2012/1/29 | 群馬県桐生市の上村明子さん(小6・12)いじめ自殺事件の傍聴報告 | |
2012年1月20日(金)、午前11時00分から、前橋地裁で、群馬県桐生市立新里小学校の上村明子さん(小6・12)の民事裁判(平成22年(ワ)988号)があった。 昨年11月19日のNPO法人ジェントルハートプロジェクトの第6回「親の知る権利を求めるシンポジウム」に上村明子さんのご両親に来ていただいた縁もあって、前回2回は私と小森美登里さんの2人が傍聴したが、今回は同じく法人理事の大貫貴志さんも傍聴に駆けつけた。 この日、関東は前日から降り続く雪。ほかに人身事故などもあり、かなり早めに家を出たが、なんとか新幹線に間に合う。 しかし高崎駅で乗る予定だった電車が運休。次の電車でなんとか前橋駅へ。 傍聴整理券配布の10時30分には、裁判所に到着。 ここまで苦労してたどり着いても、傍聴券が当たらないのではないかと心配したが、悪天候の影響でいつもより人数が少なく、なんとか集まったひと全員が傍聴できた。悪天候が、アンラッキーだったのか、ラッキーだったのか・・・。 裁判長は西口元氏、裁判官は水橋巌氏、出口裕子氏。 原告代理人弁護士は小林勝氏ほか。被告代理人弁護士は高橋伸二氏ほか。 西口裁判長の場合、法廷で、それぞれの弁護人に口頭で主張させる。 ●原告側の主張 原告代理人の青木弁護士のほうから、前回、被告側が出してきた上村さんの家庭環境について、その主張の元になっている証拠の信憑性が疑わしいと反論。 明子さんの母親が学校でカウンセラーに悩みを話したのは事実だが、明子さんの養育に悩んでいると相談しに行ったのではなく、いじめ防止を訴えるために相談しに行ったという前提が抜けている。 学校カウンセラーの報告書は抜粋であり、大事な部分が抜けている。 また、明子さんの父親がよく明子さんを怒鳴っていたというアパートの住民の証言がある。電話帳で調べて取材したというが、この住民についてはある程度誰だか想像がついている。このひとは日頃から、原告らに対して不快感をあらわにしている人。そのような人から聴取している。 原告らが時間に不規則という主張は、原告らはいつも朝、子どもたちを起こして、送り出してから出勤していた。このような事実はない。 また、健康や衛生に無関心、無頓着という主張だが、ちゃんと子どもに朝食を食べさせていたし、掃除などきちんとしており、衛生環境は悪くなかった。校医である歯医者の報告として、明子さんの虫歯が多く、ネグレクトを疑ったほうがよいということだったが、歯科医通院して治療した記録を提出する。 給食費未納で生活に困っていたというが、すべて支払済みである。 桐生市は責任転嫁のために、原告らの家庭環境に問題があったかのように、議論をすり替えている。 カウンセラーや学校関係者に報告書を書かせているが、事実関係が正確ではない点が多い。 桐生市は教員らの教育の専門家としての責任感のなさや学校のいじめ防止管理体制の欠如を棚にあげて、どこの家庭、どの生徒にもあるようなことを巨大化させ、原告の家庭事情を丸裸にし、詮索しているにすぎない。 春山弁護士からは、損害論を展開。 損害については、明子さんの損害の相続と、原告ら固有の損害がある。 将来賃金と慰藉料。将来賃金については、交通事故の計算による男女の平均値。 ●桐生市の主張 桐生市代理人からは、原告らが主張する明子さんへのいじめ事実は、悪口を言われる、給食を一緒に食べてくれる児童がいない、校外学習のときに「こんな時だけ来るのか」と思いやりのない言葉を言われたというものであり、原告が主張する陰湿かつ悪質なものではない。 いじめの程度が重度であれば、いじめ防止義務、結果回避義務は高度なものになるが、本件児童に対するいじめの程度で考えると、学校は児童に注意、指導したり、教員全員で研修をおこなったり、席順の変更など様々な対応をしているので、義務違反はない。 本件児童の自殺は家庭内の問題に起因するものであり、軽度のいじめと自殺との事実的因果関係はなく、自殺の予見は全く不可能だった。 社会科見学の翌日、本件児童が無断欠席したため、心配した教頭とカウンセラーが2回訪問しているがいなかった。自殺当日も担任が電話したが出なかったので、自宅を訪問しているがいなかった。 学校は心配して3度訪問しているが、家庭は受け入れなかった。学校はできるだけのことをした。 桐生市は、複数教員が病院にかけつけ、管理職が何度も弔問に駆けつけ、全職員が葬式や通夜に出席、児童や保護者も参列した。 学校は児童の死を受け、職員会議を毎日開催し、全力で死の原因究明と対策に取り組んだ。 学校生活アンケートもとった。アンケートを基に面接もした。 本件児童の情報収集してまとめ、報告した。教職員から聞き取り、校医や近所の人にも聞きとり、第三者委員会を設置し、約3か月の調査をした後、3月28日に調査報告書を出している。 原告らに詳細かつ適切な調査をし、原告らに必要な報告を行っている。対応に問題はない。 自殺には、家庭の過失が極めて大きい。仮に市に責任があったとしても、大幅な過失相殺を認めるべき。 児童は亡くなる直前、自宅で過ごしている。このことは極めて重要。 両親の勤務内容及び労働時間、自宅に戻る時間を明らかにしてほしい。 当該児童はカーテンレールにマフラーをかけて亡くなった。母親のためにつくっていたものなら、母親への恨みではないか。 当日、きょうだい喧嘩があったというが、両親はどのように叱責したのか。それに対し、当該児童はどう答えたのか。 父親が外出したとあるが、所用とは何か。 ●裁判長から 裁判長のほうからも、自殺当日、きょうだい喧嘩をしたとあるが、両親はどのように叱責したのか。それに対し、当該児童はどう答えたのか、知りたい。これは自殺の直前の言動なので、結構大事。 原告側が出している人証の申請に対して、ここまでいるのかなと思う。 原告父母。校長、6年生の担任、5年生の担任、養護教諭、カウンセラー2人の8人。証明するべき事実関係が具体的に出ていないので、裁判所は採否を判断できない。 桐生市と群馬県は、意見を聞かれて、人証調べは不要と回答。 事実関係は、悪口はウエゴリー、キモイ、こんな時だけ来るのかと言われた、この3点だけで、争いはない。一人で給食を食べたということも争いがない。 4年生のときに転校してきて、男子生徒から「どけ」と荒っぽい言葉を言われた。5年生のときにも明子さんが先生に悪口を言われていると伝えている。 人証調べをしても証明すべき事実は出てこないのではないかと思う。すでに出てきたこれらの事実を議論することのほうが、審議が深まるのではないか。いろいろな裁判例も出ている。 相当因果関係があるか。 こういう発言、悪口を言えば子どもは死ぬものなのか。 自殺が予見可能なのかどうなのか議論していてただいて、予見できるとしたら、回避するにはどうすればよかったのか。 過失があったとして、因果関係はどこまでなのか。 ●議論 裁判長から、原告に質問。 Q:自殺後の学校の対応はけしからんということだが、加害行為は何なのか? 原告A:調査もしないうちにいじめはなかったと記者会見する学校の対応。校外学習での学校の教師の対応。 Q:自殺後の桐生市の対応で、原告側はどんな権利や法的利益を侵害されたというのか? 原告A:学校や教育委員会のいじめはなかった、いじめを認識していないという対応は、原告らに精神的苦痛を与えた。 それは、通夜や葬式に参列したからと言って治癒されるものではない。 Q:原告のほうではなんでも出せばいいというものではない。どういう事実があって、結果にどう影響しているのか。こういう事実を立証したいというのを出してほしい。 原告A:被告が出してきた書証は抜粋で、主たる目的は第三者委員会に報告するためにまとめたものと見られる。 学校が教育委員会に報告した事故報告書と準備書面のトーンや内容が違う。抜粋ということで、被告が家庭内に問題があるということへの反論として、元の調査なりを出してもらうのが適当か、証人尋問したい。 Q:証書とどこが違うのか、具体的に言ってもらえば考える。 原告A:何が違うのかと言われれば、全部違う。 わずか4ページ、5ページの主要な内容と今回だされた書証と全く別項目だったり、引用されていない。 カウンセラーの内容がすべて書いてるとは思えない。 家庭訪問は5年生時はなかった。6年生で、いじめ防止指導はしていない。校長は指導したのか、出ていない。 明子さんは保健室に何度も行っている。そこで養護教諭に相談していたのではないかと思う。 Q:カウンセラーや養護教諭の記載は残っているのか? 被告A:相談記録は残っているが、他の児童についての記載があるので、こちらは原本から忠実に抜粋している。 原告A:事実関係が違うので、尋問の必要性がある。明子さんの両親がカウンセラーに相談した内容も、肝心の部分が書いていない。 忠実に抜粋しているというが、原告側はひとつも見ていない。信用しろと言っても無理。 Q:人証で、こういう事実を証明するというのを具体的にあげてもらって、裁判所が人証を決める。 被告A:告側は不一致があるというが、こちらはそうは考えていない。不一致があるというなら、次回期日までにはっきりしてほしい。 Q:次回、人証調べをやるのか、やらないのかを議論してもらう。やるとしたらどこまでやるのか、次回決める。人証調べをやらないとなると、次回口頭弁論で、結審。やるとなったら、次回、人証調べ。 原告の証明すべき事実として、学校長の事故報告書と書証のどこが違うのか。自殺直前のやりとり。死亡当日の親子のやりとり、人証で何を証明するのか。2月末までに提出。 次回3月16日は、弁論準備(傍聴はできない)。人証の採否を決める。 |
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約1時間の口頭弁論の内容はおよそこのようなものだった。 午後から、弁護士会館で報告会があった。その中で、支援者のひとりは言う。西口裁判長は、傍聴人を意識して法廷内で口頭でのやりとりを行っているように見せかけているが、いつものやり方。あまり書証を読んでいないのだと思う。原告、被告の代理人に口頭で説明させることによって、内容を理解しているようだと言う。 原告弁護団も、こちらはきちんと書証で主張しているのに、裁判長はきちんと読み込んでいないと言う。 だとしたらなおさら、前回と、今回、議論の中心が明子さんへのいじめがどのようなものであったのかや、担任や校長の対応はどうだったのか、自殺前は、自殺後は、という内容より、家庭の問題がどうだったのか、悪口程度のいじめで子どもは死ぬのかなど、原告側のマイナス点を探るような内容ばかりだったのが、気になる。 (私たちが傍聴する前の段階で、いじめの内容や学校の対応については、やりつくしたのかもしれないが) 桐生市代理人の女性弁護士の家庭に問題があると決めつけたきつい口調に迫力負けしている感じもある。 なお、今回、明子さんのきょうだい喧嘩が問題となり、前回は母親が明子さんの養育についてカウンセラーに相談したということが問題になっている。 しかし、学校でいじめにあっている児童が家庭でストレス発散するということはよくあること。 当時、明子さんの気持ちが荒れていたとしたら、それこそが、いじめで苦しんでいた証拠だと思う。わずか12歳。自分が受けた理不尽な行為、心の痛みをすべて引き受けるのは、難しい。大人でも、職場のイライラを家族に当たり散らしたりする。 被告弁護士は、学校は明子さんの生前も、死後も適切に対応したと言う。 クラスは学級崩壊状態だったと聞くが、それに対して、管理職はどう対応していたのか。学級が思いどおりにならない状態で、明子さんへの対応だけきちんとできたとは到底、思えない。むしろ、自分のことだけで精一杯で、明子さんがいじめられていることを知っていても放置したのではないか。 明日、結審する中井佑美さんの民事裁判。佑美さんの小学校時代のクラスも、佑美さんと学級担任のやりとりの中で、学級崩壊状態だったことがうかがえる。そんななかで、日記にいくら佑美さんがいじめのことを書いても、まともに取り合ってさえもらえなかった。そして、いじめも、いじめの相談もなかったことにされた。たまたま担任との交換日記が自宅にあって、発見されなければ、親の主張だけでは物的証拠に乏しい。まして、佑美さんが亡くなったのは中学1年生だった。 佑美さんも、明子さんも、学級崩壊の生贄にされたのではないか。誰かがいじめられている間は比較的、他の子は安全でいられる。だから、かばう人間もなく、みんながいじめに加担する。見て見ぬふりをする。その輪の中に、教師もいたのではないか。 |
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