【OPINION】

「お墨付き」について

西川 正(おおみや・市民の会)

 NPO法(特定非営利活動促進法)が成立し、現在、各都道府県でNPO法を施行するための条例づくりが進んでいます。埼玉県でも9月議会に上程される予定です。
 といっても、ほとんどの都道府県の条例は「手続き条例」にとどまり、自治体独自の「理念」や「支援」のための条例を検討しているのはごくわずかということです。

 これは、消極的な都道府県が多いということではなく、NPO法の立法過程で、「単なる手続き条例になるように、可能な限り細かく法律に書き込み、行政の恣意的な判断(裁量)の余地をなくした」からでもあります。
 ところが先日、岩手県が具体的な「理念」または「支援」を定めた条例をつくったということで、さっそくFAXを送ってもらうと、「第2条」の「定義」という項目にこんな文面がありました。

この条例において「社会貢献活動」とは、次に掲げる活動をいう。

(1)個人又は法人その他の団体(以下「個人等」という)が自発的に、かつ、対価を得ないで、役務の提供等を行うことにより直接に社会に貢献する活動であって、次に掲げるもの以外のもの(以下略/傍点は西川)

「社会貢献活動の支援に関する条例」(1998年3月成立)

 FAXしてくれた岩手県生活環境部総務生活課のKさんに電話で聞いてみました。(以下●は西川、○はKさん)

●なぜ、NPO法案の審議中に、同種の条例が制定されたのでしょうか?

○この条例は、県として総合的に「いわゆるボランティア活動」を支援するための施策を行うために作ったもので、直接NPO法とは関係するものではありません。

●条文の中には、「対価を得ないで」とありますが、例えば有償のボランティア、市民事業としての介護サービスなどは含まれるのですか?

○「対価を得ないで」というのは、いわゆる労働の対価ということであって、たとえば交通費とかあるいは材料費とかの授受があっても、条例の精神としては、ボランティア活動とみなしていいということです。

●では、例えば県が行う情報提供などに際しては、有償のボランティアグループなども入るんですか?

○定義としては、条例の三原則(自発性、対価を得ない、直接の社会貢献活動)なんですよ。運用上は最初から線を引くというものではなくてですね…。まあ中身の問題ですね。

●NPO法の精神は、なるべく行政の裁量をいれずにということだと思うのですが、この条例ではどこかで線引きをせざるを得なくなりませんか?

○県として、明確に線引きをしようとかそういうものではありません。対価といっても、労働の対価としてでなければ、ということなんですが…。

●でも金額で決めるわけにもいきませんよね。

○ですから、条例の精神としては、つまりいわゆるボランティアの定義の三原則(自発性、対価を得ない、直接の社会貢献活動)であれば、ということです。

●今後、実際に施策をすすめるための指針を策定する過程で「登録をしていただく」ということですが、その段階で、この団体はいいけど、こっちはダメということが起こりませんか。

○ですから、県としては、線引きをしてこっちはやらない、こっちはやるという趣旨ではないんですよ。

●いや実務上、線引きをせざるを得ないのではないですか?担当者の方も困るんじゃないですか?

 昼どきに電話したので、担当のKさんも昼飯も食べずに、一時間にわたって一生懸命答えてくれました。この条例では、支援の対象は「自発性、対価を得ない、直接の社会貢献活動」または「いわゆるボランティア活動」(Kさん)と規定されており、たとえばそもそも有償のサービスなどは、ほとんど「社会貢献活動」としてはイメージされていないというようすでした。
私は、そもそも行政が市民団体を分別をしなければならないようなしくみはおかしいのではないか、行政とNPOがパートナーシップ(対等な協力関係)を作ることにプラスにならないのではないかと言いたかったのですが、通じなかったようです。
「NPO法人格が取得できると、自分たちの活動や団体にお墨付きがもらえる」と考えている人もいると聞きます。しかし、NPO法の精神とは、実はその逆で、法人格という制度を作ることで、行政からお墨付きをもらうという発想をやめようということだと思います。
先日連絡会が開催したNPOセミナーで、松原さん(シーズ事務局長)は「法人といっても有限や株式会社をつくるのに、行政の認可は必要ないでしょ。それと同じですよ」とおっしゃっていました。「既存の公益法人は、各担当官庁の許認可をいただいて、縦割り行政の権益の中に入れてもらってきた。NPO法はこうした上下関係を変えていこうという意味で画期的なんです」と。
市民と行政と企業が新しい協力関係をつくるための環境づくりとしてNPO法は作られたはずです。勘違いして私たち自身のクビを締めることのないよう気をつけたいものです。


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