2015/11/25 | ポスティング企業パワハラ自殺事件 第1回口頭弁論 傍聴報告 | |
2015年11月20日、東京地裁709号法廷で、ポスティングのバイトで呼び出されて叱責された後、命を絶った19歳の青年の家族が、会社に損害賠償を請求した裁判の第1回目を傍聴した。 裁判官は、松村徹裁判長、坂本康博裁判官、山崎文里裁判官。全員男性。 原告代理人は杉浦ひとみ弁護士。 青年が亡くなったのは、2012年12月14日の未明。東京湾で入水自殺。 遺体が発見されたのは、12月24日。クリスマスイブ。 警察から連絡を受けて移動する電車のなか、みんなが笑っているなかで、両親だけが悲嘆に暮れていたという。 携帯電話は10日間も水没していたにもかかわらず、奇跡的に動いたという。 そこに、「皆さんご迷惑をおかけしました。自分には何事にも根性が足りなかったようです。もう疲れました・・・許してください、許してください・・。」というメッセージが残されていたという。 アルバイトをはじめてわずか4日。嫌なら辞めて、他のバイトを捜せばすむこと。しかし、それができずに死に追いつめられたのには、何かそれなりの理由があるのではないか。「許してください。許してください」とは誰に対して発せられたメッセージなのか。何について許しを請うているのか。その日、本当は何があったのか。 遺族はこれまでたくさんの弁護士に依頼を試み、断られ続けたという。 杉浦弁護士自身、立証の難しさから断ろうと思っていたが、これを世に問わずにはいられないという両親の想いを汲んで、引き受けることにしたという。 被告席は空席。第1回目は相手の都合を聞かずに日程が決められるため、誰も出席しないということがあり得るという。 杉浦ひとみ弁護士が、事前に申請を出しているので、これがどのような裁判なのか、冒頭で陳述させてほしいと願い出た。 しかし裁判長は、本来審議する裁判長ではなく、代理ということで、次回にしてほしいということだったが、原告側が声かけした傍聴人が多かったこともあり、ぜひその場で述べたいと主張して叶った。 以下、杉浦弁護士から、陳述内容を書いた紙をいただき、サイトに掲載する許可もいただいた。 |
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平成27 年(ワ)第27903 号損害賠償請求事件 平成2 7 年1 1 月2 0 日 代理人訴状陳述要旨 原告ら代理人弁護士 杉浦ひとみ 1 本件は1 9 才の青年が、3 年前の1 1 月に宮崎からマンガ家を志してその勉強のために上京。生活のためにポスティングのアルバイトを始めましたが、4 日目に作業をサボったことを会社の監視担当者に見とがめられ、その晩に呼び出され叱責を受け、その後、6〜7 時間後にケータイに「遺書」を残して自殺したという事件です。 この叱責が青年を自殺に追い詰めたのであり、その行為はいわゆる「パワハラ」 と考えられ違法であることから、両親がして、会社に損害賠償を請求したものです。 2 叱責の態様や程度は、監視担当者と青年の2 人だけのやりとりであり、人目につかないところで行われたものであることから、証明することがとても難しい事件であることは承知しているところです。 しかしながら、青年には自死する動機が考えられないだけでなく、むしろ、これからも生きるつもりだったたくさんの証拠を亡くなるぎりぎりまで残していました。 残されたレシート類からは亡くなる1 0 日前に炊飯ジャーを購入し、部屋の消臭剤も購入していました。タオルホルダー、トイレマット、便座蓋カバー、便座U 型カバー、掃除セット、体洗い用のボディスポンジ、カップなども、すべて100 円均一の品ですが、1 9 才の青年が、貧しいながらも夢を持って、自分の城と決めた部屋で、人並みの生活を続けてこうと、購入していました。 亡くなる丸1 日前には、画材などの専門店である「世界堂」で、300 円と600 円の2 種類の筆記具を買いました。3 本100 円で買えるボールペンではなく、マンガ家になる夢に向けた、彼にとっては高価な画材でした。 自死した丸半目前には、ゴミ袋も購入しているのであり、これからも生活ゴミが出る日々を送るつもりだったのです。 3 自死する前夜、午後7 時30 分以降に、会社の監視担当者に呼び出され叱責を受けます。それから数時間後、青年はケータイに『皆さんご迷惑をおかけしました。自分には何事にも根性が足りなかったようです。もう疲れました・・・許してください、許してください・・。』という遺書を残し、自ら命を絶ったのです。 誰に許しを乞うたのでしょうか。 ポスティングという、自分の判断で動く作業であることから怠業の誘惑の高い仕事だといえます。それゆえに、特に若者に仕事を適正に行わせるためには、監督や指導は、不可欠のものであったといえます。つまり、指導と指導の行き過ぎが紙一重で常に起こりうる仕事だといえるのです。 本件では、直前までの彼の生きる希望があまりにも鮮明であることから、社会通念上、白死までの間にあった行為は、青年の心をひずませる種類の叱責行為であったことから、自死の大きな要因であったと強く推測されます。この叱責の態様については今後、法廷で明らかにしていくことになります。 4 ところで、この会社の監視担当からの叱責を現実に受けて、その恐怖のあまり、そのバイトをやめるだけではたらず、郷里にまで逃げ帰り、その後も会社からの追っ手を危倶し、おびえ続けていた青年の話を聞くことができました。 その中で、「親に多額の賠償金を請求する」といった脅迫が行われた話を聞いたときに、「許してください、許してください」と遺書に残した言葉の謎が解けたと感じるのです。 5 職場での「ストレスチェック」で社員の心理的な負担をはかることが、厚労省の指示で来月から企業に義務付けられるということです。雇用についての基準はそこまで引き上げられているということです。 1 9 才の青年が大好きな親と、夢と、多くの友だちを残して旅立たなければいけなかったその理由を明らかにしていくとともに、この業種についての労働者の管理にどのような配慮がなされるべきかについての基準を検討することによって、本件の会社に課された義務と、その違反の程度を明らかにできたらと考えている。 |
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企業や商店などから請け負ったチラシを各家に戸別配布するポスティングの仕事。 自由な時間に仕事ができる。接客がないので楽。主婦や学生、会社員やアルバイトでも、他の仕事と掛け持ちでも、ちょっとした小遣い稼ぎになる。そう思われがちだが、現実はそう甘くはないようだ。 配布するチラシの量の多さ。いまどきは「チラシお断り」と書かれているポストも少なくない。 孤独で、かつ他人から迷惑がられる。そして、労働対価が安い。 会社によって、枚数や期間で請け負うシステムと、時給で請け負うシステムとがあるようだ。 以前、知り合いに聞いた話では、チラシを配って店に連絡があった分だけが支払われるというところもあるようだ。 (証拠がないので何とも言えないが、本当に連絡がなかったのか、あったのか、労働者には確認する術がない。ごまかされているのではないかという疑惑もあるという) 気軽に始めても、思った以上に精神的にも、肉体的にもきつい仕事。つい、さぼりたくもなる。 なかには、まとめて数枚チラシをポストに突っ込んだり、配布すべきチラシを廃棄したりするアルバイトもいる。 そこで、各会社は様々な対策を立てている。 被告K社の場合は、「チェック部」の従業員が監視していたらしい。 さぼっていたということで、呼び出された。 ネットなどを見ると、廃棄したチラシや、不正、さぼったことを理由に、ポスティングの会社から労働者に損害賠償が請求されることもあるという。また、「チラシお断り」のマンションなどに配布したことで、会社に苦情が来て、叱られたり、謝罪を強要されたり、罰金を支払わされたりということもあるようだ。 そして、正当な範囲ならまだしも、なかにはブラックな会社も少なくない。 求人票などに載せていたより半額程度の支払いだったり、無理なノルマを課して罰金やサービス残業などのペナルティを課したり。100万円単位の法外な賠償金を求めたり。 かつていじめホットラインで、学校と職場のいじめ電話相談を受けていたときにも、ポスティング会社ではないが、やくざまがいの会社の話をたくさん聞いた。 顧客をだますような違法な仕事だったり、約束の賃金が支払われなかったり、何かミスをすると暴力を受けたり、罰金を取られたり。 なかには、未払いの賃金を払ってもらおうと交渉しに行ったところ、殴る蹴るの暴力を受けたうえに、金まで脅し取られたという人もいた。 そしてここ数年、労働者を守るための法律は、どんどんなし崩し的に法改正(悪)されて、企業にばかり有利になっている。 正社員がどんどん減らされて、企業は自分たちの都合に合わせて、働く人を切り捨てることが簡単にできるようになった。あるいは過労死。生きていくための仕事に、殺される。 これは、働く人の自己責任などではなく、国の政策がもたらした結果だと思う。 次回は、12月25日(金) 13時15分から、東京地裁709号法廷にて。 3年前の12月24日、遺体確認のために東京に来たご両親が、今度は裁判のために東京に出向く。 クリスマスに華やかに彩られた街で、あの日のことをいやでも思い出すに違いない。 |
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