子どもに関する事件【事例】



注 :
被害者の氏名は書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
881100 暴行傷害 2001.10.15. 2003.7.1 2005.5.15更新
1988/11/ 大阪府大阪市の公立・十三中学校で、男子生徒(中3)が、同級生(中3)からの度重なるいじめのうえ暴行を受け、出血性ショック外傷脾臓破裂により脾臓を摘出する。
経 緯 1時限目と2時限目の休み時間中、男子生徒Oは、同学年の被害生徒Aくんに、何の理由もなく、「待て」「Aやんか」「ハゲにしてこい」などと強要。Aくんが「無理や」と言って従わなかったところ、Oは「最近、生意気や」と言って、かかとでAくんの膝をけり、手拳で頭頂部を3発殴り、さらに右手拳で左下腹部を1発強打。
この結果、Aくんは左肩左胸部挫傷及び血腹出血性ショック外傷性脾臓破裂の重傷を負わされた。
経 緯 1986/ 中学1年生の1学期に、OはAくんの筆箱を奪い取り、鳩尾に膝げりをした。以降、廊下ですれ違う際に理由なく殴られることが何度もあった。

1987/ 2年生になるといじめは更に頻繁になった。Oのグループのメンバー数名から、ほぼ毎日のように、廊下やトイレで暴行を受けるようになった。

1988/ 3年生になっても、2年時と同様に暴行が続き、修学旅行中にも激しい暴行があった。
11月になって、脾臓破裂という重大な結果をもたらした暴行があった。
親の認知 Aくんは、いじめを受け始めても親に告げなかった。
3年生になって暴行の程度が激しくなってから初めて親に打ち明けた。しかし、学校には言わないよう頼んでいた。
被害者 Aくんは、学校は被害事実を知っていたにもかかわらず、知らないふりをしていた(この点は訴訟上で争いあり)ことから、学校にいじめの事実を告げても有効な対策はとられず、かえっていじめが激しくなると思ったため、親にも学校には言わないよう頼んでいた。
加害者 加害者はOを中心とする同学年の男子生徒ら数名。Oらは校内で不良グループを形成していた。他の生徒や教師に対しても暴力を振るっていた。
本件事件前にも、対教師暴力で2回の家庭裁判所の処分を受けていたが、改善していなかった。被害を受けて休職する教師もあった。

家庭にも問題はあったが、小学校5年生で学校の勉強がほとんどわからなくなっていた。(民事裁判の過程で判明)
加害者の処分 加害少年Oは、家庭裁判所で保護観察処分。
学校側の対応 学校は対生徒暴力を見て見ぬふりをして放置していた。Aくんへの暴力に対しても教師は見ていながら、知らないふりをしたり、形式的・表面的に注意するにとどまり、いじめであるという受けとめや、それに基づく真剣な指導はされなかった。

対教師への暴力に対しては警察に通報していたが、その際に、生徒に対する暴力には触れられていなかった。

学校は本傷害事件に対しても、警察に届け出していなかった。

被害者の親からの抗議に対して、まともな対応をせず、加害生徒に注意をし、「調査結果」を教育委員会に報告した程度だった。

本件事件後も2件の事件がありながら、校長、教師の対応に誠意がなかった。

1989/春 校長と教頭は転勤。
教育委員会の対応 1989/ 被害者が同中学校を卒業後、両親が弁護士に相談。
弁護士が教育委員会と交渉したが、学校事故保険での少額の支払を提示するのみだった。
被害者 Aくんは高校に進学し卒業後に勤めに出たが、疲れやすく肩や手術の傷口が痛むなどのなどの本件傷害の後遺症で、4カ月余りでやめざるを得なくなった。
裁 判 1991/ 加害少年と大阪市を相手どって提訴

加害者の暴行行為により受けた損害について、
1.後遺症による遺失利益、
2.入院雑費、看護料、
3.入通院慰謝料、
4.後遺症慰謝料、
5.弁護士費用
で構成し、2882万円の損害賠償を請求。
学校側の言い分 学校・教師側は、「加害者のいじめ行為の実態を重大なものではなく、頻発していたものでもなかったので、特別に指導を厳重にしなければならないものではなかった」と主張。
被害者の証言 Aくんは同学年の生徒から何度も殴り倒された。それを目撃した教師から「どつかれとったなあ」と言われた言葉が、悔しさに追い打ちをかけた。「相談すると、もっとひどい目にあう」と、だれにも話せず、内蔵破裂までエスカレートしたという。
裁判結果 1995/3/24 大阪地裁 原告勝訴(確定)

判決は、Oの責任(民法第709条の不法行為責任)と中学校の責任(国家賠償法第1条第1項)を認め、連帯して、後遺症による遺失利益、入院雑費、看護料、入通院慰謝料、後遺症慰謝料、日本体育・学校健康センターからの給付金の損益相殺、弁護士費用等を加減して、2418万5600円の損害賠償を認めた。
判決要旨 学校には学校の教育活動及びこれと密接に関連する生活関係において、暴力行為(いじめ)等による生徒の心身に対する違法な侵害が加えられないよう適切な配慮をするべき注意義務があると認められる。すなわち、学校側は、日頃から生徒の動静を観察し、生徒やその家族から暴力行為(いじめ)についての具体的な申告があった場合はもちろん、そのような体的な申告がない場合であっても、一般に暴力行為(いじめ)等が人目に付かないところで行われ、被害を受けている生徒も仕返しをおそれるあまり、暴力行為(いじめ)等を否定したり、申告しないことも少なくないので、学校側は、あらゆる機会をとらえて暴力行為(いじめ)等が行われているかについて細心の注意を払い、暴力行為等の存在が窺える場合には、関係生徒及び保護者から事情聴取するなどして、その実態を調査し、表面的な判定で一過性のものと決めつけずに、実態に応じた適切な防止措置(結果発生回避の措置)を取る義務があるというべきである。そして、このような義務は学校長のみが負うものではなく、学校全体として、教頭はじめとするすべての教員にあるものといわなければならない。」

「被告Oの粗暴性は顕著で、その暴力行為は継続的なものであることは明らかである。しかも、度重なる対教師暴力は悪質で重大なものであり、対生徒ら対する暴力行為の動機も必ずしも明らかでなかったと認められることからすると、学校側(すくなくとも校長、教頭、生活指導主事及び担任教諭)は遅くとも本件暴行行為の直前のころにおいては、被告Oが生徒又は教師に対して暴力行為(いじめ)等の所為に及ぶことを予見し得たというべきであって、その時点で適切な防止措置を講じておれば、本件結果の発生(被告Oの本件暴力行為)も高度の蓋然性をもって回避することができたものと認められる。」

学校側は、「被告Oの暴力行為を一過性のものと決めつけ、漫然、断続的観察という方法を指導していたにすぎず、教員間、教員と生徒間、教員と保護者間における報告、連絡及び相談等を密にするとか、校長又は教頭自らが被告Oに厳重な注意を与えたり、教員らが校内を見回るなどの指導、監督体制を全校的規模で行うなどの措置を講じていなかったのであって、本件においては、被告Oの本件暴行行為を未然に防止し、結果の発生を回避するための適切な措置を講じていないと認められる」
その後 1999/2 原告の母親はインタビューで、「学校や教師の法廷での態度、対応について思い出すと眠れないこともある」と答えた。
参考資料 季刊教育法2000年9月臨時増刊号「いじめ裁判」の中の「いじめ傷害事件と教育法における損害賠償・救済論」/青木宏治(高知大学教授士)/2000年9月エイデル研究所、「イジメと子どもの人権」/中川明編/信山社、「いじめ問題ハンドブック」学校に子どもの人権を/日本弁護士連合会/1995.6.10.こうち書房発行/桐書房発売、いじめ裁判から中教審を考える/斉藤 浩(原告弁護士)/1995/5/23朝日新聞・大阪(月刊「子ども論」/1995年7月号/クレヨンハウス)1995/3/25讀賣新聞・大阪(月刊「子ども論」/1995年5月号/クレヨンハウス)



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