本の紹介 『非戦』 (幻冬社2002.1.10. 監修:坂本龍一+sustainability for peace) |
■白地に黒字で大きく「非戦」の2文字のみの表紙。本書を手に取った人は、掲載された論のあまりの鋭さにぐいぐい引き込まれていくことでしょう。
私たちの署名運動に呼びかけ人の一人としてご協力いただいている星川淳氏も参加され、坂本龍一氏が監修された『非戦』が昨年末に発行され話題を呼んでいます。この本には、私たちが言いたくても力量がなく言えなかったことが本当にたくさん短い文章で綴られています。この本を読んで改めてアメリカの罪状のあまりの大きさに怒りを覚えるとともに、世界でこれほど多くの人々が、アメリカの「一極支配」に異議と反対を唱えていることに励まされます。この本は是非多くの人に読んでもらいたいし、全世界にも翻訳してほしいと思います。
■監修の坂本龍一氏や星川氏らが中心に「一般のメディアではあまり目にすることのない」論考や記事をネットで検索して集約したという編集の仕方そのものが厳しいマスコミ批判でもあります。これらの論考や手記を探し出した監修者の嗅覚には脱帽の一言。「sustainability for peace」、この「平和のための持続可能性」というグループ名は明らかに、アメリカのアグリビズネスの単一集約型大規模農業による遺伝子資源や生物資源の略奪と収奪、農地の破壊的な集中的利用と荒廃・廃棄に対して主張される「農業の持続可能性」をもじっていると勝手に拝察するのですが、農業や工業だけではなく平和もまた持続可能なものにしていかねばならない、全く同感です。
■本書の特徴を一言で言えば、あらゆる側面からのアメリカ批判の書といえます。アフガン「報復戦争」の現状や、「報復」そして「戦争」という言葉の欺瞞に対する批判のみならず、ブッシュファミリーの石油エネルギー・軍需利権、オサマビンラディンの引き渡しを巡るアメリカとタリバンとの取引とその破綻を背景とした9.11以前からのアフガン侵略計画、米の20世紀100年の侵略の血塗られた歴史、途上国の人々の搾取と環境の収奪、環境破壊、グローバリゼーションによる貧富の格差の拡大、パレスチナ支配と虐殺、対イラク戦争における子ども達の被害等々。これほどアメリカの罪状を多面的に描き出している書は、いわゆる「アフガン物」には全くないものです。
■アメリカはなぜ嫌われるのか?−−本書の魅力を別の言い方で言えばこうなると思います。米国民自身が世界の民衆からの、このプリミティブな問いに真剣に真正面から格闘することなしには、世界は少しも良くならないでしょう。
「テロリストを手助けする者はテロリストと同罪と言うならば、真っ先にキッシンジャーとアメリカに爆撃の雨を降らせなければならない」−−古典的な名著『収奪された大地』の著者ガレアーノ「善玉・悪玉劇場」にあるこの言葉はブッシュ政権を鋭く突くものです。
皆さんはご存じでしょうか。チリのアジェンデ政権が独裁者ピノチェットによってクーデタで倒されたのが今から29年前の9月11日、そう「9.11」であったのを。アメリカのCIAや多国籍企業、ニクソンやキッシンジャーの介入によってです。チリ出身の劇作家アリエル・ドーフマン氏は、「アメリカ人に何を求めたいですか」という問いに「他にも数多くの9月11日が存在すること・・を分かって欲しいのだ」と答えています。そしてその殆どにアメリカ自身が関与しているのです。(朝日新聞11月28日)
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この本はもう一つ重要な性格を持っています。すなわち、基本的にすべての文書にWebアドレスが添付されているため手引き書としても利用できるということです。商業新聞やTVの翼賛的で好戦的な報道に対抗するためには、私たち市民一人一人が自ら考え、自ら行動することが大切です。私たちはこの署名運動のHPを一層充実させることで、僭越かも知れませんが『非戦』のような質が高く今のマスコミには紹介されない全世界の中身をこれからも伝え続けていきたいと思います。
星川氏には沖縄へのメッセージビラの賛同人にもなっていただきました。この書の成功に私たちも意を強くしています。アメリカの過ちと非道を告発する仕事を一緒になって進めていくべくエールを送りたい気持ちで一杯です。
次の感想は、HPに投稿されたものです。あわせて紹介します。
2002年1月28日
アメリカの「報復戦争」と日本の参戦に反対する署名運動事務局
sustainability for peace の公式サイト:
http://www.sustainabilityforpeace.org/
坂本龍一氏と星川淳氏の対談や出版記念講演のテキストなど、「非戦」に関する情報が掲載されています。「非戦」のオンライン販売のコーナーもあります。
マスコミが知らせない、
世界中、様々な人々が唱える報復戦争への異議
『非戦』 監修 坂本龍一+sustainability for peace 幻冬舎
9・11の後、「反テロ」の名のもとに、アメリカのアフガニスタンに対する「報復戦争」が、世界中で正当化されたかのようにみえる。少なくとも、主要なマスコミの論調はそうであった。しかし、それとは異なった意見もまた世界中に存在している。それを丹念に拾い上げたのが、この本である。アメリカ議会で唯一武力行使決議に反対した議員、学内で反戦を訴えて停学になった女子高生、息子がテロの犠牲者となった父親、ジャーナリスト、市民運動家、学者、作家、音楽家・・・様々な人々が様々な見地から、アメリカの報復戦争への異議を唱えている。
例えば、深い自己点検を迫る文章がある。その一つを紹介する。
「私は泣かずにいられない。」「世界貿易センターの災厄で愛する人が見舞われた悲劇的な運命について、胸を引き裂かれるような話をある人がテレビで語っているのを見た私は、涙をおさえることができなかった。しかし、そのとき私はいぶかしく思った。ノリエガ将軍を探し出すという口実でわが米軍がパナマのエル・チョリージョ界隈で約5000人の貧しい人々を殺したとき、私はなぜ泣かなかったのだろうかと。」「さらにひどいことに、米軍が200万人のベトナム人を戦争で殺したとき、私はなぜ泣かなかったのであろうか?」(ジョン・ゲラッシ:ニューヨーク在住の政治学者)
アメリカ人が犠牲になった9・11事件の被害者のことを思うたびに涙するのに、アメリカが世界に対して行ってきた残虐行為でどれほど犠牲者が出ようとも、なぜこれまで自分は心動かされなかったのかを厳しく自分に問いかける。それは、アメリカ人であるこの著者だけのことではない。私たちもまた同じ問いを自分に向かって発し続ける必要があるのではないだろうか。
そして、数多くの人が、アメリカがこれまで世界に行ってきた行為から生じた痛ましい結果を告発し、そして、それこそがまさにアメリカに対する憎しみを育てていることを指摘している。
その一つ「水と子どもたちのための祈り」から抜粋してみる。
アメリカは湾岸戦争時、イラクの貯水施設を破壊した。清潔な水の欠乏が、病人や子どもなど最も弱い人々を死に追いやることを調査した上でのことであった。そして、医薬品をも含む経済制裁を今もなお続けている。「この話を読んで私は、いま多くのアメリカ人があからさまに感じている怒りと憎悪を共有することができなくなった。」「自分の子どもが二、三歳だったころを思い出してほしい。子どもたちはどれほど「政治的」だっただろうか?」「テロ(恐怖)とは何だろう? 自分の子どもが自分の目の前で死んでいくのを見ていること以上に大きな恐怖があるだろうか?」「動かなくなったわが子に歌を歌ってやり、もういらなくなった子ども服やオモチャや小さな靴を永久に片付けながら、わが子を殺した相手を許そうとするところを想像してみる。私の心は凍りついてしまう。」(デヴィッド・ジェームズ・ダンカン:モンタナ州在住の作家)
ベツレヘムからも悲痛な声が聞こえる。
「あらゆる場所が攻撃を受けています。」「また一人が殉難者となったという知らせが入ってきました。」「彼は26歳。障害を持って難民キャンプに生まれました。彼は耳が聞こえず、話すこともできませんでした。彼は、家族のためにパンを買おうとキャンプの家から外出し、兵士たちが彼を見つけて発砲したというのです。兵士たちは、こっちに来てIDカードを見せろと彼に怒鳴ったのですが、彼にその声は聞こえません。」「その背中に銃弾が命中しました。彼は倒れ、事切れました。もちろん彼は一言も発することはなかったのですが、でも、彼の脳裏には、彼が口に出したくても出せなかった数多くの言葉が浮かんでいたことでしょう。その一番大切な言葉は「自由を!」というものではなかったでしょうか。」「自由の下で生きたいのです! 好きな場所を選んで住む自由、家族全員が集まっていっしょに食事を楽しむ自由、毎日を普通に生きる自由−検問所も砲撃もなく、銃撃を受けることもなく、殉難者も葬式もなく、そしてデモすらする必要もなく−」(ジハード・アッバス:パレスチナ難民キャンプにて)
今回の事件の「容疑者」とされている人々を育てたのが、まさにアメリカであるという記事もある。「アフガンのイスラムはワシントンが作り上げた」と題する、ブレジンスキー(カーター政権で国家安全補償問題特別担当補佐官をつとめた)へのインタビュー記事(1998年)がそれである。
ブレジンスキーは、ソ連による軍事介入の6ヶ月前にCIAがアフガニスタンのムジャヒディンへの資金援助をはじめたことを認めた。「今そのことで何か後悔していませんか」という質問に対して、「何を後悔しろと? 秘密作戦はすばらしいアイデアだった。ソ連をまんまとアフガンの罠へおびき寄せたのに、それを後悔しろというのかね?」と答えた。「イスラム原理主義を支持したことも、未来のテロリストに武器と助言を与えたことも後悔していないのですね」との質問にも「世界史にとってどちらが重要か考えてみたまえ。ソビエト帝国の崩壊か、それともタリバンか?」と述べ、アメリカの行動をあくまで正当化した。なお、これらの部分は、アメリカ国内では削除された!!
日本の小泉内閣が、アメリカの帝国主義的な政策に追随していることを、本来はリベラルな学者であるチャルマーズ・ジョンソン(『アメリカ帝国への報復』の著者)までが「小泉はブッシュの奴隷なのか」と批判している。「米国はいま日本再軍備をしてほしいと願っており、新ガイドラインで日本に米国製の軍事製品を買えと圧力をかけている。世界一の武器セールスマンであるペンタゴンにとって、日本ほど無邪気でお人好しな上客はない。」「いずれにせよ、小泉は自ら進んでブッシュの奴隷になり、日本全土を「第二の沖縄」のような植民地にしようとしているのだ」と。アメリカだけでなく、日本政府をどう批判していくか、ということが、私たち一人ひとりに突きつけられている。
(大阪 木村)
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