政府、法務省側の説明によれば、ハイテク犯罪は国際犯罪対策の国際的な枠組
には、G8と欧州評議会がある。
●G8による取り組み
G8では、リヨングループと呼ばれる国際犯罪対策上級専門家会合がサイバー犯罪
問題に取り組んでいる。1995年のハリファックスサミット、96年のP8に
よる40の勧告などに基づき、年2-3回の割合で会議がひらかれている。
この中に、国際組織犯罪条約サブグループ、司法協力サブグループなどとともに、
ハイテク犯罪対策サブグループが設置されている。このサブグループで、G8の枠
組みでどのような対策がとれるかが検討されている。
G8では、産業界との「対話」が進められており、その最初の会議は昨年パリで行
われた。この会議には、インテルなどの大企業も参加し、その後も政府と産業界
との「対話」が、昨年10月にもベルリンで開催された。
G8は、今年5月22日から24日に政府産業界合同会議を東京でひらく。東京会合で
は、本会合とワークショップが非公開で行われ、通信記録、ログの保存、保全に
ついて議論される予定である。この東京会合では、企業が課金目的で保管してい
るログ等をどのように保全preservation(企業が持っているデータをフリーズし
てもらうこと)するか、インターネットの電子商取引の落とし穴、クレジットカー
ドの窃盗などの分析が検討される予定である。
また、産業界の協力で合同の訓練が計画されている。これは、政府が必要として
いる犯罪対策の技術、スキルは政府部内ではトレーニングができないとの理由で、
産業界と合同して行うとういうのが政府側の理由で、G8の今回の東京会議の議題
となる。
これらの会議の成果をプレナリ-にあげ、サミットにあげていくことになる。
●サイバー犯罪条約について
欧州評議会が世界最初の条約として検討。
欧州評議会は43ヶ国からなり、日本からは法務省のスタッフが参加してい
る。日本は、アメリカ、カナダ、メキシコとともにオブザーバーである。法務
省が参加しているのは、サイバー犯罪条約はオープンな条約なので、アメリカ、
カナダがこの条約に参加すると見込まれるためである。
サイバー犯罪条約は、刑事実体法、手続法、国際捜査協力に関する包括的な国際
条約である。2000年12月に専門家会合で条約案が公表され、その後細部の詰めが
なされ、6月中旬に欧州評議会の刑事局長級会合で最終案が決まり、9月の閣僚
委員会(「評議会の外務大臣)で採択された後成立する。条約は5カ国の批准で、
3ヵ月後に発効。日本政府の公式見解は不明だが参加は確実。
刑事実体法では、コンピュータ機器、ネットワークに直接関わる犯罪および、通
信の内容に関する犯罪(児童ポルノ、著作権)など違法行為が定義されている。
刑事手続き法では、捜査当局が上記の犯罪を含め、コンピュータやその通信機
器について、犯罪の証拠を収集する場合の手続きが定められている。プロバイ
ダーに対する契約ユーザの個人情報、ログ、トラフィックデータ、通信内容な
どの保全や、傍受などについて規定されている。
国際捜査協力では、他国の捜査機関にどのような捜査権限を与えるべきか、どの
ような協力義務があるのかを定めている。
これらは総じて、捜査機関に非常に広範囲な権限を付与し、従来認められてきた
個人のプライバシー権や通信の秘密についての権利は大幅に侵害されるおそれが
ある。(以下のGILCの書簡参照)
●条約についてのプライバシー団体による問題点の指摘
サイバー犯罪条約では、国際的な捜査協力のもと、きわめて広範囲に捜査機関
に強制捜査の権限が与えられ、通信の自由、プライバシーなどの権利を不当に
侵害する恐れがあることが繰り返し指摘されてきた。
たとえば、インターネットのプロバイダーに契約者の個人情報の提供義務を課
したり、データの保全義を強制するなど、ユーザー個人のプライバシーを侵害
する恐れのある条項が多く見られる。
盗聴捜査は、「重大犯罪」に対して認められており、日本のように法的に「重大
犯罪」の定義のない場合にはその解釈によって、拡大される恐れがある。
ネットワークを利用した遠隔地からの捜索、外国の捜査機関による捜索などが
従来とくらべて格段に簡便かつ広範に行いうるものとなっている。
一般に、「双罰性」が要求されないケースが認められているので、自国内では
違法でない行為について外国の捜査機関が強制捜査を行うという治外法権的な
捜査がまかりとおる恐れがある。
条約では、この内容にあわせて国内法を改正することを随所で要求しており、
刑訴法、盗聴法その他関連法の改悪がさらに進む恐れがある。
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グローバル・インターネット・リバティ・キャンペーン(GILC)
からEU評議会への書簡(抜粋)
出典 http://www.gilc.org/
【注】GILC インターネットにおけるプライバシー、表現の自由などを守るた
めに設立された国際的な運動団体。各国のNGOによって構成されており、米国
自由人権協会はその設立メンバーでもある。以下はGICL加盟の二十数団体が署
名して、EU評議会に昨年送付された書簡の一部を抜粋して要約したものである。
2000年12月12日
ヨーロッパ評議会事務局長、ウォルター・シュヴィンマー殿
ヨーロッパ評議会サイバー犯罪専門家委員会殿
2000年10月18日に、私たちは広範な市民社会組織を代表して、提案されて
いるサイバー犯罪に関する協定に対するわたしたちの反対の意思を表示した書
簡をしたためた。この書簡で、わたしたちは、コンピュータ技術ツール使用の
犯罪化、企業責任に関する問題、著作権についての処罰、相互共助の強化そし
て捜査権力の強大化への私たちの反対を提起した。私たちは、この規定の第22
版は、法執行機関の利益を代弁し、説明責任を欠いたものだと論じた。結果と
して、市民的な自由への配慮の欠如は恐るべきものであった。
私たちの危惧と警鐘にたいして、警察の権威の力を拡大し、国境をこえて、画
一的に諸権利の保護をなしくずしにし、十分な配慮をすべきデータ保護の諸原
則を無視する一方で、この規定は個人の諸権利を脅かす内容であることに変り
はなかった。
若干の変更が24-2版でなされたが、私たちは、この規約の基本的な点に満足し
ていない。規約小委員会は私たちの以前の書簡に関心をもったが、私たちは、
個人の諸権利の保護に対して適切な努力が払われなかったと考えている。私た
ちは、閉鎖的な環境と秘密主義がいまだにはびこっている規約策定過程の有効
性に疑問を抱いている。その結果として、わたしたちは、この書簡の以下の部
分で、私たちの以前の考えを繰り返し、若干の変更を行い、これらの点により
いっそう光を当る所存である。
(略)
・仮条約は依然として、いかなる犯罪にたいしても、傍受の使用--これは、
21.1条によれば、「国内法によって規定された重大犯罪」にのみ用いることが
できる-- を別にして、権利侵害的な技術の使用を促している。傍受に関する
この限定も実は、ほとんど効果を発揮するとはいえない。というのも、重大犯
罪の定義は、国内法に委ねられており、欧州評議会の若干の国では、通信内容
傍受の目的のために重大犯罪についてきわめて広範なで意義を与えているから
である。
(略)
・私たちは、市民的自由が危うくされる状況を含む権限へのはっきりとした制
限が必要であると主張する。特に、私たちは、権利侵害となる技術は重大な犯
罪にたいしてのみ用いられるべきであり、欧州人権条約、市民的政治的権利に
ついての国際条約で枠組が与えられているプライバシーや表現の自由といった
その他の奪うことのできない権利を認めることを求める。
・トラフィックデータの収集を権利侵害とみなし、収集に先だって
十分な一律の制約を課すべきである。
・私たちは、傍受とデータ収集装置の権限について、完全に権利侵害を制限す
るように制限することを要求する。私たちは、もし技術的な手段が用いられる
ならば、これらの手段は捜査対象の特定のユーザーのトラフィックを分離し、
合法的に認められたデータだけを収集し、データの改変を許さず、コンテント
とトラフィックデータのあいだの区別を恣意的に変更するようなことがないこ
と、そしてデータへのアクセスや共有を行ってはならないを保証する保護的な
条項に置き換えることを勧告する。もし、こうしたことが独立の評価によって
保障されることができないとすれば、捜査機関が用いるこれらの技術は違法で
ある。
・コミュニケーションの傍受は世界中の異議申し立てを行う人々や人権活動家
に対してしばしば用いられる権利侵害的な技術である。私たちは、これらのネッ
トワーク、特にまだ開発と形成途上にある現代のコミュニケーションネットワー
クが盗聴装置の組み込みを当たり前の状態とすべきでないということを従来ど
おり主張するものである。
・欧州評議会は公的にデータの保全retentionと保存preservationの違いを公的
に述べてきた。しかし、G8での議論や最近の英国での議論をふまえると、私た
ちは、この違いは明確にされるべきだと考える。私たちは、データ保護に関す
る1981年の欧州評議会の協定および1995年のデータ保護EU指令にみられるよ
うなデータ保護への国際的な尊重をふまえ、これらの条項をトラフィックデー
タにも適用することを要求する。
権限の強化に際して、本条約は、また容認可能な捜査技術の上限を定めねばな
らない。むやみやたらなアクセスやデータベースの構築は市民的な自由に対す
る重大な侵害である。(以下略)
(資料作成 ネットワーク反監視プロジェクト[NaST]小倉利丸)}