一九九九年六月一四日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
議 長 池 本 誠 司
参議院議長
殿
衆議院の自民党・自由党・公明党は、本年六月一日、盗聴法を含む組織犯罪対策法案を強行採決した。国民の基本的人権に関わるこの重大な法案を、公聴会も開催せず十分な審議を経ないまま衆議院で強行採決したことについて、当部会は強く抗議するとともに、参議院においては、次の理由から慎重かつ十分な審議を行うことを求めるものである。
憲法と刑事訴訟法は、犯罪を犯したと疑うに足る相当の理由があると認められる場合に限り、裁判官が発する令状によって当該犯罪に関する証拠資料を捜査機関が捜索押収することができるものと定め、捜査活動によって国民の人権が必要以上に侵害されないように歯止めをかけている。ところが、既に存在する犯罪の痕跡を収集する通常の捜査と異なり、将来行なわれる通信を対象とする盗聴による捜査は、一般に通信の内容は聞いて見なければ判らないことから、盗聴の範囲が無限定に広範になり易く、探索的・網羅的な捜査となりかねない特徴がある。このような盗聴による捜査の性質上、盗聴を認める令状は、聴取・収集する通信の範囲を特定することが困難となり、広範かつ不明確な記載とならざるを得ないことから、令状主義の趣旨を無意味にする危険が大きい。また、将来の犯罪を対象とする「捜査」は、従来の捜査概念を逸脱し、行政警察作用と司法警察作用の区別を曖昧にして、犯罪捜査の治安維持的な濫用に途を開くものであり、この点での危険性も重大である。
国民に、犯罪とは無関係であっても常に通信が盗聴されているかも知れないという危険を感じさせる社会は、自由な表現活動や政治活動を躊躇させ、市民活動を萎縮させる効果を持つ。このような危険性を直視するならば、盗聴による捜査方法は、国民の通信の秘密、プライバシーの権利、表現の自由、政治活動の自由等を侵害する恐れが極めて強いものである。
さらに、このような危険を犯してまで盗聴制度を導入しなければならない根拠や立法事実は何ら論証されておらず、むしろ、組織的犯罪に対しては盗聴などの手法は無力であり、現行法上の捜査方法で十分であるという指摘がなされている。
盗聴という手法の持つ宿命的・本質的な危険性は、対象とする犯罪類型の限定や立会人などの手当によって修正し、払拭できるものではなく、濫用による基本的人権の侵害は防止できない。
よって当部会は、参議院においては盗聴法案の審議を慎重かつ十分に行ない、これを廃案にすることを求めるものである。
一九九九年六月一四日