死刑廃止法案、今秋国会上程 (対馬滋)

死刑廃止議連が策定中の「死刑廃止法案」の中身がほぼ固まりました。今秋の臨時国会に上程される予定です。終身刑を導入し死刑廃止を目指す法案で、運動内でも様々な議論がある手法です。

死刑廃止法案骨子案固まる

 「死刑廃止を推進する議員連盟」(亀井静香会長・略称廃止議連)が、「死刑廃止法案」の骨子案をまとめています。最終決定はまだですが、ほぼ骨子案でまとまる模様です。
 ひとことで言えば、死刑を廃止し、最高刑として仮出獄を認めない重無期刑(終身刑)を創設するということです。重無期刑という言葉はなじみがないので、これから終身刑と呼ぶことにしますが、フォーラムニュース等で何度か提起してきた内容と基本は変わっていません。
 ただ一つ大きく異なるのは、これまでは議論の呼びかけでしたが、廃止法案は国会に提出されます。現在入っている情報だと、秋の臨時国会に提出する予定とのことです。政治の場に飛び出した「廃止法案」を、運動側として支援するのか否定するのか、はたまた知らんぷりするのか・・・。
 議連の考えている終身刑について、確認しておきましょう。まず、恩赦による減刑以外社会復帰の可能性のない刑罰です。恩赦法あるいは施行規則の改正を視野に入れていますが、具体案に至っていません。国会で恩赦の運用について議論されるでしょうが、どう進展するか予測は困難です。
 そして懲役刑の一種との位置づけから労役が課されます。完全隔離の死刑囚処遇とは大きく異なり、少なくとも昼間は労働を通じて懲役囚、看守等との交流があります。終身刑は死ぬまで独居房に閉じ込める刑罰と誤解し、死刑以上に残虐だとする人もこれまでの議論ではいました。そうでないことを胸に刻んでおいてください。

執行阻止行動の限界

 九三年の執行再開以来、毎年執行が繰り返され、すでに四一名が処刑されました。指をくわえてみていたわけではありません。防御可能な法的手段を追求してきました。再審や恩赦請求、人身保護請求と危機にさらされた死刑囚の命を守るため、考えつく限りのことはしてきました。
 九九年に、私は人身保護請求人になりました。しかし、執行を阻止できなかったばかりか、人身保護請求の対象者、そして再審請求中の死刑囚が執行されたのです。衝撃でした。恩赦の却下と同時に執行されたケースが過去にあります。執行阻止の有力手段だった再審、恩赦請求、人身保護請求のどれもが歯止めにならなくなったのでした。
 昨年暮れ、それも仕事納め前日の執行の記憶は真新しいでしょう。名古屋で執行されたHさんは、被害者遺族が助命嘆願をしていた死刑囚でした。二度目の恩赦請求書に、二人の遺族が「執行しないでくれ」と上申書を添えたと聞いています。それでも執行されたのです。
 もはや執行を阻止する有効な合法手段は一つしかありません。死刑廃止です。それ以外、執行は阻止できないのです。

なぜ終身刑なのか

 筆者の立場を明らかにしておきます。終身刑導入に賛成です。かつてフォーラム・東京有志たちと「終身刑プロジェクト」を立ち上げ、その成果はニュースで報告しています。
 そんな私の提起は、自然、終身刑導入擁護の論調になってしまいます。ご承知おきください。
 現在の日本で、死刑廃止を現実とするにはどうすればいいのでしょう。表は総理府が行った世論調査結果をアレンジしたものです。回答の選択肢が「どんな場合でも死刑は廃止すべき」「場合によってはやむを得ない」と恣意的だと批判されていますが、視点を変えると世論の動向を垣間見ることが出来るのです。
 どちらの回答にも補助質問が用意されています。そこでは死刑制度を将来どうするべきかを問うています。この回答に、世論が死刑をどうとらえているかが反映されているのです。
 九九年九月の総理府世論調査で「やむを得ない」は七九・三%と過去最高を記録しました。しかし、補助質問を見ると死刑制度は「将来も存続(五六・五%)」、「条件が整えば廃止してもいい(三七・八%)」、「わからない(五・七%)」となっています。
 一方「廃止賛成」は八・八%と過去最低でした。補助質問では「即時廃止(四二・一%)」、「漸次廃止(五二・二%)」、「わからない(五・七%)」でした。表は「即時廃止」「漸次廃止」「条件付廃止」「将来も存続」を全体の比率に換算したものです。
 一目で分かるのが、「即時廃止」の実現は難しいということです。それに比べ顕著なのが、「条件付廃止」の台頭です。フォーラム運動は九〇年から活発になり、メディアに死刑が登場する機会が増えました。執行再開前後はテレビで特集や討論会が何度も企画されていました。
 その成果といえるでしょう、九四年調査では「条件付廃止」「漸次廃止」「即時廃止」で四二・二%と、「将来も存続」三九・三%を上回っているのです。もうひとつ押さえておきたいのが、どうあっても死刑が必要とする「将来も存続」は四割強程度しかいないということです。国民の大多数が死刑存置論者と思い込みがちですが、何のことはない過半数にも達していないのです。
 ならば、廃止論者と条件付廃止論者がつながることで、強固な存置論者と対抗することが出来るのではないでしょうか。そこで登場したキーワードが終身刑なのです。九四年にNHKが行った世論調査があります。死刑存置六二・八%、廃止一七・二%でした。同時に「仮釈放を認めない終身刑を設置して死刑を廃止することに」賛成四六・七%、反対四二・九%という結果がでています。
 終身刑導入が死刑廃止を実現させる可能性は大いにあるといえるのです。

終身刑は残虐か

 死刑は残虐な刑罰だから廃止されなければならないと主張する運動側から、終生塀の外に出さないとする終身刑を提案するのは矛盾した行為だと批判があります。また、死刑の残虐性と終身刑の残虐性は質が異なり、比較することが出来ないとの説もあります。
 一人一人の価値観、人生観が評価の基準となっており、結論を導き出すことは、およそ不可能でしょう。
 でも私は廃止運動にたずさわってきたものとして、明日執行されるかもしれない死刑囚の側に立って考える必要があると思っています。終身刑が死刑より残虐ということはありえないでしょう。生命こそ最終、究極の存在だからです。では、同等でしょうか。難しいけれど、恩赦による仮出獄の可能性を残すことで、終身刑の方が遺体になってからでないと塀の外にでられない死刑より残虐度は低いでしょう。
 そして大道寺将司君の言葉があるのです。
「死刑囚は単に長期間拘禁されたからではなく、いつ死刑囚として処刑されるか分からないという状況に置かれているが故に、精神的に病んでしまうのです。たとえ生涯塀の外に出ることができなくとも、塀の中の生活もまた人生です。終身刑を死刑の代替刑とすることで、百年先の死刑廃止の実現よりも、近未来の死刑廃止の実現を望みます」
 もう一人、昨年暮れに執行されたHさんの助命嘆願をしていた被害者遺族は、
「執行はしてほしくないけれど、許したわけではありません。終生塀の中で償い続けてほしいのです」
 と語っていました。
 現在の日本で、死刑廃止論議のひとまずの終着駅は、このあたりにあるのではないでしょうか。処遇や恩赦の運用など積み残される課題はあるでしょう。でも、命があるのだから、改めてじっくり取り組むことも可能です。

死刑存置終身刑導入の誤解

 終身刑案を提起すると、死刑を残したまま終身刑が導入されてしまうのではないかという不安があるようです。廃止議連に確認しました。
 廃止法案は議員立法として提出されます。不安は、法案に修正が加えられ、死刑が残り終身刑(重無期刑)だけが導入されるのではというものですが、最初に示した骨子案を見てください。修正するには「一」を削除し、「二の1」も削除、さらに省略した部分にも手を加えねばなりません。それではまったく違った法律になってしまいます。
 存置派からそのような修正が加えられるおそれはまずありません。万一あったとしても提案者が修正を受け入れなければそれまでだそうです。
 不安が現実化するのは、別に終身刑創設の刑法改正案が提出された場合ですが、今のところそのような情報は入っていません。

 さて、死刑廃止法案がタイムスケジュールにのった今、私たちは何をすればいいのでしょう。法案が提出される前後に「死刑廃止全国合宿」が予定されています。その前にしておくことはないのか。各地からのご意見を待ちたいと思います。


「刑法等の一部を改正する法律案」
(死刑廃止法案)骨子案


一 死刑の廃止
  死刑を廃止すること。

二 重無期刑(仮称)の創設等
  1 死刑の代替刑として、現行の無期刑のほかに、重無期刑を創設すること。
  2 重無期刑は、重無期懲役及び重無期禁固の二種類とすること。
  3 重無期刑に処せられた者について、仮出獄を認めないこと。

三 重無期刑に処せられた者の恩赦について
   重無期刑に処せられた者についての恩赦について、必要な整備をすること
   (*)制度の内容について、今後検討する必要がある。また、制度を整備する方法として、恩赦法を改正する方法と恩赦法施行規則を改正する方法の2つが考えられるが、いずれの方法をとるかについても、今後要検討。

四 刑の軽重について
  この法律による改正後の刑の軽重は、(1)重無期懲役、(2)重無期禁錮、(3)無期懲役、(4)無期禁錮、(5)有期懲役、(6)有期禁錮、(7)罰金、(8)拘留、(9)科料の順序によること。



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