2012/5/19 | 認可外保育所での死亡事故 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2012年5月18日付けの東京新聞・夕刊に、2011年4月7日、正午頃、埼玉県川口市の認可外保育所「なかよし保育園」(事故後、閉園)で1歳5か月の女児が窒息死した件で、元園長の女(36)と、アルバイトの女2人(24・21)を業務上過失致死容疑で、書類送検したと、載っていた。 同施設の保育環境は劣悪だった。 複数の園児を、保育者から見えない押入れの内で寝かせて戸を閉め、見回りを怠った。45分後に見に行ったときには、別の男児が女児の胸に覆いかぶさっており、ぐったりしていたという。女児の死因は窒息死。 拙著 「保育事故を繰り返さないために 〜かけがえのない幼い命のためにすべきこと〜」(武田さち子著 赤ちゃんの急死を考える会 企画・監修 (http://isa.sub.jp/ あけび書房)の12ページで、事例としてあげた「ちびっこ園」の事故に似ている。 「ちびっこ園」は、全国にチェーン展開する認可外保育施設で、低料金や24時間保育、年中無休を基本に、月預かりや短時間の一時預かり、夜間保育も行うなどで、人気だった。 しかし、2001年3月に、東京都豊島区のベビーホテル「ちびっこ園池袋店」で、ベビーベッドに寝ていた北條涼介ちゃん(生後4か月)の顔に、横に寝ていた乳児(8か月)が覆いかぶさっている状態で発見され、病院に運ばれたが、翌日未明に亡くなった。司法解剖の結果、窒息死の疑いがあることがわかった。 同園では、乳児が寝かされていた部屋の、3つのベットに2人ずつ、6つのベッドに1人ずつの計12人が寝かされていたが、保育者はついていなかったという。 事故の時間帯には39人の乳幼児が預けられていたが、保育者は3人しかいなかった。 そして、この事故をきっかけに各自治体が、系列保育所を立ち入り調査したところ、全国66の施設のうち57か所で、保育者数や施設・設備に問題があることが判明した。 また、系列施設では1979年から約22年間に計21件の死亡事故が起きていることがわかった。このうち、警察が立件したのはわずか4件。ほかは「乳幼児突然死症候群(SIDS)」などの病死と判断されてた。 つまり、乳幼児の死亡原因をきちんと追究せず、安易に病死と判断したことが、ずさんな保育体制を見逃し、21人もの乳幼児が死亡した。 その「ちびっこ園」の教訓はどこへいったのか? 前掲東京新聞によると、「厚生労働省によると、昨年は全国の認可外保育施設で12件の死亡事故が発生。1施設当たりの死亡事故の発生割合は、認可施設の約19倍だった。 同省の『認可外保育施設指導監督基準』では、保育士か看護師の配置などを定めている。だが2010年に612施設を対象に行った立ち入り調査では。約25%に当たる163施設で違反があった。 この理由を、埼玉県内にある認可外保育施設の延長は『経営を考えると難しい』と説明。認可外保育施設は、年間1千万円以上の補助金が支給される認可施設と比べ、経営に余裕のないケースが多い。園長は『職員は薄給で多くの仕事と責任を求められる。離職率が高く、ベテランが育ちにくい』と漏らす。」とある。 |
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厚生労働省のホームページから、保育施設関連の数字を拾ってみた。 私の探し方が悪いのか。データの公表自体、詳細が明らかでないなど、不十分な点が多く感じられる。これで本当に事故防止に役立つのだろうか。 ●保育施設における死亡事故統計(厚生労働省 雇用均等・児童家庭局保育課)
※平成23年度統計は、被災した岩手、福島、宮城を除く ●保育施設における事故報告集計 (厚生労働省 雇用均等・児童家庭局保育課)
※保育施設において発生した「死亡事故や治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う重篤な事故等」で、報告があったもの。 ※H22,年 骨折のうち3件は、鼓膜が破れる等の他の複合症状あり。不明は、施設において事故発生時の状況が確認できなかったもの。その他は、刺し傷や目に傷害を負ったもの。意識不明は平成22年12月28日現在。 ●死亡・負傷場所
●認可外保育施設の現況取りまとめ
※「認可外保育施設」とは、児童福祉法に基づく都道府県知事などの認可を受けていない保育施設のことで、このうち、 @夜8時以降の保育、A宿泊を伴う保育、B一時預かりの子どもが利用児童の半数以上、のいずれかを常時運営している 施設については、「ベビーホテル」と言う。 ※平成22年度統計は、東日本大震災の影響により岩手県、宮城県、福島県の8市町を除く。 ●認可外施設への立ち入り検査
※立ち入り検査は、少数の子どもを保育する施設など、都道府県知事に届出が義務付けられていない施設を含む、すべての認可外保育施設が対象。原則として年1回以上行う。なお、やむを得ずに対象を絞る場合でも、ベビーホテルについては必ず年1回、実施することになっている。 ************ ●高い認可外施設での死亡率 表4を見れば、認可外施設は認可施設の半分程度しかない。預かっている子どもの数も、10分の1を少し超える程度の人数でしかない。 にも関わらず、死亡事故(表1)は認可外施設のほうが圧倒的に多い。認可外施設での死亡事故発生率は、認可施設の19倍から20倍ある。 死亡年齢は、0歳から1歳が圧倒的に多い。 私がざっと調べた限りでは、認可外施設の年令別人数は出ていたが、認可施設の年令別人数がわからない。(表4) 地域によっては、乳幼児を預かってくれる公立の保育施設や、認可施設が一切ないところもあると聞いたことがある。 認可外施設での死亡事故が、認可施設に比べて多い背景には、乳幼児を預かってくれる公立や認可施設の圧倒的不足があると思われる。 国は、幼稚園と保育園の一体化(子ども園)を進めようとしているが、まず行うべきは、乳幼児を安心して預けられる場所の確保ではないだろうか。死亡事故が多い0歳児から1歳児こそ、各自治体が責任をもって保育施設を作るべきだと思う。 あるいは、認可外施設を認可施設に移行できるような支援をするべきだと思うが、表4を見るかぎり、認可施設に移行できる施設の割合は多くない。そして、新しくできる施設もあるが、同じくらい廃止・休止する施設も多い。 ただ施設をつくるだけでなく、なぜ廃止に追い込まれたのか、どのような支援があれば、廃止・休止せずにすむのか、理由を調査するべきだろう。 また、事故防止の面からしても、廃止・休止に追い込まれる状態の施設が、劣悪な保育環境に陥りやすいことは目に見えている。 ●認可施設でも増加する重大事故 公立施設の民営化も各地で進められている。各地で反対運動が繰り広げられたが、国も、地方自治体も、財政面ばかりを優先して、子どもの命にかかわることに金も労力も使おうとはしない。 負傷事故は、認可外施設より認可施設のほうが多い。しかも増加している。 考えようによっては、認可施設の方が多いから当然といえるかもしれない。しかし、赤ちゃんの急死を考える会・副会長の小山義夫さんは、2001年の規制緩和以来、公立や認可施設でも、以前はみられなかったような種類の事故や重大事故が増えていると話していた。 事故は室内が圧倒的に多い(表3)。他国と比べても貧弱な最低基準、1人あたりの保育面積や保育者数をさらに、規制を緩やかにしたことが、影響しているのではないだろうか。 「子どもの健全な育成に必要な基準」ではなく、財政ありきで規制緩和された結果、認可保育施設が増えても、安全・安心な施設が増えたことにはならない。むしろ、収容人数ばかり増えて、安全ではない施設が増えているのではないだろうか。 ●不適合施設に対する行政の甘い対応 認可外施設への立ち入り検査の結果、毎年、半分前後もの施設が、指導監督基準で「不適合」とされている。(表5) しかも、年に1回全部の施設を立ち入り検査、ベビーホテルは100%の実施とうたいながら、70%、80%台に留まっている。 その立ち入り検査も、過去の例からすれば、事前に予告しての立ち入り検査で、その場しのぎで乗り切ることができるようになっている。本当は、抜き打ちで行わなければ、実態を把握することはできない。 また、「不適合」とされた施設への行政の対応を見れば、とても事故防止に努めているとは思えない。 これだけの割合で「不適合」の施設が毎年あるということは、何年にもわたって「不適合」施設が放置されつづけているということだろう。 「口頭指導」や「文書指導」が効果ないことは明らかであるにもかかわらず、毎年、同じことを続けている。 その結果が、乳幼児の死亡事故につながることは、過去の例でも明らかだ。 保育施設だけでなく、虐待にしても、強制立ち入りの権限が法的に認められても、児童相談所は行使しようとしない。その結果、何人もの子どもたちが亡くなっている。 飲食店で、ホテルで、繰り返し指導を受けたところが、火事を出して、大勢が亡くなっている。 せめて、「公表」されれば、保護者はわが子を預けることを考えるし、施設側も改善の努力をすると思われるが、権限がありながら、ほとんど公表さえされない。多くの場合、死亡事例が出てはじめて、保護者は自分の子どもを預けていた施設が、最低基準さえ守らず、行政指導のムシを繰り返してきたと知る。 公的支援は大切だ。しかし、認可施設であれ、認可外施設であれ、民間施設であれば、営利を追求する。 前掲「ちびっこ園」は、人手を削り、狭い空間にたくさんの園児を詰め込むことで、利潤をあげ、全国にチェーン展開していた。 資金援助だけでは、子どもの安全は担保されない。 行政の立ち入り調査は欠かせない。安全が確認されるまでは営業を再開させるべきではない。 待機児童数だけがとかく問題になりがちだが、安全ではない保育施設なら、ないほうがマシだ。しかし現状では、待機児童数を減らすために、認可外施設にさえ、行政が強く出られないというようにしか、見えない。 予算の都合で公務員も減らすというが、本当に必要なもの、命にかかわることを疎かにしないでほしい。 ●再発防止のための情報不足 事故集計(表2)は、各施設が提出する事故報告書に基づいている。しかし、チェック体制がないなかで、どのくらいの施設が事故報告書を提出しているかあやしい。 学校事故でも主張していることだが、施設側の言い分だけでなく、被害者の親の言い分も併記させるべきだと思う。 事故情報はただ集めるのではなく、再発防止に必要な情報を集め、分析したうえで、フィードバックしてほしい。それができるのは行政だけだ。行政が熱心でなければ、せっかくの事故報告制度も形骸化してしまう。 また、確かに認可外施設に死亡事故は多く、調査結果の公表は大切だ。しかし、認可施設についても同じように、情報開示すべきだろう。 同じ認可施設といっても、公立と民営委託の施設の割合や、事故の増減と関係しているかどうかの詳細なデータも、本来は厚生労働省が出すべきではないだろうか。 こうしたデータを、国の施策が正しい方向に行っているかどうかのチェックに使うべきだろう。 現状、大きな事故でも起きて、メディアをはじめ社会が注目しなければ、個々の事故は再発防止の教訓として生かされない。子どもが大勢亡くなってからでは遅い。 待機児童の数だけでなく、子どもたちにとって安全・安心な育ちが約束されているか、関心をもってほしい。 |
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