子どもに関する事件【事例】



注 :
被害者の氏名は、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
910126 いじめPTSD 2003.2.23 2003.7.1更新
1991/1/26 秋田県南秋田郡天王町の天王中学校で、男子生徒(中2)が、休み時間に上級生3人(中3)から、「ちくったべ」と言われ、殴る蹴るの暴行を受け、気を失い病院に運ばれた。その後、心因反応で、話すことも食事することもできず、記憶の喪失もひどくなった。
経 緯 1991/1/ 暴行事件の直前、男子生徒が、学校に行くのを嫌がったため、両親が問いただしたところ、変形学生服の代金を払わないために、いじめられていることがわかり、学校に相談。

1/26 変形学生服を売買した件をAくんが教師に話したと思った上級生3人(中3)が、休み時間にトイレで、「ちくったべ(告げ口しただろう)」と言って、Aくんに殴る蹴るの暴行を加えた。Aくんは気を失って近くの病院に運ばれ、首のねんざと診断され、3日間入院(3月まで通院)。

Aくんは話すことも食事することもできず、記憶の喪失もひどくなったため、事件の4日後、秋田市内の病院にかかり、「心因性の反応で、情緒的には赤ちゃんにかえっている」と診断される。

1991/4/ 治療のため引っ越しして転校。通院を続けた。

1991/7/、8/、1991/10−1992/3 入院。 
症 状 記憶障害が回復した後は、乱暴した上級生に似たひとを見ると、体が震えだし、強い言語障害や幼児化がぶり返した。「ショックで情緒的には2、3歳程度になっている」と診断。
心因反応による妄想で、自分を傷つけたりした。
(1992/11/14現在)病状回復の見込みが立っていない。
裁 判 1992/11/14 Aくんと両親が、学校設置者である天王町と加害少年3人と親権者を相手どって、原告本人1000万円、原告父865万7440円、原告母300万円の計2165万7440円の損害賠償を求めて提訴。 
被告の言い分 学校側は、「できる限りの対応は取ったが、暴行にまで及ぶとは予想できなかった」として、全面的に争う。
判 決 1995/9/22 秋田地裁で一部認容の判決。
片瀬敏寿裁判長は、争点だったいじめの有無については判断せず、上級生による暴行の事実と情緒障害との因果関係を認め、加害者の上級生に対し、原告本人に200万円、原告父に133万8440円、原告母に50万円の計384万8440円の支払い命令。

継続的ないじめを否定。
暴行の予見可能性を否定して、学校設置者の安全義務違反を否定親権者の責任を否定
中学3年生の責任能力を肯定して賠償責任を肯定。
判決要旨 教師の保護監督義務について
「教職員の保護監督義務の一内容として、本件のような生徒間の暴力の発生を防止すべき義務も当然含まれるが、休憩時間中のトイレ内での暴行というように、教師の直接的な指導監督下にない時間、場所で発生する生徒間の暴行事件については、当該具体的な状況下で予見することが可能な範囲内で、暴行発生の危険性及び切迫性を判断し、その程度に応じた指導、保護的措置を講じれば足りるものと解する。」


暴行の予見性
「天王中側は、3年生男子数人のグループが、原告Aが変形学生服の売買の件を教師らに話したことを告げ口と評価し、少なくとも何らかの意趣返しを行うかもしれないとの程度の予測はできる状況にあり、実際にも、M教諭ら2年担当の教師らは、原告Aを3年生から保護したり、1階のトイレに入るなと指導するなどの措置をとり、右意趣返しが行われることを認識していた。」

「しかしながら、天王中学校では、平成元年ころ、上級生が下級生を暴行した事件が発生して以来本件暴行まで、暴行事件は発生していなかったこと、天王中側に関係者として名前が判明していなかった被告Xは、服装、授業態度等で注意を受ける生徒ではあったが、具体的な問題行動が指摘される生徒ではなかったこと、Zから原告Aとの関係を否定されていたこと、原告Aから教師らに対し、被告Yら3名から暴行を受けるおそれがあるとの訴えは特になかったことなどからすれば、3年生の男子数人のグループが原告Aに対し、集団で暴行を加える危険性及び切迫感が高かったとはいえない状況でもあり、天王中側において、被告Yら3名が原告Aに暴行を加えるおそれがあると予見しうる状況になかった。


学校のいじめ対策措置の評価
「天王中側は、原告Aの変形学生服売買に関し、原告らに対し、変形学生服を相手に返すよう指導し、変形学生服の売買の問題解決を図ろうとし、下校時には原告Aに教師が同行して、家庭訪問し、原告らに対する指導、連絡を密にし、学生服を渡したZに対して家庭訪問して事情聴取し、変形学生服の売買に関係していると思われる3年生のグループと原告Aとの接触を避けるため、校内巡視を2年、3年生の担当教師らが協力して強化したことなどの対応策を講じたことが認められ、右状況下では、天王中側が、原告Aの安全保護のために必要な措置を講じていたと評価することができる。」

「生徒一人一人の人格と自主性を尊重し、他の生徒との集団生活の中で、生徒の健全育成を図る中学校において、3年生グループによる原告Aに対する暴行が行われることを前提として、犯人の割り出しのような積極的な調査を行うことは必ずしも適当ではなく、3年生グループの個々人の特定ができなかったことはやむを得ない面があり、また、変形学生服の売買自体は重大な非行というわけでなく、かつ、暴行の危険性が切迫していたとは認められない当時の状況からすれば、3年生全体に対する変形の学生服の売買に関する具体的な指導を行わず、原告Aに学校を休ませる措置を講じなかったことも不当とはいえず、結果として本件暴行の発生を防げなかったとしても、先に認定した措置を講じている天王中側には保護監督義務(安全保持業務)違反があったとまでは認められない。」


加害者の親の監督責任の範囲
「被告親権者らが、右監護教育義務に違反し、本件暴行を発生したと認められる場合には、不法行為責任(民法709条)を負うが、法定監督義務者としての責任(民法714条)の場合とは異なり、一般に監護教育義務を怠ったというのでは足りず、子が他人の生命身体等に対し危害を加えることがある程度具体的に予見されたにもかかわらず、それを阻止すべき措置を故意・過失によって採らなかった場合にその責任が認められると解する。
その後 町の責任を認めなかったことを不服として、原告側控訴。
参考資料 1992/11/14朝日新聞・夕(月刊「子ども論」1993年1月号/クレヨンハウス)、「いじめ裁判」季刊教育法2000年9月臨時増刊号/エイデル研究所発行、1995/9/22日経新聞・夕刊(月刊「子ども論」1995年11月号/クレヨンハウス)



ページの先頭にもどる | 子どもに関する事件 1 にもどる | 子どもに関する事件 2 にもどる

Copyright (C) 2000 S.TAKEDA All rights reserved.