【INTERVIEW】

インタビュー

インタビュアー:倉田あゆ子


●いずれ法人格を取得したいと思っています●
尾池 富美子さん
メイ(MAY)文庫


メイ(MAY)文庫の活動は、その名前からだけでは想像できないほど多岐にわたっています。それはご自身の暮らしの中から生まれる問題を自分個人の問題とせずに、社会の問題としてとらえ行動につなげてきた尾池さんならではの活動です。



 メイ(MAY)文庫の「MAY」とは尾池さんの3人のお子さんのイニシャルをとったものです。小さいころから本が大好きだった3人が、近所の子どもたちに読み聞かせたり貸し出したりしたミニ家庭文庫を「メイ」と呼んだのが名前の由来です。この家庭文庫は引越しを機に閉館されますが、その後1988年に尾池さんは友人たちとともに、「メイ(MAY)文庫」の名前で市民団体として活動を始めます。新たにスタートしたメイ文庫は「生涯学習の時代 自分の今の生活にプラス1の活動と学習を」をメインテーマに、おもに5つの活動を行っています。
 「絵を通じての友好」は尾池さんのおつれあいがマレイシアに単身赴任したことがきっかけで始められました。マレイシアと日本のそれぞれの児童の絵画を交換し、お互いの文化を伝えあっていこうするものです。尾池さんの呼びかけに一人の教師が共感し、子どもたちに伝え、校長に許可してもらい…と多くの人の想いがつながり、最初に76枚の絵が尾池さんの手によってマレイシアへ運ばれたのは1987年のことです。マレイシアでもまた多くの人の想いがつながり、30数枚の絵が日本の子どもたちのもとへ届けられました。メイ文庫は、その後も毎年2度マレイシアを訪れ、絵を運ぶだけでなく、子どもたちの名前・年齢・性別が分かるように名札をつけ、絵画の作品名はマレイ語に訳すというきめこまかな作業をし、子どもたちには両国の言葉で書かれた手作りの「国際友好賞」を渡します。こうしたやさしさにつつまれて、子どもたちの絵は言語の違いを飛び越え、両国の生活ぶりや思いを伝えていきます。
 この「絵を通じての友好」から、小中学生の国際理解教育として、絵を描きながら外国への興味をうながし仲間づくりをする「子どものキャンバス虹の会」が誕生しました。
 高齢痴呆症の方、身体障碍の方と介護者やその他関心のある方が公民館に集まる「小さな集い」は、尾池さんの義父に介護が必要になったこと、義弟が重度身体障碍者であったことをきっかけに始められます。ここでは、痴呆の進行を遅らせたり、リハビリに効果があるという「療育音楽」を取り入れ、インストラクターを迎えて、カスタネットや鈴の演奏をしたり、歌を歌ったり、リハビリをしたりと楽しいひとときを過ごします。朝霞市内の合唱団の有志も加わり、演奏発表も行っています。
 この「小さな集い」から「在宅介護を考える会」の活動が生まれ、在宅介護のための条件整備のための学習、研修などを行っています。
 これらの活動に加え、内乱が続く西アフリカのシエラレオネの中学生への教育里親運動である「手を貸す運動」(町田市に本部)にも団体として送金しています。メイ文庫が文通をしていた中学生から、さらに高等教育を受けたいとの申出があり、本部と半分ずつ費用負担をするという「人材育成援助」を提案し実現してきました。
 「メイ文庫」の代表(主宰)である尾池さんにNPO法と今後の活動についてうかがいました。

──「メイ文庫」ではNPO法人格取得についてどう考えていますか?

尾池 NPO法人格はいずれ取得したいと考えています。メイ文庫の活動は私の家庭の事情を社会化したものから始まりましたから、この10年間なるべく個人色を払拭しようとしてきました。そのためにも、これまでは私の自宅で作業をしたりしてきましたが、みんなの拠点として事務所を持ちたいのです。機能的にも尾池個人を離れて、何でもできるようにしたいし、いずれバトンタッチもしていきたい。事務所のシステムが確立したところでNPO法人格をとろうと役員の中でも話しています。

──NPO法ができたことやNPO法ができるようになった時代についてどうお考えですか?

尾池 NPO法ができたといっても「NPOって何?」という人がまだたくさんいると思う。そうした状況の中、何年もかかって市民サイドで勉強会を積み重ね、いろいろな分野の人たちが横断的に協力しあい、議員立法でこの法律をつくったというプロセスがよかったと思っています。そういうプロセスができる社会になったのですね。

──行政や企業とのパートナーシップ」についてはどう考えていますか?

尾池 「絵を通じての友好」は、これまで22回を数えていますが、かなり早い時期から朝霞市教育委員会やマレイシアペナン州教育局など行政との連携してきました。公的団体と任意団体という関係でしたが、これだけのことを続けることができています。市民活動のやり方にもいろいろあると思いますが、私たちは「請願」という手立ては使わないできました。企業との関係では、「自分の仕事を通じてできることをメイ文庫に協力したい」という人との出会いから、絵を運ぶためにかかる手荷物重量超過分を飛行機会社に無料にしてもらったり、絵の写真をボランティアで撮ってくれる写真屋さんがいたり、作業の場所を無料で貸してくれる会社があったりと、お金だけではないさまざまな便宜を図ってもらってきました。
 行政にしても企業にしても対等な関係を持つために、私たちの団体がもっと力をつけなくてはいけないと思っています。

──「メイ文庫」はとても多彩な活動をしていますが、何かモットーにしていることはありますか?

尾池 原点にこだわりつつも、マンネリにならないように1年に1つは新しいことを加えていこうという気持ちがあります。マレイシア人留学生からマレイ語を習う「国際交流亭」も行うようになりました。
 最近感じることは、まだまだ「私はボケない」「私の家族はボケない」と考え、自分の問題としてとらえることができない人が多いということ。高齢社会の問題は、自分の問題、みんなの問題としてとらえなければ、世の中を変えていくことはできないですね。

──埼玉NPO連絡会のこれからについて一言どうぞ。

尾池 自分の活動だけしていては見えないこともあるので、勉強もしないといけないと思っています。埼玉NPO連絡会で勉強させてもらいながら、いろいろなものを蓄えていきたい。連絡会が、NPOをサポートするNPOとして、分野を越えたネットワークをつくり、また先導的な役割をして欲しいと思います。



 絵を交換する機会に恵まれた子どもたちの心には必ず国際交流の芽が育っていくことでしょう。一人の想いが多くの出会いをつくりだし、それがつながっていくことでもたらされるものの素晴らしさを感じます。

「メイ(MAY)文庫」の紹介とご案内
■連絡先  〒351−0023 埼玉県朝霞市溝沼5−5−14
      TEL:048−463−5452 FAX:048−467−7699
■お知らせ 1999年1月に「絵を通じての友好展in Japan」開催予定
■お願い  中学生の絵画を提供してください
      (返却はできません)
■スタッフ募集 興味のある方お問い合わせください。




●来年6月ごろに法人格を取得するつもりです●

 越河澄子さん
(埼玉県子ども劇場おやこ劇場協議会)

インタビュー●倉田あゆ子



 いじめや不登校など、子どもたちをとりまく環境に何かが起こっています。各地の「子ども劇場おやこ劇場」は、生の舞台を子どもたちといっしょに鑑賞することを通じて、「未来を生きる子どもたちが『豊かな子ども時代』を過ごせることを願い、地域に豊かな文化環境をつくる」ことをめざして活動しています。



 「子ども劇場おやこ劇場」(以下「劇場」)は1966年に福岡で誕生した会員制の文化団体で、「子どもに夢を!たくましく豊かな創造性を!」を合い言葉に、現在では760の劇場、会員40万人の全国組織になっています。埼玉県内には、1974年に全国87番目の「劇場」として「草加おやこ劇場」が誕生しました(1973年に県内最初の「劇場」が上福岡に誕生したが、現在はなし)。その後県内に「劇場」の発足は続き、現在21劇場1準備会1万人の会員がいます。1990年には「埼玉県子ども劇場おやこ劇場協議会」(以下「県協議会」)が発足しました。
 「子ども劇場おやこ劇場」は大人も子どももともに豊かに育ち合っていくことを目指して、「生の舞台芸術を観賞すること」に加えて「さまざまな年齢の子どもたちがいっしょに自主的に自分たちの活動を創り出すこと」を大切にしています。
 各「劇場」では、「生の舞台芸術を観賞する」ために会員からアンケートをとったり議論したりして、毎年方針を決め、幼児、低学年、高学年など年代によってテーマを決めて、1年間に1人が4〜5回の舞台を観る機会を作ります。舞台を観る前に制作者をよんでお話を聞いたり、みんなで原作を読んだりしあい、また舞台を観たあとには、それぞれがどんな見方をしたのか、感想をみんなで話し合います。こうして子どもたちは自分と人の見方が違うことに気づいていきます。
 「さまざまな年齢の子どもたちが自主的に自分たちの活動を創り出す」ための活動では、キャンプ、子どもまつり、文化まつり、あそび市などを行っています。またさまざまな年齢の子どもたちどうしで、ゲームなどを通じた「表現活動」、お話づくりから創作劇へと進む「ドラマスクール」、いろいろなグッズづくりや新聞づくりなどの「ワークショップ」なども行なっています。子どもたちは、こうした活動の中で、年齢の離れたものどうしで、ひとつのことを作りあげてゆく楽しさと困難さを体験していきます。
 1998年6月から10月には「県協議会」が中心になって「第2回埼玉県子どもの舞台芸術祭」を開催し、音楽編、舞台編、子どもの表現活動などの活動を県内各所で行いました。これは会員制の組織である「劇場」にとって、会員制の枠を越えて地域に働きかけようという試みでした。子どもたちが豊かに育っていくために大切な役割を果たすはずの『地域』に向けて、「劇場」に何ができるのかということを自ら問いかけた活動でもありました。
 「県協議会」の事務局長であり、「首都圏子ども劇場おやこ劇場連絡会」の代表をつとめる越河さんにNPO法と今後の活動についてうかがいました。

──NPO法人格取得についてはどう考えていますか?

越河 「県協議会」は、来年の6月ごろをめどに、NPO法人格を取得する方向で考えています。
 県内の各「劇場」は「県協議会」が取得したところで、それから考えていこうという段階です。各「劇場」がNPO法人格を取得するためには、会員制であることを超えて、地域全体に果たす役割というところまでミッション(使命・目的)を明確にすること、事務局体制がしっかりしていること、経済的に自立するために必要な会員500名をクリアすることなどがあげられると思います。


──NPO法人格取得によるメリット・デメリットについてはどう考えていますか?

越河 メリットは「団体が団体として生きられる」ことだと思います。覚悟しなくてはいけないと思うことは、NPO法人格を取得することで社会的な存在として扱われ、社会のものさしで私たちの活動が評価されることだと思います。NPO法人格とはそれだけの責任をともなうものだと思っています。


──NPO法ができたことやNPO法ができるようになった時代についてどうお考えですか?

越河 企業の利益が優先される社会で、市民団体がもつ視点やその活動は世の中を豊かにすると思っています。私たちが人間らしく生きるうえで必要な活動を担うのが市民団体だと思います。市民の活動が世の中に存在することがあたりまえのこととして認められる社会、市民団体が、行政や企業と対等に存在する社会を歓迎したいですね。市民主導の世の中になってゆく一歩なんだという喜びを感じます。


──「行政や企業とのパートナーシップ」についてはどう考えていますか?

越河 これまでも市主催の「子育て講座」「生涯学習講座」などを共催したり、講師を派遣したりはしてきましたが、任意団体であることで意見を聞いてもらえないこともありました。法人格を取得することで、行政の対応も変わるといいなぁと思います。「劇場」の積み重ねてきたソフトを活用して、行政といっしょに子どものための文化的な活動をしていくことができればいいですね。


──活動をしていく中で感じることは何ですか?

越河 大人のもつ価値観が正しいということは決してないし、「大人だから、親だから…」という考え方は通用しない。子どもは一人前の人格をもった存在ですから、対等につきあっていくことが必要です。こうした大人と子どものあたりまえの関係は「子どもの権利条約」ができたことで私たちの中でより明確になりました。
 今、「人間が人間らしく育っていく場」のはずの地域が有機的に動いていないと感じています。子どもの「居場所」はどこにあるのかと思います。子どもがさまざまな体験をし、子どもたちどうしの関係づくりのできる「居場所」を一つの点でいいから作りたいと思っています。その点が、ほかの団体ともネットワークしていくことで、無数に地域に存在していって、いつか平面になる。それが新しい地域のあり方かなと思っています。そのためにできることはまだまだあると感じています。


──「劇場」にとって埼玉NPO連絡会に関わったことはどんな意味を持っていますか?

越河 皆さん職業を持ちながら社会に必要な活動を意識的に作って、たいへん真摯に活動している。そうした姿を目の当たりにし、驚きと感激でした。私たちは子どもに関する活動をしていますが、子どものことから出発しても最後はどういう老いを迎えるかにつながっていくと思う。弱者が豊かに生きられる社会はさまざまな領域の活動に携わる人々が手をつながないとできないでしょう。ほかの団体の人々にも子どものことにもっと関心を持ってほしいし、私たちももっとほかの領域に関心を持ちたい。お互いに情報交換をし、学びあいたい。埼玉NPO連絡会は市民社会に向けて“団体どうしが育っていく場”だと思っているんです。




次世代を育てていくことが社会にとって重要であることはだれもが認識していることでしょう。今大人たちに突きつけられている責任の大きさを痛感します。



「埼玉県子ども劇場おやこ劇場協議会」の紹介とご案内
■連絡先
 〒351−0021 埼玉県朝霞市西弁財1−10−15
       オークヒルズ朝霞台202
 TEL:048−470−3018 FAX:048−470−3019
■入会について
 埼玉県子ども親子劇場協議会にご連絡ください。
 各地の「劇場」をご紹介させていただきます。


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