6月1日、衆議院本会議において、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法 律案」「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案」及び「刑 事訴訟法の一部を改正する法律案」(いわゆる組織的犯罪対策三法案)が一部 修正のうえ可決された。
当会は、咋年2月21日の臨時総会において、「犯罪捜査のための通信傍受 に関する法律案要綱骨子」に重大な疑問を呈し、これに基づく立法化に反対す る決議を採択した。
また、法案の本格審議に入った本年4月13日には、会長声明を発して疑間 点を指摘し、立法化に反対の意見を公けにした。
しかし、修正内容はこの疑問に答えていないばかりか、衆議院では、個別具 体的な条文規定についてはほとんど議論がなされず、憲法が保障する人権侵害 のおそれを払拭しないまま可決に至ったのである。個々の法案内容については、 以下に述べる重大な疑義を指摘せざるを得ない。
「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案」についていえぱ、傍受の対象 犯罪を薬物犯罪、銃器犯罪、集団密航、組織的殺人に限定したというものの、 例えば傍受対象について、大麻の単純所持等も含まれているなど、限定として は、はなはだ不十分なものである。
とりわけ、未だ行なわれていない犯罪行為への通信傍受や令状に記載されて いない別事件の傍受をも認めているうえ、犯罪と関係する会話かどうかを識別 する該当性判断のための傍受につき、傍受がなされたことに対して会話当事者 に通知がなされず、傍受をされたという事実自体が知らされないこと等の間題 点が全く解消されていない。さらに重大な点は、法案上適法な傍受を担保する ために設けられた立会人が犯罪の被疑事実を知らされず、通話内容を聴くこと もできないため、捜査機関の違法を防止する実質的な機能を有しないものとな っている。本法案では、犯罪とは無関係な多くの通信が捜査機関の監視下に晒 されることによる人権侵害の危険は拭い切れないものである。
「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案」については、 労働組合や市民団体の行なう正当な活動に対して濫用される危険が残されたま まである。
「刑事訴訟法の一部を改正する法律」(いわゆる証人保護法)についても、 証人等の住居、勤務先等の所在場所は弁護人の反対尋問において極めて重要な 意義を持つ場合があり、かかる事項についての尋問制限を明文で規定すること は、反対尋間権に対する重大な制約である。この点は、被告人の正当な防禦権 を危うくすることになる。
以上のように、「組織的犯罪対策三法案」は、修正案といえども、国民の基 本的人権を侵筈するおそれがあり濫用の危険が大きく、且つその立法の必要性 は不明確である。
よって、当会は、重ねて「組織的犯罪対策三法案」の立法化には、強く反対 する。
1999(平成11)年6月8目
埼玉弁護士会常議員会