子どもに関する事件【事例】



注 :
被害者の氏名は、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
791101 いじめ傷害 2001.3.13. 2001.5.1 2003.3.16更新
1979/11/1 埼玉県浦和市立三室小学校で、女子児童(小4)が放課後、学校の廊下で友人と談話中、同級生の男子児童2人(小4)に後方から足元に滑り込みをかけられ、2人目で転倒。廊下の床面に顔面を強打し、前歯2本を折る。
経 緯 Mちゃんは3年生の転校時から同男児にいじめられ、ぶたれたり、蹴られたりしていた。「ズッコケ」と呼ばれるいたずらも集中的に受けていた。

事故の後、いじめから逃れるために転校。
被 害 顔面を廊下の床に打ち付け負傷。前歯を破折脱臼、下左右第一ないし第三歯知覚過敏症の傷害を受けた。

後遺症として、上左右各第二歯(門歯)について抜髄する応急措置を受け、その後、義歯を入れ、以後も顎の発育がほぼ完成する満15歳の頃に再度所要の治療を行う必要が生じた。
背 景 当時の4年6組で、足元に滑り込みをかける「ズッコケ」と称するいたずらが流行っていた。
担任の対応 被害者の母親は、担任教師に指導を要請していたが、一般的な注意・指導にとどまっていた。
加害者 加害児童2名は、親も共に責任を認めない。
学校・ほかの対応 学校・教育委員会も責任を認めない。
裁 判 1982年 浦和市と加害児童2名の親を相手に、約644万円の損害賠償請求の民事訴訟。
原告の主張 原告側は、加害生徒の両親について、「原告に対し直接被害を与えた(子どもの)両親であり、その保護する子どもの監護教育義務を負うところ、本件事故当時小学校4年生であって、その行為の責任を弁識するに十分な発達段階に至っていなかったのであるから、学校と協力のうえ、正当な事由もなく他人の生命・身体に向けて攻撃行為に及ぶことのないよう折々教導すべきであったのにこれを怠ったばかりか、本件事故の直接の原因となったのと同様の行為を従前から行っていたのであるから、親として何らかの機会にこれを十分知り得たはずであるのに、何ら措置も講ずることなく放置していた過失により本件事故を惹起せいしめた」とし、民法709条により、また親権者として同法714条1項により、賠償すべきであると主張。
被告の主張 市側は、「学校は児童の安全管理に最善の努力をはかっており、事故はいたずらが原因ではなく、偶発的なものだった。いじめの実態もない」と主張。

加害者の両親は、事実関係を争うとともに、「(加害者の子どもは)性格において、学校から高い評価を得ていた児童であって、学校から注意を受けたこともなく、また他の保護者から苦情を受けたこともない。また“常識ある子になってほしい。弱い者いじめはしないように”と言い聞かせ、指導していた」と主張。
判 決 1982/4/22 一審の浦和地裁で原告勝訴判決。
高山裁判長は、男子児童1名の親と市に対して273万円の支払を命じた。
裁判の結果 「小学校4年生くらいの男の子は、他人に対する思いやりの精神が未成熟なため、適切な教育・指導をしていないと、集団的に弱い者いじめに走りやすい。親から子がいじめられていると訴えられた担任教師は、事態の深刻さを認識して厳しく指導すべきだった。」

「小学校の学級担任教諭としては、児童の生命、身体等の保護のために、単に一般的、抽象的な注意では足りないのであって、学校における教育活動及びこれに密接不離な生活関係に関する限りは、児童一人の性格や素行、学級における集団生活の状況を日ごろから綿密に監察し、特に他の児童に対し危害を加えるおそれのある児童、他の児童から危害を加えられるおそれのある児童については、その行動にきめ細かな注意を払って、児童間の事故によりその生命・身体等が害されるという事態の発生を未然に防止するため、万全の措置を講ずべき義務を負うものべきである。」

「かかる事態を解消するため、抽象的、一般的な注意、指導にとどまらず、抜本的には、児童による集団討論、いわゆるいじめっ子及び原告との個別面接等の方法によって、右のような『いじめ』の真因を解明し、家庭とも協力してその原因の除去に努めるべきことは固(もと)よりであるけれども、当面、組の男子児童に対し、軽度の暴行又は悪戯(いたずら)からも、生命、身体等の事故が起こりうることをくり返し、真剣に説いて、原告に対する暴行を止めるよう厳重に説諭すべきであった」

いじめの根絶対策をやっていなかった教師に責任がある」として、学校側が監督義務を怠ったことを認めた。

また、加害生徒の両親については、「親権は、その子たる児童が家庭内にいると家庭外にいるとを問わず、原則として子どもの全生活関係にわたってこれを保護監督すべきであり、少なくとも、社会生活を営んでいくうえでの基本的規範の一として、他人の生命・身体に対して不法な侵害を加えることのないよう、子に対し、常日ごろから社会生活規範についての理解と認識を深め、これを身につけさせる教育を行って、児童の人格の成熟を図るべき広汎かつ深遠な義務を負うといわなければならないのであって、たとえ子どもが学校内で起こした事故であっても、それが他人の生命、及び身体に危害を加えるというような社会生活の基本規範に抵触する性質の事故である場合には、親権者が右のような内容を有する保護監督義務を怠らなかったと認められる場合でない限り、右事故により生じた損害を賠償すべき責任を負担するものというべきである」と、監護教育義務違反を認めた。
控訴審 被告控訴。控訴審で和解成立。
参考資料 「いじめ裁判」季刊教育法 2000年9月臨時増刊号増刊号/エイデル研究所、「いじめ問題ハンドブック」 学校に子どもの人権を/日本弁護士連合会/1995年6月10日こうち書房、「教育紛争の予防と解決」/森谷 宏 著/1989.9.21日本教育新聞社出版局



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