わたしの雑記帳

2011/9/17 「ここから」裁判(七尾養護学校の性教育裁判)、高裁でも一部勝訴判決!


せっかく?傍聴券にはずれて、裁判所の門の外で待っていたので、めずらしく携帯カメラで撮ってみました。

2011年9月16日(金)、東京高裁101号法廷で、15時から、七尾養護学校の「こころとからだの学習」裁判の判決があった。
開廷の約20分前、記者席や原告席を除く76席の傍聴券を求めて、120余りの人たちが並んだ。
いつも、くじ運が悪い私。9月9日にも、新幹線とタクシーを使って傍聴に行った前橋の上村明子さんのいじめ自殺裁判で、傍聴券にはずれ、傍聴できなかった。
今回もやっぱり、外れてしまった。実は2009年3月12日の「ここから裁判」東京地裁判決のときにも、傍聴券が外れて、裁判所の外で待っていた。(me090324 参照)

実は、控訴審の結審は2011年2月22日。その後、3月11日に東日本大震災が発生した影響はあるかもしれないが、判決予定日さえなかなか確定しないまま半年以上も過ぎてしまったので、少し心配していた。ここのところ日の丸・君が代裁判での原告敗訴が続いていた影響があるのではないか。政権が揺れ動いているなかで、裁判所が政権のこの問題に対する意向を推し量っているのではないか。
しかし、裁判所から真っ先に飛び出してきた若い弁護士さんたちの手に掲げられた垂れ幕は、「再び勝訴」「都教委は違法」「都議は違法」。歓声と拍手が沸き起こった。

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報告会は16時から、全国教育文化会館の地下会議室で。
「判決要旨」が配られた。

「経緯」
1 1審原告らは、平成15年当時、七尾養護学校(本件養護学校)の教員であり若しくはあった者(29名)又は生徒の保護者であり若しくはあった者(2名)である。
2 本件養護学校では、「こころとからだの学習」という性教育(本件性教育)が行われていた。
3 平成15年7月2日、1審被告都議会議員(1審被告都議)らのうち1人が、東京都議会の一般質問で、本件養護学校の性教育を、行き過ぎた性教育の実例として取り上げ、1審被告東京都教育委員会(1審被告都教委)の教育長は、これを認める趣旨の答弁をした。
4 平成15年7月4日、1審被告都議ら及び1審被告東京都教育委員会は、本件養護学校の視察(本件視察)を行い、1審被告産経新聞社は、この視察を取材した。
5 1審被告都教委は、平成15年7月9日、本件養護学校の校長から、性教育の教材の提出を受けるとともに、同日以降、指導主事を本件養護学校に派遣し、1審原告らを含む教員全員から本件性教育の実情について聴き取りをした。
6 1審被告都議らは、1審被告都教委から上記教材を借り受け、平成15年7月23日、こけが不適切教材であるとする展示会を開催した。
7 本件養護学校では、その後、1審被告都教委の指導、助言を受け、同年9月以降の性教育の年間指導計画が変更された。
8 1審原告のうち教員13名は、学習指導要領を踏まえない不適切な性教育を行ったなどとして、1審被告都教委から、厳重注意(本件厳重注意)を受けた。
9 平成15年7月当時本件養護学校に勤務していた教員の多くが、平成16年4月以降、他の都立学校へ異動し、又は退職した。
10 1審被告産経新聞社は、本件教育につき、産経新聞に4回にわたり記事を掲載した。


「事案の概要」
 本件は、1審原告らが、1審被告らに対し、1審被告らの上記各行為及び一連の行為が1審原告らま本件養護学校における教育の自由を侵害する共同不法行為に当たるなどと主張して、1審被告都教委を除く1審被告らに対して、それぞれ慰謝料約99万円の連帯支払を、同東京都及び同都教委に対して、教材等の返還を、同産経新聞社に対して謝罪広告の掲載を、それぞれに求めた事案である。

「原審の判断」
原審は、
@ 1審被告都教委に対する訴えを不適法却下し、
A 本件視察の際に、1審被告都議らが、対応した1審原告の教員2名に対し侮辱を行ったとして、また、1審被告都議らの行為は、旧教育基本法10条1項により禁止されていた「不当な支配」に当たるところ、1審被告都教委の職員は「不当な支配」から教員を保護する義務を負っているのに、これを怠ったとして、1審被告都議らに及び同東京都に対し、上記1審原告2名にそれぞれ慰謝料5万円を連帯して支払うよう命じ、
B 1審原告の教員10名に対する厳重注意は、裁量権を濫用したものであって、違法であるとして、1審被告東京都に対し、上記1審原告10名にそれぞれ慰謝料20万円を支払うよう命じ、
C 1審原告らのその余の請求は理由がないとして、これを却下した。

 これに対し、1審被告東京都、1審被告都議ら及び1審原告らがそれぞれ控訴した。


「当裁判所の判断の趣旨」
(今回の高等裁判所の判断)

1 原審の認定判断は、正当であり、本件各控訴はいずれも理由がない。
2 本件性教育は、学習指導要領に違反しているとはいえない。
3 1審被告都議らが本件視察において1審原告○○及び同○○に対してした言動は、同1審原告らに対する侮辱に当たり、不法な行為を構成する。
4 1審被告都議らの上記侮辱を1審被告都教委の職員らが制止するなどしなかったことは、教育に対する「不当な支配」から教員を保護するよう配慮すべき義務に違反したもので違法であり、1審被告東京都は、1審原告○○及び同○○に対し、損害賠償義務を負う。
5 本件厳重注意を受けた1審原告ら13名のうち、本件性教育を行ったことを理由としてされた1審原告○○外9名に対する厳重注意は違法であり、1審被告東京都は、上記10名に対し、損害賠償義務を負うが、本件性教育を行ったことを理由とするものとはいえないその余の1審原告3名に対する厳重注意は違法とはいえない。
6 1審被告らのその余の行為は、違法であるとはいえない。

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内容的には、1審判決をほぼ踏襲しているという。
1審判決の内容をもう少し詳しく、報告会配布資料から抜粋すると

都議らの「視察」時の保健室での言動について、「名誉感情を違法に侵害する侮辱」「侮辱にあたると同時に、政治家である都議らかせその政治的な主義・心情に基づき、本件養護学校における性教育に介入・干渉するものであり、本件養護学校における教育の自主性を阻害しこれを歪める危険のある行為として、『不当な支配』にもあたる」と認定

・都教委について、「都教委は、U(養護教諭・原告)らを立ち会わせないか、立ち会わせても本件性教育の内容や方針の当否について直接非難したり、詰問したりしてこれに介入・干渉する事態に立ち至らないようにする義務があった」「仮に本件性教育に学習指導要領に違反する点があるとしても、その是正は、被告都教委等の教育行政機関を通じて行われるべきものであり、特定の党派に属する被告都議らが直接本件養護学校の教員としてその教育内容や方針を非難する方法によって行われるべきではない」として、保護義務違反を認定。

・厳重注意処分の違法性については、「性教育は、教授法に関する研究の歴史も浅く、創意工夫を重ねながら実践事例が蓄積されて教授法が発展していくという面があるのであり、教育内容の適否を短期間のうちに判定するのは、容易なことではないと考えられる。しかも、いったん、性教育の実践がその内容が不適切であるとして否定され、これを担当した教員に対して制裁的扱いがされてしまえば、そのような取扱いを受けた教員その他の教員を委縮させ、創意工夫による実践事例の開発を躊躇させ、性教育の円滑な遂行が阻害されることになりかねないのであるから、性教育の内容の不適切を理由に教員に制裁的扱いをする場合には、このような点について配慮が求められると言うべきである」と判示。
都教委による厳重処分の基礎となった「こころとからだの学習」が学習指導要領等に違反していたという事実はないと認定し、裁量権の逸脱と認定

原審の限界として、
「不当な支配」を名誉棄損的部分に限定
・その結果、同じように萎縮的効果を生むはずの各行為に及ばなかった
(都議会での質疑、教材の没収、展示会、年間計画の変更、異動等について認めなかった)
被害の一連一体性、加害者の一体性を認めなかった
・都教委は大網的でなくてもいい、と余計なことを言った
・個人の名前は出ていないからと産経新聞を免罪


ある面、画期的な判断がそのまま残ったが、問題点もそのまま残った。
ただし、高裁判決は、七尾の性教育は学習指導要領に違反するものではないと言い切っている部分で一歩前進しているという。
また、教育の中身について、七尾と都教委のどちらの考え方が適切であるとは言っていないものの、中心的な争点のひとつである「発達段階の意義」について、七尾の教員たちは、「知的障害を有する児童生徒は、肉体的には健常な児童生徒と変わらないのに、理解力、判断力、想像力、表現力、適応力等が十分に備わっていないがゆえに、また性の被害者、あるいは加害者になりやすいことから、むしろより早期に、より平易に、より具体的、より明瞭に、より端的に、より誇張して、繰り返し教えるということなどが発達段階に応じた教育であると考えている。」と表現。
一方、都教委のほうは発達段階について、「性に関する知識をいつどのように教えるかということに関して、1審被告ら都教委は、概ねより遅い時期にで、より限定された情報を、より抽象的に教えるのが発達段階に応じた教育であると考えている」と書いているという。

判決文は数十ページに及ぶもので、そのことから、おざなりな判断をしたわけではなさそうだということは理解できた。
実際の判決文は後日、希望者に送付するということで、内容を見ていないので何とも言えないが。

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旧教育基本法では明確に打ち出されていた「教育への不当な支配」。これは、日の丸・君が代の強制にも言えることだと思う。それが新しい基本法であいまいにされ、様々な面で徐々に、支配ともいえるような国の教育への関与が進んでいる。
10条1項はなぜ設けられたのか。日本が戦争へと向かうときに、国民の洗脳に教育が利用されたからに他ならない。
その教訓が崩れつつあるということは、再び日本が戦争に突入する可能性をそれだけ高めている。

東日本大震災で、多くの命が失われた。自然災害ではなく、人の手で、人と人とが殺し合う、もっと多くの人々の命を奪い、もっと多くの不幸と先行きの絶望感を味あわせるのが戦争だ。勝つことのみを想定した戦争は、原発の安全神話と同じ。それが崩れたときに、「想定外」では済まされない。
私たちはもっと、未来に起ころうとしている厄災について、想像をめぐらせ、安心・安全を国任せではなく、自分たちの手で守らなくてはならないと思う。

なお、「ここから裁判」は最高裁にまで行くかどうかはわからないが、可能性はあると思われる。


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