私ども「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」(全国 ネット)は、大学を中心に全国の教育諸機関を結んで、セクシュアル・ハラスメント問題の対策と防止に関する情報交換、問題解決のための支援、および教育・啓発活 動を行うために結成された全国規模のグループです。大学教員・学生・人権活動家 などを中心とした会員は、約250名で、北海道から沖縄までの10の地域別の活動を行 い、また文部省等の政府機関に積極的な対応を促し、様々な情報を提供してまい りました。
さて、私どもは、新聞その他の報道を通して、横山ノック大阪府知事が、選挙 運動中にアルバイトの女子大生にセクハラ行為をしたとして訴えられている民事訴 訟において、「公務多忙」を口実に、「事実関係を争わない」という方針を選び、第1回目の口頭弁論では答弁拒否を行われたことを知りました。
今回の訴訟は、女子大生が学外のボランティア活動においてセクシュアル・ハラスメントを受けたと訴えているものです。私たちとしては重大な関心持っています。
それは、私たちが行った1994年にさかのぼる女子学生のセクシュアル・ハラス メント被害の調査では、回答者の約半数(49%)が学外アルバイト先でセクシュア ル・ハラスメントを受けていたことが明らかになっているからです。しかも、この調 査では、公的に訴えた学生は一人もおらず、被害者は沈黙させられていたことが解 っています。このようなセクシュアル・ハラスメントは、アルバイトという弱い立 場の女性に対する労働権の侵害であり、性差別であり、人権侵害であります。
今回の訴訟は、ボランティアとして選挙運動を応援していた女子大生が提起し たものであり、いわゆるアルバイトとは異なりますが、学生が、学外での活動に任 意に参加する場合、しばしば最も周辺的な「労働力」として、弱い立場におかれ、 その結果セクシュアル・ハラスメントを受けることがありうるという点で、アルバ イト先で受けたセクシュアル・ハラスメントと共通する問題を孕んでおります。
学外での、学外者による学生に対するセクシュアル・ハラスメントの問題は、 これまで大学では十分な対応がなされてきませんでした。しかし、今年度4月1日付 で施行されました改正均等法、文部省のセクシュアル・ハラスメント防止規程、 さらに男女共同参画基本法によって、大学においても何らかの取り組みがなされる べき段階に至っております。
今回、これらの法の履行において大きな役割を果たす行政責任者という職務を 持つ大阪府知事が、女子学生の訴えを真摯に受け止めようとせず、事実を解明する 責任を回避されようとしていることは、アルバイト先やボランティア活動における セクシュアル・ハラスメント問題への取り組みを進めていくうえで、大きな負の影 響を及ぼすことになりかねません。さらに、刑事責任を問われなければ、民事責任 は損害賠償の支払いで解決できるという態度を知事が記者会見等で述べられたこと は、重大な問題であると私たちは受けとめています。民事上の不法行為は、たとえ 犯罪ではないとしても、不当な個人の権利侵害であって、決して許されてはならな い行為です。特に、公務員には、国民の公僕として、国民の権利を守るべき立場に あります。大阪府の公務員であるならば、府民の権利を守ることが務めであり、も しも府民の権利を侵害するような行為を行えば、公務員として失格であることは明 らかです。それにもかかわらず、たとえ不法行為を行っても賠償さえすれば公務員 としての責任を問われることはないと知事がお考えであるとするならば、地方自治 体の長としての責任感に著しく欠けると言わざるをえません。
このような知事の姿勢に対し、全国ネットとして強く抗議いたします。横山ノ ック知事におかれては、提訴した女子大生の訴えを真摯に受けとめ、民事訴訟の口 頭弁論において誠実な答弁を行って、事実の解明に協力されるよう、強く求めるも のです。さらに、大阪府においては、これを機に、女性が受けるセクシュアル・ハラ スメントを深刻な人権問題と認識し、積極的に対応されるよう要望いたします。
キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク・関西ブロック