児童死亡事故に係わる裁判において和解が成立したことについて

事例No.S010324

 2001年3月24日、岩手県沢内村の村立猿橋小学校で、春休みにグランドに友だちと遊びに来ていた田中綾太くん(小5・11)が、融雪作業でつくられた雪氷塊(高さ150センチ、幅170センチ、厚さ50センチ、重さ220キロ)の下敷きになって意識不明の重体。5月18日、多臓器不全で死亡。両親は村を相手どって提訴。2004年8月6日、和解成立


広報 さわうち No.533
(※原文は縦書き)

 猿橋小学校校庭において発生した田中綾太君の死亡事故に係わる損害賠償請求事件について、村議会の議決を経て、盛岡地方裁判所において、御遺族に対する賠償額6千73万404円及び村民に対する本紙面での左記事実の説明による内容での和解が成立しました。
 示談による円満な解決に向け話し合いを重ねてまいりましたが不調に終わり、損害賠償請求額7千153万7千87円及び遅延損害金等の本応訴に至ったものであります。
 なお、損害賠償額等の歳出財源としては、村で加入している賠償責任保険の保険金を充当したものであります。



 平成13年3月24日午後1時30分ころ、猿橋小学校校庭において発生した児童の死亡事故について、この度、御遺族との間で和解が成立致しましたので、改めて亡くなられた田中綾太君に哀悼の意を表するとともに、学校の安全管理に関する注意を怠り、適切な措置を怠ったために、安全であるべき学校で尊い命が奪われたことを真摯に反省し、田中綾太君と御遺族の方々に対し、哀心より謝罪いたします。
 猿橋小学校の設置管理者である沢内村は、その責任を深く自覚するとともに、今後、二度とこのような事件が発生しないよう万全を期することを誓い、その誓いの証として実効性のある安全対策を講ずるよう不断の努力をしていく所存であります。
今後、「豪雪地帯の生命尊重の村」にふさわしい安全対策を行うことを誓い、改めて村民の皆様に本件事件について左記のとおり御説明申し上げます。


1.事故発生について
 平成13年3月24日午後1時30分ころ、猿橋小学校校庭の児童昇降口南側付近において、当時同校の5年生だった田中綾太君が、友達と遊んでいるうちに巨大な雪氷塊(縦約1.4メートル、横1.7メートル、厚さ約0.5メートル、重量214キログラム)の下敷きになり、病院に搬送されたが意識を回復することなく同年5月18日午後0時51分に死亡した。


2.本件事故の原因等について
 本件事故は、児童の遊び場である学校の校庭において、巨大で頑強な雪氷塊を作出する方法によって融雪作業を行いながら、作業後、当該場所には立ち入らないよう周知させる物理的な措置や保護者や児童等に危険を告知し立ち入らないよう周知させる措置もとらず、安全対策について十分な配慮を欠いたことが原因である。

 本件事故の起因となった融雪作業は、平成13年3月19日及び21日に、村の除雪行政の一環として行われた。その際、除雪ローダーにより山状になった雪を平らにならした上、これを同ローダーの排土板で掘り起こし、縦横それぞれ1メートルから2メートル前後、厚さ数10センチメートルの「花弁状(地面に接着している下方に向かい細くなっている状態)」の雪氷塊にした。それら雪氷塊の一部は、雪氷塊全体の大きさに比べ接地部分の面積が狭く、倒れやすい状態にあった上、気温の上昇により各雪氷塊の融解が進んで不安定で危険な状態になっていた。それにもかかわらず、右記のとおり、安全対策を怠った結果、友達と遊んでいた田中君が、倒れてきた雪氷塊の下敷きとなった。


3.事件後の御遺族への対応等について
 事故後は直ちに村長等が御家族、御両親に対し謝罪した。しかし、当初、役場内では、本件事故が自然災害もしくは気象条件に起因して発生した偶発的な事故であると捉えていたため、道義的な謝罪に終わり、不適切な対応となった。その後の本件事故の解決に当たり、村は、村の学校施設の管理に瑕疵があることを認め、法的に責任があることを認識したが、融雪作業の危険性を認識するに至らず、以降、紛争解決のため話し合いを行ってきたものの、合意に達することなく、民事訴訟となった。


4.事故後の融雪作業への対応
 同様の事故が二度とあってはならないと、融雪作業についての安全対策を講じてきた。学校内における融雪作業については、除雪計画を学校長始め教職員全員で確認するとともに、学校施設内に花弁状の雪氷塊を作り出すことのないよう管理した。


5.この度の和解にあたって
 裁判所より和解条件を示唆され、被告である村は学校の安全管理に対する認識と配慮が不十分であったことと、危険な融雪方法をとったことを認め、互譲して和解に至った。
 この和解条項では、今後、同種事故の再発防止を図り、子供を健全に育成する村の責務を全うするため、子供の特性に対する十分な配慮のもとに、以下のことを行うことを合意した。

@ 学校の安全管理及び安全教育
 学校の安全管理を徹底して行い、各学校の教職員らに対して学校安全に関する教育を行い、各学校の安全管理の状況について、定期的な実態調査を実施し、事故・事件の防止を図る。また、調査の結果を「学校便り」により保護者に報告する。

A 除雪及び融雪の安全
 学校校庭の除雪及び融雪作業にあたっては、被告は、当該学校の児童・生徒の年齢その他の諸事情を考慮し、各学校の校庭に適した安全に方法を選択し、その作業を各担当者に一任することなく、作業の管理、点検、担当者の教育・指導等を徹底して行う。