2010/12/20 | 日本体育大学水泳部の宮嶋武広さん国昆明の高地トレーニング中に死亡した事故の裁判・人証調べ報告。 | |
2010年12月3日(金)、東京地裁631号法廷で、平成20年(ワ)第5160 日本体育大学水泳部の宮嶋武広さん(20歳)が中国昆明の高地トレーニング中に死亡した事故(2006年3月25日に発生。詳細はhttp://blog.livedoor.jp/m_takehiro/archives/2009-05.html にて)の人証調べが行われた。 裁判長は阿部潤氏。裁判官は飯野里朗氏と吉田達二氏。 この裁判は、2008年2月に、ご両親が学校法人日本体育会とコーチF氏を被告として東京地裁に訴えを提出。 宮嶋さんご夫妻とは、神戸の「全国学校事故事件を語る会」の集会等で何回かお会いしたが、確か最初の1回程度が公開で、あとはずっと非公開の弁論準備が続いていたと思う(私の勘違いでなければ)。 本来、裁判は公開で行われるもの。もちろん、公開で行われたとしても、わずか5分から10分の書類のやりとりだけで終わってしまう。それでも、大きく報道された事件や事故では、毎回、傍聴人がたくさん並ぶ。人々の関心は続く。 しかしこの裁判では、ようやく人証調べが公開で行われるとなったら、なんと1日に6人もの人証調べを詰め込んだ。 通常は、人証調べの前には1回程度は公開で口頭弁論が行われることが多いように思うが、それもなかった。 原告側は他にも証人申請していたが、裁判長は「必要ないでしょう」と言って、次回が結審。 裁判所が裁判の迅速化を目指していることは確かだろうが、本当にこれで十分な審議がつくされるのだろうか。 オリンピック出場選手を育てている人たちが、今回の事故には多く関わっているだけに、世間に関心をもってほしくないのではないか。裁判官に何らかの政治的圧力がかかったのではないか。当時、あれだけ大きく騒がれて、何の進展もないまま、世間の記憶から薄れていくのを待って、さっさと決着をつけてしまおうとしているのではないかと、うがった見方もしたくなってしまう。 この日の天気は朝から大荒れで、電車が止まったり、遅れたりした。 私は、この裁判の証人尋問は傍聴券が出て抽選になるのではないかと思っていたので、かなり早めに家を出たため、十分に間に合った。 弁護団と宮嶋さんは、前の日から上京していて、ダイヤの大幅な乱れに対してはセーフだったという。なかには、関西から来て、新幹線が大幅に遅れたために最初の証人尋問に間に合わなかった支援者もいた。 なお、裁判後に、いろいろな用事が入って、すぐにはノートをまとめられなかったこともあり、内容については不確かな部分も多い。また、いつもであれば、公開の裁判のあとの報告会で、すでにある程度の情報を得ているので、何が争点になっているのかを証人尋問のときにはある程度理解できていたり、用語についてもすでに何度か耳にしてなじんでいたりするが、今回はそれがなかったので、私の理解がついて行けず、とてもやりにくかった。 |
||
@ 昆明での合宿に参加していた武広さんの後輩・Hさん(男性)。 原告側の証人。 | ||
原告弁護士からの主尋問。 Q:ミクシーのメールについて。どういう仲間でやりとりしていたのか? A:水泳関係者。 Q:昆明の合宿について、Fコーチからどんな注意を受けたか? A:体調管理を注意された。風邪をひいたり。 Q:水分補給については? A:こまめにとるように言われた。 Q:他は? A:覚えていない。 Q:1日どれくらいの量? A:できるだけ多くとりなさいと言われた。 Q:練習中の水分補給はどのように? A:500ミリリットルのミネラルウォーターを1日2本。午前が2時間から2時間半の練習。午後が2時間から2時半。4時間を超えるくらいの練習で。 Q:水の摂り方は? A:一つひとつのメニューの区切り。体調に余裕のあるとき。 Q:注意は? A:特にない。 Q:日常の水泳部のメニューは? A:日曜日以外は毎日。朝が1時間半から2時間。午後が2時間から2時間半。各コース1リットルの押す式の容器で、いつでも、誰でも飲めるようになっている。 Q:水は誰が管理しているのか? A:マネージャーが管理している。 Q:どのくらい飲むのか? A:通常、夏はどんどん、その都度。 Q:午前中2時間くらいには? A:500ミリリットル以上確実に飲んでいる。 Q:昆明での、500ミリリットル2本というのは、量としては? A:足りない。 Q:どうして? A:午前と午後で2本を自分で考えてとらなければいけない。量の調整をしなければならない。 Q:水を飲んでしまったら? A:足りなくなったら言えという指示はあった。 Q:補給はあったのか? A:わからない。 Q:水が足りないとどうなるのか? A:足がつりそうになる。体がつりそうになる。 Q:そのようなことはあったか? A:あった。 Q:先輩と水が足りないよねということを話したことは? A:話した。水が足りないから、休みのときにまとめて買おうと話した。 Q:実際は? A:していない。 Q:Fコーチの指示は? A:覚えていない。 Q:3月23日の血液検査について。目的は? A:筋肉の疲労度を見ると聞いた。 Q:今までに検査したことは? A:ない。 Q:血液検査の結果は? A:事故当日の朝練の前、コーチが一人ひとりの数値を読み上げた。 Q:宮嶋くんには何と言っていたか? A:正常値から比べると足りない。まだやれるだろうと言った。 Q:数値は? A:400いくつ。 Q:検査結果のデータは見たのか? A:見た。血沈破壊度の参考範囲は24から195。宮嶋くんは484。正常値の倍くらいだった。 Q:コーチからのアドバイスは? A:とくにない。宮嶋くんに「足りないぞ」と言っていた。もっとタイムをあげろ、もっといけるだろうと言っていた。 Q:今までより強い指導だったのか? A:はい。 Q:他の人には? A:目立ってない。 Q:再検査は? A:ない。 Q:今までは? A:1回もない。 Q:水中ドルフィンキックについて。目的は聞いたか? A:覚えていない。 Q:50メートルの潜水練習は今までは? A:ない。今回初めて。 Q:水中での正しい姿勢を学び、心肺機能に負担をかけないことが目的だと聞いているが、推進力の違いはあるか? A:ある。 Q:きつい練習か? A:かなり苦しい。とにかく、きつい。 Q:何秒くらいで泳ぐのか? A:30秒切らないといけない。ゴール直前、頭がくらっときて、気持ち悪くなる。ぜーぜーする。 Q:ミクシーのなかで、練習について書いた? A:エラ呼吸しないと苦しいと書いた。昨年、プールでやった。久々だったが、中国より楽だった。 Q:高地と平地の差は? A:平地のほうが楽。 Q:ドルフィンキックは50メートル以外は? A:世田谷の25メートルプールを使って50メートルの潜水をした。25メートルで壁をキックできるので、精神的にも楽。ターンできるから。 Q:肉体的には? A:楽。 Q:秒数は? A:50メートルで2秒違う。 Q:事故後に合宿が何回かあったと思うが、その間、ドルフィンキックの練習は? A:なかった。 別の原告弁護士から Q:Fコーチが、選手に暴力をふるったことは? A:ある。 Q:いつ? A:中国の合宿に初めて行ったとき。 Q:何年生のときか? A:1年生のとき。 Q:今回の昆明の前か? A:はい。 Q:どんなときに? A:クラブ、お酒を飲む席に行って、一人ひとりの脇に女性がついて、タバコを渡された。吸っていないのに、受け取っただけで3回、全員殴られた。 Q:睡眠時間は?寝る時間、起きる時間は? A:早く寝ろと言われているが、決まっていない。朝は、体操の時間に間に合うように。 Q:具体的な数字を言われたか? A:覚えていない。 ********* 反対尋問 Q:今、仕事は? A:している。会社員。水泳からは離れている。 Q:昆明の合宿に際して、水分補給の講義だったり、注意は? A:ない。水分補給だけの講義は受けていない。 Q:練習用の1日500ミリリットル2本のペットボトルの支給は具体的には?手渡しで? A:はい。マネージャーだったと思う。 Q:マネージャーはどこから持ってくるのか?選手の部屋に箱に入った形で置かれていたのでは? A:そうだったかもしれない。 Q:水分はこまめに、できるだけ多くとりなさいということだったが、1日2本という制限は? A:あった。 Q:自分でもってこれたのでは? A:段ボールで渡されていても、何日分という形なので。 Q:コーチは、もしなくなったら言うようにと言ったのだから、仮に2本という制限なら、もっと下さいとなぜ言わなかったのか? A:言えなかった。 Q:休みの日に買いに行くこともできたのでは? A:安全性の面で、何を買っていいかわからない。 Q:日本でも売っているような清涼飲料水は売っていた? A:売っていたと思う。 Q:それであれば、安全であると考えられるのでは? A:そうですね。 Q:平成18年3月の練習メニューは非常にきつかったというが、昆明の合宿の目的は? A:日本選手権で結果を出すこと。 Q:誰を対象としていたのか? A:女子の強化指定選手のため。 Q:他の選手も自費参加した? A:はい。 Q:それなりのレベルが集まった合宿なのだから、ある程度きついのは当たり前では? A:はい。 Q:きつくても仕方がないと思うか? A:その点に関しては。しかし、きつさが違う。メインの練習と潜水トレーニング、きつさが違う。 Q:合宿全体では、仕方がないと思っていた? A:ある程度。 Q:コーチがモノ、金、女を使って、学生を従わせていたと書いているが、モノとは?買い与えていたのか? A:具体的には覚えていない。 Q:金は? A:ごはんを出してもらう。 Q:女は? A:クラブに連れて行く。 Q:それを使って従わせていたとは? A:きついことを乗り越えたら、そういうことがあるという意味。 Q:事故後のFコーチの人工呼吸をしていないと書いているが、事実と違うのでは?人工呼吸をやっていないと言っているのはあなただけだが? A:間違いない。 Q:あなたの記憶では? A:はい。 Q:コーチの行動をずっと見ていた? A:見ていた。 Q:日体大水泳部に在籍中、事件があって、注意を受けている? A:はい。 Q:それに対して、抗議文を学校に提出しているが、その頃から、コーチに悪い感情を持っていたのではないか? A:その頃からではなく、その前から。 ****** 原告弁護士から補足質問 Q:水分をこまめにとりなさいということだったが、なぜという具体的な説明は? A:ない。高地では体への負荷がかかる、平地の酸素の3分の1とは聞いている。 Q:だから、どういう負荷があると? A:覚えていない。 Q:水は言えば飲めるということだが、1日2本の制限があると意識していた? A:していた。 Q:普段の練習では、水のことは? A:考えていない。 Q:水分を摂るペースも考えなければいけないし、メニューも考えなければいけないと? A:はい。 Q:集中力という点では? A:ストレスになった。 Q:コーチに水が不足していると言えなかったのは、どうして? 言えば叶えてくれる状況にあった? A:言えなかったということは、そういう状況になかったと思う。 Q:コーチと日常的なコミュニケーションは? A:一部の人間とは。 Q:自分で水を買いに行ける状況にあったか? A:ない。 Q:なぜ? A:ホテルからスーパーに行く手段。言葉が通じない。タクシーについても。 Q:練習がきついのは当たり前ということだったが、練習メニューについて、コーチからどういう意味があるか聞いているか? A:聞いていないと思う。 Q:カリキュラムは決まっていた? A:決まっていたと思うが、その日の練習の直前に渡される。 Q:Fコーチには、学内の事件前から悪感情を持っていたということだが? A:高校生のとき、合宿で日体大と一緒になったときに初めて会ってやり方が。やりすぎ。練習後も部屋で正座させたりしていた。 Q:今回は女子強化指定選手の強化が目的で、あとの人たちはおまけでついて行っただけ? A:自分で行きたいと言った。 Q:自分たちにとっても意味があると言われて? A:はい。 Q:きつさについて。 A:しんどいからと言ってやめれない。 Q:自分でブレーキがかけられない? A:はい。 |
||
A 昆明の合宿に参加していたMさん(女性)。 被告側の証人。 | ||
被告代理人から主尋問。 Q:日本国内のみならず、代表として国際大会の日本代表選手のための練習にも参加した? A:はい。 Q:日体大水泳部のシーズン計画は、Fコーチが作成した? A:シーズン立ち上げのときに、ミーティングを召集する。 Q:開かれなかったことは? A:ない。4月は1年生が入るので、栄養や練習メニューのシステムについて説明する。シーズンごとにいくつかの説明をする。 Q:日々のトレーニングはFコーチが組み立てていた? A:はい。 Q:どういう機会に聞くのか? A:合宿や練習の前後。水泳部の講義で。 Q:メニューの組み立て方は? A:タイムスケジュール。何分前にアップなど。 Q:資料を渡すことはあるか? A:ある。 Q:陸上トレーニングについて、説明は受けているか? A:はい。 Q:その他は? A:サプリメントについてや試合のタイムテーブルなど。 Q:水中トレーニングについては? A:コーチは知識が豊富。 Q:どういうこと? A:代表合宿で、情報交換している。 Q:日体大は質のよいトレーニングを提供されていた? A:はい。 Q:Hさんは、練習がきつい、きついと書いているが、あなたはどう考えたか? A:私もきついと思った。 Q:きついとは、体罰になるような練習か? A:そういうことはなかった。 Q:他の合宿と比べて、コーチは不合理な点は? A:ない。 Q:宮嶋くんがやっていた水中ドルフィンキックというのは、他のメニューに比べてとくにきついということは? A:とくにない。 Q:死ぬかもしれないと思ったことは? A:ない。 Q:平成18年3月2日の昆明での合宿で、Fコーチは体調面について、指導やアドバイスはあったか? A:はい。水分をいっぱい摂れ。睡眠をとれ。好き嫌いせず食べなさいと言われた。 Q:飲み物は、どういう形で用意されていたのか? A:箱に入って、各部屋に用意されていた。 Q:自由に飲むことができるのは1日1から2本などという制限は? A:ない。 Q:足りないと感じたことは? A:とくにない。 Q:なくなったら言うように言われていた? A:はい。 Q:コーチに言えば、買ってもらえた? A:わからないが、まったくない状態とかならないと思う。 Q:言わなかったら? A:オフの日はスーパーに行けたし、ふだん食事をとる水を持ち帰れた。 Q:今までと比べて練習はきつかったか? 厳しかったか? A:いいえ。 Q:体調を崩したことは? A:ない。 Q:他の選手は? A:体調不良はなかった。 Q:宮嶋くんは? A:いたって元気にトレーニングをしていた。 Q:異変は? A:感じなかった。 Q:午後2時、水中ドルフィンキックの練習をしていた? A:はい。水中トレーニングのインターバルのとき、前を泳いでいた。2本目の前、「宮嶋がおかしいです」という声が聞こえた。 Q:コーチが走ってきて引き上げたということだが、時間がかかったか? A:いいえ。意識確認をして、心肺蘇生をしていた。 Q:あなたは心肺蘇生に加わったか? A:はい。 Q:他に加わった人は? A:女子選手2名が加わった。 Q:コーチが蘇生しないで、電話していたことは? A:ない。コーチは救急車を呼んでいた。 Q:心肺蘇生にかかわっていた? A:はい。 ***** 原告代理人から、反対尋問。 Q:各部屋に箱に入ったペットボトルがあったということだが、何本くらい? A:覚えていない。1人1箱あった。最初に配布して、なくなり次第配布された。個人でなくなる早さが違う。なくなり次第、コーチに言って、現地のひとに運んでもらう。 Q:今回は? A:記憶にない。 Q:その水はどういうときに飲むのか? A:練習や部屋にいるとき。 Q:練習中は? A:配布されたペットボトルを自分が飲む分だけ持って行って、各コースに置く。 Q:何本でも? A:はい。 Q:Mさんは? A:1、2本持って行った。 Q:1回の練習で1、2本ということだがなくなることは? A:500ミリリットル2本がなくなることはなかった。 Q:2、3本持って行って、足りなくなったらどうするのか? A:わからない。 Q:足りなくなったら、どういう症状になるのか? A:なったことがないので、わからない。 Q:足がつってしまうことは? A:つってしまう人もいたと思う。 Q:ポカリスエットとふつうの水とでは、どちらが疲労回復が早いか? A:ポカリスエットのほうが早い。 Q:今回はミネラルウォーターは? A:私個人としては、粉末を持っていた。 Q:睡眠についての指示は? A:固定はなかった。10時くらいには寝なさいと言われていた。大学生なので、各部屋に任せていた。 Q:3月23日の血液検査について。何のためか説明されたか? A:今の自分の体内の状態を検査して知ると聞いた。 Q:どういうときに説明されたか? A:覚えていない。前の日だったか、説明はあった。 Q:合宿が終わるときに、どういう説明をされたか? A:トレーニングによる疲労度を見ると言われた。 Q:事故当日に、検査の数値を発表しているが、説明は? A:結果を渡されたとき、個々に説明された。 Q:この数値を見なさいと、コーチは現物を持っていたのか? A:検査結果を渡された。 Q:どんな資料だったか? A:覚えていない。 Q:どんな説明があったか? Mさんには? 宮嶋くんには? ○○が高かったという説明は? A:筋肉の破壊度が高いとい言われることはあった。 Q:Mさんは? A:あまり高くなかった。 Q:説明は受けたか? A:覚えていない。 Q:午後の練習にどういう影響があるということだったか? A:覚えていない。 Q:血中乳酸について測ったことは? A:毎月ではない。各種目、メインが終わって言われたとき。 Q:何回くらい? A:4、5回。 Q:まったくとっていない人は? A:ない。 Q:Hさんは、記憶にないと言っているが。 尿検査は? A:ない。 Q:今まで? A:ない。 Q:代表合宿では? A:ない。 Q:水中ドルフィンキックについて、コーチから目的など説明を受けたことは? A:全体であったかどうかわからない。心肺機能の強化、体幹部分の強化と思ってやっていた。 Q:誰から説明されたのか? A:コーチから。 Q:いつ? A:記憶にない。 Q:Mさんは、水中ドルフィンキックの目的はという質問に対して、心肺機能の強化、体幹を使ってのキックなど、詳しくはわかりませんと書いているが? A:個人的には、自ら話を聞いて言われた記憶がある。 Q:自分でも理解し、情報共有していた? A:私は。 Q:Fコーチの陳述書には、水中ドルフィンキックは、正しい姿勢を身につけることを、ロングフィンをつけてトレーニングをすることで推進力が大幅に増すので、心肺機能に過度の負担をかけることなく行えるとあるが? A:私は、無呼吸状態でやっているので、心肺機能は強化されていると思う。 Q:目的は? A:詳しくはわかりません。 Q:コーチと情報をしっかり共有していた? A:はい。 Q:水中でロングフィンをつけて50メートルの潜水は、今回初めてだったのか? A:いいえ。 Q:いつ、やったのか? A:はっきりしない。 Q:高地では? A:定かではない。水泳関係の友達も同じように、高地で水中ドルフィンキックをしていた。 Q:どこで? A:米のプラグスタッフ(?)で。 Q:そんなに苦しいトレーニングじゃない?かなり負荷はかかると思うか? A:タイムも要求される。感じ方は個々に違うと思う。 Q:今回の事故後、50メートル行われることは? A:しない。 Q:なぜしないのか、説明は? A:とくにない。 Q:トレーニングメニューは個々人に対して作られるのか? A:選抜合宿では種目ごとに個々になる。 Q:今回は、種目別はあったが個々はない? A:はい。 Q:日体大のトレーニングは質が高いというが、データはとっているのか? A:残してあるかどうかわからない。 Q:血液、尿などの統計は? A:ない。 Q:コーチが暴力をふるっていたことは? A:ない。 Q:他の方は? A:ない。 Q:Mさんはコーチに殴られたと話しているが? A:知らない。 Q:日本代表の練習は、まったく同じ練習なのか? A:そうではない。 Q:検査数値はコーチが資料を持っていたのか? A:はい。 Q:(現物を見せて)この資料は、コーチがもっていたやつか? A:はっきりとではないが。 これは、わからない。 これは、記憶にある。 ***** 被告代理人から補足質問 Q:水分補給について、手元にある水がなくなったら言うように言われたか? A:はい。 |
||
B 日体大健康管理センターのO氏(男性)。 被告側の証人。 | ||
健康診断の問診票のチェックの経過観察、循環器系、自覚症状なし、異常なし、宮嶋さん本人からの相談なし、診断書の保管方法などについて、主に質問があった。 (割愛) 12時15分まで。 |
||
C 日体大 学友会指導者 K氏(男性)。 被告側の証人。 | ||
被告弁護士から主尋問。 Q:経歴について。 A:今年3月日体大を定年退職。日体大水泳授業の講師、クラブは水球競技を担当。学友会水泳部部長。 Q:今までの成果は? A:21年間、376連勝無敗。国際大会の監督。1984年ロサンゼルスオリンピックの監督など。 Q:水泳部の特徴は? A:競技によって内容が違う。水泳部は、水球、競泳、飛び込みと、いろんな種目が同居している。運営企画は執行部が行うが、日ごろの活動は別。 Q:部長の役割は? A:対大学との水泳部のまとめ。合宿や練習はブロックごとに別々に行う。 Q:他のブロックの活動は知っているか? A:合宿の練習計画は監督に任せている。大まかには把握している。 Q:平成18年3月25日のことについて。第一報は? A:結婚披露宴に出席していたとき、披露宴の最中にC監督の電話が鳴って、「宮嶋が亡くなりました」と聞いた。びっくりして、「どうなっているんだ?」と聞いたが、Cは「わからない」と言う。「すぐ、昆明に行きなさい」と指示した。 Q:両親を連れて行ったほうがいいのではということは? A:言っていない。翌日に行くということは聞いた。 Q:宮嶋くんが亡くなったことに対して、大学に願ごとをした? A:学生課を通して、執行部に連絡。学校葬をしてほしいと言ったが、できないと言われた。 Q:水泳部葬にしなさいと学長から言われた? 学校葬はどういう流れか? A:わからない。 Q:ご遺族が望んでいたのか? A:私はわからない。 Q:水泳部葬の葬儀委員長をあなたはやった? A:はい。 Q:葬儀委員長として何をしたのか? A:準備をした。○○寺は出席者が千名以上いるとできないと言われた。卒業生の葬儀屋に関空で会った。 Q:宮嶋くんの父親とは、いつあったのか? A:3月30日、関空で会った。父親が葬儀の準備のために先に帰ってきていた。 Q:父親と打ち合わせはしたのか? A:内容に関しては葬儀屋としたと思う。 Q:どういう内容を話したのか? A:詳しくは覚えていない。大切な学生が亡くなったので、どこでみても恥じないような葬儀をしてほしいと頼んだ。 Q:葬儀屋と父親との話は? A:私は参加していないので、わからない。 Q:雲南省から、封をした書類を受け取ったか? A:一切、受け取っていない。課長が一緒に行っている。私はまったくわからない。 Q:3月31日の棺の受け取り作業は? A:葬儀社が受け取った。自分も立ち会った。 Q:宮嶋くんのことは知っていたか? A:よく知っていた。彼はスーパースターだった。明るく元気のいい、スポーツマンだった。 Q:Fコーチと宮嶋くんの関係は? A:すごくいい関係だった。他の部員がうらやむのではないかと思うくらい。私のところならしないが、Fコーチは自宅で食事をさせたりしていた。2人の関係は非常に良好だった。 ******* 原告代理人弁護士から反対尋問 Q:Fコーチと大学との契約書を見たことは? A:ない。 Q:契約内容をおよそ聞いたことは? A:ない。 Q:何年契約か? A:1年契約。 Q:どの人もか? A:私が部長の頃は1年だった。今は3年契約になっている。 Q:ふだん、FコーチからK先生に相談は? A:指導助言はない。こういう選手ががんばっているなどという話は、プールの入れ替わりのときに話した。 Q:宮嶋くんが亡くなった時、どういう練習をしていたと聞いたか? A:潜水をしていて、体調が悪くなったと聞いた。 Q:どういう練習を聞いたか? 何メートルとか? 器具は? A:50メートルのプールで練習していたと聞いた。器具はわからない。 Q:現在は? A:50メートルの潜水としか、今も聞いていない。 Q:同じ練習を今もやっているのか? A:確認していない。種目が違うので、トレーニングのことがわからない。私が口出すことではない。 Q:昆明の合宿について。強化合宿の費用申請書の内容を覚えているか? A:点検して印鑑を押している。覚えている。 Q:昆明の合宿届にあなたのハンコがないが? A:最初の報告書にはこれがなかった。2回目に出てきた。 Q:Fコーチから、4人のスポーツ強化選手プラスアルファ8名ということは聞いたか? A:宮嶋くんが行っていることは知らなかった。書類は監督が出した。大学執行部に連絡して、私のところには連絡がなかった。 Q:強化選手が保険に入っているか聞いたか? A:必ず聞く。海外、国内、何があるかわからないので。 Q:宮嶋くんの保険は? A:知らない。彼が行ったことも知らなかった。 Q:現在、宮嶋くんの保険について知っているか? A:入っていなかったと聞いている。 Q:高地トレーニングの注意点は知っているか? A:私は水球が主なので、わからない。 Q:健康管理に気をつけなければいけないと知っていたか? A:はい。 Q:具体的にはFコーチがひとりで決めるのか? A:監督は知っている。それは競泳のやりかた。 Q:監督とは連携をとっているか? A:当然、練習の内容については連携はあると思う。 Q:FコーチとC監督は事前にどういう内容を決めたのか? A:どういう会話をしたか、現在も知らない。 Q:日体大は、今回のことを調査しているのか? A:していると思うが、聞いていない。 Q:競泳のコーチについて、誰かからクレームが上がっていることは? A:クレームも、称賛もある。どこにでもある。 Q:クレームで耳に入っているものは? Fコーチの対応で問題と思われる内容が上がっていたか? A:選手が練習をしたがらなくて、他のことに関心があると聞いた。 Q:体罰のクレームは? A:私のところには全くない。 Q:Aさん(女性)の父親から手紙は? A:覚えている。 Q:自分の思い通りにならないと、選手を罵倒したり、体罰があったということは? A:聞いた。監督に、親と話し合うように言った。 Q:監督とコーチに同じ手紙が来ていた? A:「どういうことだ?」と言って、ちゃんとするように話した。 Q:指導にかかわるFコーチが何度も触ってきたと書いた手紙は? A:手紙はあった。 Q:そのことについて、調査をしたことは? A:ない。 Q:コーチが遊んでばかりいるとC監督から聞いたことは? 公私混同しないように注意したことは? A:ない。 Q:体罰があったことは、どう考えているか? A:わからない。C監督が父親と話し合い、私は聞き手。私個人のコメントはしていない。 Q:Aさんが、Fコーチのメディスンボールを使ってのトレーニングで、最終的に肋間筋の損傷を負ったのは知っているか? A:知らない。監督から何も報告を受けていない。 Q:手紙が来たときはどうしたのか? A:Cに、「どうした。何があるんだ?」と聞いた。具体的な練習内容などはまったく聞いていない。私にも手紙が来ていると見せた。 Q:調査することとかは? A:しない。3つのブロックの監督にそれぞれ任せているので、処理しろと言った。 Q:宮嶋さんのようなときは? A:私を飛び越して、学校に報告していた。 Q:Aさんのことがあった監督に聞いたりしたか? A:ブロックの実権を任している。相談も全部。受けた報告は処置しているが、受けていないことは知らない。 ******* 裁判長から原告弁護士に、 裁判長:手紙のことは何の立証か? 宮嶋くんの昆明のこととは関係がないのでは? 弁護士:調査のひとつの反映として。 裁判長:だから、K氏は、ほとんど任せていると言っているんだから、それ以上のことではないでしょう。 ****** Q:昆明での事故のことは、日水連には報告しているのか? A:大学が報告している。 Q:報告書を見たか? A:見ていない。 Q:このことについて、相談を受けたことは? A:ない。監督とはしていると思うが、私は全くタッチしていない。 Q:宮嶋くんのお父さんの陳述書に、C監督と話したとき、日水連の報告書に、潜水トレーニング中というのが抜けていると言ったところ、あなたから、「なぜ、書く必要がある!」と言われたというが? A:一切ない!(大きな声を出す) 全部、大学執行部と監督がやった。私は一切、知らない。 Q:宮嶋くんの遺体を解剖するかという話を聞いたり、発言したことは? A:ない。 Q:父が作成した書類に、C監督から、K部長が解剖のことはこちらから言わないようにと言われたというが? A:あの素晴らしい宮嶋くんが亡くなって、気の毒に思った。私のできることは誠心誠意を込めて、葬儀をさせてもらった。大学が見舞金を持ってきたと思うが、それさえ知らなかった。 Q:システムとして、反省は? A:全くわからなかたので、答えられない。あれだけの人が亡くなったので、何とかしなければいけないと思うが、私も組織の一員なので、勝手なことは言えなかった。 Q:大泳会というOB会に出席することは? A:出席するときと、しないときがある。 Q:そこで、「宮嶋くんは寿命で亡くなったので、私はここに立っていることができる」と言ったことは? A:全くない。言ったひとを連れてきてほしい。 原告代理人から補足質問 Q:Fコーチと宮嶋くんとの関係について。食事をさせることを水球ならしないとは、どういうことか? A:水球はチームゲームだから、ヒーローはいない。1年生から4年生までみな同じ。宮嶋くんの場合、他の部員は何も感じないのかと思った。 Q:あなたが、「宮嶋くんの両親が、なぜ、このような裁判を起こされたのか、私は想像つきません」と言っていたという人がいるが? A:誰が言ったのか? その人はスポーツを知っているのか? どういう意味で言っているのかわからないので、答えられない。 裁判長から Q:事故報告報告書作成には関わっていないのか? A:誰が書いたか知らない。 Q:2回目の報告書は見たか? A:私は書いていない。印鑑を押していないので、私は書いていない。 Q:水泳部の部長の権限は? A:監督は私が指名する。どのひとをコーチにするかは話し合う。 Q:Fが適当か、 C監督と話したのか? Fを読んできたのは誰か? A:Fを選任コーチにしたのは、C監督。本来、4名のみ見ればいいのだが、全員みてくれと監督に話した。 Q:昆明合宿の部長決済で説明は? どういう話が出たのか? A:スポーツ局で認められたので、印鑑がほしいと言われた。出す前に、予算申請をして、スポーツ局がOKしたあとから出す。 Q:参加選手が、強化選手3名とコーチ1名ということは? A:申請書のハンコを押すときに見た。 Q:申請書にハンコを押すときに確認したことは? A:気をつけて行って来いと言った。 Q:他には? A:ない。 Q:事故後、調査のときの立場は? A:議論には参加したが、議題にはタッチしていない。 Q:議論に入らなかったのは? A:委員会には入っている。議題に出てくるまでの執行部の議論は知らない。 被告代理人から補足質問 Q:執行部とは、大学執の執行部を指すのか? A:水泳部の執行委員会を指す。 14時40分まで。 約10分間の休憩。 |
||
D 被告・Fコーチの尋問 | ||
被告代理人弁護士から、主尋問。 Q:平成18年3月に宮嶋くんが亡くなる以前、高地トレーニングの指導は何回くらい行っているのか? A:10回ほど行っている。 Q:最初はいつ頃か? A:平成11年の万国アジア大会前にアメリカの高地で、クラブスタッフとして行っている。 Q:この時の標高と、昆明の標高は? A:アメリカでは、約2200メートル。昆明は1850メートル。 Q:今まで、事故は? A:一切、ない。 Q:昆明での高地トレーニングはいつから始めたのか? A:平成17年3月から。この回で、3回目だった。 Q:トレーニング環境としてはどうだったか? A:中国の体育局の職員が万全の用意をしてくれて、素晴らしいものだった。通訳や、食事、大きな病院も手配してくれると、旅行会社から聞いていた。 Q:実際はどうだったか? A:その通りだった。 Q:平成18年3月の昆明での目的は? A:4月の日本選手権で優秀な成績をあげるため。 Q:対象と、本来の目的は? A:強化指定選手である女子選手の指導。 Q:宮嶋くんたちの参加は? A:強化対象以外でも、レベルが高い選手は監督の許可を得た選手は参加できる。 Q:強化対象選手でなくとも、メニューはこなすことができるか? A:十分にできる。日本の男子のレベルは、女子より体力レベルが上。日本選手権に出場して決勝に残れる一定のレベルがあれば、できる。 Q:それに達しないレベルの参加者は? A:いない。 Q:トレーニングのシーズン計画は? A:レース準備期間の合宿にあたる。 Q:昆明の練習メニューのきつさは? A:高地というきつさはあるが、内容的には普段やっていることと同じ。個別的指導のときには体を追い込むが、レース期は回復させる。 Q:高地トレーニングをするときの注意は? A:水分補給。平地以上にする。鉄分の補給。こまめにしっかりと。睡眠時間は疲労をとるために欠かせない。しっかりとる。 食事をしっかりとって、疲労を残さない。 Q:適応機関は重要か? A:はい。 Q:十分な期間が確保はされていたか? A:はい。 Q:日ごろの練習から疲労が蓄積していたことは? A:ない。年間通して、目的にあったハードトレーニングをしている。年末年始に合宿をしたあと、十分に疲れをとったうえで昆明に行った。 Q:昆明の合宿に際し、指導したことは? A:何回も経験した選手が多かった。水分補給は言った。 Q:水分補給は、ペットボトル500ミリリットルの水を支給したのか? A:間違いない。中国の体育指導の方から3回、毎回、段ボールで運んでもらった。最低でも1日2本は飲みなさいということで、各部屋に届けている。 Q:水は自由に飲んでいいのか? A:いい。なくなったら、私か通訳に言いなさいと言った。 Q:制限は?1日何本でもよいのか? A:制限はない。練習でも持っていくが、制限はない。 Q:練習以外は? A:オフのときも飲んでいた。 Q:部屋によってなくなり方が違うと思うが? A:なくなったら、言いなさいと言っていた。 Q:部屋は何人部屋か? A:2人。 Q:どちらということなく、飲みなさいということか? A:はい。 Q:練習中、見込と違って、飲みきってしまった場合は? A:私が気づいたときには、プールの横の売店で、スポーツ飲料が売っていたので、買って渡していた。水分が足りなくなったら言いなさいと言って、自分がもっているペットボトルをあげたりした。 Q:10日間の適用期間は? A:4日に1回適応期間とした。通常は1週間に1度休養期間。 Q:昆明合宿中、選手の体調管理は? A:水分のことがすごく頭にあった。体重管理したり、乳酸測定をした。食事や睡眠、顔色や状況で気づけば、本人に「どうだ?」と聞いた。マッサージで週3回、役所を活用していた。 Q:血液検査は過去2回の合宿でもしたのか? A:した。 Q:問題を指摘された選手は? A:いなかった。 Q:宮嶋くんも? A:ない。 Q:血液検査を行った医師から、異常値だと聞いたことは? A:何の問題もないと言われた。 Q:血液検査の知識は? A:脱水症状を見る。アメリカでもやっていたとき、ドクターにゆだねていたので。 Q:宮嶋くんに変わった様子は? A:ない。 Q:宮嶋くんはトレーニングが物足りない様子だった? A:はい。一度、部屋にひとりで来て、物足りないと言っていた。体力が余っていたのか、後輩の学生とバスケットをやったりしていた。 Q:昆明の合宿で、宮嶋くんが事故の直前にやっていたトレーニングは? A:ロングフィン、長い足ひれをつけ、潜水したままドルフィンキックをするトレーニング。 Q:目的は? A:体幹の安定。壁を蹴ったあとの浮き上がり。タイムアップが望まれる。幅20センチのシャープなキックを目指して、体幹を安定させる。ドルフィンキックの習得。 Q:心肺機能の強化は? A:高地トレーニング自体、心肺機能の強化をはかるもの。400、800、1500と、安定と技術を高くすることが一番の目的。 Q:ドルフィンキックの習得は難しいのか? A:壁を蹴ったあとのゴムをつけていれば、20センチ幅で安定し、やりやすい。素足だと、関節がじゃまして、幅が30センチから40センチになってしまう。水感を高める。 Q:ロングフィンは何のため? A:何もつけないより、ボディコンディションのスピード感覚が高まる。レースに近い。 Q:難しいことはないのか? A:難しいことはない。早く泳ごうと思えば、女子で25、6秒、男子で20秒を切ることも不可能ではない。宮嶋くんの場合も20秒を切る。50メートルを19秒で泳いだ選手もいる。 Q:水中ドルフィンキックをしていて、様子がおかしいなど、変調のあった選手は? A:なかった。 Q:異変が生じたとき、伝えたのは? A:Mさん。 Q:その時の様子は? A:Mから呼ばれて、見たら、硬直したような様子だった。壁を背にして、上を見て、歯を強くくいしばっているようだった。見てすぐ、異変だということで、プールサイドに引き上げた。 Q:救護は? A:意識確認をして、脈をみて、蘇生を行った。人工呼吸を2回、心臓マッサージを15回、繰り返した。 Q:体育局のTさんに救急車を呼ぶように言ったのはあなたか? A:はい。 Q:回収までの時間は? A:1分そこそこだと思う。Mさん、○○、○○と手分けをして人工呼吸をしていた。 Q:異変に気づいてから、救護から離れた時間は? A:ない。 Q:携帯電話で話していた事実は? A:ない。 Q:解剖を求められたのか? A:求められた。どうしてよいかわからないので、C監督に聞いたら、両親の意思を聞きなさいと言われた。 Q:解剖の同意書にサインしなかったのは、なぜか? A:私たちが行くまで何もしないでほしいと親ごさんに言われたので、死亡確認のところにマルをした。とにかく、傷をつけないでくれと言われたことは覚えている。 医師から、もう一度確認してほしい。時間がたつと、細かいことがわからなくなるから、48時間がいいからと言われた。再度、両親に電話したが、両親は傷をつけないで待っていてほしい、そばに付き添っていてほしいと言われたと思う。 Q:解剖の同意書にはサインはしなかった? A:しなかった。 ******* 原告代理人弁護士から反対尋問。 Q:昆明合宿前のレース準備期間は? 昆明の前はオーストラリアだったのか? A:鈴鹿、オーストラリアが、個別準備期間だった。 Q:昆明は高地という厳しい条件だった。平地と変わりないというときの平地とは、練習でいろいろ行った鈴鹿やオーストラリアを指しているのか? A:指していない。 Q:今、証人尋問にあたって、気になったことは? 中身のチェックは? A:わからない Q:昆明合宿の日程表はあなたがつくったのか? A:はい。 Q:てんまつ書はあなたが作成したのか? A:私ではない。大学で聞かれて、調書をとられた。 Q:内容については? A:所々、記憶にない。 Q:書類は尋問準備のときに見ているか? A:見ていない。 弁護士からもらって、一度目を通している。 Q:あなたが言ったことと、違っている内容は? A:ない。病院で時間を書いて、サインしてくれと言われてサインをした。 Q:選手たちと練習内容を共有するために、ペーパーを配布してとあるが、水中ドルフィンキックについては? A:それに関してはない。 Q:心肺機能を高める高地トレーニング。水中ドルフィンキックをすると、効果として水中での心肺機能が高まる。心肺機能強化が目的と選手に言ったことは? A:ない。 Q:Mさんと、目的意識の共有は? A:トップレベルの選手なので、している。 Q:今は、水中ドルフィンキックをしていない? A:行っている。内容は違うが、ドルフィンキックは重要性があるので対応した。 Q:潜水と全く同じ練習を事故直後は? A:やっていない。 Q:今現在は? A:やっていない。 Q:高地トレーニングは素人が実施すれば命の危険性もあるか? 死ぬこともあるか? A:知識や経験が必要であり、それぞれ考え方がある。経験がないより、あったほうがいい。 Q:高地トレーニングの安全管理の指針は見たか? A:はい。 Q:高地トレーニングの注意は? A:水分補給。食事や睡眠についての記述。 Q:てんまつ書には、健康面の話、水分補給の意識的にとらなくてはいけないとという話が出てこないが? A:水は当たりと考えていたので、書いていない。 Q:飲んでいるかどうかのチェックは? A:3食の食事の水分、オフのときもペットボトルを最低1日2本とるように言った。 Q:3月24日の夜に、うどんを食べに行ったときには、同行していたのか? A:一緒に行っていた。 Q:食欲は旺盛だったか? A:あったと思う。 Q:宮嶋くんに対して、健康管理の指導は? A:特別はなかった。 Q:チェックシート、練習日誌など、記録をつけさせる管理方法があると知っていたか? A:練習ノートをつけるように指導していた。しかし、大学生なので、把握する必要はない。 Q:どれくらいの時間、睡眠が必要だと指導したか? A:10時から6時の間は、必ず体を横にして睡眠をとりなさいと言った。最低7時間、毎日の生活のなかでとるように言った。 Q:パンフレットには、8時間を下回ってはいけないと書いてあるが、記憶にあるか? A:今は記憶にない。 Q:医師から聞いたのか? それとも私のカンか? A:はい。 Q:次の日の朝練習が6時。夜帰って11時。7時間にもならないが。 Q:3月24日、全員の検査結果を受け取ったのか? A:通訳が医師から受け取って、わたされた。血液検査の結果は受け取った。 Q:血液データをみて判断したか? 合宿参加者に説明したか? A:した。宮嶋くんには異常がないということを伝えた。記憶にあるのはそれくらい。 Q:CKとは何のことか? A:練習で、ウェイトトレーニング等で筋肉へのダメージが大きいと出る。 Q:血液検査は何の目的だったのか? A:筋肉へのダメージを調べるため。 Q:これ以外の資料はあったか? A:ない。 Q:今日の時点で、ヘマトクリット値で気づく点は? A:高いと思う。 Q:脱水との関係で気になる点は? A:ない。 Q:「高地における脱水による結果であることもある」と、あなたが作った文献に書いているのでは? A:私には言えない。○○さんが中心にやった。 Q:ヘマトクリット値が急激にあがっている場合、脱水症状で上がっている可能性はあるか? A:よくわからない。 Q:文献を作った時点で、データは提供しているが、中身まではわからないということか? A:はい。その時は知らなかった。 Q:脱水でKCがあがると、血液粘性が高まって危険ということは知らなかったのか? A:事故当時は知らなかった。 Q:脱水で血液粘性があがるのは危険だと知っていたから、こまめには水分を摂りなさいと注意したのではないのか? A:どこの数値が脱水かということは、わからなかった。ロー、ハイ、と書いてあって、通訳に大丈夫かと聞いたら、「大丈夫」と言われた。 Q:合宿届について、K氏は知らないと言ったが、あなたが作ったのか? A:自分は作っていない。 Q:存在は知っているか? A:見たことはある。自分が出したりは、K先生のハンコがついているもの。許可申請書。合宿届は学友会会長に出すシステムになっている。これとは違う形で、名前と住所を書いたものを出した。 Q:救急車が来たとき、あなたは乗ったのか? A:はい。 Q:来てから、どれくらいで乗ったのか? A:詳しくは記憶にない。到着した場所から、担架で50メートルの距離がある。ガラスドアが開きづらかったという印象がある。最後に乗った。 Q:他のひとに「行け」と言っていないか? 拒否反応を示したと書いているが? A:そういうことはない。 Q:病院に着いてからの容体は? A:病室に入れてもらえなくて、「蘇生はどうしている?」と何回も聞いて、一生懸命やっていた。 Q:脈や呼吸は? A:8から10人くらいの医者がやっていた。 Q:その時点で、書類にサインをしたのか? A:その時点ではない。 Q:この字は誰の字か? A:私のだ。 Q:3月25日、15時25分。病院で書かれているが? A:時間までは覚えていない。 Q:訳文を示します。「顔面蒼白。意識消失。両瞳孔拡大。生理反射なし。この時点で、死亡の確認をしているのではないか? A:死亡の際のサインは、それではなかったと思う。 Q:これは、どういう説明でサインをしたのか? A:よく覚えていない。 Q:昆明の病院でのカルテを預かったことは? A:ない。 Q:見たことは? A:ない。 Q:中国の医師は、Fさんに渡していると言っているが? A:もらっていない。 Q:大学の他のひとが入手したと聞いているか? A:ない。 Q:高いヘモグロビンの比較は何を意味するのか? 55%が高いという根拠は? A:「ハイ」と書いてあるから。 Q:他に根拠は? A:ない。 Q:CK検査はオーダーしたのか? A:記憶にない。筋破壊度は、水泳ではどうなるか見たいので。 Q:値について、説明したか? A:あえてしていなかった。午前中、2人の筋肉疲労の数値をみるということで説明を受けて、項目のCKとはそういうもの、全体的にそんなに高くないと言ったと思う。 Q:血液検査の用紙は渡して見せたあと、回収したのか? A:したと思う。 Q:説明は? A:個別に配ったそのあと。全体的に高くないと話した。 Q:一コーチとして、レベル向上をさせるためにデータをまとめたり、発表したことは? A:ない。 Q:水分、鉄分補給、睡眠の検証は? A:ない。 Q:水分は、のどが渇く前にとるというのは、あなたにとって、メルクマークとなっているか? A:はい。 Q:Aさんをメディスンボールを使ってけがをさせたことは? A:ない。 Q:診断書をつけて、手紙が来たことは? A:あった。 Q:謝罪は? A:していない。 Q:体を何度も触ってきたと抗議があったことは? A:抗議はあった。 Q:自分の思い通りにならないと、体罰をしたり、脅したりしたという抗議は? A:抗議はあった。 Q:保険の件について。4名、加入していると事前にK氏に報告したか? A:3名の強化指定選手のため。 Q:K氏から、保険について質問はあったか? A:なかったと思う。 Q:3名に保険をかけたと報告したか? A:していない。保険の話は具体的にしていない。 Q:実際には? A:4人。3人の選手と私には、スポーツ局の保険がかかっている。 Q:他のメンバーは? A:自主性に任せている。監督から、お金をかけるなと言われたので。 Q:他のメンバーは保険に入っていたのか? A:知らない。 **** 被告代理人から補足質問。 Q:危篤の知らせをした確認を求められ、サインをしたか? A:はい。 Q:車の中で、救急隊からではないか?救急隊が作成した書類に16時10分とある。カルテは16時10分。救急隊が作成した資料ではなかったか? A:そうだったと思う。 Q:あなたは、高地トレーニングの知識や経験はどこから得たのか? A:水泳連盟のコーチング、日本代表など、いろんな先生から。現場で覚えた。 Q:小中学生ではなく、判断能力のある大学生。宮嶋くんの心臓に異常があると聞いたか、健康管理に問題があると聞いたか? A:ない。 Q:練習メニューの報告は、日ごろ、しているか? A:している。練習メニューや合宿の報告はK氏にしている。 Q:健康管理の報告について、K部長から聞かれたことは? A:ない。 Q:K部長からハンコをもらった時に説明は? A:日本選手権に向けて頑張ってきなさいと言われた。 Q:K部長から質問は? A:なかった。 Q:水中ドルフィンキックについて。同じことをしているか、50メートル、高地トレーニングでという質問で、していないと答えたのは、今やっていることの違い、立ってできるからではないか? 横にしてやっていたものを縦にもできるよう改良したのではないか? A:はい。アンダーウォータードルフィンキックでもやっている。 Q:事故があったからやめたのか? A:学生から噂もたっていたので、影響も考えて変えていた。トレーニングとして重要だと思うので、併用してやっている。 |
||
E 原告・宮嶋さん(父親)の本人尋問 | ||
原告弁護士から主尋問。 Q:母親が証人として出る予定だったが? A:妻は、事故のことを直接、思い出すのが辛い。集中力に欠ける。 Q:体調は? A:よい。精神的にだらだらしている状態だった。 Q:妻がふいに涙を流すことは? A:あった。子どもに先立たれたすべての親の気持ち。夜眠れない日々。熟睡できていなかった。 Q:奥様のためにマウスピースをつくった? A:歯ぎしりをする。歯を食いしばってしまうので、マウスピースをつくった。 Q:心療内科にも行った? A:日体大の医者に言われた言葉が、「精神病院に行きなさい」と言われた。シャキッとしないので、サプリメントをつくってもらっている。状況を変えていかなければいけない。 Q:あなたも、体調に変化があった? A:バスのなかで急に、喘息になった。病院に検査に行ったが、異常なし。精神的なものではないかと言われた。 Q:大学を信じていた? A:子どもを預けた以上、日体大を信じていた。説明を待っていた、現地で適当に言われたことを信じていた。マネージャー2人が来て、今まで聞いていたこととは違うようににおわせていた。Cの前では言いづらそうだった。私たちが思っていたこととは全く違っていた。 Q:1つだけ願いが叶うなら? 1日だけ武広くんが生きてもどったら? A:・・・。ただ、眺めているのではないですか。 Q:この書類はいつもらったのか? A:昆明で、Fさんの名前が書いてあった。中国で説明を受けた。医者が一緒に救急車で行っている。一般的に、死亡で救急車で送ることはしない。若い、外国の人なので、万が一の奇蹟を考えて病院に連れて行くとFさんに説明したと聞いた。 Q:カルテは作られていたか? A:作ったと言われた。 Q:どうしたと? A:コーチに渡したと言われた。 Q:Fコーチに聞いたか? A:聞いたら、そんなものはもらっていないという返事だった。 ***** 被告代理人から反対尋問。 Q:自宅にいるとき、Fから電話で、解剖についてやりとりがあったと思うが、結論は?2人が昆明に行くまで待ってほしいと答えたか? A:はい。 Q:あなたの陳述書がある。12時間以内に解剖をしないと、正確な状況がわからなくなると言われたか? A:はい。パスポートを持っていなかったので、12時間では着けないとわかっているので、待ってくれと言った。 Q:12時間過ぎていたら意味がない。待ってくれという意味がないのではないか? A:それでだめだったら、そのまま、連れて帰ろうと思っていた。 Q:12時間ではなく、もっと長い時間だったのでは? A:いや、12時間。 Q:解剖することは考えていたのか? A:はい。 Q:医者には会ったか? A:8から12人が迎えてくれた。医者の説明はなかった。 Q:なぜ、解剖をしなかったのか? A:遺体の置かれている状況をみて。古い木造の病院の、土の上にビニールシートを敷いて子どもを寝かせて、トレーニングウェアをかけていた。これを見て、ここでは解剖しないほうがいいと思った。 Q:Cコーチから話を聞いていたが、8月のお盆に話を聞いて、それまで聞いた話とは違うというのは? A:学生から聞いた話。 Q:昆明の合宿に参加することは、武広くんから事前に聞いていたのか? A:4月に大学選手権があったとき、コーチから言われている。本人もその気になって、お金を振り込んでほしいと言ってきた。 Q:昆明の合宿は自主参加らしいとわかっていたか? A:自費で行ったので。 Q:学災給付について。 A:四十九日のとき、○○さんと学長が、お経をあげたいと言って来た。その時に、「こういうのを書いています」と言って、書類を置いていった。6、7月頃、「突然死で、病死なので、保険金はゼロです。しかし、保険会社に粘って見舞金を300万円出します。いいですかと聞かれた。私たちがかけていたわけではないので。案内なしに入っていた。 |
||
裁判長は、Aさんについての抗議の手紙の内容等についての扱いについて、直接は関係がないのではないかと言及。 原告弁護団は、手紙の処理の仕方に大学の姿勢が表れていると反論。 次回(2011年3月18日・金・東京地裁631号法廷)の最終書面で、その時に採否の理由を見て判断するという。 そして、他の申請が出ている証人については、いずれも必要がないとして却下した。 |
||
武田私見(あくまで、私見です! 原告弁護団の見解ではありません) | ||
大学生の事故の場合、今までの判例からすると、大学側に事故の責任を問うことは難しい。まして、自主性が尊重される部活動では。 しかし、今回は体育大学で、宮嶋武広さんは水泳の特待生だった。このことから考えると、当然、水泳で成果を出すことが本分であり、入学時からの彼に課せられた使命だった。そして、成果を出すために、自費負担してでも高地トレーニングに参加した。 これは、正課で教師から命じられて、行動することに等しいと思う。自主性を尊重すると口では言ったとしても、むしろ選択の余地はない。 スポーツ推薦の子どもたちの多くが、無理をしすぎて体を壊したり、ときには死に至ったりする。それは、入学条件としてスポーツで成果を出すことを求められていて、そのスポーツができなくなったら、部活動だけでなく、学校生活そのものを奪われてしまうからだ。そして、顧問、コーチの絶対性。日本のスポーツ界のどこに、選手が自分のやり方を押し通せる場所があるだろうか。 コーチは選手の生殺与奪権を握っている。気に入られれば、試合にも多く参加させてもらえる、気持ちよく練習できる環境を整えてもらえる。しかし、逆らえば、どんなに実力があっても、それを発揮するチャンスさえ与えてもらえない。自分の才能を伸ばす環境を奪われ、場合によっては、妨害もされる。 裁判官は今回、コーチの他の選手へのセクハラ疑惑や練習でけがを負わせたことを関係がないと言う。 しかし、コーチは選手に何をしても許される、選手はそれを甘んじて受け入れるか、夢をあきらめるかの二者択一を迫られる。その関係が理不尽であることを訴えても、大学側は取り上げない。救済ははかられないということの実証でもあると思う。 こんな環境下で、自分の体調に不安を感じていたり、練習方法に疑問を持っても、それを口にすることができるはずもない。そして、言ったとしても、それが取り入れられる可能性は極めて低かったということの実証にもなると思う。 武広さんは、コーチに命じられた通りの練習をするしかなかった。それ以外の選択の余地はなかった。そのなかで事故が起きた。本人には避けるすべはなく、コーチのみが避けることができた。 コーチは、高地トレーニングという、通常よりはるかに未知の部分も多く、危険を伴う練習のなかで、通常以上に安全配慮する義務があった。 しかし、その安全配慮は極めてお粗末なものだった。選手の健康管理やチェック、緊急時のための医療体制、などなど。 言われるままに、高地トレーニングに参加した選手たちには、その危険性を予知しろと言っても難しい。しかし、その計画を立て、学生を参加させたコーチには、あらゆる危険性に備える義務があったと思う。 今回のひとつの争点は「水分補給」。 傍聴後の報告会で、その意味を問うと、水分不足によって、血液の粘性が高まり、血栓ができたのではないかと弁護団は考えているという。 武広さんの遺体は、中国の遺体を土の上にベニヤ板を引いてただ寝かせておく、まるで災害の非常時にとられるような、事件直後の遺体にとられるような待遇を見たご両親が不安を感じ、中国では解剖を行っていない。 日本でも、解剖する医者が足りないなか、解剖後の遺体の縫合を医師ではなく、警察官が糸と針で適当に縫い合わせて、その遺体のぞんざいな扱いに遺族がショックを受けることもある。 遺体に対して尊厳をもって扱ってくれない国で、どのような解剖が行われ、その後の措置がどのように行われるか、不安を感じて当然だと思う。 日本に遺体を搬送して、その後、どうするか。突然の悲報に混乱する家族にそのとき、判断力はなかっただろう。 しかし、空港にはすでに大学の手により葬儀社が手配されており、自分で遺体を運ぶことができない家族としては、委ねるしかなかった。解剖されることなく、すでに整えられた手順に従って、葬儀を出すしかなかった。 あとから考えれば、死因を特定されたくない大学側に謀られたと感じるのは当然ではないかと思う。 国内での不審死の究明もおろそかではあるが、国外でも日本人の不審死があった場合の究明方法の段取りについて、しかるべき機関が指針を出してほしいと思う。 そういうときに、遺族側に立ってアドバイスをしてくれるひとがあればと思う。 死因が解剖によって特定されていないので、裁判で争うことは難しい。 あくまで、私の仮説だが、もしかすると、足りなかったのは、「水」だけではなかったかもしれない。 学校事故で、死に至るもののひとつに熱中症がある。汗をかいたときに、補給しなければいけないのは、「水」だけではなく、「塩」も必要であること、むしろ「水」だけを補給することは危険でさえあることは、スポーツを指導する人たちの間ではすでに常識であると思う。 武広さんの事故は3月。暑い時期ではない。しかし、熱中症は大量に汗をかくとき、真冬でも起こり得る。 私が想像しているのは、熱中症そのものというより、その過程で起きることが、武広さんの身に起きたのではないかということ。 「熱中症 - 息子の死を糧にして」(医師 中村純友著/2002年5月1日 悠飛社発行)から、いくつか引用する。この本は、大学の医学部に在籍していた長男がゴルフ部の合宿中に熱中症で亡くなったことをきっかけに医師である父親が書いている。 ・脱水症。急性循環不全。有効な血液の流れがなくなる状態。これらの表現はだいたい同じ意味を持つ。 ・日本体育協会の熱中症予防パンフレットには、体重の3%以上の水分が失われると運動する力や体温を調整する力が低下すると書いてある。 ・私自身は、脱水の症状としては、集中力の低下、顔色が悪い、ふらふらする、筋肉のけいれんの4項目を大切にしている。 ・スポーツに集中していると、本人は意外に症状に気づかないものである。あるいは気が付いていても自分が倒れるなどとは考えないものである。脱水症の発見には周囲の協力が不可欠である。 ・Naのない水だけの補給は血圧が下がりやすく危険である。 ・Naのない水だけの補給していると大量発汗のわりに口渇がないので水分補給が遅れて脱水の進行がおこりやすい。 (同書 P60-61) 運動前に電解質と糖分を含んだ水をのどが渇いていなくても体に補給したほうがいい場合 @ 強度の強い運動をするとき。 A 暑さに慣れていない人が急に暑さ環境で運動をするとき。 B 運動をすることのなかに競争心のあおりがあるとき。 C 運動が始まったら自由に水分がとれないとき。 (同書 P63-64) A (前略)通常は上部の膜が食塩を吸収を行っているため、一般平均として汗は水1リットルに2グラムの食塩が含まれている。 B しかし、上部の膜は大量に汗をかいたとき、その働く力が弱くなる。そのために大量の汗をかいたりすると、汗に含まれる食塩の量は急激に水1リットルの場合で9グラム近くに増えるのである。ただし、大量の汗を数日間かき続けていればその働きは弱まることはない。 C 体内の水分と塩分が欠乏すると血圧低下が起こりやすい。そのため、久々に大量の汗をかいた場合、塩分の吸収がなされず、血圧低下による意識消失の危険が生じるのである。 つまり早朝でも、冬季でも、また運動時間が1時間以内でも、運動により大量発汗がおこると熱中症になるのである。 (同書 P69) Na濃度の異常を放置しておくとどうなるか ・Na濃度の増減が問題ではなくて、血液の流れの異常をきたすことと細胞の異常をきたすのが問題である。 ・川のNa濃度が高くなることは血液が粘っこくなることである。池から川に水が流れるということは池の水が減ることであり、つまり細胞が脱水になることである。 ・血圧低下は意識消失につながり、細胞の異常は脳や腎臓などの臓器の機能低下を示す。 (同書 P74) ・厳しい暑さにさらされるスポーツ現場で水を大量に飲むのは危険である。電解質も補わなければならない。 ・Na欠乏性脱水では集中力の低下と大量の発汗と血圧の低下がみられた。 ・熱中症を軽症の段階で防ぐのは困難であると思った。なぜなら熱中症を疑う集中力の低下等は本人自身が気付かないからであり、血圧の低下で倒れるということは突然起こるのだからだ。 ・熱中症による不幸な事故を防ぐ対策は予防がすべてだと思った。 (同書 P81) 大切なことは、大量の汗は体内で「出血」をおこしている、と考えることである。 500CC以上の補給は必ず水と電解質の両方を補え、ということである。 (同書 P86) 武広さんの事故は、熱中症ではないだろう。しかし、体内メカニズムは同じだ。 激しい運動をすれば、大量の汗をかく。しかし、水中では汗は見えない。本人も、周囲も、大量に汗をかいているかどうかさえわからない。 た゜からこそ、コーチはこまめに、大量に水分を補給するように言った。しかし、汗で水分が出ていくと考えるならば、水ではなく、スポーツドリンクなどを用意すべきだった。 そして、Naが不足していると、のどの渇きを感じにくいという。水のなかではなおさら、感じにくいのではないだろうか。 まして、慣れない高地トレーニング。体のだるさや異常が、酸素の薄い高地での厳しい練習のせいなのか、水分やミネラル不足からくるものなのか、経験の少ない選手が自ら判断することはできないだろう。 Hさんは、証言のなかで、水分が不足すると「足がつりそうになる。体がつりそうになる」と話している。熱中症でも筋肉けいれんを起こす。一方、Mさんは自分で粉末のスポーツドリンクを用意していて、異常はなかったという。 当時、一選手であったMさんが感じていた電解質不足の危険性を、コーチであるなら当然、予測しえたはずだ。 Na不足により意識が混濁したり、消失したりするのが、潜水中であれば当然、死を招く。まして、高地でのトレーニング。それ以外の体に与える負荷も大きい。 私が気になってるのは、武広さんが事故の前日、うどんを食べに行ったということ。 体が塩分を要求していたのではないか。あるいは、慣れない食事や水質の違う水で下痢をしていたことも考えられる。だから消化のよいうどんを食べたかったのかもしれない。 熱中症で死亡した事故のなかにも、当日、下痢をしていたというのがある。 下痢をすると水分も、電解質も、汗以上に出ていく。 そして、海外での合宿では、自分で好きに食べたいものが食べられないだろう。塩のきいたスナック菓子を勝手に食べるということや漬物、味噌汁、梅干しなど、日本では知らず知らずにとっていた塩分をとる機会が少なかったのではないか。 スポーツ選手は必ず無理をする。科学的なデータを計画的にとって、ストップをかけるのは、コーチや監督の役割だと思う。 特に海外では、下痢をしやすい。ミネラルウォーターがただの水だったということもあるし、食事の際の氷はたいてい、ミネラルウォーターが使われていない。食事も慣れないものを食べるとお腹を壊しやすい。 最低限でも、熱と下痢の有無は練習前に必ず報告させるべきではないかと思う。食欲もあったようだとコーチは言っているが、スポーツの合宿では選手に吐いてでも食べさせるくらい、食べることは重要になってくる。 Kコーチは科学的なデータを安全のために活用するのではなく、むしろ数値を示して、十分な説明も根拠もなく、極限まで無理をさせることに使用した。 日体大の水泳部。単なる同好会ではない。合宿に参加した選手たちは、世界トップレベルの成果を期待されいた。苦しいことも、苦しいとは言えない。だからこそ、十分な科学的根拠に基づいた指導ができる人間が必要になる。そのためのコーチであり、そのための体育大学というスポーツ専門の大学ではないだろうか。 日本スポーツ振興センターの給付件数で、平成21(2009)年度の学校災害給付件数は2,041,736件。うち、死亡給付件数は68件。事故はなくなるどころか、年々増え続けている。 多くの学校災害の、とくに部活動や体育事故の背景には、体育大学のあり方が関与していると私は思っている。 どこよりも、非科学的な根性論を排除しなければならない、アカデミックであるべき場所で、根性論がまかり通っている。コーチと選手、選手同士の上下関係。負の遺産を背負い込んで、次の世代を同じように育てている。 勝負に勝つこと以上に大切なものがある。「安全」こそ、体育の指導者たちには第一に目指してほしい。 でなければ、スポーツ事故はなくならない。金メダルを狙えるような選手たちが、活躍の場を与えられる前に壊されてしまう。殺されてしまう。 |
HOME | 検 索 | BACK | わたしの雑記帳・新 |
Copyright (C) 2010 S.TAKEDA All rights reserved.