2014/5/23 | 組体操・人間ピラミッドの危険性。過去の事例から | |||||||||||||||||||||
2014年5月9日の熊本県菊陽町の町立菊陽中学校で、組体操の練習中、10段ピラミッドを築く途中で崩れ、一番下の段にいた男子生徒(中3)が腰椎骨折の重傷を負うという事故をきっかけに、名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授の内田良氏が、「組体操は,やめたほうがよい。子どものためにも,そして先生のためにも。」という緊急提言を行っている。http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryouchida/20140519-00035451/ かつて人間ピラミッドで死亡事故が起きているし、重大な障害が残る事故が起きている割に、今までその危険性が重視されてこなかった。 事故防止は、@死亡や障害がのこるような重大事故、A防止策がはっきりしている事故、B多発している事故、C急増している事故、を優先して防止すべきと言われている。 組体操は、@死亡や障害がのこるような重大事故であることは間違いないが、内田氏によると、C急増している事故でもあるという。 個人的には、動画サイトで巨大人間ピラミッドの成功映像が配信されることによって、自分の学校でもぜひ成功させたいという気持ちが学校管理職や体育教師、児童生徒にまで高まっているのではないかと思う。 そして、組体操は体育祭の花形。日頃、賞賛されることの少ない一般的な体育教師にとって、観客の拍手と賞賛の声は、とても魅力的なのではないかと思う。 手持ちの資料と、ネットからざっと組体操に関する事故事例を集めてみた。 改めて、 ・高い場所から転落して頭を強打する可能性、 ・転落したり、崩落した児童生徒の下敷きになる圧死の可能性 ・首や背骨など生命維持にかかわる部位の骨折事故の可能性 ・腕なども複雑骨折をしやすく、他の骨折以上に生涯にわたって後遺症が残る可能性 ・巻き込まれて、複数の被害が出る可能性 が常にあることを認識した。 そして、人間ピラミッドを安全に行うためには、教職員に極めて高度な安全配慮義務が発生する。 たとえば、1990年の福岡県立高校(S909005)の事例では、通常より身体能力が高いはずの体育コースに所属する生徒たち(高1-高3)が8段ピラミッドをつくろうとして失敗している。 また、2007年の名古屋市の事例(S070920)では、教諭らは、組体操に取り組む際には、怪我をしないように、以下の@ないしCの事項を守ることを児童に指導していたという。 @ 女子児童について、髪が長い場合は後ろで束ねてゴムで結ぶこと。 ピンの使用は危ないので避けること。 A 帽子(つばのある赤白帽子)は、視野を妨げる場合があるので、かぶらないこと。 B つめを切ること。 C 演技中はしゃべらないこと。 また、複数の児童で取り組む技のうち、土台となる児童の上に児童が乗るミニタワーなどの技について、下の児童は、上の児童を支えるときは、腕・脚・背を伸ばして体全体で支えること、上の児童は跳んで降りないこと、落ちそうになったときはしゃがむことを指導していた。 それでも事故は起きる。その際に、生徒がやりたいと言ったから、生徒の自主性に任せて、補助に入る教員数が足りなかったなどの言い訳は通用しないことは、判例が物語っている。 現在の、教師が多忙で、十分に児童生徒に目が行き届かない、いじめが蔓延していて機会があれば足を引っ張ってやろう思う生徒もいる、運動会・体育祭に目標設定していても他の行事や天候次第で予定通り練習が進まないなか、危険だとわかっている組体操をわざわざやることのリスクは大きい。 なお、判例にも「指導する教諭らにこの危険性が予見できないことはありえない。」(S909005) 「遅くとも平成16年(2004年)ころには、組体操の指導に関する文献においても、最近組体操の練習中のケガが多いとの指摘があることが記載されていた」(S070920) とあり、事故を予見できなかったという言い訳は通用しない。 怪我をした児童生徒の後遺症は重い。 高校の体育コースに入りながら、全身まひの後遺症を負った高校生。 小学校6年生での負傷で、20歳過ぎても腰痛のため通院を余儀なくされた女性。 首を骨折して車椅子生活を余儀なくされた高校生。 運動能力が高く、空手道場に通い、型の部門で2年続けて優勝していたにもかかわらず、骨折後、左腕が曲がった状態になり、空手をやめざるを得ず、日常生活にさえ不便を強いられた小学生。 おそらく、これらは氷山の一角にしかすぎない。 そして、具体的な事故発生の状況を調べ、原因を特定してきたのは、子どもの命を預かる教育行政ではなく、被災者だった。判決文に書かれている詳細な事故発生時の様子、原因分析、具体的な防止策は、みな被災者側が依頼した弁護士が原告とともに必死にかき集めたものだ。 一旦、重大な事故が起きると、学校や教師は口裏をあわせ、「事故は被害者が起こした」と責任転嫁する。 そのことで、どけだけ被災者は傷つくだろう。 名古屋市の判例(S070920)では、 「A1(教諭)らは、本件事故時の立ち位置という記憶違いを生じるとは考えられない事項につき、事実と異なる内容を述べていること、A1(教諭)らの報告に基づいて作成されたと考えられる本件事故に関する災害報告書に、4段ピラミッドで生じた本件事故を、「3段タワーの練習をしていた」際に生じた、と事実と異なる記載がされていること、児童Wらへの事情聴取においても、教頭が、「バランスが悪いときは、どうしなさい。とか言われなかったかな。今年の組体操では、危ないときしゃがむように言われているんだけど。」などと誘導し、また、「X君が跳び降りたのは、立ってからか、しゃがんでからかどちらだったのかな。」などと、Xが跳び降りたか否かを聴き取ることなしに、これを前提として事情を聴いていることなどの事実からすると、本件小学校は、教員らの保身のために、本件事故の状況について、学校側の責任が軽くなるように意図的に工作していることがうかがわれ、本件事故に関する部分のその他のA1(教諭)らの証言等についても、信用性に疑問が生じるものである。」 「被告は、本件事故は、原告が、およそ2mの距離を跳躍するという突発的な行動に出たため生じたものであり、A1(教諭)らには予見することができなかったから、過失の前提となる予見可能性を欠いている旨主張する。しかし、本件事故において、原告が跳躍したと認められないことは前記のとおりであり、被告の主張は、その前提を欠いたものである。」 「本来信用できる存在であるべき学校側(被告)が、教員らの保身のために殊更に虚偽の事実を主張するなど誠意のない対応をとっているのであって、これらの一連の被告の対応は、本件負傷による原告の精神的苦痛を増大させたものと認められる。」と認定している。 日本スポーツ振興センターの学校災害データベースhttp://www.jpnsport.go.jp/anzen/anzen_school/tabid/822/Default.aspxは、このような教師らの一方的な報告で成り立っている。 「自分たちは十分に注意を払っていたが、児童が突発的な行動に出たためであって防ぎようがなかった」。このような事実に反する報告(上記「学校災害報告書」はおそらく、教育委員会に提出するもので、スポーツ振興センターの災害給付のための報告書とは別ものだが、事故を起こした教師の聴き取りや言い分を中心に学校が報告するという点で共通)では、組体操の危険性を注意喚起することも、具体的な防止策をとることも叶わない。 被災者救済のためにも、再発防止策をきちんと確立するためにも、正しい実態調査と分析が必要だ。 私自身、今の学校の現状では、組体操を学校が安全にできるとは思えない。 危険性を指摘されても、今まで通り組体操を続けようとする学校は、ヒヤリハットの考え方とは逆で、「今までも小さな事故はいっぱいあった。でも、重い障害を残すとか、死亡するなどの事故は自分たちの学校では起きていないのだから、今度も大丈夫だろう」と安易に考えているようにしか思えない。 これ以上、子どもたちに犠牲を増やさないでほしい。文科省はこういう命にかかわるときこそ、毅然と「安全を確保する自信がないならするな!」と言ってほしい。(行政命令に各自治体が逆らうことには敏感で、すぐに行動に移すのに、子どもの命にかかわる問題については、地方行政に口出すことは越権行為になるので、できないと言って動こうとはしない) |
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