2012/12/6 | 半年で7.4万件増! いじめ緊急調査について思うところ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1.なぜ今、いじめ緊急調査なのか? 文部科学省の「いじめの緊急調査」の結果が、2012年11月22日に発表になった。 (http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/11/1328432.htm ) 「いじめの緊急調査」をすると聞いたときには、正直「この手で来たか!」と思った。 今までも、いじめ事件について大きな報道があるたびに、文科省はいじめの定義を変えたり、調査対象を増やしたりしてきた。(PDF) 文部科学省 「平成23年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」結果 いじめの認知(発生)件数の推移 より http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/09/__icsFiles/afieldfile/2012/09/11/1325751_01.pdf P23 今年の文部科学省の「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」は、9月11日発表。 大津のいじめ自殺が大きく報道されたのは、男子生徒が自殺した2011年10月11日ではなく、民事裁判で学校が生徒にとったアンケートの内容が判明した2012年7月初旬だった。 過去の例から、事件が大きく報道された年のいじめ認知件数は大きくはねあがる。しかし、事件が起きた年ならまだ言い訳しやすいが、学校が隠していたことがわかってから急に数字が跳ね上がったのでは、“痛い腹”をさらに探られてしまう。 来年になってから、急に大きな数字になるより、今年のうちに、騒ぎのついでに仕舞いをつけておいたほうがよいと考えたのではないか、そのための再調査ではないかと、私などは勘ぐってしまう。 緊急調査で、いじめの認知件数は大幅に増えた。 ●いじめの認知件数
これを見ると、小学校で倍以上増えている。 なお、今回だけでなく、2005年度までは、いじめの認知件数では中学校がトップだったのが、2006年度から小学校がトップとなった。 それは2005年9月9日に北海道滝川市の小学校の教室の中で自殺行為をし、2006年1月6日に亡くなった松木友音さんの事件がひとつには影響していると思われるが、文科省のほうで、アンケート等を通じていじめの実態を把握するように通知があったことなどから、児童生徒に直接聞いた結果、とくに小学校でのいじめ件数が増えたのではないかと思う。 ジェントルハートプロジェクトの親の知る権利シンポジウムでも話した内容だが、昭和60(1985)年に最初に、公立学校を対象にいじめ調査をしたときには、いじめ発生件数は、小学校で96,457件、中学校で52,891件、高等学校で5,718件の計約15.5万件。 それが翌年、いじめの定義を明確にして同様の調査を行ったところ、小学校は26,306件と約7万件減。約4分の1近くなった。中学校は23,690件で約3万件減。半分以下に。高等学校は2,614と約3千件減で半分以下。合計では52,610件 おそらく、いじめとは何かを定義しなかった最初の調査こそがむしろ、教師や子どもが感じる「いじめ」の実態に近かったと思われる。そして、文部省の定義を含めた翌年の通知は、学校・教育委員会に、国はいじめの数字が大きいことを望まない。本当の数字をあげてはいけないと思わせたのではないか。 その時に、小学校のほうが、中学校に比べると小さないじめが多いので、報告数を減らしやすかったのではないか。 国立教育研究所の滝充氏も、継続したいじめ調査の結果、報道のあるなしにいじめの件数は関係していない。常に一定程度起こり続けているとしている。 本当は、もっと早くに小学校でのいじめに注目して、そこで徹底的にいじめ対策をすれば、中学に入ってからのいじめや自殺をもっと防ぐことができたのではないかと思う。 対策を急ぐべきは、小学校でのいじめだと思う。 2.いじめ認知が増加した県と、増加の理由 文科省は、緊急調査でいじめが極端に増加した理由について、教育委員会が指導したりして、積極的にいじめの認知に学校が努めた結果だとしている。 しかし笑ってしまうのは、各教育委員会に調査する段階ですでに、4択で「認知件数が増加した要因について」丸をつけるようになっている。もちろん、選択肢のなかには、「今まで隠していたのが、事件報道の影響で隠しきれなくなったから」という項目はない。 選択項目は以下の4つ。 @教委がいっそう精緻に調査を実施するよう学校を指導したため A教委が調査方法やアンケートの様式を変更して調査を実施したため B学校が軽微な事案であっても積極的に認知したため C児童生徒や保護者の意識が高まり訴えが増えたため 最も増加幅の大きかった鹿児島県などは、4つの項目すべてに丸がついている。 「特に顕著に増加した教育委員会」として、具体的に以下の5つの県があげられている。 でも、見方によっては、これって京都府以外はすべて、今年になって事件が大きく報じられた県では? 京都に関しては私が情報をもっていないだけなのか。あるいは、大津は京都と極めて近い。京都新聞でも大津のいじめ事件は大々的に報じられたことから、影響があったのではないかと思っている。
一方で、特に顕著に増加しなかった教育委員会として、群馬県と大分県をあげている。 しかし、群馬県は2010年10月23日、群馬県桐生市の市立新里東小学校の上村明子さん(小6・12)が自宅で首吊り自殺。現在、民事裁判が継続中(進行協議で非公開?)でもある。 2011年度と緊急調査だけでなく、少し前から見てみると、いつものパターンで、事件が大きく報じられたときは、いじめの認知件数が大きく増え、その後徐々に減っていっている。
今回、最も注目されるべき大津のある滋賀県はどうか。ほとんど変化がみられない。 注目されすぎていて、本当の数字をかえってあげられなかったのか。本気でいじめ対策を見直す気持ちがあるのか、むしろ不安を覚える。
文科省は増減の安定している県をあげるのであれば、むしろ熊本県を事例としてあげるべきではと思うが。 熊本県はかなり実態に近い数字が上がっているのではないかという気がしているが、それでも実態はまだ多いかもしれない。アンケートには書けない子どももいるだろうから。
私の推測が当たっているかどうかはわからない。しかし少なくとも、文科省のほうで急にいじめ認知件数が増えた理由を用意しているようでは、せっかく手間とお金をかけた調査の意味が全くない。 たとえば、宮城県では1,722件(千人当たり6.7件)から9,579件(同37.6件)に増えている。これは震災の影響があるのかないのか。 沖縄県では307件(同1.5件)から3,289件(同16.4)に増えているのは、オスプレーの騒音等が影響しているのかしていないのか。 地域独自に、問題分析する目をかえって失わせることになるのではないだろうか。 3.重大事案の件数278件 「学校として、児童生徒の生命又は身体の安全がおびやかされるような重大な事態に至るおそれがあると考える件数」とは、長ったらしい。しかし、たぶんミソは、「学校として」「おそれがある」「考える」という言葉にあるのだろう。あとで、学校や教育委員会があげていなかったいじめ事案が、万が一、子どもが亡くなるなどという重大な事態に発展したとしても、言い逃れができるように、最初から考えられていると思う。 重大事案は、小学校62件、中学校170件、高等学校41件、特別支援学校5件の計278件。 緊急調査で発見された14.4万件中、たった278件しか、学校として「生命又は身体の安全がおびやかされる」と認識していない。すべてのいじめは命にかかわる重大な事態になるおそれがあると私は思っているが、それにしても、少ないと感じる。 現場の意識が結局は、何人子どもが死んでも、自分のところには関係がないと思っているということだろう。 2006年度、たくさんの「いじめ自殺」予告の手紙が、文科省などに寄せられた。 各学校、教育委員会は、即日、「自分の学校ではありません」と、該当者なし宣言をした。 2000年5月3日に発生した佐賀のバスジャック事件では、当初、少年の氏名や顔がわからなかったことから、多くの親が「自分の子どもかもしれない」と警察に連絡したと聞くが、対照的だと思った。 重大事案のいじめ態様のなかには、「冷やかしからかい」がいちばん多くあげられている。しかし、これは本当に学校の認識なのだろうか。 むしろ犯罪的ないじめから目をそらさせるためにわざと、大して重大だと本音では思っていないにもかかわらず、「冷やかしからかい」のいじめを入れたのではないか。もっとも複数選択なので、犯罪的なものであっても、いじめの場合は必ずのように精神的に追い込むものが付加されるからなのだろうか。 いずれにしても、犯罪的ないじめだけでも、全国で278件というのは、少なすぎると私は思う。 重大な事態になる「おそれがある」などというあいまいな書き方ではなく、「刑法に触れるようないじめ」「うつ状態になった」「学校に行けなくなった」「転校した」「やり返し事件が起きた」「裁判になった」など、重大な事態に「なった」件数をあげさせたほうがよかったかもしれない。 あるいは、「学校として」ではなく、「いじめられている」と申告した子どもと親に、直接、問うてみればよいと思う。 それでなくとも、いじめられている児童生徒と保護者に比べて、学校の認識は常に甘いのだから。 4.その他気になること いつも気になるのが、いじめの解消率。 「いじめの認知件数のうち、「いじめが解消しているもの」の割合は、78.9%(平成23年度80.2%)。 「いじめはたくさん発見されたよ。だけどほとんど解消されているから、心配しないでね、大騒ぎしないでね。」と言っているようにみえる。 本当は、子どもが死に続けている状況に、もっともっと危機感をもたなければいけないはずなのに、文科省の調査結果にはいつもいいところを強調するきらいがある。 いじめの解消率は、それこそ、いじめ被害者の存在がはっきりしているのだから、被害者の親子に直接、どんないじめだったのか、学校はどのように対応してくれたか、そのいじめは現在、解消しているかを問うべきだと思う。 ジェントルハートプロジェクトでは、せめて、公立、私立ともに、いじめがあったときには、学校事故報告書の提出を義務づけることと、その事故報告書を当事者が事前に、書いてある内容に誤りがないかどうかをチェックできること、当事者の意見を併記できることを求めている。 いじめ自殺やけがをするような事件が発生するたびに、学校関係者は、「いじめはありました」「しかし、解決したと思っていました」というコメントを性懲りもなく繰り返している。 調査でも、解決したことになっているいじめ問題に、学校や教育委員会は真剣に取り組むはずがない。 解決したと報告しなければならないところに、かえって、取り組みを阻むものがあるのではないだろうか。 今回、ひとつ、よかったと思うことがある。 いじめへの学校の取り組み状況、とくに教員研修についての質問がなされたことだ。 「平成24年度中にいじめの問題に関する、教員を対象とした研修を実施した、又は実施する予定がありますか。(複数回答可)」という内容だ。おかけで、この調査が開始して以来、今年の秋口から急に、教員向けのいじめ研修が増えた。 「平成23年度中にいじめの問題に関する校内研修を実施しましたか。(複数回答可)」では、 @いじめの問題に特化して実施した 10.6% A生徒指導等の研修として、いじめの問題にも触れて実施した 94.6% B実施していない 12.1% おそらく、Aはほとんど実態がないのではないかと思う。 @のいじめの問題に特化して実施は少ないが、これさえ、全教員対象ではないのではないか。 しかも、ジェントルハートプロジェクトで教師向けの講演に呼ばれても、せいぜい年1回、それも1時間程度が多く、さわりの部分しか伝えられない。 それというのも、教員研修をするための予算もなければ、時間もとれない。 いじめ事件が大きく騒がれたときだけ予算がつくが、たいてい1、2年で終わってしまう。 民事裁判で証言台に立った教師が、ベテランであるにもかかわらず、一度もいじめの研修を受けたことがないと証言したことも何度かある。 結局、文部科学省や各自治体が何にお金と時間をかけているかを見れば、真に大切にしているもの、重要だと考えているものが見えてくる。 教師に対するいじめの研修については、今まできちんとされてきていなかっただけに、ここを充実させるだけでも、少しは変わるのではないかと期待する。 アリバイ作り的な研修ではなく、きちんと問題解決に結びつくような研修をまずは始めてほしい。 なお、メディア向け文科省の発表にはいつも解説がついている。そして多くのメディアはそれをそのまま報じている。これは勝手に分析されたり、注目してほしくない数字から目をそらすためではないのか。 文科省ホームページの統計調査にも、最初に概要が書いてある。多くのひとはここしか読まないのではないだろうか。 時々、何でこんな重要なことを「概要」に書いていないの?と思うことがある。 なんのための調査なのか、調査結果は本当にいじめ対策に生かされているのか、それこそ、第三者の目で、文部科学省の施策自体を検証する委員会が必要ではないだろうか。 |
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