犯罪捜査のための通信傍受に関する法律

(平成十一年八月十八日法律第百三十七号)

                                         最終改正:平成一一年一二月二二日法律第一六〇号
 
 

 第一章 総則(第一条・第二条)
 第二章 通信傍受の要件及び実施の手続(第三条―第十八条)
 第三章 通信傍受の記録等(第十九条―第二十七条)
 第四章 通信の秘密の尊重等(第二十八条―第三十条)
 第五章 補則(第三十一条・第三十二条)
 附則

第一章 総則

(目的)
第一条  この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害していることにかんがみ、数人の共
謀によって実行される組織的な殺人、薬物及び銃器の不正取引に係る犯罪等の重大犯罪において、犯人間の相
互連絡等に用いられる電話その他の電気通信の傍受を行わなければ事案の真相を解明することが著しく困難な
場合が増加する状況にあることを踏まえ、これに適切に対処するため必要な刑事訴訟法 (昭和二十三年法律第
百三十一号)に規定する電気通信の傍受を行う強制の処分に関し、通信の秘密を不当に侵害することなく事案
の真相の的確な解明に資するよう、その要件、手続その他必要な事項を定めることを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「通信」とは、電話その他の電気通信であって、その伝送路の全部若しくは一部が
有線(有線以外の方式で電波その他の電磁波を送り、又は受けるための電気的設備に附属する有線を除く。)
であるもの又はその伝送路に交換設備があるものをいう。
 2  この法律において「傍受」とは、現に行われている他人間の通信について、その内容を知るため、当該
通信の当事者のいずれの同意も得ないで、これを受けることをいう。
 3  この法律において「通信事業者等」とは、電気通信を行うための設備(以下「電気通信設備」とい
う。)を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供する事業を営む者及びそれ以
外の者であって自己の業務のために不特定又は多数の者の通信を媒介することのできる電気通信設備を設置し
ている者をいう。

第二章 通信傍受の要件及び実施の手続

(傍受令状)
第三条  検察官又は司法警察員は、次の各号のいずれかに該当する場合において、当該各号に規定する犯罪
(第二号及び第三号にあっては、その一連の犯罪をいう。)の実行、準備又は証拠隠滅等の事後措置に関する
謀議、指示その他の相互連絡その他当該犯罪の実行に関連する事項を内容とする通信(以下この項において
「犯罪関連通信」という。)が行われると疑うに足りる状況があり、かつ、他の方法によっては、犯人を特定
し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるときは、裁判官の発する傍受令状に
より、電話番号その他発信元又は発信先を識別するための番号又は符号(以下「電話番号等」という。)によ
って特定された通信の手段(以下「通信手段」という。)であって、被疑者が通信事業者等との間の契約に基
づいて使用しているもの(犯人による犯罪関連通信に用いられる疑いがないと認められるものを除く。)又は
犯人による犯罪関連通信に用いられると疑うに足りるものについて、これを用いて行われた犯罪関連通信の傍
受をすることができる。
 一  別表に掲げる罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由がある場合において、当該犯罪が数人の共謀によ
るものであると疑うに足りる状況があるとき。
 二  別表に掲げる罪が犯され、かつ、引き続き次に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場
合において、これらの犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき。
  イ 当該犯罪と同様の態様で犯されるこれと同一又は同種の別表に掲げる罪
  ロ 当該犯罪の実行を含む一連の犯行の計画に基づいて犯される別表に掲げる罪
 三  死刑又は無期若しくは長期二年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪が別表に掲げる罪と一体のものとし
てその実行に必要な準備のために犯され、かつ、引き続き当該別表に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分
な理由がある場合において、当該犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき。
 2  別表に掲げる罪であって、譲渡し、譲受け、貸付け、借受け又は交付の行為を罰するものについては、
前項の規定にかかわらず、数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があることを要しない。
 3  前二項の規定による傍受は、通信事業者等の看守する場所で行う場合を除き、人の住居又は人の看守す
る邸宅、建造物若しくは船舶内においては、これをすることができない。ただし、住居主若しくは看守者又は
これらの者に代わるべき者の承諾がある場合は、この限りでない。

(令状請求の手続)
第四条  傍受令状の請求は、検察官(検事総長が指定する検事に限る。次項及び第七条において同じ。)又は
司法警察員(国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警視以上の警察官、厚生労働大臣が指定する
麻薬取締官及び海上保安庁長官が指定する海上保安官に限る。同項及び同条において同じ。)から地方裁判所
の裁判官にこれをしなければならない。
 2  検察官又は司法警察員は、前項の請求をする場合において、当該請求に係る被疑事実の全部又は一部と
同一の被疑事実について、前に同一の通信手段を対象とする傍受令状の請求又はその発付があったときは、そ
の旨を裁判官に通知しなければならない。

(傍受令状の発付)
第五条  前条第一項の請求を受けた裁判官は、同項の請求を理由があると認めるときは、傍受ができる期間と
して十日以内の期間を定めて、傍受令状を発する。
 2  裁判官は、傍受令状を発する場合において、傍受の実施(通信の傍受をすること及び通信手段について
直ちに傍受をすることができる状態で通信の状況を監視することをいう。以下同じ。)に関し、適当と認める
条件を付することができる。

(傍受令状の記載事項)
第六条  傍受令状には、被疑者の氏名、被疑事実の要旨、罪名、罰条、傍受すべき通信、傍受の実施の対象と
すべき通信手段、傍受の実施の方法及び場所、傍受ができる期間、傍受の実施に関する条件、有効期間及びそ
の期間経過後は傍受の処分に着手することができず傍受令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の
年月日その他最高裁判所規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。ただ
し、被疑者の氏名については、これが明らかでないときは、その旨を記載すれば足りる。

(傍受ができる期間の延長)
第七条  地方裁判所の裁判官は、必要があると認めるときは、検察官又は司法警察員の請求により、十日以内
の期間を定めて、傍受ができる期間を延長することができる。ただし、傍受ができる期間は、通じて三十日を
超えることができない。
 2  前項の延長は、傍受令状に延長する期間及び理由を記載し記名押印してこれをしなければならない。

(同一事実に関する傍受令状の発付)
第八条  裁判官は、傍受令状の請求があった場合において、当該請求に係る被疑事実に前に発付された傍受令
状の被疑事実と同一のものが含まれるときは、同一の通信手段については、更に傍受をすることを必要とする
特別の事情があると認めるときに限り、これを発付することができる。

(傍受令状の提示)
第九条  傍受令状は、通信手段の傍受の実施をする部分を管理する者(会社その他の法人又は団体にあって
は、その役職員。以下同じ。)又はこれに代わるべき者に示さなければならない。ただし、被疑事実の要旨に
ついては、この限りでない。
 2  傍受ができる期間が延長されたときも、前項と同様とする。

(必要な処分等)
第十条  傍受の実施については、電気通信設備に傍受のための機器を接続することその他の必要な処分をする
ことができる。
 2  検察官又は司法警察員は、検察事務官又は司法警察職員に前項の処分をさせることができる。

(通信事業者等の協力義務)
第十一条  検察官又は司法警察員は、通信事業者等に対して、傍受の実施に関し、傍受のための機器の接続そ
の他の必要な協力を求めることができる。この場合においては、通信事業者等は、正当な理由がないのに、こ
れを拒んではならない。

(立会い)
第十二条  傍受の実施をするときは、通信手段の傍受の実施をする部分を管理する者又はこれに代わるべき者
を立ち会わせなければならない。これらの者を立ち会わせることができないときは、地方公共団体の職員を立
ち会わせなければならない。
 2  立会人は、検察官又は司法警察員に対し、当該傍受の実施に関し意見を述べることができる。

(該当性判断のための傍受)
第十三条  検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に行われた通信であって、傍受令状に記載され
た傍受すべき通信(以下単に「傍受すべき通信」という。)に該当するかどうか明らかでないものについて
は、傍受すべき通信に該当するかどうかを判断するため、これに必要な最小限度の範囲に限り、当該通信の傍
受をすることができる。
 2  外国語による通信又は暗号その他その内容を即時に復元することができない方法を用いた通信であっ
て、傍受の時にその内容を知ることが困難なため、傍受すべき通信に該当するかどうかを判断することができ
ないものについては、その全部の傍受をすることができる。この場合においては、速やかに、傍受すべき通信
に該当するかどうかの判断を行わなければならない。

(他の犯罪の実行を内容とする通信の傍受)
第十四条  検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に、傍受令状に被疑事実として記載されている
犯罪以外の犯罪であって、別表に掲げるもの又は死刑若しくは無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮
に当たるものを実行したこと、実行していること又は実行することを内容とするものと明らかに認められる通
信が行われたときは、当該通信の傍受をすることができる。

(医師等の業務に関する通信の傍受の禁止)
第十五条  医師、歯科医師、助産婦、看護婦、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人又は宗
教の職にある者(傍受令状に被疑者として記載されている者を除く。)との間の通信については、他人の依頼
を受けて行うその業務に関するものと認められるときは、傍受をしてはならない。

(相手方の電話番号等の探知)
第十六条  検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に行われた通信について、これが傍受すべき通
信若しくは第十四条の規定により傍受をすることができる通信に該当するものであるとき、又は第十三条の規
定による傍受すべき通信に該当するかどうかの判断に資すると認めるときは、傍受の実施の場所において、当
該通信の相手方の電話番号等の探知をすることができる。この場合においては、別に令状を必要としない。
 2  検察官又は司法警察員は、通信事業者等に対して、前項の処分に関し、必要な協力を求めることができ
る。この場合においては、通信事業者等は、正当な理由がないのに、これを拒んではならない。
 3  検察官又は司法警察員は、傍受の実施の場所以外の場所において第一項の探知のための措置を必要とす
る場合には、当該措置を執ることができる通信事業者等に対し、同項の規定により行う探知である旨を告知し
て、当該措置を執ることを要請することができる。この場合においては、前項後段の規定を準用する。

(傍受の実施を中断し又は終了すべき時の措置)
第十七条  傍受令状の記載するところに従い傍受の実施を中断し又は終了すべき時に現に通信が行われている
ときは、その通信手段の使用(以下「通話」という。)が終了するまで傍受の実施を継続することができる。

(傍受の実施の終了)
第十八条  傍受の実施は、傍受の理由又は必要がなくなったときは、傍受令状に記載された傍受ができる期間
内であっても、これを終了しなければならない。

第三章 通信傍受の記録等

(傍受をした通信の記録)
第十九条  傍受をした通信については、すべて、録音その他通信の性質に応じた適切な方法により記録媒体に
記録しなければならない。この場合においては、第二十二条第二項の手続の用に供するため、同時に、同一の
方法により他の記録媒体に記録することができる。
 2  傍受の実施を中断し又は終了するときは、その時に使用している記録媒体に対する記録を終了しなけれ
ばならない。

(記録媒体の封印等)
第二十条  前条第一項前段の規定により記録をした記録媒体については、傍受の実施を中断し又は終了したと
きは、速やかに、立会人にその封印を求めなければならない。傍受の実施をしている間に記録媒体の交換をし
たときその他記録媒体に対する記録が終了したときも、同様とする。
 2  前項の記録媒体については、前条第一項後段の規定により記録をした記録媒体がある場合を除き、立会
人にその封印を求める前に、第二十二条第二項の手続の用に供するための複製を作成することができる。
 3  立会人が封印をした記録媒体は、遅滞なく、傍受令状を発付した裁判官が所属する裁判所の裁判官に提
出しなければならない。

(傍受の実施の状況を記載した書面の提出等)
第二十一条  検察官又は司法警察員は、傍受の実施の終了後、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を、
前条第三項に規定する裁判官に提出しなければならない。第七条の規定により傍受ができる期間の延長を請求
する時も、同様とする。
 一  傍受の実施の開始、中断及び終了の年月日時
 二  立会人の氏名及び職業
 三  第十二条第二項の規定により立会人が述べた意見
 四  傍受の実施をしている間における通話の開始及び終了の年月日時
 五  傍受をした通信については、傍受の根拠となった条項、その開始及び終了の年月日時並びに通信の当事
者の氏名その他その特定に資する事項
 六  第十四条に規定する通信については、当該通信に係る犯罪の罪名及び罰条並びに当該通信が同条に規定
する通信に該当すると認めた理由
 七  記録媒体の交換をした年月日時
 八  前条第一項の規定による封印の年月日時及び封印をした立会人の氏名
 九  その他傍受の実施の状況に関し最高裁判所規則で定める事項
 2  前項に規定する書面の提出を受けた裁判官は、同項第六号の通信については、これが第十四条に規定す
る通信に該当するかどうかを審査し、これに該当しないと認めるときは、当該通信の傍受の処分を取り消すも
のとする。この場合においては、第二十六条第三項、第五項及び第六項の規定を準用する。

(傍受記録の作成)
第二十二条  検察官又は司法警察員は、傍受の実施を中断し又は終了したときは、その都度、速やかに、傍受
をした通信の内容を刑事手続において使用するための記録(以下「傍受記録」という。)一通を作成しなけれ
ばならない。傍受の実施をしている間に記録媒体の交換をしたときその他記録媒体に対する記録が終了したと
きも、同様とする。
 2  傍受記録は、第十九条第一項後段の規定により記録をした記録媒体又は第二十条第二項の規定により作
成した複製から、次に掲げる通信以外の通信の記録を消去して作成するものとする。
 一  傍受すべき通信に該当する通信
 二  第十三条第二項の規定により傍受をした通信であって、なおその内容を復元するための措置を要するも

 三  第十四条の規定により傍受をした通信及び第十三条第二項の規定により傍受をした通信であって第十四
条に規定する通信に該当すると認められるに至ったもの
 四  前三号に掲げる通信と同一の通話の機会に行われた通信
 3  前項第二号に掲げる通信の記録については、当該通信が傍受すべき通信及び第十四条に規定する通信に
該当しないことが判明したときは、傍受記録から当該通信の記録及び当該通信に係る同項第四号に掲げる通信
の記録を消去しなければならない。ただし、当該通信と同一の通話の機会に行われた同項第一号から第三号ま
でに掲げる通信があるときは、この限りでない。
 4  検察官又は司法警察員は、傍受記録を作成した場合において、他に第二十条第三項の規定により裁判官
に提出した記録媒体(以下「傍受の原記録」という。)以外の傍受をした通信の記録をした記録媒体又はその
複製等(複製その他記録の内容の全部又は一部をそのまま記録した物及び書面をいう。以下同じ。)があると
きは、その記録の全部を消去しなければならない。前項の規定により傍受記録から記録を消去した場合におい
て、他に当該記録の複製等があるときも、同様とする。
 5  検察官又は司法警察員は、傍受をした通信であって、傍受記録に記録されたもの以外のものについて
は、その内容を他人に知らせ、又は使用してはならない。その職を退いた後も、同様とする。

(通信の当事者に対する通知)
第二十三条  検察官又は司法警察員は、傍受記録に記録されている通信の当事者に対し、傍受記録を作成した
旨及び次に掲げる事項を書面で通知しなければならない。
 一  当該通信の開始及び終了の年月日時並びに相手方の氏名(判明している場合に限る。)
 二  傍受令状の発付の年月日
 三  傍受の実施の開始及び終了の年月日
 四  傍受の実施の対象とした通信手段
 五  傍受令状に記載された罪名及び罰条
 六  第十四条に規定する通信については、その旨並びに当該通信に係る犯罪の罪名及び罰条
 2  前項の通知は、通信の当事者が特定できない場合又はその所在が明らかでない場合を除き、傍受の実施
が終了した後三十日以内にこれを発しなければならない。ただし、地方裁判所の裁判官は、捜査が妨げられる
おそれがあると認めるときは、検察官又は司法警察員の請求により、六十日以内の期間を定めて、この項の規
定により通知を発しなければならない期間を延長することができる。
 3  検察官又は司法警察員は、前項本文に規定する期間が経過した後に、通信の当事者が特定された場合又
はその所在が明らかになった場合には、当該通信の当事者に対し、速やかに、第一項の通知を発しなければな
らない。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。

(傍受記録の聴取及び閲覧等)
第二十四条  前条第一項の通知を受けた通信の当事者は、傍受記録のうち当該通信に係る部分を聴取し、若し
くは閲覧し、又はその複製を作成することができる。

(傍受の原記録の聴取及び閲覧等)
第二十五条  傍受の原記録を保管する裁判官(以下「原記録保管裁判官」という。)は、傍受記録に記録され
ている通信の当事者が、前条の規定により、傍受記録のうち当該通信に係る部分を聴取し、若しくは閲覧し、
又はその複製を作成した場合において、傍受記録の正確性の確認のために必要があると認めるときその他正当
な理由があると認めるときは、当該通信の当事者の請求により、傍受の原記録のうち当該通信に相当する部分
を聴取し、若しくは閲覧し、又はその複製を作成することを許可しなければならない。
 2  原記録保管裁判官は、傍受をされた通信の内容の確認のために必要があると認めるときその他正当な理
由があると認めるときは、傍受記録に記録されている通信以外の通信の当事者の請求により、傍受の原記録の
うち当該通信に係る部分を聴取し、若しくは閲覧し、又はその複製を作成することを許可しなければならな
い。
 3  原記録保管裁判官は、傍受が行われた事件に関し、犯罪事実の存否の証明又は傍受記録の正確性の確認
のために必要があると認めるときその他正当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員の請求によ
り、傍受の原記録のうち必要と認める部分を聴取し、若しくは閲覧し、又はその複製を作成することを許可す
ることができる。ただし、複製の作成については、次に掲げる通信(傍受記録に記録されているものを除
く。)に係る部分に限る。
 一  傍受すべき通信に該当する通信
 二  犯罪事実の存否の証明に必要な証拠となる通信(前号に掲げる通信を除く。)
 三  前二号に掲げる通信と同一の通話の機会に行われた通信
 4  次条第三項(第二十一条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定によ
り記録の消去を命じた裁判がある場合においては、前項の規定による複製を作成することの許可の請求は、同
項の規定にかかわらず、当該裁判により消去を命じられた記録に係る通信が新たに同項第一号又は第二号に掲
げる通信であって他にこれに代わるべき適当な証明方法がないものであることが判明するに至った場合に限
り、傍受の原記録のうち当該通信及びこれと同一の通話の機会に行われた通信に係る部分について、すること
ができる。ただし、当該裁判が次条第三項第二号に該当するとしてこれらの通信の記録の消去を命じたもので
あるときは、この請求をすることができない。
 5  原記録保管裁判官は、検察官により傍受記録又はその複製等の取調べの請求があった被告事件に関し、
被告人の防御又は傍受記録の正確性の確認のために必要があると認めるときその他正当な理由があると認める
ときは、被告人又はその弁護人の請求により、傍受の原記録のうち必要と認める部分を聴取し、若しくは閲覧
し、又はその複製を作成することを許可することができる。ただし、被告人が当事者でない通信に係る部分の
複製の作成については、当該通信の当事者のいずれかの同意がある場合に限る。
 6  検察官又は司法警察員が第三項の規定により作成した複製は、傍受記録とみなす。この場合において、
第二十三条の規定の適用については、同条第一項中「次に掲げる事項」とあるのは「次に掲げる事項並びに第
二十五条第三項の複製を作成することの許可があった旨及びその年月日」とし、同条第二項中「傍受の実施が
終了した後」とあるのは「複製を作成した後」とする。
 7  傍受の原記録については、第一項から第五項までの規定による場合のほか、これを聴取させ、若しくは
閲覧させ、又はその複製を作成させてはならない。ただし、裁判所又は裁判官が、刑事訴訟法 の定めるところ
により、検察官により傍受記録若しくはその複製等の取調べの請求があった被告事件又は傍受に関する刑事の
事件の審理又は裁判のために必要があると認めて、傍受の原記録のうち必要と認める部分を取り調べる場合に
おいては、この限りでない。

(不服申立て)
第二十六条  裁判官がした通信の傍受に関する裁判に不服がある者は、その裁判官が所属する裁判所に、その
裁判の取消し又は変更を請求することができる。
 2  検察官又は検察事務官がした通信の傍受に関する処分に不服がある者はその検察官又は検察事務官が所
属する検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に、司法警察職員がした通信の傍受に関する処分に不服がある者
はその職務執行地を管轄する地方裁判所に、その処分の取消し又は変更(傍受の実施の終了を含む。)を請求
することができる。
 3  裁判所は、前項の請求により傍受の処分を取り消す場合において、次の各号のいずれかに該当すると認
めるときは、検察官又は司法警察員に対し、その保管する傍受記録(前条第六項の規定により傍受記録とみな
されたものを除く。以下この項において同じ。)及びその複製等のうち当該傍受の処分に係る通信及びこれと
同一の通話の機会に行われた通信の記録の消去を命じなければならない。ただし、第三号に該当すると認める
場合において、当該記録の消去を命ずることが相当でないと認めるときは、この限りでない。
 一  当該傍受に係る通信が、第二十二条第二項各号に掲げる通信のいずれにも当たらないとき。
 二  当該傍受において、通信の当事者の利益を保護するための手続に重大な違法があるとき。
 三  前二号に該当する場合を除き、当該傍受の手続に違法があるとき。
 4  前条第三項の複製を作成することの許可が取り消されたときは、検察官又は司法警察員は、その保管す
る同条第六項の規定によりみなされた傍受記録(その複製等を含む。)のうち当該取り消された許可に係る部
分を消去しなければならない。
 5  第三項に規定する記録の消去を命ずる裁判又は前項に規定する複製を作成することの許可の取消しの裁
判は、当該傍受記録又はその複製等について既に被告事件において証拠調べがされているときは、証拠から排
除する決定がない限り、これを当該被告事件に関する手続において証拠として用いることを妨げるものではな
い。
 6  前項に規定する裁判があった場合において、当該傍受記録について既に被告事件において証拠調べがさ
れているときは、当該被告事件に関する手続においてその内容を他人に知らせ又は使用する場合以外の場合に
おいては、当該傍受記録について第三項の裁判又は第四項の規定による消去がされたものとみなして、第二十
二条第五項の規定を適用する。
 7  第一項及び第二項の規定による不服申立てに関する手続については、この法律に定めるもののほか、刑
事訴訟法第四百二十九条第一項 及び第四百三十条第一項 の請求に係る手続の例による。

(傍受の原記録の保管期間)
第二十七条  傍受の原記録は、第二十条第三項の規定による提出の日から五年を経過する日又は傍受記録若し
くはその複製等が証拠として取り調べられた被告事件若しくは傍受に関する刑事の事件の終結の日から六月を
経過する日のうち最も遅い日まで保管するものとする。
 2  原記録保管裁判官は、必要があると認めるときは、前項の保管の期間を延長することができる。

第四章 通信の秘密の尊重等

(関係者による通信の秘密の尊重等)
第二十八条  検察官、検察事務官及び司法警察職員並びに弁護人その他通信の傍受に関与し、又はその状況若
しくは傍受をした通信の内容を職務上知り得た者は、通信の秘密を不当に害しないように注意し、かつ、捜査
の妨げとならないように注意しなければならない。

(国会への報告等)
第二十九条  政府は、毎年、傍受令状の請求及び発付の件数、その請求及び発付に係る罪名、傍受の対象とし
た通信手段の種類、傍受の実施をした期間、傍受の実施をしている間における通話の回数、このうち第二十二
条第二項第一号又は第三号に掲げる通信が行われたものの数並びに傍受が行われた事件に関して逮捕した人員
数を国会に報告するとともに、公表するものとする。ただし、罪名については、捜査に支障を生ずるおそれが
あるときは、その支障がなくなった後においてこれらの措置を執るものとする。

(通信の秘密を侵す行為の処罰等)
第三十条  捜査又は調査の権限を有する公務員が、その捜査又は調査の職務に関し、電気通信事業法 (昭和
五十九年法律第八十六号)第百四条第一項 又は有線電気通信法 (昭和二十八年法律第九十六号)第十四条第
一項 の罪を犯したときは、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
 2  前項の罪の未遂は、罰する。
 3  前二項の罪について告訴又は告発をした者は、検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、刑
事訴訟法第二百六十二条第一項 の請求をすることができる。

第五章 補則

(刑事訴訟法 との関係)
第三十一条  通信の傍受に関する手続については、この法律に特別の定めがあるもののほか、刑事訴訟法 に
よる。

(最高裁判所規則)
第三十二条  この法律に定めるもののほか、傍受令状の発付、傍受ができる期間の延長、記録媒体の封印及び
提出、傍受の原記録の保管その他の取扱い、傍受の実施の状況を記載した書面の提出、第十四条に規定する通
信に該当するかどうかの審査、通信の当事者に対する通知を発しなければならない期間の延長、裁判所が保管
する傍受記録の聴取及び閲覧並びにその複製の作成並びに不服申立てに関する手続について必要な事項は、最
高裁判所規則で定める。

附則 抄

(施行期日)
1  この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

附則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄

(施行期日)
第一条  この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。
 

別表 (第三条、第十四条関係)

  一 大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)第二十四条(栽培、輸入等)又は第二十四条の二(所
持、譲渡し等)の罪
二 覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)第四十一条(輸入等)若しくは第四十一条の二(所
持、譲渡し等)の罪、同法第四十一条の三第一項第三号(覚せい剤原料の輸入等)若しくは第四号(覚せい剤
原料の製造)の罪若しくはこれらの罪に係る同条第二項(営利目的の覚せい剤原料の輸入等)の罪若しくはこ
れらの罪の未遂罪又は同法第四十一条の四第一項第三号(覚せい剤原料の所持)若しくは第四号(覚せい剤原
料の譲渡し等)の罪若しくはこれらの罪に係る同条第二項(営利目的の覚せい剤原料の所持、譲渡し等)の罪
若しくはこれらの罪の未遂罪
三 出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)第七十四条(集団密航者を不法入国させる
行為等)、第七十四条の二(集団密航者の輸送)又は第七十四条の四(集団密航者の収受等)の罪
四 麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)第六十四条(ジアセチルモルヒネ等の輸入等)、
第六十四条の二(ジアセチルモルヒネ等の譲渡し、所持等)、第六十五条(ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬
の輸入等)、第六十六条(ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の譲渡し、所持等)、第六十六条の三(向精神薬
の輸入等)又は第六十六条の四(向精神薬の譲渡し等)の罪
五 武器等製造法(昭和二十八年法律第百四十五号)第三十一条(銃砲の無許可製造)又は第三十一条の二第
一号(銃砲以外の武器の無許可製造)の罪
六 あへん法(昭和二十九年法律第七十一号)第五十一条(けしの栽培、あへんの輸入等)又は第五十二条
(あへん等の譲渡し、所持等)の罪
七 銃砲刀剣類所持等取締法(昭和三十三年法律第六号)第三十一条から第三十一条の四まで(けん銃等の発
射、輸入、所持、譲渡し等)、第三十一条の七から第三十一条の九まで(けん銃実包の輸入、所持、譲渡し
等)、第三十一条の十一第一項第二号(けん銃部品の輸入)若しくは第二項(未遂罪)又は第三十一条の十六
第一項第二号(けん銃部品の所持)若しくは第三号(けん銃部品の譲渡し等)若しくは第二項(未遂罪)の罪
八 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締
法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)第五条(業として行う不法輸入等)の罪
九 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号)第三条第一項第
三号に掲げる罪に係る同条(組織的な殺人)の罪又はその未遂罪