防総省側の科学者の主張が全く崩れたのです。
また、「ウランは短期間で体外に排出されるから放射能の影響は大したことがない」という主張も何の根拠もないことが明らかになりました。これが2002年に発表された「米英カナダの湾岸戦争帰還兵士における劣化ウラン同位体の量的分析」という論文です。
その後UMRCは2003年8月に「24時間の尿排出と紙数的崩壊分析を用いた湾岸戦争帰還兵の被曝時点での劣化ウランによる肺への負荷の評価」という論文を発表しました。この論文は、99年に尿から劣化ウランが検出された兵士について、91年に遡って評価を行うと、その時点で放射線の被曝基準を超えた量のウランを被曝していた事を明らかにしたものでした。この研究が正しいとすれば、米国防総省と同様に、「影響があるとすれば友軍に誤爆されたケースだけ」という立場で多数の兵士達の健康被害を切り捨ててきた英国防省の立場が揺らぎます。
スコットランドでは湾岸戦争の帰還兵が血液中の染色体異常の増加で被曝した事を証明し裁判で勝利しています。劣化ウランへの被曝とそれによる健康被害が次々と証明され、政府のウソがはがされていく下で、DUOBの中でもドラコビッチ博士の研究を正当に評価し、兵士の被曝調査をやり直しきちんとする事を要求する声が強まっているのです。
■ DUOBのサイトは3月上旬からどうしたことかダウンしています。(前回のUMRCのインフォメーションで議事録のことが問題になってからのことです。不可解なことです)。しかし、この委員会の議事録は以下のウェブサイトで公表されており見ることができます。
http://traprockpeace.org/duob_index.html
ドラコビッチ博士他の湾岸戦争帰還兵の尿のウラニウム濃度に関する論文は以下のものです。
「 Estimate of the Time Zero Lung Burden of Depleted Uranium in Persian Gulf War Veterans by the 24-Hour Urinary Excretion and Exponential Decay Analysis 」
Col. Asaf Durakovic, MC USAR; Patricia Horan, BSc; Leonard A. Dietz, MSc; Isaac Zimmerman, BSc Military Medicine, Vol. 168, August 2003, pages 600-605.
「 The Quantitative Analysis of Depleted Uranium Isotopes in British, Canadian, and United States Gulf War Veterans 」
DURAKOVIC, A.; HORAN, P.; DIETZ, L. (2002):
Military Medicine, 167, 8:620-627.
また、DUOBの動きと関わって、イギリス政府がイラク戦争に参加した兵士に「劣化ウランは健康障害を引き起こす危険性あり」との情報カードを持たせていたことが暴露されています。イギリス政府も劣化ウランが危険であることを否定出来なくなっているのです。さらに、尿検査をしろという兵士達や帰還兵からの要求を認めざるを得なくなり、その権利があるとカードの裏に記載せざるを得なかったのです。このカードについては以下に翻訳紹介されています。
http://www.nodu-hiroshima.org/siryou17.html
(4)WHOがウランの危険性の公表を差し止める===============
川口外相や石破防衛庁長官は、国会で追及されるたびに「国際機関は劣化ウランが健康に被害をもたらすとは認めていない」と繰り返し、その筆頭にWHO(世界保健機構)の名前を挙げてきました。
しかし、そのWHOが劣化ウランの危険性を公表しようとした内部のトップレベルの科学者ケイス・ベイバーストック博士の発表を妨害し禁止していたことがとうとう明らかにされました。WHOやUNEPの調査がアメリカや国際原子力機関IAEAの圧力を受けねじ曲げられているのではないかということは従来から言われてきました。
まさにそのことが事実であると証明されたのです。WHOが真実にふたをした、まさにそのものを指さして「みろ、安全だ」と叫ぶ外相や防衛長官は一体どう弁明するつもりでしょうか。これによって生じる被害にどう責任を取るつもりなのでしょうか。
彼らが責任を取りそうもない、無責任極まる人物であるだけに一層怒りを抑えることができません。
■ 2004年2月22日付けのサンデーヘラルド(スコットランド)は、以下のように伝えています。極めて重要な記事なので私たちで翻訳してみました。
原文は、 www.sundayherald.com/40096 を参照下さい。
以下、翻訳
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WHOはイラクでの劣化ウランによるガンの危険性に関する科学的研究を「差し止めた」。
WHO 'suppressed' scientific study into depleted uranium cancer fears in Iraq
−−放射線の専門家たちは未公開の報告の中で、湾岸戦争中に連合国によって使われた劣化ウラン兵器は長期に渡る健康リスクを引き起こすと警告する−−
環境問題編集者 ロブ・エドワード 2004年2月22日
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米英の劣化ウラン兵器によってイラクの一般市民の健康が長期的に危険にさらされるだろうと警告する専門家の報告書が秘密にされていた。
優れた三人の放射線科学者によって行われたその研究は、放射能と化学毒性を持つ劣化ウランを含むチリを吸いこむと、子供も大人もガンにかかる可能性があると警告した。しかしその報告書は、主筆のケイス・ベイバーストック博士を上席放射線アドバイザーとして雇用している世界保健機関(WHO)によって、公表を妨害された。WHOは否定しているが、博士は意図的に差し止められたと断言する。
ベイバーストック博士はまた、研究が2001年に終わった段階で公表されていれば、米英にとって昨年の戦争での劣化ウラン兵器の使用制限や、使用後の除去への圧力となっていたであろう、との考えも述べた。
戦争中に何十万もの劣化ウラン弾が連合軍の戦車や戦闘機によって発射され、しかも包括的な汚染除去は行われていない。国連環境計画(UNEP)の専門家たちは、汚染を評価するためにイラク入りすることをこれまでのところ許可されていない。
「我々の研究は、イラクで広範囲に使われた劣化ウラン兵器が市民に独特の健康被害を引き起こす可能性があることを示唆している」、とベイバーストック博士はサンデー・ヘラルド紙に語った。
「劣化ウランの放射能と化学毒性が考えられているよりも大きな害を人間の細胞に与えるという科学的証拠がますます増えている。」
ベイバーストック博士は、昨年5月に退職するまで11年に渡りWHOの放射線と健康に関する主席専門官だった。彼は今、フィンランドのクオピオ大学の環境科学科で仕事をしており、最近はイギリス政府の新しく組織された放射性廃棄物管理委員会に任命された。
WHOは、彼がスタッフであった間、カナダのマクマスター大学のカーメル・マザーシル教授および放射線顧問のマイク・ソーン博士との共著である彼の研究を発表することを許可しなかった。ベイバーストック博士は、WHOがより力をもつ原子力推進側の国連機関、国際原子力機関(IAEA)に脅されたのではないかと疑っている。
「私は研究がWHOによって検閲され、差し止められたのだと思う。というのは、その結論が彼らにとって気に食わなかったからだ。いままでの経験では、WHO当局は原子力推進を任務とするIAEAからの圧力に屈服したのだ」と、彼は語った。「研究を公表していれば、イラクで劣化ウラン兵器を使うことのリスクを、権威者たちに前もって警告する手助けになっていたと考えられるだけに、単なる不幸にはとどまらない。」
しかしながら、これらの主張をWHOは「全く根拠がない」として退けている。「IAEAの役割は非常に小さい」と、ジュネーブのWHO放射線環境健康調整官のマイク・レパコリ博士は述べた。「その論文は、その一部が、WHOが召集した国際専門家グループが劣化ウランの分野で最も科学的であると考えられている内容を正確に反映していなかったので公表が認められなかったのだ」と、彼は付け加えた。
ベイバーストック博士の研究は、今はサンデー・ヘラルド紙の手元に渡っているが、イラクの乾燥した気候では劣化ウランの微粒子は風で撒き散らされ、市民によってこの先何年にも渡って吸引されることを指摘している。体内に入ればその放射線と毒性が悪性腫瘍の成長の引き金を引く可能性を警告している。
劣化ウランからの低レベル放射線は、直接照射を受けた細胞に隣接する細胞を傷つける可能性があることを研究は示唆している。いわゆる「バイスタンダー効果(the bystander effect)」として知られる現象である。これによって身体の遺伝システムの安定性が蝕まれることになり、ガンや他の病気となんらかの関わりがあるものだと多くの科学者によって考えられている。
さらには、イラクにおける劣化ウランは、バルカン戦争で使われたものと同様に、プルトニウムや他の放射性廃棄物で汚染されていることが判明するかもしれない。そうならばもっと放射能が強く、それゆえにさらに危険だ、とベイバーストック博士は論じた。
「劣化ウランの放射線と化学毒性は相乗していわゆる「カクテル効果(cocktail effect)」を生み、ガンのリスクをさらに増す。これら全てが憂慮すべき可能性があり、緊急にさらなる調査が必要だ」、と彼は言った。
ベイバーストック博士のイラクにおける劣化ウランの健康に対する影響に関する懸念は、ジュネーブにある国連環境計画の紛争後アセスメント部代表のペッカ・ハビスト氏も共有していた。「イラクは確かに心配だ、疑いなくそうだ」と彼は言った。
UNEPは2002年にボスニアおよびヘルツェゴビナで劣化ウラン汚染の調査を行っており、できるだけ早く状況を観察するためイラク入りを切望している。イギリス政府はバスラ周辺で1.9トンの劣化ウランが戦車から発射された事を公表したが、さらにたくさん使用したはずの米軍からは何の情報もない。
ハビスト氏が最も心配しているのは、劣化ウラン弾が建物に撃ちこまれた後、適切に除去されないまま修繕されて再入居されていることだ。バグダッドの建設計画局に起こったことがまさにその良い例であることを写真の証拠が示している。
彼はまた、兵器からの劣化ウランがイラクでスクラップとして集められて再使用されている証拠を強調した。「劣化ウランは最終的にフォークやナイフになるかもしれない」と彼は警告した。
「大人が働いていたり子供が遊んでいる場所に劣化ウランを無造作に放置して、除去しないでおくなんて、とんでもないことだ。もし劣化ウランが責任をもって処理されなければ、その危険性は減るどころか増えることになる。それは絶対に間違っている。」
関連:
「UMRCイラク・ウラン被害調査カンパキャンペーン」