2018/4/9 | 見えてきた「いじめ防止対策」の課題 | |
※ リンクは基本的に、武田作成資料がある場合には、原本ではなく、サイト内資料にリンクを貼っています。 いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)(以下、防止法と略)は、2013年6月28日成立 9月28日施行。 第28条第1項に重大事態への対処について書いており、 第1号の規定は「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。」であり、 同第2号の規定は「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。」 とある。(文科省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」における注より引用) この間の流れをみると、未だ防止法は学校現場に浸透・定着しておらず、法律施行前と同じことが繰り返されている。 なお、この3月にいくつもの重大事態の調査報告書が発表された。 2月から3月に報告書が発表されることが多いのは、在校生への影響を考え、受験シーズンを避けるなどもあると思われるが、一旦下火になった話題が再び関心を集めることで、入学希望者数に影響することを避ける狙いもあるのではないかと思う。 一方、卒業すれば、自分の学校やクラス、部活動で起きた重大事態についての関心も薄れる。調査結果が出ても、情報を得る機会を逸しやすい。また、もしいじめがあり、自殺等との因果関係が認められた場合でも、加害行為を行ったり、それを見ていた生徒への指導は、卒業すれば行えなくなる。 同じことは、教職員にもいえる。事件があると、かかわりの深かった教職員を移動させることが多い。事件後も当該校に在籍している教職員でさえ、再調査で、調査委員会が出した報告書を読んでいなかったことが判明した例もある。移動すればなおさら、多忙ななか、教師の関心も薄れ、せっかくの報告書も教訓として生かされないのではないかと懸念する。 昨年10月にも、調査結果をまとめてみたが、子どもの自殺が多発し、第三者委員会設置の動きも激しいことから、3月に出された報告書の結果を反映したものを更新した。ただし、ファイル内の情報量が多くなりすぎたことから、不登校等の事案(2号事案)を分け、作業の関係から今回は、自殺や自殺未遂に関する調査(上記1号事案)のみ更新した。 (オリジナル資料 http://www.jca.apc.org/praca/takeda/takeda_data.html 参照) 後日、2号事案を中心としたファイルもまとめたいと考えている。 一方、今年(2018年)3月16日、総務省が、いじめ防止対策の推進に関する調査<結果に基づく勧告>を出した。 防止法に関するチェックは文科省が行うものだと思っていたが、法律に係ることだからなのか、総務省が実施している。 防止法附則第2条には、「いじめの防止等のための対策については、この法律の施行後3 年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。」とあるが、文部科学省は、平成29(2017)年3月14日付けで、「いじめの防止等のための基本的な方針」を改訂、新たに「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」を作成するだけで終わった。 防止法運用のチェックは、文科省のいじめ防止対策が適切になされているかの検証でもあるので、かえって、別の省庁が調査し、勧告したほうが、お手盛りの調査・検証より、踏み込んだ内容が出たのではないかと思う。 当然のことながら、総務省が出してきた課題は、今回、私がまとめるなかで抽出できた課題とも共通するものが多かった。 資料をまとめるなかで、気がついたこと、考えたことを総務省の調査結果と対比しながら、備忘メモ的に、ここに書いておきたいと思う。 |
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◆ 総務省のいじめ防止対策の推進に関する調査 から抜粋 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/107317_0316.html 調査対象にしたのは20都道府県。県庁所在地と重大事態の発生が把握できた市町村を中心に40市町村を選定。 分析した報告書は再調査1件を含む66事案(生命身体財産重大事態が31内自殺・自殺未遂は18事案、不登校重大事態が38、不明4)67報告書のうち、概要版及び抜粋版を除く54調査報告書。内訳は、生命身体財産重大事態が21、不登校重大事態が33。 ★ 重大事態66事案から見えてきた課題 1.いじめの認知等に係る課題(37事案・56%) いじめの定義を限定解釈 この程度は悪ふざけやじゃれあいで問題なく、本人が「大丈夫」と言えばいじめではない等 2.学校内の情報共有な係る課題(40事案・61%) 担任が他の教員等と情報共有せず 等 3.組織的対応に係る課題(42事案・64%) 担任に全てを任せ、学校として組織的対応せず 等 4.重大事態発生後の対応に係る課題(23事案・35%) 教育委員会から首長への法に基づく発生報告が遅延等 ・学校から教育委員会に発生報告をしていない(3教委・16事案・12% 生命身体等1事案・不登校等15事案) P189 ・教委から教育委員会会議に報告していない(2教委・32事案・23% 全て不登校事案) ・教育委員会から地方公共団体の長に報告していない(2教委・3事案・2% 生命身体等1事案・不登校等2事案) ・教育委員会から被害児童生徒・保護者に情報を提供していない(6教委・19事案・14% 身体生命等4事案・不登校等15事案) ・教育委員会から首長に調査結果を報告していない(1教委・1事案・1% 不登校事案1) ・重大事態の調査報告書を作成していない例(4教委・25事案・18% 全て不登校等事案) 5.アンケートの活用(18事案・27%) アンケートに「いじめがある」と回答があった際の具体的な対応の取り決めがなく、活用されなかった 6.教員研修(30事案・46%) いじめに焦点を当てた教職員等の指導力向上のための研修が開催されていなかった |
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◆ 総務省調査結果に対する私見、その他 ■ 私が今回、まとめた防止法以降の自殺・自殺未遂事案68件(内再調査9件)のうち、すでに報告書が上がっているものは52件(内再調査が5件。2018年に入ってからの報告が6件)。 私のような個人が、報道を中心に情報を拾い集めるのとは違い、国の機関の調査なので、自殺に関するものだけでも、報告書全文を取り寄せて、全件調査をしてほしかった。 なぜなら、過去の事例からしても、きちんと公表している自治体の調査・検証より、報道されずにこっそり処理されているものにこそ、多くの課題が隠されているからだ。 全く情報があがってきていなかったり、個人のプライバシーを盾に全面非公開にされている内容について、適切に処理されているのかを検証できるのは公的機関に限られる。国が責任をもって内容を吟味してほしい。 なお、不登校事案など、被害者が存命している事案は、自殺事案以上に、報告書が公開されることが少ないので、不登校重大事態33事案の報告書が検証されたことには、意味があると思う。 ■ 1.いじめの認知等に係る課題のうち、「いじめの定義の限定解釈」について。 防止法のいじめの定義(第2条)は、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係のある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」となっている。 被害者がいじめを訴えても、教師がいじめと判断せず、対応しなかったために自殺に追い込まれた過去のたくさんの事件の教訓として、いじめの早期発見、早期対応のためには、広く網をかけて、取りこぼしがないようにすることが求められる。 一方で、葛飾区の中3男子の自殺事案で、区が設置した第三者委員会が2018年3月28日に出した報告書では、「社会通念上は、いじめと評価すべきではない行為が含まれる。」として、法のいじめ定義を使わずに「いじめはなかった」と判断している。 ここまではっきり書くかどうかは別にして、防止法の定義とは異なる判断基準を用いた報告書は複数ある。 また、私が委員として参加した複数の調査・検証委員会でも、同じような議論があった。 防止法の定義がすんなり当てはまる事案もあれば、機械的に当てはめることで、新たな問題を生み出してしまうような事案もある。 総務省の調査・検証は、第三者委員会のあり方にまでは今回、踏み込んでいない。 いじめの定義を含め、第三者委員会そのものが抱える課題について、国の機関が検証を行う必要があるのではないかと思う。 ■ 2.情報共有について。 生命身体に係る重大事態でも、学校から教育委員会に、あるいは公共団体の長に報告されていないことがあるという。 しかし、それにもまして多いのが、被害児童生徒・保護者に情報提供していない事案が、身体生命等で4事案不登校で15事案もあるという。教育委員会や自治体など、上には報告しても、当事者には調査をすることも、結果も報告しないという、長く続いてきた当事者不在の学校事故事件対応のなごりが表れているのではないかと思える。 このような実態は、踏み込んだ調査がなければ、表に出なかったことだと思う。 また、不登校等事案では、報告書さえ作成されていない事案が25事案あるという。重大事態と認定されているにもかかわらず、不登校事案がいかに軽く、いい加減に扱われてきたかが読み取れる。 ■ 5.のアンケートの活用に関して。 今回、私が集めた68事案のうち、本人や他の生徒が当該いじめについて、アンケートに記入していたとされるものが12事案あった。(総務省のデータは自殺と不登校事案を足した66事案中18事案) また、私が集めた事案では、68事案中34事案で本人や家族が学校にいじめの相談をし、2事案で他の生徒が相談していた。 ほとんどの事例で、アンケートに書いた生徒は、口頭でも教師に相談しており、自殺や自殺未遂に追い込まれた事案の約半数で、何らかの相談が教師にあったにもかかわらず、2.学内で情報共有されなかったり、3.担任がひとりで抱え込んでいて、適切に対応されなかった。 今年度から子ども対象に、SOSの出し方教育をするというが、課題は子どもよりむしろ、SOSを受け取る大人側にあると言えそうだ。 2017年11月5日付けの雑記帳にも、上記の内容とともに書いたが、6.いじめに焦点を当てた教職員等の研修がなされなかった背景には、文科省が2015年度の児童生徒の問題行動等調査でわざわざ、「いじめの問題に関して、職員会議等を通じて教職員間で共通理解を図ったり校内研修を実施した」という内容に質問を変更したことで、なおさら、いじめに特化した校内研修を行わなくても、職員会議等で触れれば、研修をしたのと同等に扱われるという考えを学校現場にもたらしたのではないかと思える。 ■ いじめの認定と、調査対象の選定について。 総務省分析対象66事案のうち、いじめ認定の記載が確認できた56事案中、いじめが確認されたものが55事案(98%)で、されなかったものがは1事案のみ。 今回、私が集めた68事案の情報のうち、すでに報告済と確認できたものが52事案(内5事案は再調査)。指導死事案6件といじめの有無が不明の1件を除く40事案中、現段階での最終的に、いじめがあったと認められたのが33事案(82.5%)、存在が認められなかったのが7事案(21.2%)。 いじめが認められた事案のうち、自殺や自殺未遂との因果関係が「有り」とされたもの(一因含む)が29件(87.8%)、「無し」とされたのが2件(6.0% 2015/9/1高知県南国市・2016/10/6神戸市垂水区)。結果不明が2件(2014/北海道・2015/2/新潟県中越地方)だった。 これらを考えると、やはり総務省の調査は、批判を受けやすい調査結果が出たものは、反映されていないのではないかと推察される。 一方、今まで、多くの自殺遺族が、いじめが原因であると民事裁判に訴えて、いじめの存在が認められたとしても、ほとんど自殺との因果関係が認められることがなかった( いじめ自殺裁判一覧 http://www.jca.apc.org/praca/takeda/pdf/20141116%20ijimejisatu%20saiban.pdf )ことに比べると、随分と認められている。もちろん、これがこのまま民事裁判でも採用されるとは思わないが、有形暴力を伴わないいじめではとくに、自殺といじめの因果関係が認められにくかったが、これらの調査結果は今後、裁判にも影響を及ぼすのではないだろうか。 ■ 調査委員の選定 防止法以前の自殺事案の第三者委員会を含めて、私はこれまで3回、遺族推薦で委員を務めてきた。 当然、遺族の気持ちに寄り添いたいと思うが、調査・検証するにあたっては、誰に対するよりも、亡くなった子どもに寄り添うことを信条としてきた。しかし、その結果は必ずしも遺族の意に沿うものではないこともある。 遺族から不満が表明されると、メディアや一般市民からも、委員は批判や攻撃を受けやすい。今は、「いじめが無かった」「自殺との因果関係はわからなかった」「ないと思われる」と結論を出すことはリスクでさえある。 なお、遺族が納得するのは難しいとしても、報告書さえ読めば一般の人たちには理解してもらえるのではないかと、できるだけ丁寧に根拠を書いたつもりでも、報告書のその部分、あるいは全体が公開されないと、反論することさえ難しい。 昨年3月に出された重大事態の調査に関するガイドラインで、「いじめの重大事態に関する調査結果を公表するか否かは、学校の設置者及び学校として、事案の内容や重大性、被害児童生徒・保護者の意向、公表した場合の児童生徒への影響等を総合的に勘案して、適切に判断することとし、特段の支障がなければ公表することが望ましい。学校の設置者及び学校は、被害児童生徒・保護者に対して、公表の方針について説明を行うこと。」と書かれていることから、調査報告書を公表する自治体が増えてきたが、ほとんどは概要版に留まっている。 しかし、概要版ではなく、最低限のプライバシーには配慮したうえで、できれば報告書の全文を誰でもが読めるようにしてほしい。 総務省の報告書のなかにも、「重大事態に関する調査報告書は、事実の全容解明と再発防止を目的とし、学校等の対応の課題等を明らかにした有用な共有財産」とある。また、多くの人たちの労力と、協力、税金が投入されている。可能な限り、報告書を公開すべきだと思う。 いじめがあったことを証明するより、いじめがなかったことを証明するほうが難しい。 そういうときのためにも、むしろ委員の半分を遺族推薦にするべきだと思う。 再調査の事例が増えているが、行政が一方的に選んだ委員が同じ結論を出すより、半分を遺族推薦にして公平性を担保しておくほうが、行政としても、メディアや世間一般の納得感も得やすいと思う。 それでは遺族側に偏りすぎるという意見もあるが、長い間、学校・教委が調査の全権を握り、「専門家なのだから公平中立」という理屈を前面に押し出してきた。そして、ほかの誰よりも、被害者や遺族の納得感が大切にされるべきだと思う。 なお、私は一度も自分から望んで調査委員を引き受けたことはない。それだけ、時間的にも、労力的にも、精神的にも大変な仕事だし、本業にもさしさわる。自治体によっては報酬も低く、経済的にも割りにあわないことも多い。 このままでは、委員のなり手がなくなるのではないかと心配する。あるいは、行政と利害関係のある人たちのみが仕方なく引き受けることになってしまうのではないかと懸念する。 ■ その他 いじめや自殺にメディアの関心が集まり、詳細が報告されるようになったなかで、当初、私が思っていた以上に、子どもを自殺で亡くした親が、学校・教委に、自殺であることを生徒や保護者、メディアに伏せてほしいと依頼していることが多かった。 (文科省は、子どもの自殺のデータで、警察庁のデータと毎年、大きく異なることの理由のひとつとして、保護者が自殺だということを言いたがらないからというのを上げてきたが、根拠のないことでもなかったと改めて感じた) 突然、子どもを自殺で失った親は、まずは自分たちの言動に自殺の原因があったのではないか、あるいは子育てが間違っていたのではないかと考える。世間に公表されることで、これ以上、家族の傷を深めたくないと思うのは当然のことだと思う。 また、以前に比べると自殺への偏見は減ったとはいえ、まだまだ根深いものがある。また、今ではネットによる情報拡散で、職場や他のきょうだいへの影響も心配せざるを得ない。 一方、混乱の時期を過ぎて、少し冷静になったり、他の保護者や生徒からいじめや教師による不適切な指導があったことを耳にして、はじめて、学校に自殺原因の一端があるとするなら、何がわが子を死に追いつめたのか、本当のことを知りたいと思うようになる。 自殺を伏せてほしいという前言を撤回し、調査をしてほしいと学校・教委に願い出ることになるが、こうした例が意外に多いことに驚かされた。 しかし、そこからがすんなりとはいかないことがおよそパターン化している。学校は、遺族の当初の依頼を盾に、「今さら調査はできない」という。あるいは死因を伏せたうえで調査をしたが、「何も出てこなかった」という。 ここの交渉が大抵の場合、難航し、遺族だけでは対応しきれず、弁護士に依頼することになる。それでも、交渉に何か月も要する。 結果、調査の開始が遅れ、協力したいという生徒や保護者の思いは薄れ、記憶はあいまいになり、証拠となる書類は処分される。事実調査が困難となる。 今後は、遺族の思いが変化することを前提に、その後の調査をいかに迅速に進めるかの制度づくりが、課題のひとつになるのではないかと思う。 また、自殺事案以上に不登校事案は、対応の遅れが非常に目立つ。それはそのまま子ども救済の遅れにつながる。 しかし、存命被害者のプライバシーの問題を盾にされ、情報は表に出にくく、外部圧力がなければ、学校・教委は対応を拒否し、問題が放置され続ける。こちらも、深刻な問題であると思う。 |
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私は防止法ができる以前から、第三者調査委員会というものに関心を持ち、一般人が収集できる範囲で、いじめに限らず学校や子どもに関する事件事故の調査・検証委員会についての情報を集めてきた。 (http://www.jca.apc.org/praca/takeda/pdf/0909shiryou5.pdf http://www.jca.apc.org/praca/takeda/pdf/chousaiinkai_list%20takeda.pdf ) 防止法の影響で、調査委員会が設置されることが多くなり、逆に情報量が多すぎて、まとめる作業がたいへんになってきた。 しかし、まだまだ公的機関が十分にチェック機能を果たしていないうちは、微力ながら、続けなければと思う。 また、いじめ防止法だけでなく、せっかくできた学校事故対応の指針が、どこまで浸透しているのか、大いに疑問を感じている。 世間が関心を持たなければ、文科省もチェックさえ怠るようになる。そして、事件事故の多発を受けてまた見直す。この負の連鎖が、法律を作ったり通知を出したすぐそばから始まっている。 まずは、学校現場だけでなく、一般市民が関心を持つことが、大切だと思う。 |
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