2018/10/3 | 隠された聴き取りメモ。兵庫県神戸市垂水区の女子生徒自死事案の学校・教委・調査委員会の対応。 | |
学校や教委の不祥事隠ぺいは、その一部が発覚しても、結局はうまく言い逃れられてしまうことが多い。 表に出るのはごく一部であると思っている。 神戸市垂水区の中3女子生徒の自死事案をめぐって、様々な問題点が浮き彫りになってきた。 幸い、市のサイトではかなりの情報開示がされていることで、その一旦を私たち一般の人間にも直接、目にすることができる。 【事案概要】 2016年10月6日、兵庫県神戸市垂水区の市立中学校の女子生徒(中3・14)が橋の欄干で首を吊って自殺。小川の中で発見された。 友人との交換ノートや「ツイッター」の記述などに、いじめを示唆する内容があり、「2年生のころから同級生に悪口を言われる、仲間はずれにされるなどのいじめを受けていた」という。 遺書らしきメモが残されていたというが、女子生徒が亡くなった当初、「家庭内トラブルを記した遺書があった」との誤った情報に基づく一部報道があったという。 2018年7月30日に放送されたNHKクローズアップ現代によれば、母親は当該生徒が亡くなったあと、同級生や教員など、のべ50人に自ら聞き取りを行い、そのなかで、「顔面凶器と言われていた」「消しゴムのカスを投げられていた」などの証言があがったという。 「いじめがあった」という生徒は10人以上いた。 また、聞き取りを始めて4か月後、事件直後に生徒たちが教員に話した際のメモがあることが判明。教育委員会に提示を求めたが、「記録として残していない」という回答だった。 (2018/7/30 NHKクローズアップ現代 “いじめ自殺”遠い真相解明 〜検証 第三者委員会 〜 http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4166/index.html ) 【第三者委員会の設置と報告書内容】 2016年10月20日、有識者による第三者委員会が詳細調査を開始。 そのことが公開されたのは、12月13日。「在校生や調査に影響がある」などとして、調査に入ったことを公表していなかった。 なお、当初は「公平中立な調査のため」として、調査委員の氏名を公開しない方針が伝えられたが、のちに、市教育委員会の付属機関である「神戸市いじめ問題審議会」(常設)が、第三者委員会として調査していることが判明している。 調査委員会は、2017年8月、遺族に対して報告書案を示したという。 それに対し、遺族は原因究明が不十分として2度にわたって質問書を送ったが第三者委は回答せず、調査終了の意向を示したという。 報告書は2017年8月8日に答申。 市の情報公開条例により、個人の特定につながるとして、全5章(165頁)のうち、自殺の経緯や要因、いじめの内容などを記した第3章(64頁分)は黒塗り。 具体的な内容がわかってこそ、身近な問題と結びつけて、再発防止にも役立つのではないかと思うが。 なお、遺族にはどの程度開示されているのは不明。 調査委員会の結論としては、 女子生徒の容姿を中傷する発言や、廊下で足をかけられたりしたことなどを「いじめ行為」と認定。 しかし学校側は全く気付いていなかったと指摘。他生徒らから女子生徒の異変の申し出がなかったことを理由に「(自殺の兆候を)教職員が察知するのは極めて困難」とした。 自殺の原因も「特定できない」とし、いじめとの因果関係は認めなかった。 学校や教育委員会の対応については、一部、処分された資料についてや、いじめ防止対策推進法や学校の基本的な方針にある校内いじめ問題対策委員会が設置されていなかったことなどが問題であるとしながら、全体的には「学級担任、学年団、学校全体のそれぞれの段階において、生徒の悩み、問題行動、生徒からのSOSを組織的に把握していこうという仕組みは整備されていた。いじめとして認知される前の、ささいな問題行動や悩みも含めて、網羅的・組織的に把握しようとしていた。」と評価している。 (日常的には実によくやっていたにも関わらず、なぜか今回の女子生徒の自殺事案に関しては、中学1年時から3年時まで、様々なトラブルがありながら、教職員は全く察知することができなかった。その主な原因を第三者委員会は、本人やその友人、保護者などが、学校を信用して打ち明けることをしなかったからだとしている。) 事後対応についても、「事案認知後の学校の初動体制としては、遺族の意向に配慮しながら対応がなされていたと理解できる」「教育委員会事務局は、遺族の意向及び当該校の事情を尊重するとともに、本委員会の公正・中立性が担保できるように努めてきたこと、本事案の真相を明らかにするために本委員会が必要とする調査の具現化に大きく貢献した」とあり(下記、「文教こども委員会資料」より)、自死事案の第三者委員会の報告書としては異例なほど、学校や教育委員会の事前、事後の対応を肯定的に捉えている。 学校や教委がメモを隠し持っており、校長に存在を指摘されてもすぐには公表しなかったと言う事実がわかった今となっては、この好評価に対して、第三者調査委員会の公正・中立性さえ疑いたくなる。 【処分されたとされた文書の作成経緯と第三者委報告書での扱い】 報告書では、文書の保管について、 ・いじめに関するアンケートの原本は、3年生時実施分しか保管されていなかった。 1年生時、2年生時実施分については、当該生徒の特記事項が記録に残っていないという情報しかもたらされていない。 ・10月11日の6名の生徒に対する聞き取り記録が破棄されており、メモも処分したとのことであったとしている。 ことが指摘されている。 「残しておくべきだった」としながら、一方では、「メモに書かれていた内容については、本委員会による一連の聴き取り等により、そのほとんどを復元できたと考えている」として、実質的な問題はなかったかのように書いている。 また、平成29年3月に文科省が出した「いじめ重大事態の調査に関するガイドライン」にも文書保管に関して書かれていることにふれつつも、このガイドラインは事案発生後であるから、適用外であることを暗に強調しているようにさえ見える。 ただ、ここには書かれていないが、こうしたアンケートやメモの開示や保存期間内や係争中の文書の処分については、これまでもたびたび民事裁判の争点となっており、学校管理職や教育委員会は、ガイドラインに書かれていなくとも、保存しておくべきだった。そうしなかった段階で、隠ぺいを疑われても仕方がないと私は考える。 このメモの経緯やアンケートの保管については、2018年4月の神戸市「文教こども委員会資料」「1.報告 垂水区中学生自死事案にかかるメモ等の存在について」に、詳細が出ている。 http://www.city.kobe.lg.jp/information/municipal/giann_etc/H30/img/kodomo300427-1.pdf 「生徒にとって、10月11日(火)が葬儀のあとの初めての登校日となった。この朝、ふたたび、臨時全校集会が行われ、校長が心のケアの説明をし、「気になることがあれば話してほしい」と生徒に呼びかけた。」 「その臨時全校集会の後、当該生徒が学んでいた教室に入れない生徒がいた。6名であった。 そこで、教員はこの6名を別室に移動させ。カウンセリングを行うことにした。この時の目的は動揺している生徒の気持ちに寄り添い、精神的に支援することであった。 教員は生徒が話す内容についてメモをとりながら聞いた。生徒たちは、当該生徒が学んでいた学習塾において、この前日に当該生徒の生前の様子や出来事についてそれぞれが知っていたことを共有」 「カウンセリングを受けた生徒によると、当該生徒のこと、事案にいたる原因と考えられること、などを教員に詳細にわたって述べたとのことである。」 「このような学校の対応は適切であったと言える。しかし、本委員会がこの時のメモの提示を学校に求めたところ、すでに破棄されていたとのことであった。学校側の説明によると、これらのメモはカウンセリングの一環としてとったものであり、調査目的の聴き取りメモではなかったので処分したとのことであった。」 「このメモに書かれていた内容については、本委員会による一連の聴き取り等により、そのほとんどを復元できたと考えている。しかしながら、教員を信頼して話した生徒の気持ちを考え、また、本委員会の調査等への協力のことを考えると、やはり、このときのメモは学校が残しておくべきだったと判断される。」 【隠ぺいされた文書と調査について気になること】 T.カウンセリングか、事情聴取か? 生徒6名が教員(個人名は伏せられている)に話をしたのは、臨時集会の直後。 校長の「気になることがあれば話してほしい」という呼びかけに応えて、教員に話そうという気持ちになったのではないか。 しかし、教員はそれを「事実解明のための告発」とはとらえず、「辛い思いを吐き出したい」というカウンセリングの必要性と捉えたという。 そして、第三者調査委員会はそれを「適切であった」と評価している。 しかし、学校側の主張する「カウンセリング」と、生徒側が話した事実に関する内容とでは、大きく食い違う しかも報告書に書かれている文言は、「カウンセリングを受けた生徒によると」「詳細にわたって述べたとのことである。」。 これは、話を聴いた教員からは調査委員会に、聴き取った内容についての情報がほとんどなく、生徒側に聴いてはじめて判明したということを示しているのではないか。また、カウンセリングだったのでメモを処分したという学校の言い訳とも矛盾する。 実際に、その後、このメモに関連する記述では、「カウンセリング」ではなく、「面談」や「聴き取り」となっている。 仮にカウンセリングだったとしても、心の影響は時間が経ってから現れることもある。カウンセリングの資料として、引き継ぎが必要なはずだ。 なお、 他でも、自殺事案が発生したとき、「カウンセリング」という名称の聴き取りは、学校関係者にとって都合がよい。 カウンセリングと称して、学校関係者が生徒の話を聴けば、それはカウンセリングをした生徒の個人情報に当たり、自殺した生徒に関することではないとして遺族の情報開示請求を退けやすい。 話を聴いたのが、スクールカウンセラーだとしても、スクールカウンセラーの直接の上司は学校なので、学校長に内容を報告する義務が発生する。学校長に聞き取った内容を話すのは、守秘義務違反にならないという言い訳も成立する。 話を聴いたカウンセラーは、たとえば「自分がいじめたから、相手は亡くなってしまったのではないか」と自分を責めている生徒に対して、「自殺というのは、直前の行為が影響しているとは限らない」「この子は前から死にたいと言っていたというから、君のせいではないよ」と話す。 自分のせいだと思っていじめを告白した生徒は、「なんだ、自分のせいではなかったんだ」と安心する。 その後の調べで、いじめが原因で亡くなったと知らされても、「本当は自分のせいではないのに、自分のせいにされた」と反省よりむしろ、被害感情や怒りさえ感じる。 そして、守秘義務を盾に情報を出すことを拒んできた学校や教委は、いざ裁判になると、遺族や生徒のカウンセリングの内容から、自分たちにとって都合のよい部分だけを使用する。 U.聴き取りは複数、他の教職員や教育委員会指導主事も情報共有していた 第三者委員会の報告書からは、まるで、一人の教員が6人の生徒から単独で聴き取りないしカウンセリングをしたかのように受け取れる。 しかし、後の2018年6月1日に提出された2人の弁護士による「垂水区中学生自殺事案にかかるメモ等の存在についての弁護士調査の報告について」 http://www.city.kobe.lg.jp/information/municipal/giann_etc/H30/img/kodomo300606-1.pdf で初めて、6人の生徒を3人の教員及びスクールカウンセラーの計4人で、面談したことがわかる。 これがもし、純粋なカウンセリングであれば、教員が同席する場では、生徒が本音で語りにくいのではないかという配慮がなされるべきだと思う(生徒が見知っている教師の同席を望んでいる場合は除く)。 まして、時期的には女子生徒の自殺直後であり、心のケアの体制は整えられていたはずである。 調査委員会に対しては、「調査目的の聴き取りではなかった」としながら、のちの弁護士の調査(上記)では、聞き取りをしたその日の学校で行われた「職員間の打ち合わせで写しが配布され、職員が当該生徒の自死事案についての共有する文書となった」とある。 こうなると、カウンセリングというのは全くの言い訳で、職員が共有すべき重大でかつ具体的な事実(と思われる)として取り扱われていたことがわかる。 この会議には、教育委員会事務局指導主事も参加していた。弁護士の聴き取りに対して、「記憶にない」と答えているというが、最も初期の具体的な氏名まで語られた内容を、学校の自殺背景調査の支援に入っている指導主事が「記憶にない」というのはあまりに不自然だ。 なお、第三者委員会の報告書では、指導主事の人数などはわからないので同一人物のことを指しているかどうかは不明だが、第三者調査委員会の調査員として、当該調査委員会が定めた聴き取りマニュアルによる1次聞き取り調査を行っている。 上記事実をみれば、学校や教育委員会ぐるみの組織的な隠ぺいの可能性は充分に考えられるが、メモについて調査した弁護士らの結論は、「同面談内容を学校が基本調査報告書において意識的に隠そうとしていたとは認められない」。 その根拠は、「校長が10月11日面談のことを意識的に省いたことはない」と述べているから。そして、このことを「学校から教育委員会に伝えられていたから」という。 また、この時の職員による打合せの後に、教頭がその内容をまとめてワープロ打ちしていたという。 こちらは、弁護士の調査で、「「教頭メモ」を教育委員会に当時日々送っていた事実は確認できなかった。」「第三者委員会に提出されていないようである。」と極めてあいまいな書き方をしている。 これはつまり、教頭は教育委員会に毎日のようにメモを送っていたと主張し、教育委員会はもらっていないと主張しているということだろうか。 教頭のメモが第三者委員会に提出された事実があるかないかは、7人の委員に確認したり、当然、保管されているであろう第三者委員会で使用した資料を調べれば、あるか、ないかは、はっきりわかるのではないかと思う。 V.担当者がメモを隠蔽した理由 なお、弁護士らの報告書には、 1.平成29年3月6日に、当時の校長が遺族に対し、面談の資料乃至メモは存在しないと回答した理由について、 @主席指導主事の指示に従った。 A□□は、同メモの存在が明らかになれば遺族からの再度の情報開示請求等が出されることが考えられ、その場合の事務処理が煩雑であると考えていた模様であり、また、第三者委員会の報告完成について当時は平成28年度末(平成29年3月)が目標とされていたこともあって、同メモの存在を回答することにより教育委員会としての事務が増大することを避けたいという思惑を有していたと推測される。 一方、校長は、事故後5ヶ月近く経過した時点で同メモの存在を明らかにした場合の遺族の反応を心配し、できれば同メモがないことにしてやり過ごしたいという思いを有していた模様である。 このことの評価としては、 「上記のAの□□や□□の考えについては、事務量の増大や遺族の反応を心配するといっても、実際に遺族が求めている情報について同メモの存在を隠蔽することは誤った対応であることは言うまでもなく、このような対応は非難されるべきものである。」と、はっきり「隠蔽」という言葉を使って書いている。 2.平成29年8月、証拠保全の際にメモ等が提出されなかった経緯について □□が、□□に対してその際も提出しないように指示したため、同手続きの際に提出されなかった。 3.平成29年8月に、当時の校長が教育委員会に対して上記面談に関するメモが存在すると告げたにもかかわらず、その後の平成30年4月に至るまで同メモの存在が公表されなかった経緯 @校長のメモについての申告をきっかけとして教育委員会では、教育長の命により調査が開始された。 しかし、調査を担当した学校教育課を中心として、これを総括する立場であった教育長や総務部としても、遺族が開示的に求めていたメモの物理的な存否を重要視せず、もっばら10月11日の面談における聞き取り内容が第三者委員会に伝達されているかどうかを重視していたため、調査は不徹底であり、また教育長や総務部もその進捗状況を積極的に把握し調査を徹底させるように強く促すこともなかった。 Aこのような対応となった理由として、 ・教育委員会のメモの存否に関する重要性の認識の欠如 ・本件以外にも事件事故が多発してそれへの対応を優先した これらが原因と考えられる。 同報告書には、「10月11日に6名の生徒との面談があり、生徒らが当該生徒に関する1年、2年、3年時の出来事を教諭に話し、また、その内容について「いじめ」が疑われることが含まれていたという事実自体は、10月11日当日か、翌日ころには教育委員会に伝達されていたものと考えられる。」とあり、「トラブルの概要(いじめの疑いも含む)が第三者委員会にも伝えられている」「第三者委員会はこの6名の生徒から詳細な聴き取りを行っている」と書いている。 内容が伝わっているのであるから、結果的には影響はないというようにとれるが、多くの生徒や教師から聴き取りをする前に、具体的なトラブルや行為者の名前がわかっているか、どうかでは、調査の仕方は大きく変わってくる。 また、同級生が亡くなったばかりの時には、同情心や正義感から、自分にふりかかるかもしれないリスクを恐れずに真実を述べたいと思う気持ちも、日々の生活に流されるうちに、亡くなった友人より、今の人間関係を大事にしたい、生活に波風を立てたくないという気持ちに傾きがちになる。そして、記憶はあいまいになる。証言の信用性も薄れて行く。 何より、学校が自分たちにとって不都合な内容をもみ消そうとしたのであれば、亡くなった生徒、遺族、学校生徒への裏切りであり、同様事態の再発防止どころか、不当なことを行っても言い逃れをすれば責任を回避できると示すようなものであり、子どもたちに大人や世の中の正義を信じられなくさせる。今後のためにも、あいまいなまま終わらせてよいことではない。 W.メモ調査の信用性 弁護士らの調査は、平成30年5月30日付けの「文教こども委員会資料」 http://www.city.kobe.lg.jp/information/municipal/giann_etc/H30/img/kodomo300531-4.pdf によれば、 1.調査内容 @平成28年10月11日に教職員が生徒に聴き取りした内容を記載したメモの存在が確認されるまでの事実関係 A教頭が作成した資料に関すること B当該メモに関連するその他のメモや資料の存否 Cご遺族からご要望いただいた調査項目 2.聴き取り対象者 平成28、29年度に在籍していた教職員 22名 (当該中学校、教育委員会事務局) 自殺の第三者調査委員会と同様、起きてしまった出来事・不祥事の経緯と原因を探り、再発防止をするための調査であると考える。 その調査によって、人々の信頼を取り戻すものでなければいけないはずだ。 しかし現実には、より深く、「第三者」あるいは「専門家」の「調査」に対する、あるいは行政が依頼した調査に対する不信感をさらに上塗りするものだったと感じる。 平成30年7月25日付けで、弁護士らは、「調査報告書についての追補」を出している。 http://www.city.kobe.lg.jp/information/municipal/giann_etc/H30/img/kodomo300730-4.pdf ここでも、結論を出すことは避けているものの、第三者委員会の委員への聴き取りの結果、メモがあっても、なくても変わらないというような証言内容が書かれている。 一方で、「本件メモ等に記載された生徒の固有名詞等の全てがそのまま情報として第三者委員会に伝わっていたわけではないが、生徒6名に対する聴き取り調査によって報告書を作成するにあたって必要となる情報は概ね把握できたものと考えられる。」とある。 たくさんの教師がメモを見たはずなのに、このような事実がもたらされたのは、生徒からだけだった。 文科省の自殺の背景調査の指針では、事案発生3日以内に全教師から聴き取りをすることになっている。 しかし、教師からそれまで保護者が知らなかったような事実が初めて出てくるようなことはほとんどない。 多くは児童生徒やその保護者から、学校に、あるいは遺族、メディアに、情報がもたらされている。 その情報をもとに調査してようやく、様々な言い訳とともに、教師からも証言があがってくる。 だから、第三者委員会の調査は「学校・教師は隠すもの」という前提で行わなければならないことを、実際に3件の自死事案の調査に関わった身としては、実感している。 どんなに努力しても、調査には限界がある。しかし遺族の亡くなったわが子に何があったか知りたいという気持ちに対して、「概ね」などというあいまいさが許容されてよいのだろうか。それで満足してよいのだろうか。 初期に情報があれば、もっと精査できたかもしれないのに、調査委員として悔しくはないのだろうか。 もし、生徒が大人への不信感や関わりたくないという保身などから、教師に話した内容について証言してくれなかったとしたら、1年、2年時の内容は明らかにならなかったかもしれない。(とはいえ、どのみち黒塗りのため、具体的に何が書かれているのかはわからないままだが) また、聴き取りで出てきた固有名詞が全て第三者委に伝わっていたわけではなかったとあるが、それによって、名前があがった生徒、あがらなかった生徒とで、その後の対応に差が生じる可能性がある。 名前があがった生徒が可哀そうというよりむしろ、彼等の今後の人生を考えたら、大人たちの隠ぺいにより、反省の機会を奪われた生徒のほうが気の毒に思う。 なお、メモの廃棄を報告書に書いたのは、生徒たちに事情聴取した3人の教員とカウンセラーに確認したうえでの結論かと思っていたが、第三者調査委員会はそう記述した理由を、「既に存在しない状況である、と教育委員会事務局から報告を受けていた」からと述べている。 つまり、「カウンセリングだった」「事実調査ではなかった」という言い訳も鵜呑みにし、教育委員会事務局の言葉のウラをとることもせず、関わった教員らに確認もしなかったということなのか。 可能な限り、伝聞ではなく、第一次情報に当たるというのは、調査の鉄則ではないのだろうか。 そして、おどろくべきは、追補に添付されている教員の2018年7月13日付け「陳述書」だ。 個人情報保護を理由とした黒塗り(白抜き)がアルファベットなどの表記の方法をとっていないため、どこの記述とどこの記述が同一人物のものなのかがわかりにくいが、内容からして、当時の校長が出したものと推測される。 メモ隠ぺい調査の弁護士に話したとされる内容について、本人が言っていないことが書かれていたり、重要な部分が落とされているという、いわば「告発状」の形を呈している。 7月6日の再調査の際、なぜこのような記述がなされたのかを弁護士に質問したところ、 @これらの記述は当時の校長が述べたことではなく、弁護士らの推測を書いた。 A推測のない内容は、校長が遺族に対してメモは存在しないと通知した以上、校長に何かそのようなことをする理由があったはずだ。 B校長は、遺族から様々な非難を受けるのは辛いと述べていた。 Cだから、校長はメモが提出されることで遺族から非難されるのを避けたいと思ったはずだ。 Dこれが、校長がメモをないものにしたいと考えた理由だと推測できる。 という内容だったという。 一方、校長は、「私がメモは存在しないと通知したのは一にも二にも教育委員会から「メモはなかったことにする」という指示があったから。それ以外の理由など存在しない。」と主張している。そして、「校長というのは、教育委員会に対して自分の考えや意見を述べることはできるが、教育委員会が決定した方針に従わないという選択を取ることはできない。」と書いている。 一見、言い訳にも聞こえるが、こちらのほうがより真実に近いのではないかと感じられる。 こうした内容を表明することにも、かなりの勇気がいったのではないかと思われる。 この陳述書の内容についての弁護士の見解や反論は何も書かれておらず、ただ陳述書が添付されている。 ある面、ここに書かれた認めているということだろうか。 たしかに、報告書の語尾に「模様である」「考えられる」「推測される」など、あいまいな書き方が多用されていることが気になっていた。 しかし、事実と自らの想像とを分けずに、誤解されるような書き方をするのは、弁護士としての専門性が問われるのではないか。 実際、報道等で、メモを隠蔽した理由は「事務が煩雑になるから」などと大きく報じられている。それを見て、ひどい言い訳だと感じていた。 X.その他 1つ嘘をつくと、その嘘を合理化するために、次から次へと嘘をつかなければならなくなる。 まるで、そのことを示唆しているような神戸市、あるいは神戸市教育委員会対応の流れだ。 神戸市は、再調査を決め、平成30年7月16日から審議が始まっている。 http://www.city.kobe.lg.jp/information/municipal/giann_etc/H30/img/kodomo300730-2.pdf 神戸市長は、平成30年4月26日の定例記者会見で、再調査を決めた経緯について述べている。 http://www.city.kobe.lg.jp/information/mayor/teireikaiken/h30/300426.html 平成30年3月13日に調査報告書と遺族の意見書が添えられて提出され、 4月3日に遺族から再調査を望んでいる旨のの申し入れ書があった。 再調査を検討しているところで、調査報告書のなかで破棄されたとされていたメモが発見されるということが起きた。 (市教委は4月22日に、自殺直後に学校側が友人らに聞き取った内容のメモが残っていたと発表。) そして、再調査を行う理由として、 @調査を行う調査委員会の設置、このスタートに当たって問題があったのではないか。 A複数の弁護士に意見を聞いた結果、第三者委員会の調査報告書はいじめ防止対策推進法に求める調査の内容から見て不十分な点があるのではないかと指摘された。 B再調査の検討をしているところにメモが見つかった。 などを挙げている。 一方、平成30年4月24日付で、文教こども委員会あてに、「第三者委員会がなぜ再調査を行わなかったのか、理由を文書で公表すること」と「市長による再調査が行われるか否かについて、早期に明らかにすること」を求める陳情書が出されている。 http://www.city.kobe.lg.jp/information/municipal/giann_etc/H30/img/kodomo300531-1.pdf それに対して、5月31日付けで、以下の回答をしている (私の知識では誰が回答しているのかが、よくわからない) http://www.city.kobe.lg.jp/information/municipal/giann_etc/H30/img/kodomo300531-3.pdf (1)第三者委員会は、「いじめ防止対策推進法」や「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」の趣旨を踏まえ、公正・中立の立場で慎重に調査を進めてきた。 (2)全ての関係者からの聴き取り調査を目指したが、二次被害防止や当人からの同意を得られないために、予定された全員からの聴き取りを行うことはかなわなかった。 (3)調査権・捜査権・指導権等が無い中、聴き取りに応じてくれた方々のお話を真摯に受け止め、得られた情報をもとに客観的かつ慎重に判断し、委員の専門的な分析も加えて報告書にまとめた。 (4)「追加調査申入書」は、調査方法、事案の要因分析及び事実の認定の結果、並びに学校の対応に関してご意見を述べられていると受けとめている。 (5)第三者委員会として本事案に関する見解やこれに係る説明は、調査報告書に記載したとおりであり、これ以上の追加調査は行わない。 (6)調査報告書に関するご意見等は、国のガイドラインに明記されているとおり、市長への所見として教育委員会事務局に提出していただきたい。 回答者は4月26日付けの市長の記者会見の内容を知らなかったのだろうか。 一次調査の第三者委員会が追加調査を行わないという回答は妥当だとしても、すでに市長は再調査委員会設置を決めていると回答してもよかったのではないかと思う。 市教委、教育長、神戸市の一連の対応を見ると、もし、聞き取りメモが存在することの内部告発がなければ、メディアがメモの隠ぺいに大きな関心を払わなければ、今まで通り、「第三者調査委員会の調査には不備はなかった。聴き取りメモはなくとも内容は調査に反映されているので問題ない。」として、再調査を行わなかったのではないかと感じられる。 文科省は詳細調査について、調査委員会を常設しておくことを勧めている。 しかし、いじめ防止対策推進法施行以降、再調査・再組織を要望された自死事案17件のうち、常設の委員会が約半分(8件)を占めていた。 常設の委員会以外にも、遺族と委員の摺合せをしなかったり、遺族からの要望をきかなかった調査委員会で多く、調査結果に不満、不信感が寄せられている。結果、再調査では、遺族側の、とくに委員に関する要望を受け入れて設置されるものが多い。 つまり、最初の第三者調査委員会で、遺族推薦を受け入れていれば、再調査をしなくてすんだかもしれない。 http://www.jca.apc.org/praca/takeda/message.html http://www.jca.apc.org/praca/takeda/pdf/judaijitai%20saichousa%20youbou%20jian%20ichiran%2020180917.pdf なお、上記で引用した資料は、神戸市会のサイトの「文教こども委員会」 http://www.city.kobe.lg.jp/information/municipal/giann_etc/H30/kodomo.html のところで、見つけることができた。 このなかには、個人的に非常に気になっていた2017年12月22日に発生した神戸市六甲アイランド高校の自殺未遂事件についての学校の報告書も挙げられていた。 http://www.city.kobe.lg.jp/information/municipal/giann_etc/H30/img/kodomo300619-14.pdf 第三者委設置の報道も見当たらない。これだけで幕引きになってしまうのか、それで本当によいのか、大いに疑問を持つ。 そして、改めて情報公開は大事だと実感する。情報が公開されなければ、実際には何が行われているのかを、私たちは知ることができない。 第三者委員会の報告書のマスキングは、誰が判断しているのか。 「個人情報保護」と言いながら、自分たちにとって都合の悪い箇所を大幅にマスキングしているのではないか。 情報公開の不服申し立てで、そのマスキングが適正であるかどうかの判断を組織もそれぞれの自治体にある。 しかし、今回のように、チェック機能を持つ組織そのものが信じられないことも多々ある。 「中立」「公明正大」を言葉ではなく、可視化することで、立証してほしい。 |
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