子どもに関する事件【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
040601 同級生殺人 2004.6.6、2004.8.20 2004.8.29 2004.9.20 2004.10.更新
2004/6/1 長崎県佐世保市の大久保小学校で、御手洗怜美(みたらい・さとみ)さん(小6・12)が同級生の女児A子(小6・11)にカッターナイフで首を切られ殺害される。
当日の経緯 給食準備中の午後0時15分頃、A子は怜美さんに学習ルームに来るよう声を掛けた。

室内では口論もなく、2人で窓のカーテンを閉めた。テーブルに向かい合う形でいすに座らせ、自分は後ろに立った。

この時、怜美さんにタオルで目隠ししようとしたが嫌がられたため、手で目隠しして、カッターナイフで首を切りつけた。怜美さんは驚いて抵抗したため、左手の甲など数カ所に傷を負っていた。

その後、カッターをハンカチで包み、着衣などに大量の血を付着させたまま6年生の教室に戻った。

A子はカッターを持ち、激しく動揺した様子だったため、担任教師がカッターナイフを取り上げた。

事件直後に保健室で着替えを手伝った教師らに、「左手で目隠しして、カッターナイフで切った」「死ぬまで待って、バレないように教室に戻った」「掲示板に悪口を書かれて殺そうと思った」と話した。
凶 器 長さ10数センチの小型カッターナイフ。筆記用具と一緒に筆箱に入れ、普段から持ち歩いていた。
殺害方法はテレビ番組からヒントを得ていた。
加害者の言い分 A子は警察の調べに対し、「最初から殺すつもりだった」と話した。
「ごく普通の仲のいい友達だった」が、「体重が重い」と言われたり、ホームページに「いい子ぶってる」と書かれたりしたことに腹を立て、殺意を抱いたと話した。
それまでの経緯 2004/3/ A子は怜美さんら4、5人と交換日記をしていた。

4/ ネットの掲示板で怜美さんと、もうひとりの友人の3人でチャット(ネット上のおしゃべり)をするようになった。

A子は怜美さんら数人の同級生と遊んでいた際、「(体重が)重い」と言われ、嫌な気持ちになった。

A子は事件の約10日前、美容院で髪形を変えた。怜美さんのホームページに自分の容姿に関する書き込みがあり傷ついた。掲示板上で「やめて」と求めていた。

5/下旬 怜美さんが自分のホームページの掲示板にA子について「いい子ぶってる」と書き込んでいるのを発見。怜美さんのパスワードを使って掲示板にアクセスし、記述を削除した。

怜美さんのホームページの「アバター」と呼ばれるキャラクター人形が勝手に消されるなどのいたずらを受けていた。それに対して、怜美さんは、「荒らしにアッタんダ。マァ大体ダレがやってるかワわかるケド。心当たりがあるならでてくればイイし。ほっとけばいいや。ネ」「ミンナもこういう荒らしについて意見チョーダイ。じゃまた今度更新しようカナ」などと書いていた。

5/28 掲示板に再びA子の体重に関することが書き込まれているのを知り、殺害を決めた。

5/30 怜美さんは、ホームページ上の日記に、「チッ マタカヨ」と題し、「アバターが無くなったりHPがもとにもどっちゃってるケド、ドーセアノ人がやっているんだろう。アノ人もこりないねぇ」などと書いていた。

6/1 怜美さんは、4時限目が始まる前、交換日記仲間に「もう疲れた。(複数のうち一部の)交換日記をやめようと思う」と伝えた。このことを人づてに聞いたA子は「なんなら全部やめれば」と話していた。

警察・ほかの対応 6/2 佐世保児童相談所は、A子を長崎家裁佐世保支部に送致。その際、「行動の自由を制限する強制措置がとれる施設への送致を求める」とする許可申請を添えていた。
家裁は観護措置を決め、長崎市の長崎少年鑑別所に移した。
加害者 周囲はA子に対して、「おとなしくて明るい子」「イエス、ノーをはっきり言えない」とみていた。

2004/1/ A子はホームページを開設。中学生同士が殺し合う深作欣二監督の映画「バトル・ロワイアル」をなぞった自作小説「BATTLE(バトル) ROYALE(ロワイアル) ―囁(ささや)き―」を2月下旬から5月上旬にかけて、更新しながら書き込んでいた。

2/ 怜美さんと一緒に活躍していたミニバスケットボール部を、成績が下がったとして親に辞めさせられて以降、情緒不安定になったとの証言もある。
退部をきっかけに、休日や平日の夜はほとんどパソコンに夢中になっていた。
授業中に漫画を描いたり、ほおづえをついて居眠りをするようになった。

5年生の終わり頃、A子は同級生の男児を怒鳴りながら追い掛け回した。男児をたたいたり、けったり、校内で自分の頭を壁に何度もぶつけたりもした。

5/中旬ごろ、教室で本を読んでいたときに、横を通った男児にのぞきこまれ、いきなりカッターナイフを振り上げたことがあった。男児に馬乗りになって暴力をふるったこともあった。校内で度々ナイフをちらつかせていた。「怒るとこわい子」として、周囲から少しずつ距離をおかれていた。

A子は事件1週間ほど前から、イライラしており、他のクラスメートとも口げんかをしていた。

A子は自分のホームページに、「自分には2面性があるらしい」「苦汁、絶望が私を支配する」と書き込んでいた。また、自分のクラスのことや、詩を掲載。「うぜークラス つーか私のいるクラスうざったてー」「下品な愚民や 失礼でマナー守っていない奴(やつ)や 喧嘩(けんか)売ってきて買ったら『ごめん』とか言って謝るヘタレや 高慢でジコマンなデブスや」などと書いていた。
関 連 自作小説「BATTLE(バトル) ROYALE(ロワイアル) ―囁(ささや)き―」の内容は、「真耶」という女子中学3年生が主人公で、同級生同士がマシンガンや日本刀などで殺し合い、主人公が1人生き残って「優勝」するというストーリー。登場人物は男子18人、女子20人。1学級しかない大久保小の6年生と全く同じ構成で、怜美さんと同じ名字の少女も登場する。
「真耶は日本刀で返り討ちにした」「15人の級友を殺しまくった」などとつづられていた。

A子は、1カ月ほど前、レンタルビデオ店で「バトル・ロワイアル」の映画の第2作を借りていた(15歳未満は借りることができないが、姉の会員証を使用。
5年生のとき、文集に好きな本として原作(太田出版)を挙げていた。

級友との交換ノートに、A子は自作版「バトル・ロワイアル」を書いていた。物語の舞台になった島の地図や6年生の自分のクラスと同数の登場人文38人が持つ武器の名前なども書かれていた。
2004/6/1 事件当日の4時限目、卒業文集制作のため作文の下書きで、A子は「人の心理」というテーマを取り上げ、韓国のホラー映画を小説化した作品「ボイス」の表現を引用したとみられる「お前を殺しても殺し足りない」など「殺す」や「殺し」という言葉を何度も使っていた。
A子は作文が得意だったが、この日は与えられた原稿用紙2枚を書き上げることができなかった。

A子は5年時の文集などで、好きな小説として「ボイス」を挙げていた。
この小説中に、激しい憎悪から殺人を犯した女性が、遺体に向かって「一度だけでは殺し足りない。もう一回、おまえに地獄の苦しみを味わわせてやる」と吐き捨てる場面がある。
A子のランドセルから、交換ノートとともに作文が出てきた。
加害者の親の対応 両親は共働きで、父親は病気がち。しつけは厳しかったという。
両親は事件後、児童相談所に「子どもは問題なく育っていた。成績もよく、頑張り屋だったが、なかなか自己主張できないところがあった」と話した。

A子は幼少期から泣いたり甘えたりすることがなく、ひとりで遊んだり、テレビをみて過ごすことが多かったため、両親は「育てやすい」と思っていた。


A子の両親は弁護士を通じて、直接謝罪したいとの意向を伝えた。また、郵送で御手洗さんのもとに謝罪の手紙を送った。
被害者 2001/9/ 怜美さんは母親を病気で亡くしていた。
2002/4/ 小学校4年生時に、同校に転入してきた。
忙しい父親を手伝うためにバスケット部を辞めた。
背 景 同小学校の児童数は187人。1学年に1学級(単学級)で、クラス替えはなかった
クラスは荒れており、授業中に騒いだり、ガムを噛んだりする児童がいた。
担任の対応 6年担任の男性教諭は、「当該学級が5年生だった時、(自分が)隣の学級(6年生)の担任をしており、『配慮が必要な児童のことなどは分かっている』との思いから」、5年時の担任から引き継ぎを受けていなかった。
学校の対応 学校は保護者説明会や学級連絡網などで、保護者や児童らに「取材は一切受けないでほしい」と要請。
周囲の反応・影響 2004/6/上旬 佐賀市の小学校で、女児(小6)が同級生の女児(小6)の腕にカッターナイフの刃を押し当てるなどのいじめをしていた。佐世保の事件を真似たものとみられる。

A子や怜美さんの顔写真や、A子の氏名、住所、家族構成、関係者の自宅写真などの個人情報がインターネット上の掲示板に掲載。また、A子にニックネームを付け、「可愛い」「悪くない」と崇拝する「ファンサイト」も出現。長崎地方法務局などが、これらの書き込みについて、「重大な人権侵害に当たる」として、掲示板管理者に削除を要請。2004//10までに69件が削除された。しかし、削除しもすぐに新たに書き込まれ「いたちごっこ」の状態。

加害者の処分 2004/9/15 長崎家裁佐世保支部は、第3回少年審判で、女児の人格特性について、情緒的な発達が未熟である、相手の意図を察し感情をくみ取る力が育っていないと指摘する一方で、人格的なひずみはあるものの精神病性の障がいはないと認定。「確定的殺意を抱き、計画的に殺害行為に及んだ」として、児童自立支援施設に送致する2年間の保護処分を決定。

9/16 強制的措置を実施できる女子用の施設「国立きぬ川学院」(栃木県)に移送。
最終審判決定要旨 小松裁判長は、

1.女児は認知面・情緒面に偏りがあり、不快感情、特に怒りについては回避するか、相手を攻撃するかという両極端な対処行動しか持たない人格特性。
傾倒していたホラー小説などの影響で、攻撃的な自我を肥大化させていた。
会話でのコミュニケーションが不器用な女児にとって、交換ノートやインターネットが唯一安心して自己を表現し、存在感を確認できる「居場所」になっていた。
被害女児の交換ノートやホームページへの書き込みを「居場所」への侵入ととらえて怒りを覚えて攻撃性を高め、被害者に対する確定的殺意を抱くに至り、計画的に殺害行為に及んだ。

2.被害女児の言動は、他人に殺意を抱かせるようなものでは決してなく、被害者に格段の落ち度はない。かけがえのない被害者の生命が奪われた結果はまことに重大かつ悲惨だ。

3.事件後、女児なりに努力する様子を見せたが、現在も被害者の命を奪ったことの重大性や、その家族の悲しみを実感できないでいる。背景には、殺害行為に着手した直後に解離状態に陥ったことで自分の行為に現実感がなく、実行行為の大半の記憶が欠損していること、処理しかねる強い情動には目を向けないようにして抑圧する対処が習慣化していることなども指摘される。
今後、健全な人格を形成し、本件触法行為の重大性を認識し、贖罪意識を持つには、資質上の問題点を解決するほかない。
そのためには、まず情緒的信頼関係を獲得させ、その後に感情や情動の認知と処理方法、自己の意思を伝える方法などの社会的スキルを習得させる必要がある。

4.両親は。女児のことをおとなしく手のかからない子として問題性を見過ごしてきた。両親の女児への目配りが十分でなく、両親の監護養育態度は女児の資質上の問題性に影響を与えている。

5.女児の家庭に資質上の問題を解消できる機能が備わっていない。
社会的スキルが不十分な女児に集団的処遇を実施すれば、対人関係の行き違いから、他の児童に危害を加える可能性を否定できない。
女児には個別処遇が望まれ、現段階では女児の行動変化を予測できず、他害・自傷の可能性があることも考えあわせると強制措置が必要。
女児の抱えている困難は根深く、感情はまだまだ未分化で、内面的に極めて幼い状態であり、基本的信頼感を獲得するにも相当な時間を要すると思われる。

これらの諸事情を勘案して、さしあたって2年間の強制的措置が必要と結論づけた。

 
参考資料 2004/6/2朝日新聞、2004/6/3毎日新聞、2004/6/3産経新聞、2004/6/4朝日新聞、2004/6/4西日本新聞、2004/6/4産経新聞、2004/6/4讀賣新聞、2004/6/5長崎新聞、2004/6/12長崎新聞、2004/6/12讀賣新聞、2004/8/2毎日新聞、2004/8/3朝日新聞、2004/8/4朝日新聞・夕、2004/9/17朝日新聞 2004/10/5毎日新聞、ほか



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