死刑廃止への道のりは厳しい・・・ 司法人権セミナーでの挨拶
NGOを代表して フォーラム九〇 田鎖麻衣子
本日はヨーロッパから欧州評議会法務人権委員会の方々・そして死刑廃止問題のエキスパートの方々をお迎えして、ここに日本の死刑廃止市民団体を代表してご挨拶できることを心より光栄に思います。 私たち「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム九〇」は、死刑廃止運動を専門的に担う団体としては日本ではただ一つの全国規模のネットワークです。一九八九年の設立以来、死刑廃止議員連盟の方々、そして、アムネスティインターナショナル日本支部の方々などと協力しながら、活動してまいりました。
昨年六月にはストラスブールで開かれました「第一回死刑廃止世界大会」に参加し、また今月一三日にはローマにおいて持たれました、「死刑廃止世界連盟」創立にメンバーとして加わりました。しかし私たちの取り組みはまだまだ弱いもので、そして一方で日本の死刑をめぐる状況はますます厳しく、死刑廃止への道のりは極めて厳しいというふうに言わざるを得ません。昨年六月二六日欧州評議会の議員会議において日本とアメリカ、二つのオブザーバー国、この両国の死刑に関する決議が採択されました。その会場で日本政府は一枚のペーパーを配布しました。それは死刑については様々な見解があり、死刑を存置するか否かは国内の世論や犯罪動向などを考慮しながら、それぞれの国家が決めることである、そのように主張するものでした。そして、その半年後、昨年一二月二七日、日本政府は二人の人の死刑を執行する、というかたちで、欧州評議会議員会議の決議に対するより明確な答えを送ったわけです。日本はこれからも死刑を存置しそして執行を続けていく、とう強いメッセージを送りました。昨年二〇〇一年という年は死刑の執行がない年、この様な年にできるのではないかと私たちは期待しておりました。しかし年末の本当に最後の年の瀬に死刑が執行されると言うことで、二〇〇一年も行われました。この様に日本では死刑の執行が極めて政治的なものとして、使用されてきているのです。今回日本でのこの司法人権セミナーの開催に当たりまして、欧州評議会で作成されました、「死は正義ではない」というブックレットの日本語版が作成されました。本日の資料としてもお手元に皆さんにわたっております。このブックレットの中には、先ほどの昨年ストラスブールでの日本政府のコメントに対する明快な答えと同時に、日本における死刑を廃止していく、その実現のためには何が最も大きな問題であるのかということが示されています。ブックッレットにはこの様に記載されてます。「死刑を廃止するか維持するかの選択は、また、私たちが住みたいと願う社会の種類とその社会を支えている価値の選択でもある。死刑の廃止は人権・民主主義・法の支配の理念によって特徴づけられるひとまとまりの価値の一部である」こう記されています。日本は欧州評議会のオブザーバー国としてまさにこうした「ひとまとまりの価値」を実現し、そして守っていく義務があります。
そしてこの義務はオブザーバー国に関する評議会決議(九三−二六)にも明確にさ
れております。しかし日本は人権・民主主義・法の支配の理念が未だ成熟していない
社会であります。人権派あるいは人権活動家という言葉はしばしば人を揶揄し攻撃す
るキーワードとしても、マスコミによって用いられます。
民主主義は限りなく多数決に近いものとして理解されておりますし、法の支配が確
立されているという状態にはほど遠く、法の恣意的な適用・運用がいまだに多くの悲
劇を生んでいます。また個人の尊厳という最も重要な価値がなかなか受け入れられて
いない社会でもあります。
死刑の廃止はまさに人間の尊厳を守り、すべての人の人権が、等しく保障される社
会を目指していく、そのような過程の一部分です。しかし日本社会の中で人権や民主
主義の問題に取り組んでいる、貴重な人々の多くは、死刑に賛成しています。平和を
求めて戦争に反対する人のかなりの部分が、死刑には賛成し存置を求めています。死
刑はそれ以外の人権問題とは完全に切り離されたものとして誤って理解されているの
です。ですから死刑の廃止ということは日本の社会の基本的なあり方を変えていく、
非常に困難な取り組みであると考えます。
今回の司法人権セミナーには韓国の国会議員の方も参加されます。今韓国や台湾で
は死刑廃止に向けた具体的な取り組みがなされています。これらの国では同時に民主
主義や法の支配の確立に向けた改革もめざましいスピードで進んでおります。死刑廃
止はそのような改革の一環であって、ここに日本との大きな違いがあるものといえま
す。私たちはこの二日間のセミナーを通じて、欧州評議会における四半世紀にもわた
る歴史を持った取り組みに、死刑廃止へのステップを具体的に学んでいきたいとおも
います。またヨ−ロッパの皆さんの経験から困難な課題を達成するための勇気を得た
いと思います。死刑の廃止という歴史や文化・伝統の違いを超えた、人類にって共通
の最も基本的な価値を実現するために私たちは決してあきらめることなく、死刑を廃
止することの意義を今一度しっかり確認したいと思います。
来月半ば国会が閉会されれば、また死刑が執行される危険性が極めて高いものとな
ります。仮に、今年初めての執行が行われることになれば、それは評議会の決議に対
する日本政府からの第三番目の答えと言うことになるでしょう。そのような事態はぜ
ったいに阻止されねばなりません。日本からそして世界から死刑を廃止していくため
の運動に皆さんと共に取り組んでいきたいと思います。
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