子どもたちは二度殺される【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
780200 体罰事件 2002.3.3新規 
1978/2/ 東京都の中福小学校で、いたずらで近所の窓ガラスをパチンコ玉で割った男子児童Kくん(小6)が、3人の教師から厳しく詰問された直後、校舎3階の窓から飛び降り自殺をはかる。全治約8か月の重傷。
経 緯 この日、Kくんは、友だちに渡す約束をしていた映画の宣伝用チラシを忘れて登校してきたため、2時限目と3時限目の休憩時間に、同級生のSくんを誘って自宅に取りに帰った。
途中、上着のポケットに入っていたパチンコ玉をいたずらで投げたところ、Tさん宅の窓ガラスに当たり割れた。

Tさんが学校に通報。

生活指導担当のT教師を中心に6年生の担任3人で調べた結果、KくんとSくんの2人が休憩時間に校外に出たことが判明。2人を6年2組の教室前の廊下に呼びだして、事情を聞いた。

当初、2人とも否定。そのうち2人の言い分に食い違いが出たので、別々に事情を聞く。
最初にSくんが事実を認めた。
Kくんを厳しく追及した結果、最終的に「下手投げで鳥小屋めがけて投げた」ことを認めた。

4時限目が始まったので、Kくんは教室に戻され自習していたが、3階の廊下側の窓から飛び降りた。
裁 判 Kくん側が提訴。

Kくん側は、「T教諭らの違法な事情聴取によって受けた屈辱感と恐怖感、さらに事実が明確にされた際に予想されるT教諭の懲戒に対する極度の恐怖が、自殺を決意する原因となった」と主張。

学校側は、「かりにこの事情聴取が違法なもので、そのためにKくんが自殺を決意・決行したとしても、そういった心理的反応を起こすことはきわめて希有な事例であり、法律上の因果関係はない」と主張。
裁判での主張 事情聴取の際のやり取りに両者の主張に大きく相違はないが、いくつかの点で食い違いをみせた。
Kくん側の主張 3人の教師の主張
T教師ら3人は、教室前の廊下でKくんを取り囲み、45分間にわたって、Kくんに不利益な供述を強要した。
特に、T教師は、初めからKくんひとりで故意にこの事件を起こしたと決めつけ、Kくんに弁解の機会を与えず、「ほんとうならここでぶっとばされても仕方ないんだぞ」「指紋をとれば犯人はすぐ分かるんだぞ」「おまえがしゃべらなければ、学校の体育館のガラスが割られた事件もお前のせいにするぞ」などと言った。
事情聴取の時間はせいぜい15分くらいだった。
さらにT教師は、Kくんのほうに体を寄せ、「お前がやったんだろう」と言いながら、Kくんの胸や腹を手拳で2、3回、後ろに倒れそうになるくらい強く突いた。 T教師が「手を前に出した際、一度、手が原告(Kくん)の腹部に触れた」程度
I教師も、聴取の終わりに「おまえ、よくもそんな涼しい顔してうそがつけるな」と言った。

(判決文では、裁判所は教師側の言い分をとって、「違法な行為」を否定。)
判 決 1982/2/16 東京地裁で棄却判決。
判決要旨 1.児童の問題行動について事情聴取する際には人権侵害にならないように配慮すべき注意義務がある。
本件事件のように児童の問題行動について児童から事情聴取する場合においても、学校教師としては、児童の心身の発達に応じ、児童に苦痛を与えその人権を違法に侵害することのないよう配慮して、真相を究明すべき注意義務がある。

2.しかし前後の経緯および事情聴取の内容からすると、本件事情聴取はこの注意義務に反する違法な行為とはいえない。
この事件は当時卒業まで1か月を残さない6年生が、学校関係者以外の者に損害をかけ、目撃者から声をかけられながら逃げ出すというかなり悪質なもので、すでに被害者から苦情が寄せられていたことでもあり、学校としては事件を早急に解明することがトラブルを避けるうえでも必要であった
これらの点に加えて、事情聴取に至った経緯およびその内容からすると、「本件事情聴取にあたってのT教諭らの言動のうちには、個別的に見れば教育者の言辞として必ずしも妥当でないと感じられるものもあることは否めないが、これをもっ本件事情聴取が前記注意義務に反した違法な行為であるとまでは到底理解することができない。
参考資料 「賠償金の分岐点 教師が責任を問われるとき」/下村哲夫著/学研教育選書、「車輪の下の子どもたち」/渥美雅子編/国土社、



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