本棚から
「眼の探索」 辺見 庸
角川文庫 514円
フォーラムでの講演も大好評だった辺見庸さんの著書「眼の探索」が文庫になった。36の短編のトップは永山則夫氏の死刑執行を題材にした「骨の鳴く音」であり、その他「背理の痛み」などで、死刑制度について言及している。更に単行本に加え、大道寺将司氏の俳句を取り上げて文庫のために書き下ろした「虹を見てから」も併録されており、一層読み応えのある一冊になっているのに、この値段でいいのと思ってしまう。死刑以外のテーマにおいても「闇なのに、なぜ明るいのか。病んでいるのに、なぜ笑いさんざめくのか。危機へと向かっているのに、なぜ喜びいさむのか・・」という作者独特の切り口に象徴されるが如く、多くの現代人がいつもぼやーと抱いている問題意識を、より鮮明にしてくれること間違いなし!
「友へ 大道寺将司句集」 大道寺将司
ぱる出版 1905円+税
序文の辺見庸氏、解説の齋藤愼爾氏共に、「あの」大道寺将司の句集としてではなく、真っさらな気持ちで作品そのものに向かいあって欲しいと力説している。私たちのように死刑制度に関心がある者にとってはなかなか難しい注文ではあるが、確かに「獄中句」という枠を超えた作品が多く、いわゆる娑婆に生きる人間と同じ目線で社会・人間・自然を視、しかしそれをより深く感じ、咀嚼したものを、一七音に託しており、迫力がある。俳句なんぞに全く関心がない人にも、それでもやっぱり「あの大道寺将司」の作品が読みたいという人にも、お勧めの一冊。全ての背景を捨象して読むときに、あらためて大道寺将司という人の人となり、才能に惹かれてしまう。
「受刑者の法的権利」 菊田 幸一
三省堂 4500円+税
わが国の行刑は「法律による行刑」には、はるかに遠い存在であり、一般に秘匿されている通達・訓令・所長命令といったアウト・ローの観念で支配されている。しかも、それを司法判断自体が追認している。受刑者たちは自らの当局による人権侵害に対し、仮釈放の希望を断たれ、いやがらせを覚悟で獄中から訴訟を起こしているが、そのほとんどが負けの裁判である。
このような想像を絶する犠牲のうえでの裁判例の積み重ねを、単に判例として放置しておくこと自体が問題であるとの意識から本書が生まれた。アメリカにはこの種の出版はあるが日本では最初の試みであり、一般受刑者とともに死刑囚たちの裁判例を完璧なまでに網羅し、問題別に判例が索引できるように工夫もされている。裁判官や弁護士にとっては煩雑な判例をフォローするに便利であるだけではなく、国際的視野からの示唆もあり、受刑者(死刑囚を含む)の救援活動家はもとより一般市民にとっても必読・座右の書である。
「死の影の谷間から」 ムミア・アブ=ジャマール著/今井恭平訳
現代人文社 1700円+税
アメリカの無実の黒人死刑囚ムミア・アブ=ジャマルは今、世界で最も有名な死刑囚だ。フランス・ストラスブールで行われる第一回死刑廃止世界大会でも、ムミアの問題は議題になっていると聞く。しかし、彼の冤罪を主張することがこの本のテーマではない。重罰化の超「先進」国アメリカの監獄で何が起こっているのかを、死刑囚監房のジャーナリスト、ムミアは告発しているのだ。「犯罪」として現れる社会の「病理」は「隔離」「抹殺」によってはけっして解決されず、逆にそうした刑事政策の中にこそ、「人種差別」として端的にあらわれているアメリカの「病理」は貫かれているのだ。(「監獄通信」78号より)
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