1999年5月11日

盗聴法ニュースNo4

組織的犯罪対策3法案の問題点


1、組織犯罪対策は立法の口実

 組織的犯罪対策3法案と呼ばれる法律の内、組織的な犯罪の対策と呼べるのは組織的犯罪の重罰化だけである。通信の傍受やマネーロンダリングは組織的犯罪の対策に限定されない一般的な新たな法制度の導入であり、組織的犯罪対策は立法の口実に使われている。

2、プライバシーの根幹に触れる盗聴捜査

 通信傍受、盗聴制度は地引網的捜査方法であり、また自己増殖していく。会話は個人の内面に直接ふれるプライバシーの中核部分をなしている。
 現実に盗聴の対象とされるのはアメリカ、フランス、ロシアなどの例を見ても、与野党を問わない政治的反対派、ジャーナリスト、市民運動などであり、犯罪プロ集団は電話などの通信手段を使わなくなる。

3、3法案はオウム対策とは無関係

 盗聴捜査の先進国アメリカでも、盗聴捜査は膨大なコストがかかる割に捜査の効率が悪いと指摘されている。とりわけ、テロ犯罪の摘発には全く役に立っていない。
 オウム真理教の拠点拡大・商品販売などの最近の各種の活動への対策のため立法を急ぐべきと言う要望が一部地域住民から寄せられているが、この立法はオウム真理教などのこのような活動の対策には全くと言っていいほど関係がない。この法案はオウム対策とは無関係である。

4、対象犯罪の限定によって人権侵害は防げない

 公明党から盗聴の対象犯罪を限定することを提案するので、人権侵害の危険はなくなると言う見解が表明されているが、法案は別件盗聴や予備的盗聴、現実に発生していない将来発生するかも知れない事件に関する盗聴を認めている。刑事事件と関係のない膨大な会話が警察の盗聴の対象とされ、データとして記録される。法案の修正によってもプライバシーの危険性は全く払拭できない。

5、令状審査は歯止めとならない

 日本では裁判官の令状発布率は99.9パーセントに達している。アメリカでも盗聴令状に関する限り却下例は0.1パーセント程度である。盗聴に関する司法的な抑制は不可能であることが事実によって実証されている。

6、マネーロンダリング規制は自由な経済活動を阻害する

 マネーロンダリング規制は犯罪概念の根本的な転換をもたらす。簡単に言えば人の金を騙し取った犯人がそれを遊興に使ってしまえば別だが、その金を貯金したり、隠したりすることを別の犯罪としようということ。これらはこれまで不可罰的事後行為と呼ばれてきた。これを犯罪化することにより、犯罪収益が存在する限り永遠に時効の成立しない新しい犯罪類型ができるのだ。
 マネーロンダリングの規制のため導入されようとしている金融機関による疑わしい取引の届出義務の創設は自由で開かれた経済取引を阻害する危険が高い。低金利の上に警察に通報される危険があれば、市民が銀行を信頼しなくなり、大量の資金がアングラ化し、経済政策に大きな打撃を与えかねない。アメリカでも同様の内容の法律が制定されながら、今年2月に市民と銀行・産業界の強い反対で撤回された。日本もこの知恵に学ぶべきだ。

7、国際的にも拙速は求められていない

 法務省はしきりに次の国際会議までに法案を成立させなければならないなどとして、与党国会議員を説得しているようである。しかし、刑事司法の諸原則に重大な変更を迫る組織犯罪対策の実施については各国とも慎重であり、現在国連犯罪防止刑事司法委員会が草案を起草中の「国際組織犯罪防止条約」の審議の動向を見守っているのが実情である。3法案は部分的にはこの条約よりも突出した部分をもっている。日本が組織的犯罪対策を怠っているという国際的な批判などないし、仮にあったとしても当たらない。
 いずれにしても、国の司法の根幹にかかわる法律を委員会審議を省略して政党間の密室で協議し、強行採決で成立させるようなことは断じて認めることはできない。
 政府・自民党はもっと冷静になって欲しい。

発行責任者(50音順): 
枝野幸男(衆議院議員・法務委員)
北村哲男(衆議院議員)
中村敦夫(参議院議員・法務委員)
橋本敦(参議院議員・法務委員)
福島瑞穂(参議院議員・法務委員)
保坂展人(衆議院議員・法務委員)