「組織犯罪対策」立法に反対する刑法学者の声明
「組織犯罪対策」を理由とした三つの法案(「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規
制等に関する法律案」、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案」および「刑事訴
訟法の一部を改正する法律案」)が国会に上程され審議されるにあたって、昨年七月一
五日、私たち刑法学者は七二名の連名で、これら三法案に対し反対の意思を表明した。
この声明は、一九九七年一月一〇日の刑法学者八七名連名の「『組織犯罪対策』立法に
反対する刑法学者の声明」と、一九九七年一〇月一四日の刑法学者九〇名連名の
「「『組織的な犯罪に対処するための刑事法整備要綱骨子』についての意見書」に続
く、三度目の反対意思の表明であった。
私たち刑法学者は、これらの声明と意見書において、三法案が憲法、刑法および刑事
訴訟法の基本原則に抵触すること、その内容が「組織犯罪対策」の枠を大きく逸脱して
いるのみならず、「組織犯罪対策」としての有効性に多大の疑問があること、とりわけ
盗聴規定は予備的盗聴、別件盗聴、そして事前盗聴を許容するなどきわめて無限定的で
あり、憲法三五条の令状主義に違反しプライバシーや通信の秘密等の市民的権利をはな
はだしく侵害する危険なものであることなどを指摘してきた。まさにこれは、民主主義
を否定し、監視社会を許すかどうかの問題である。
にもかかわらず、国会では十分な審議が尽くされておらず、これらの疑問点は依然と
して解消されてはいない。ところが、最近、盗聴規定について対象犯罪を減らし手続的
規制を加えるなどの修正を施して、数の力をたのんで三法案を成立させようとする政治
的動きが強まっている。しかし、それは極めて部分的でびほう的な修正であって、たと
えそのような修正が行われたとしても、盗聴規定が抱える違憲性と危険性をいささかも
解消するものではない。アメリカの盗聴法(包括的犯罪統制法)が、改正のたびに対象
犯罪を広げていった歴史的事実を見過ごしてはならない。
私たち刑法学者は、「組織犯罪対策」三法案をめぐるこうした国会の動きを深く憂慮
し、これまで公表してきた三つの声明と意見書の見地に立って、刑法学と刑事訴訟法
学、そして基本的人権の名において、三法案に対して強く反対の意思を表明するもので
ある。
右、声明する。
一九九九年五月二九日
刑法学者有志
氏名
●赤池一将 高岡法科大学教授 ●浅田和茂 大阪市立大学教授
●荒木伸怡 立教大学教授 ●飯尾滋明 松山東雲短期大学助教授
●生田勝義 立命館大学教授 ●石塚伸一 龍谷大学教授
●井戸田侃 大阪国際大学教授 ●指宿 信 鹿児島大学助教授
●上田國廣 福岡県弁護士会 ●植田 博 広島修道大学教授
●上野達彦 三重大学教授 ●内田博文 九州大学教授
●梅田 豊 島根大学助教授 ●大久保哲 久留米大学教授
●大出良知 九州大学教授 ●岡田悦典 福島大学助教授
●岡田久美子 札幌学院大学助教授 ●小田中聰樹 専修大学教授
●門田成人 島根大学助教授 ●金沢真理 山形大学専任講師
●川崎英明 東北大学教授 ●金 尚均 西南学院大学助教授
●葛野尋之 立命館大学助教授 ●楠本 孝 関東学院大学講師
●斉藤豊治 甲南大学教授 ●酒井安行 青山学院大学教授
●佐々木光明 三重短期大学助教授 ●白取祐司 北海道大学教授
●新谷一幸 広島修道大学助教授 ●振津隆行 金沢大学教授
●高田昭正 大阪市立大学教授 ●高内寿夫 白鴎大学助教授
●田中久智 国士舘大学教授 ●田淵浩二 静岡大学助教授
●恒光 徹 岡山大学教授 ●土井正和 九州大学教授
●中田直人 関東学院大学教授 ●中山研一 大阪市立大学名誉教授
●長井長信 南山大学教授 ●名和鐵郎 静岡大学教授
●新倉 修 國學院大學教授 ●庭山英雄 専修大学元教授
●服部 朗 愛知学院大学教授 ●平田 元 三重大学教授
●福井 厚 法政大学教授 ●福島 至 龍谷大学教授
●前田 朗 東京造形大学教授 ●前野育三 関西学院大学教授
●松岡正章 甲南大学教授 ●松宮孝明 立命館大学教授
●三島 聡 大阪市立大学助教授 ●光藤景皎 摂南大学教授
●水谷規男 愛知学院大学助教授 ●三宅孝之 島根大学教授
●村岡啓一 札幌弁護士会 ●武藤眞朗 東洋大学助教授
●村井敏邦 一橋大学教授
以上57名ほか17名
計74名
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