二月二四日、福岡拘置所に勾留中の人が自殺したと報じられました。昨年五月に熊本地裁で死刑判決を受け、控訴中でした。十一月十日に控訴趣意書が提出され、まだ控訴審の期日は入っていなかったのです。担当の弁護士は「死に急ぐ理由が分からず驚いている、最後に面会したのは一月十六日で、淡々としていて変わった様子はなかった」と言っています。拘置所は「昨年七月熊本拘置所から移送後、不眠を訴えたため福岡拘置所の医師が毎晩計二、三錠の睡眠薬を処方。夜勤の職員が就寝直前に薬を渡し、口に含んだことを確認、さらに飲みこませた後にも舌を上げて確認していた」といいます。しかし「机上の紙製の菓子箱の中に、睡眠薬の錠剤約一〇〇錠が入っていた」とも報じられています。いったいどういうことなのでしょうか。
拘置所の被収容者は無罪推定の原則を無視した、厳しい管理下に置かれています。死刑判決を受けた者への「管理」はさらに厳しくなっているのは周知の事実です。「房内点検」が厳しい中で「睡眠薬をため込む」ことができるかどうか、処遇の実態を少しでも知っているいる者には信じがたいことです。問題は「責任の取り方」のように報じるマスコミの姿勢と、「被告死亡のため公訴棄却の決定をして終了」することになる裁判手続きも含め、何もかも納得のいかないことだらけの出来事でした。
三月二一日〜二二日、東京・浦和・大阪(堺支部)の三地裁で、四人に対して死刑判決が宣告されました。昨年も六月末から七月にかけて五人が死刑判決を受けたのですが、このうち四人はいわゆるオウム真理教関連の事件でした。今回は連日の、しかも年度末ぎりぎりの判決です。これだけ重なってしまうと異様さがさらにきわだちます。
春はヨーロッパからと、巻頭を決めるつもりでいましたが、現実は楽観を許しません。森首相退陣を前にしての執行の危機の中、これを記しています。フォーラム・東京では執行に関する情報を収集していますが、二五日現在確たるものはつかんでいません。
二月一九日〜二四日、欧州評議会のグンナール・ヤンソン法務人権委員長(フィンランド国会議員・写真中央)が来日しました。欧州評議会への加盟は死刑廃止が前提条件です。しかし有力オブザーバー国の日本とアメリカが死刑を維持しているので、オブザーバー国に留めるかどうか決定するため、調査来日した(英・ガーディアン紙)のです。高村法相とも会談しました。ヤンソン氏は死刑廃止の前段階として執行猶予の可否をただし、また確定者との面談を求めましたが「制度の廃止は考えていないし、執行猶予も必要性に乏しい」と法相は拒否しました。死刑囚との面会も拒否し、空の房を見せただけでした。ヤンソン氏は、「『死刑囚の心情を乱さないため』という説明だがこんな理屈は聞いたことがない」語った(同紙)そうです。来日の目的と調査後の感想が、日本国内のマスコミの報道とここまで違っているのはどういうことでしょうか?。
日・米のオブザーバー資格問題が議論される欧州評議会の会議が、フランス・ストラスブールで六月末に開催されます。また直前には「第一回死刑廃止のための世界会議」も開催されます。私たちはこれまで死刑廃止のバックボーンとして欧州評議会の憲章や規約、決議などを引用してきました。世界人権宣言や国連人権規約のもととなった思想です。人権は絶対普遍のものであり、死刑は普遍の原則にまさに反するという思想であると理解しています。
アメリカでは存置州で執行猶予に関する議論が増えています。これは昨年展開された、モラトリアム二〇〇〇という欧州評議会・欧州議会などのヨーロッパ諸国のキャンペーンを受けたものでしょう。まさに「外圧」の成果なのです。
日本での執行が定例化している今、私たちは座して外圧を待つわけにはいきません。これらの会議に参加し、アピールし、日本の死刑廃止に益するよう働きかけようと思います。好ましい外圧を形づくるよう働きかけようと思います。昨年開かれたジュネーブでの人権規約遵守状況の日本政府報告会議には、個人が主体的に、みんなで作った「カウンターレポート」を携え、ロビーイングし、告発してきてくれました。
「死刑廃止のための世界会議」はまさに私たちのための会議でもあるといえます。代表団という形で参加するのが最も適切だと考えました。幸い免田栄さんからは参加の仮了解を得ました。菊田幸一明大教授もジュネーブに続き参加されるようです。
世界会議の主催団体はフランスの市民団体「みんなで死刑に反対しよう」です。情報収集のメールがヨーロッパ・日本間を飛び交っています。代表団は、日本の死刑の歴史・現状、裁判の問題点、確定囚処遇状況、執行について、被害者遺族に加わるさまざまな問題点、などを報告してきます。そして日本の死刑廃止について廃止先輩国、とりわけEU諸国の働きかけに大きく期待していること。日本政府(大使館)への平時の死刑廃止への要求と緊急時の要請・抗議がどれほどの力になるのかをアピールしてきます。人間の尊厳と権利のためにともにすすもうと連帯を求めてきます。会議前後に数カ国を巡り諸団体と連携し同じ活動を行ってきます。
この活動を国内で盛り上げるために「みんなで死刑に反対しよう・キャンペーン」を呼びかけます。全国各地で、とりわけ刑場がある都市では、集会を・デモを・街頭宣伝を・法務局への要請を・拘置所行動を・刑務官へ執行を拒否しようとの呼び掛けを・国会議員への大衆的な働きかけを、その他できる限りの行動を呼びかけます。直接・間接の行動を呼びかけます。そういう雰囲気の中で、代表団を送り出しましょう。全国の仲間の皆さん、いっしょにフランスへヨーロッパ各国へ行きましょう。
フォーラムはいつも貧乏所帯です。この行動のため総額三〇〇万円を目標にカンパを呼びかけています。旅費・滞在費は原則参加者の負担とします。活動をスムーズにするための資料作成費・渉外費・会場費・通訳などに充分の予算が回るように考えています。死刑廃止にとって「今ががんばるべき時」と判断し計画を進めています。地域からの代表を推薦・送りだして下さい。在ヨーロッパの友人たちから、受け入れに一役担うよと、暖かいメッセージが届き、計画の詳細決定までもう一息です。(え)
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