盗聴法案に関する公開質問状

衆議院法務委員会委員各位
参議院法務委員会委員各位
衆議院各会派 各位
参議院各会派 各位

盗聴法阻止ネットワーカー連絡会
ネットワーク反監視プロジェクト(NaST)
連絡先
富山市五福3190 富山大学経済学部 小倉研究室気付
priv-ec@jca.apc.org
1999年5月7日

時下ますますご清勝のことと存じます。さて、今国会で継続審議となっている組織的犯罪に対する対策立法のうち通信傍受に関する法案について、私たちは著しいプライバシー侵害を招くと考え、その成立に反対しているものです。私たちは、ただ闇雲に反対を主張するものではなく、できる限り国会を構成する各会派、各議員のみなさんの意見をうかがいたいと考えております。そこで、国会会期中で極めてご多忙とは存じますが、通信傍受に関する法案に関して私たちが常日頃から抱いている下記の点に関する疑問について是非ともご見解をいただきたくお願いする次第です。

なお、回答は文書でいただきたいと思います。回答をいただく目安としては、5月17日を予定しておりますが、もしご都合が悪いようであれば、回答をいただける時期をご相談したいと思います。

この質問状とその回答は下記のホームページで公開します。
http://www.jca.apc.org/privacy/


1 会派または党(以下会派という)で通信傍受に関する法案を検討しているセクションはどこになりますか。また、その代表者はどなたでしょうか。


2 法案第一条についてお尋ねします。
(1)法案では、現状の犯罪状況について、通信傍受を行わなければ「事実の真相を解明することが著しく困難な場合が増加する状況にある」との認識を示しています。法案がいうような犯罪状況があるとお考えですか。もしそのようにお考えの場合、具体的なデータをお示しください。
《ご参考》法律学者の間では、異論もありますが、現行法のもとでも通信傍受の令状が発付されていますが、近年その発付が著しく増加したことはありません。また、オウム真理教の諸事件でも傍受令状の請求は一件もありませんでした。

(2)法案では、「通信の秘密を不当に侵害することなく事案の真相の的確な解明に資する」とあります。「通信の秘密を不当に侵害する」場合について、どのようにお考えか、下記の点についてお答え下さい。

a. 一般に、犯罪と無関係な会話を傍受することは、明らかに「通信の秘密を不当に侵害することになる」といえます。犯罪と無関係な会話を傍受しない具体的な方法について、この法案に規定があるとお考えですか。

(a)規定はある (b)規定はない (c)解釈次第でどちらにもとれる

また、法案の規定で十分とお考えですか。
(a)十分である (b)不十分である (c)なんともいえない

もし、この法案に規定がないとお考えの場合、あるいは不十分とお考えの場合、これにかわる具体的な方法についてどのような検討をなさっているかお答え下さい。

b. 完全に無関係な通信の傍受を排除する技術的、法的な方法はあるとお考えですか。もし「ある」とお考えの場合、その方法について具体的にお書き下さい。

完全に無関係な傍受を排除することはできないが、それでも通信の傍受は必要であるとお考えの場合、傍受された通信のうち無関係な通信の割合がどのていどであれば許容できるとお考えですか。また、その割合が憲法の通信の秘密遵守条項とてらしても合理的であると言える根拠はどおにあるとお考えですか。(無関係通信の傍受はいっさい認められない、との立場の場合は回答は不要です。無回答の場合は、無関係傍受はいっさい認めない立場であると判断します)

c. 捜査当局の通信の傍受が通信の秘密を侵害しないように規制する方法の一つとして、裁判所によるチェックがありうるかもしれません。法案では、通信傍受をしている最中に裁判所はどのようなチェックの権限をもつものと規定していますか。

また、法案の規定で十分とお考えですか。

裁判所は、傍受捜査の経過が令状通りに行われていることを、傍受の最中に、どのようにして知ることができますか。法案に即してお答え下さい。

d. 通信傍受に関わった検察官、警察官が、その傍受内容を別の事件の捜査担当者に知らせたり、みづから別の事件に利用することは、通信の秘密の侵害にあたるとお考えですか。それとも侵害ではないとお考えですか。
(a)侵害にあたる (b)侵害にあたらない

(b)とお答えの場合、その理由をお書き下さい。

(a)とお答えの場合、法案ではどこにその歯止めがありますか。また情報の出所を明らかにしないで別の捜査に利用した場合、そのことを確認する手だてがどのように保証されうるか、ご意見をお聞かせ下さい。


3 通信傍受に関する新たな立法ですから、「傍受」の状態は、明確でだれもが誤解なく理解できるものであるべきだと考えます。そこで法案の「傍受」の定義についてお尋ねします。法案では、第二条2項では「傍受」について、第五条2項では「傍受の実施」「通信の状況を監視」することについてなど、さまざまな表現がみられ、傍受している状態と、記録をとっている状態についても、様々な解釈がありえます。傍受とその記録について法案の解釈についてお尋ねします。下記にいくつかの解釈を列記しました。どの解釈が妥当だとお考えですか。また、妥当とお考えの項目にある質問にお答え下さい。

a. 捜査員が通信を聞いているときには必ず記録がとられており、すべて裁判所にその記録は保管される。このようにお考えの場合、これは、条文のどこに根拠がありますか。

また、捜査員が聞いているのに、記録を取っていない場合のチェックはどのようにすれば可能だとお考えでしょうか。

b.捜査員は令状に記載されている期間であればいつでも自由に聞くことができるが、テープなど裁判所に提出する記録はそのうち被疑事実に関する部分だけである。このようにお考えの場合、これは、条文のどこを根拠としていますか。

このばあい。記録をとらずに聞いている行為は、通信の秘密の侵害にあたらない理由をどのようにお考えですか。

また、捜査員がメモをしたりしたものは、裁判所に提出すべきとお考えですか。それとも自由にメモをとるなどしてかまわない、とお考えですか。


4 通信傍受にどのような技術が用いられるかによって、傍受のための態勢や、傍受にともなういわゆる無関係盗聴やプライバシー侵害の程度は異なることになります。対象となる電話回線に電柱などから直接線を接続して傍受する方法はかつて捜査当局が実際に行ったことがあります。また、NTTなど通信事業者の局内で行う方法もありうるでしょう。法案では、技術について詳細な規定がありませんが、国会での審議では、当然のこととして一定の技術的な条件のついて、議員の間で合意がなければ審議はできません。そこで次の点をうかがいます。

a. 電話の傍受について、捜査当局がとりうる傍受の技術はどのようなものとお考えですか。また、逆にとるべきでない技術とはどのようなものですか。

この法案では、技術上のありうべきプライバシー侵害を防止するのに十分な内容とお考えですか。もし十分であるとお考えの場合、該当する条文をご指摘いただき、その理由をお聞かせください。

(a)プライバシー侵害防止にとって十分とはいえない (b)プライバシー侵害防止の十分な技術上の条件を規定している(該当条文 )

以上の点について、具体的に技術の専門的な分野に立ち入っても構いませんのでいままでのご検討の結果をお聞かせ下さい。

b. いわゆるインターネットに典型的なコンピュータ通信の傍受について、同様に上記の点についてのお考えをお聞かせください。
なお、技術的な側面についてまだご検討されていない場合はその旨お書き添え下さい。


5. 法案11条では、通信事業者の協力義務を定めています。通信事業者は「正当な理由」なく協力を拒むことはできないと規定されています。しかし、何が「正当な理由」なのかについては何も説明がありません。そこで下記のような場合、通信事業者が傍受に協力することを拒否するのは「正当な理由」に含まれるとお考えですか。もし、正当な理由には含まれない、という場合はその理由を法案に即してお答え下さい。

a. 12条では、立ち会い人の規定があります。通信事業が「常時立ち会いができないので傍受への協力はできない」として拒否した場合。

(a)拒否できる (b)拒否できない

b. 協力するためのスタッフ、機材の余裕がないので、協力を拒否した場合。

(a)拒否できる (b)拒否できない

c. 捜査当局への協力も通信事業者のサービスだから、サービスにみあう支払いがなければ協力できないとして拒否した場合

(a)拒否できる (b)拒否できない

d. 容疑事実の要旨を知らせてもらえなければ協力はできないとして拒否した場合

(a)拒否できる (b)拒否できない

e. 切断権を保証してもらえなければ協力できないとして拒否した場合

(a)拒否できる (b)拒否できない

f. 通信事業者が指定する弁護士の立ち会いがなければ協力できないとして拒否した場合

(a)拒否できる (b)拒否できない

g. 傍受について合理的な理由がないと通信事業者が判断し、法案26条の不服申し立てを行うことを告げて、協力を拒否した場合

(a)拒否できる (b)拒否できない

h. その他、拒否できる場合について、どのような場合があるかお書き下さい


6. 立ち会いについて

法案11条では、立ち会いについて規定しています。立ち会い人が必要なのは、捜査当局の捜査が公正で法に基づくものであることを確認するためのものと思われます。もし捜査当局がいっさいの逸脱を行う余地がないとすれば、こうした立ち会いの規定は不要でしょうし、捜査当局とまったく同一の立場にたつものが立ち会いを行うとすれば、立ち会い人が公正で中立な立場をとっているとは言えません。立ち会いについて、下記の点についてうかがいます。

a. 立会人は令状の「被疑事実の要旨」を通知されるべきだとお考えですか。

(a)通知すべきである (b)通知する必要はない

(b)とお答えの場合、捜査機関が令状に即した通信傍受を行っていることはどのようにして知りうるとお考えですか。

b. 捜査員がヘッドホンで傍受している場合、立会人もまたヘッドホンを装着して、通信の内容を聞きうる状態にいるべきであるとお考えですか。

(a)立ち会い人もヘッドホンを装着すべきである (b)装着の必要はない

(b)とお答えの場合、立会人はどのようにして捜査当局の違法、不当な捜査をチェックできるとお考えですか。

b. 立会人が捜査当局の捜査に逸脱があると判断したばあい、立会人はどのような措置をとることができるとお考えですか。

また、立会人と捜査当局とで、傍受について見解が対立した場合、どのような処置をすべきであるとお考えですか。

c. もし万が一、違法、不正な傍受捜査が行われたことがわかった場合、立会人にはどのような責任がありますか。

d. 立会人は証拠となる記録物を封印する際に立ち会わねばならないとされています。ところで、常時立ち会うことができなかった場合、立ち会い人は、どのようにして、自分が不在の時には記録物の交換は行われず、自分が封印した記録物が、まぎれもなく法に定められた傍受の記録であると確認すればよいでしょうか。捜査当局の言いなりであってよいということでしょうか。


7. 傍受できない職業について

法案15条では、傍受できない職業についての規定があります。この規定には、ジャーナリストが含まれていません。職業上、ジャーナリストの通信傍受を認めるということですが、どのような場合に、ジャーナリストの通信傍受が必要になるとお考えですか。職業の特性との関わりでお答え下さい。また、このことは、言論、報道の自由と抵触する可能性がありますが、いかがお考えですか。

同様に、政治家もまた傍受可能な職業に含まれています。職業上、政治家の通信傍受が必要になる場合とはどのような場合ですか。職業の特性との関係でお考えをお聞かせ下さい。

また、傍受できない職業についても「他人の依頼を受けて行うその業務」についてのみ傍受できない、とされています。この点についてうかがいます。

a. 「他人の依頼」とはどのような場合を指すとお考えですか。

b. これら傍受を禁止されている職業の者に対しても、「他人の依頼」かどうかの判断がつかない場合は傍受は許されるのでしょうか、それとも「疑わしきは傍受せず」として傍受すべきでないとお考えですか。原則としてどちらであるかお考えをお聞かせ下さい。

(a)傍受すべきでない (b)傍受してもよい

c. たとえば宗教者の場合、例外的に傍受可能な場合はどのようなケースだとお考えですか。信徒ではない人から無報酬で相談を受けた場合、傍受の対象になりうるでしょうか。

d. 憲法では、思想信条の自由が保障されています。とすれば、政治的な思想信条についても傍受禁止対象としてよいのではないかと考えます。この点についてお考えをお聞かせください。


8. 傍受の記録について

裁判所に提出する記録以外に、傍受の最中に捜査員がメモなどで「私的に」記録したものが残される可能性があります。これらについては、法案では何の規制も加えられていません。これらの「私的な」記録、あるいは裁判所に提出されたもの以外に捜査当局が作成、入手する可能性のある記録、メモ類について、どのような措置をとるべきだとお考えですか。また、法案に何の規定もないことについてどのようにお考えですか。

(a)何の規制もいらない (b)メモなどを取ることは禁止すべきである


9. 傍受の通知について

法案23条では、傍受の当事者に事後に通知することを義務づけていますが、相手が特定できない場合、所在がわからない場合には通知しなくてよいとされています。この点についてお考えをうかがいます。

a. 多くの場合、相手の電話番号は確認できるが、住所は直ちには確認できない可能性が高いといえます。通知は「書面」でおこなうと規定されていますから、住所がわからなければ通知しなくてよい、ということになりかねません。しかし、通知すべきあいての電話がわかっている場合は、電話でまず傍受の事実を伝えたのち、書面で通知を渡すことが可能であると思われます。こうした方法で、相手にに通知することができるばあいは、通知を出すべきだとお考えですか。

(a)電話番号がわかっていれば電話でまず連絡し、その後書面で通知する (b)住所がわからなければ通知しなくてよい

b. 電子メールの傍受の場合、相手方のメールアドレスはたいていに場合わかりますが、住所はわからない場合が一般的です。したがって、この場合も、まず、電子メールで通知し、その後書面で通知するということをすべきだとお考えですか。

(a)メールアドレスがわかっていればメールでまず連絡し、その後書面で通知する

(b)住所がわからなければ通知しなくてよい


10.国会への報告について

a. 法案29条で、政府は国会に報告義務があるとしています。この報告は、警察庁、法務省、最高裁判所、検察庁等いくつかの機関が担当可能と思われます。どの機関が報告すべきですか。あるいは、すべての機関が報告を出すべきですか。

b. 合衆国でも通信傍受は「ワイヤータップレポート」として議会に報告されます。日本の国会報告もこの合衆国の「ワイヤータップレポート」と同等のものでよいとお考えですか。

(a)ほぼ同じ内容でよい (b)もっと詳しくすべきだ (c)なんともいえない

(b)(c)とお答え場合、その理由をお書き下さい。


11. 別件の傍受について

法案では、14条でいわゆる別件傍受が認められています。しかも事後における裁判所の令状発付も不要とされています。このような裁判所のチェックがまったくない傍受を認めるべきだとお考えですか。

(a)法案通り裁判所の令状は不要である (b)別件傍受はそもそも認めるべきでない (c)事後に令状をとれば別件傍受も認めてよい

上記の(a)(c)とお答えの場合、法案通りでよいという場合、ありうる違法な捜査にたいする規制の方法についてお考えをお聞かせください。


12. 記録の捜査への利用について

法案では、記録の利用に関する問題ついてまったく言及していません。そこでうかがいます。

a. 傍受の記録が音声の場合には、裁判の記録としてテープ起こし等の作業が必要になります。法案では一件あたり24時間10日間、さらには30日まで延長して傍受できるとされています。しかも刑事事件の場合、起訴までの期間に上限があります。この記録を現在の司法関係職員の定員あるいは今後見込まれる公務員の定員削減のなかでどのように文書としての記録にすることができるとお考えですか。

また、もし、文書としてテープ起こししない場合、記録のテープを聞く作業は時間が非常にかかることになります。刑事訴訟法では、205条で検察官は送致された被疑者について24時間以内に留置の必要を判断しなければならないとありますが、膨大な記録を聞くことは果たして可能でしょうか。また、それが不可能との理由で勾留を延期することは認められるのでしょうか。


13. 経費について

通信傍受は通信事業者に経費の負担を強います。この経費はどれくらいになるとお考えですか。

また、この経費を通信事業者が負担すべきであるとお考えですか。

(a)通信事業者が負担すべきである (b)国費で賄うべきである (c)一部国費で負担すべきである

(a)とお答えであればその理由をお聞かせ下さい。通信事業者自身は犯罪と全く無関係であって、その限りでは経費を負担する責任は発生しないと考えますが、いかがでしょうか。

(b)とお答えの場合、国家予算としてどの程度の負担を予想していますか。その根拠は何ですか。

(c)とお答えの場合、なぜ一部を通信事業者が負担しなければならないのでしょうか。また負担区分の基準をどのようにお考えですか。


14. 対象犯罪について

今回の法案では、組織的な脱税や公職選挙法違反は傍受対象の犯罪に含まれていません。わたしたちは法案自体に反対ですから、これらの犯罪を含めるべきだとは主張しません。 法案に賛成、あるいは条件付き賛成の場合にうかがいます。これらの犯罪を対象犯罪に含めなくてもよい積極的な理由をお聞かせ下さい。


15.暗号通信について

法案では、暗号通信については、すべて傍受し速やかに解読すべきとしています。電子メールでもっとも普及しているPGPのばあい、解読はまず不可能だといわれています。そこでうかがいます。捜査当局が解読できない暗号は法的に規制すべきだとお考えですか。

(a)法的な規制をすべきだ (b)規制をすべきでない


16. 4月28日の衆議院法務委員会における「採決」について。

上記の日に開催された法務委員会では、橘康太郎委員の動議が審議なしで「採決」された形になっています。動議について審議なしに採決したことについて、ご意見をお聞かせ下さい。

以上ご協力ありがとうございました。