STOP!憲法放棄

星川淳(作家・翻訳家/屋久島環境政策研究所)



 日本政府はアメリカが各国に示したというウサマ・ビンラディン氏とアルカイダの事件関与証拠を開示しないが、イギリス政府はかなり詳しい概要を公開し、ガーディアン紙などに分析記事が出ている。
http://www.pm.gov.uk/news.asp?NewsId=2686
http://www.guardian.co.uk/Archive/Article/0,4273,4270894,00.html

 なぜ日本のメディアはこのような重大な情報を知らせ、国会および国民の議論に役立てようとしないのだろうか。以下、この「証拠」の内容とも絡めていくつかの疑問を提起する。

 結論としては、すべて状況証拠にすぎず、ガーディアンの解説記事にもあるとおり英諜報筋さえ「ケニアとタンザニアの米大使館爆破事件容疑との関連のほうが強い」と認めている。かりにビンラディンとアルカイダまでは「容疑」を認めたにせよ、タリバン政権崩壊を狙ったアフガン攻撃は飛躍しすぎていて、常識的にも国際法的にも通用しない。しかもタリバン側は空爆開始直前、ビンラディン氏関与の明らかな証拠があるならブッシュ政権と話し合い、裁判を行なう用意があると発表していたにもかかわらず、ブッシュ大統領はそれを一蹴した。アメリカ国内にも、この重大な過ちにより法的・倫理的な大義が失われたという議論が起こっている。

 こうした根拠薄弱な武力攻撃に対し、自衛隊を派遣して協力することはまったく憲法上の裏づけがない。それは、小泉首相の「憲法前文と第9条のすきま」などという言い逃れではすまない明白な憲法違反である。政府与党が示したテロ対策特別措置法案の根本的問題点は次のように要約できる。

 アフガニスタンへの武力攻撃支援はPKO協力法や周辺事態法の延長線上では取り扱えない。PKOは国連活動であって、その根拠に周知のとおり厳密な条件がある。周辺事態法は日米安保条約にもとづくものであって、基本的に日本国への現実の侵略的脅威を前提とし、やはりそれなりに厳密な条件がある。しかし、米英軍のアフガン攻撃はこのいずれにも当てはまらない。

 現在行なわれているタリバン政権打倒作戦は、国連が明示するとおり「米英の(個別的)自衛権」にのみ根拠をもち、NATOの協力はそれにもとづく集団的自衛権の行使である。日本が自衛隊を動員してそれを支援するには、(1)憲法改正(改悪!)によってアメリカの自衛戦争に参戦できるようにするか、(2)正式に憲法解釈を変えて日米安保条約に完全な対称的双務性をもたせ、集団的自衛権を行使できるようにするか、の二者択一しかない。いずれも、国民の過半数の理解を得るには時間がかかる。したがって、今回の攻撃に自衛隊による支援を行なうことは100%論拠がなく、国会審議そのものが時間の浪費にすぎない。テロ特措法はただちに廃案にし、自衛隊派遣以外の方法によって日本が貢献できる道を本気で検討すべきだ。

 にもかかわらず、もしテロ特措法の成立を強行するとしたら、非常時を言い訳に憲法を逸脱する国家犯罪だろう。上記の単純明快な法的不可能性を踏みにじって、法理も論理もない稚拙な感情的言説で国会を押し切るのは法治社会とはいえない。法案の内容を人道援助だけに限る方法もあるが、難民やアフガン国内被災民の実情を考えると、どのみち現時点では自衛隊の派遣はなじまない。

 いっぽう識者の中にも、「国際常識」や「国際社会の要請」という、これまた法的根拠のない理由で早く軍事協力に馳せ参ぜよという声があるが、民主国家という枠組みをもっている以上、国際常識などという曖昧模糊としたものを憲法の上に置くのは乱暴すぎる。彼らのいう常識や要請は、きわめて恣意的なグローバリゼーション=アメリカナイゼーションの理屈にすぎない。
 
 「政府の仕事は憲法を守ることではなく国を守ることだ」という、北岡伸一東大教授の暴論(朝日10.12)には驚いた。まさに戦前、大陸へ侵攻した軍部の論理そのものではないか。テロ防止を一般化して、今回の世界貿易センターとペンタゴンを狙った犯行が、アメリカのアラブ政策に対する積年の不満にもとづくことを見逃してはならない。これまで、アラブ&イスラム諸国は日本に対して親近感を抱き、日本側も政府・NGOを問わず彼らと良好な信頼関係を築いてきた。
テロ根絶に向けて、日本には日本のできること、やるべきことがある。ここで安易な対米追従を深めることは、むしろ日本国民を危険にさらす愚策だろう。

 テロ特措法の衆院通過は16日に予定されている。もとより憲法を否定する下位法は無効だし、行政府と立法府の2権が最高法規を無視することはクーデターにも等しい。世界貿易センターを崩壊させたテロ犯罪に乗じて、日本国憲法まで崩されてはたまらない。

アフガン難民支援→http://www1.mesh.ne.jp/~peshawar/
アフガン内情→http://www.i-nexus.org/gazette/kabul/index.html
ピースアート→http://www.afghanpeacenow.com/



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