●欧州評議会がやって来る!

   欧州四三カ国が加盟している欧州評議会が、そのオブザーバー国である日本の死刑制度を調査に来るという情報がフォーラム九〇に入ってきたのは今年一月のこと。フォーラム九〇内では、この調査を利用して死刑廃止への弾みをつけたい、として準備をスタートさせた。これまで数々の企画を通して死刑制度の問題点をクローズアップしてきたが、残念ながら死刑は「日常化」しマスコミの扱いも小さくなっている。こうした現状を少しでも変えていきたい、そのためにはヨーロッパからの「外圧」を利用するべきである。そして、日本の死刑制度が「異常で残虐な刑罰」であるかを、欧州評議会という「第三者の目」で調査してもらい世界に暴露するチャンスなのだ。
 欧州評議会は日本政府に死刑制度調査を受け入れるよう一年以上前から要請してきたが、外務省は態度を明確にしなかった。今回の来日は、「死刑廃止議員連盟」が受け入れ団体となって実現したものである。この点に関してだけでも、国際社会に日本の死刑を隠し続けたいという政府の意向が見えてくる。
 欧州評議会の加盟国となるためには、「死刑」を廃止すること宣言しなければならず、また死刑囚に対しては執行停止を直ちに行わなければいけない。そもそも欧州評議会設立時にこの規程はなかった。加盟国内の全面的死刑廃止を目指したプロジェクトが九四年に開始され、九七年には「死刑の無い欧州」が実現したそうだ。記者会見場でこのように誇らしげに説明したのが、今回の調査員であるグンナール・ヤンソン氏(五六歳、フィンランド国会議員)である。氏は欧州評議会の人権委員会委員長の立場にある。本来この調査に来日する予定であったレナータ・ボルベント氏の代役として来日したのである。急な来日決定にもかかわらず、弁護士出身で数々の国際紛争問題を調査してきた経歴から、ポイントを押さえた質疑応答を披露した。ヤンソン氏によれば今回の調査は、日本の法制度の中で死刑がどのように位置付けられているのか、死刑がどのように執行されているのか、その実情調査が目的であり、同時に欧州が死刑を廃止してきた経験を伝えたい、とのことであった。

● いつもの法務省の対応

 この欧州評議会の調査で是非とも把握してもらいたかった点は日本の死刑が「異常で残虐」であること、日本政府が世界的な死刑廃止に「敵対する立場」にあること、である。ご存知の通り、日本の死刑囚は国際基準にかけ離れた方法で処遇されている。単なる死刑とは違い、異常なほど残虐な方法で死刑が執行されているのが日本の現状である。この現状を調査団により国際社会にさらけ出してもらい、さらには国際社会からの厳しい糾弾が日本政府に向けてまき起きることを期待している。元死刑囚、確定死刑囚の家族、死刑事件の弁護士、死刑廃止議員連盟、マスコミなど死刑の実態を伝えられる人たちとの面会をセッティングした。だが、これだけでは不十分である。拘置所内部に入りこみたかったのである。そこで今回最大のターゲットとしたのが、死刑囚との直接面会と刑場の視察であった。国際社会の力を利用して、この難題を突破したかった。事前の交渉でも申し入れ、ヤンソン氏が法務大臣と面会した際にも直接申し入れた。しかし、法務省からは「確定死刑囚は死刑を待っている極限状況におかれている。少しのことでも精神的ダメージを受ける、不安定な精神状況にある」との理由で断られた。東京拘置所を視察した時、所長に対しその場で再度申し入れたが結果は同じ。ヤンソン氏は、「欧州では自国の国会議員は自由に刑務所を視察できる。今回私が断られたのは納得するが、日本の議員が面会も刑場を見ることも出来ないのは理解に苦しむ」と感想を述べている。
 さらに法務省幹部の答弁をメモの中から紹介する。「死刑については、日本固有の事情の上で考えるべきだ。世界では廃止に向けての議論が大きくなっていることも分かっているが、それぞれの国が歴史・刑事法制度のあり方を考えた上で決めていくことだ。死刑は刑罰の根幹であり、慎重に対応すべき。特に重要な点は、国民がどう考えているかだ。不幸なことに日本ではオウム事件が起こり多くの人命が奪われるという凶悪な事件が起きた。世論調査を見ると直近のものでも存置の数が増えている。国民の過半数が支持しているということは重要だ。更に一〇数年前、最高裁の判断にも一般予防のためにも死刑は必要だと指摘している。執行停止への議論が高まってきていることは知っているが、廃止に向かうことが明確になるまでモラトリアムはあり得ない。決定的な状況を前提としない限り、死刑囚に期待を抱かせることになる。法を正確に執行することが法務省に課された使命だ。大臣の単独の判断、もしくは法務省の判断で停止するのは難しい。」
 いつもの答弁であるが、この法務省の態度から死刑をひたすら隠し、議論をせず、「恣意的」に処刑している実態、「密行主義」をヤンソン氏は理解してくれたのではないか。もう一つセッティングしたかったのが、与党の死刑推進派との面会であった。死刑を立法府としてどのように考えているのか、聞き出したいところであったが実現できなかった。

●これから何をしていくのか?

   今回の調査に関する報告書は、四月はじめには公表される予定である。続いて五月には、日本と同じく欧州評議会のオブザーバー国となっている米国の死刑状況が調査される予定。これらの報告書をもとに、六月二五日〜二九日に開催される欧州評議会議員会議でオブザーバー国の死刑制度が議論される。また、六月二一日〜二三日には欧州評議会のある、同じストラスブルグ(仏)の地で、市民団体による「第一回死刑反対世界大会」が開催される(詳細別途)。
 私たちは、欧州でのこうした動きを受けて何ができるのだろうか。まずは、報告書の活用がある。この報告書はまさに、死刑廃止を実現した国際社会から提示される、日本の死刑制度の「診断書」となるはずだ。日本社会が死刑という病巣を持ち続けていることを、この診断書を使って私たちは日本社会に知らしめる必要がある。もちろん、完全な診断書ではないかもしれないが、国際社会から見ればいかに深刻な病巣を持っているか知るチャンスとなるはずだ。国際社会から投げかけられた「警告」が、実効性を持つよう日本社会で活用しなければいけない。
 他にも、日本の死刑廃止運動に追い風となる動きが出ている。欧州評議会の調査が来日する直前、欧州連合(EU)は日本に死刑廃止を求める声明を発表している(二月一六日付)。「死刑を依然として適用していることを深く遺憾とするもの」とある。 また、今年に入りカトリック教会による死刑廃止を考える活動が展開されている。仏教系の宗派からも死刑廃止の決議が出ており、宗教家による声が一段と力を持ち始めている。
 国内外の一連の動き見渡せば、あちこちに死刑廃止への動きは活発になっている。これらの動きをうまく統合化できるか、大きな社会問題に育てられるのかどうか、私たちに突きつけられた課題である。 
 常態化した死刑執行、出口の見つからない死刑廃止運動、この閉そく状態に風穴を開けられるか、ブレイクスルーできるかどうか、私たちの運動の真価が問われる時が来ている。

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