注 : 被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。 また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。 |
S.TAKEDA |
000726 | いじめ自殺 | 2000.9.10. 2001.4.9. 2001.7.11. 2002.2.25 2006.5.更新 |
2000/7/26 | 埼玉県川口市立中学校の大野悟くん(中1・13)が、午後6時頃、自宅2階の納戸にあったスチール製の棚にズボンのベルトをかけ首吊り自殺。 | |
遺書・他 | 遺書はなかったが、自殺の前日、電話のメモ用紙に悟くんが書いたと見られる「HELP」という文字を家族が見ていたが、捨ててしまった。 | |
経 緯 | 親は毎回のように保護者会に出席していたが、担任からいじめを受けているなどの報告はなかった。 祖父が削っておいた鉛筆がたびたびなくなるようになっていた。 |
|
学校・ほかの対応 | 学校側は、同級生数人とその親から事情を聴き、「度を過ぎた悪ふざけはあったが、悪質ないじめは確認していない」と発表。 後日、遺族からの要請を受けて調査した結果、いじめと暴力があったと認め遺族に謝罪。ただし、いじめと自殺との関係はなお不明と学校側は考えている。(2000.8.21.朝日) 学校側が遺族から抗議を受けてから加害生徒を連れてくる(8/1)までの期間が非常に短いことから、学校はいじめの実態をあるていど把握していたのではないかと遺族は見ている。 |
|
調 査 (学校の調査、川口署の調査、加害者の証言を含む) |
遺族から要請を受けた学校が調査。 4/下旬 男子生徒が入学直後から、休み時間などに同級生8人ほどに囲まれて、暴力を振るわれていた。 腹を殴られる(腹バン)、肩を肘で叩かれる(プロレス技のエルボー)、背中に肘打ちされる、太股を蹴られる(麻酔蹴り=しびれて感覚がなくなる、歩けなくなる)、などの暴力を加えられていたのを同級生が目撃。 バッグがゴミ箱から見つかったこともあった。また、期末テスト前後に机の上にのりが塗られていた(悟くんは強度の近視のため、のりが塗られていることに気付かず、手をついた)ため、担任が「他人の迷惑になることはしないように」とクラス生徒全員に注意。 5/下旬 5人の同級生が、強度の近視の悟くんからメガネをとりあげたり(フレームが歪んだり、レンズがはずれることもあった)、生徒手帳、消しゴムをとりあげるなどの嫌がらせをしていた。 ほかにも、シャープペンや芯を取られたり、鉛筆を折られたりしたため、悟くんはポケットに小さくなった鉛筆を入れていた。 |
|
いじめの特徴 | 休み時間に3〜4人、8人くらいで、悟くんを取り囲んで、暴力を振るわれていたが、端からは一見、仲良く話し込んでいるように見えた。また、取り囲んだ全員が暴力を振るうわけではなく、1〜2人は見ているだけの生徒もいた。 あざができないようなやり方を心得ており、バレないように暴力を振るっていた。 |
|
調査報告書 | 8/2 中学校の校長と教頭が、「生徒指導事実確認事項」という標題でA4判2ページの調査報告書を遺族に渡した。 報告書には、強度に近視の悟くんからメガネをとりあげた行為を、ただ「メガネを借りて、返した」など不適切な表現が多々見られた。 また、報告書には学校側の謝罪の言葉がなかったため、遺族が「書き直せ」と怒り、校長らが「検討する」とした場面もあった。 |
|
加害者 | 8/1 夜、いじめをした同級生8人とその保護者らが中学校の校長と担任教諭らと男子生徒の自宅を訪れ、「いじめ」の事実を認めて謝罪。遺族が一人ひとりから事情を聴く。 うち1人は、「入学直後から夏休みに入る直前まで毎日、足を蹴ったり、肘で首のあたりを打ったりするなどの遊びをしていた」と話した。 悟くんが毎日のようにいじめや暴力を受けていたことが判明。 後に主な加害者は9人であることが判明。残り1人も謝罪に訪れる。 加害者のうち1人は、小学校時代からの友人で、自宅にも何度も遊びに来たことがあった。 少林寺拳法をやっていたり、剣道部に入っている生徒もいた。 |
|
加害者 | 川口署の調べでは34人が、悟くんへのいじめに加担。うち9人を常習と認定した。 謝罪にきた9名以外の25人は謝りにも来ない。 遺族が、もう少し話を聞きたいと加害者宅を訪れると、「まだ片づいていないのか。いい加減にしてくれ」「勝手に裁判でも何でも起こせ」と言われる。 |
|
加害者の処分 | 川口署は、暴力などのいじめを繰り返していた(常習暴力)とし、同級生9人を県浦和児童相談所に通告。(9人は14歳未満で、刑法の適用を受けない) 8/4 川口署はいじめをしたとされる同級生8人を順番に、保護者同伴で事情聴取。 10/4 同署は、同級生男子9人(中1・13)を児童福祉法に基づき、県浦和児童相談所へ通告。 いじめと自殺との因果関係については触れられていない。 |
|
加害者の親からの手紙 | 2000年8月、9月、10月と3回、脅迫じみた匿名の手紙が被害者宅に届く。宛名や自筆部分の筆跡から問いつめた結果、母親が出したことを認める。 手紙の本文は、ワープロで横書き、縦書き、と書式を変えていた。 「マスコミに出て芸能人気取りですか」「自殺の原因は家庭内にあった」などと書いていた。また、マスコミにも同様の手紙を送りつける、悟くんのきょうだいにも害が及ぶなどと脅迫めいた内容が書かれていた。 2001/5 手紙を送った母親に謝罪を求める手紙を送ったが謝罪がないため提訴に。 |
|
その後 | 「HELP」の会ができる。 同級生たちが焼香にきてくれる。 |
|
裁 判 1 | 遺族は、長男が自殺したのは同級生からのいじめが原因で、学校側は家庭に連絡するなどの適切な処置を怠ったとして、中学校を管理する市と、加害生徒9人の保護者17人を相手どって、計約1億3400万円の損害賠償を請求する訴訟を浦和地裁に起こした。 被告側は、いじめと自殺の因果関係を巡って争う姿勢。 |
|
裁 判 2 | 2002.2.5 いじめに加わったとされる同級生の母親から、中傷文書を送りつけられ、精神的苦痛を受けたとして、同母親を相手に800万円の損害賠償を請求して、別件で提訴。 謝罪と慰謝料を支払うことで和解。 |
|
1審判決 | 2005/5/18 さいたま地裁で、原告の請求を棄却。原告控訴。 廣田民生裁判長は、「いじめは、生徒間の悪ふざけにとどまるもので、自殺との因果関係は認められない」とした。 |
|
2審判決 | 2005/10/12 東京高裁で、棄却。原告敗訴。 | |
参考資料 | 2000/8/2朝日新聞朝・夕刊、2000/8/3朝日新聞、2000/8/21朝日新聞、2000/8/2、8/4、10/4佐賀新聞データベース、2001/3/2日経新聞、2002/2/6毎日新聞・埼玉中央版、2002/2/6埼玉新聞、2005/5/19讀賣新聞、遺族の話 | |
Copyright (C) 2000 S.TAKEDA All rights reserved.