2009/11/2 | スクール・セクシャル・ハラスメント防止研修会(講師:精神科医 竹下小夜子さん)に参加して | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2009年9月27日、特定非営利活動法人スクール・セクシャル・ハラスメント防止関東ネットワーク主催の東京ウィメンズプラザで行われたスクール・セクシャル・ハラスメント防止研修会『親の二次受傷』に参加した。 講師は、精神科医の竹下小夜子さん。とてもわかりやすい資料と内容だった。 資料などもどんどん使ってくださいと言っていただいたので、少し時間がたってしまったが、そのときの内容をUPしたい。 |
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1.性暴力の実態 ●被害者の実態 @1997年、竹下小夜子さんが沖縄で扱った性暴力相談112例のデータから。 ・性暴力の約9割は、顔見知りや身近な人による犯行。 その3分の1は、同居あるいは家庭内に日常的に出入りする身近な加害者。「見知らぬ加害者」による犯行は11例、1割のみ。 A1998年、「子どもと家族の心の健康」全国調査から。 ・小学校卒業までに、女子の6.4人に1人、男子の17.5人に1人が身体的性被害にあっている。 ・女子の116人に1人は、小学校卒業までに強姦あるいは強姦未遂の被害にあっている。 B2004年、高校生の性被害の実態(アジア女性基金委託調査/野坂氏ほか)から。
C教育現場でのセクシャル・ハラスメント(2006/12 竹下小夜子氏 1997-2006年受診者データから)
2006年竹下氏個人データ概要は、 ・全て、身体的性被害、強制わいせつ以上。 ・小学低学年までの子どもは、保護者が受診させており、保護者の心理的動揺が深刻。 ・中高校生では、養護教諭など、女性教師や警察関係者等、第三者に勧められての受診が多い。 ・大学生以上では、勧められた場合も含めて、自発的に受診している。 ●加害者の実態 加害者(1人を除き、全て男性)
重症度および受診回数・期間 (人)
●被害者の特徴
※takeda私見 性的被害は一般に思われている以上に多い。ただ、被害を口に出しにくい環境にあるため、表面化しにくい。とくに、男性の被害は女性以上に偏見が多く、声をあげにくい。 竹下さんとお話した際、「報道されることはそれほど多くありませんが、じつは、いじめ被害に性的虐待がたくさんあります」「とても深い心の傷を残します」と私が話したところ、「私のところにもいじめによる性的虐待による心の傷で受診される方がたくさんいます」とのことだった。 |
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2.子どもの性被害の特徴 @イヤと言えない ・子どもは大人の言うことは何でも素直にききなさい」と教えられている。立場が上の人、特に大人に対して「イヤだ」と言っていいと教えられていない。 CAPの「NO」「GO」「Tell」には意義と価値がある。(CAPの本を親が子どもに読み聞かせるとよい) ・加害者が圧倒的な権力を持つ場合、声も出せず、抵抗しない傾向が大人以上に顕著。 ・暴力を伴う場合、いっそう従属的になりやすい。 A加害者による巧みな操作 ・低年齢の場合、加害者が愛情と虐待を混同させているケースも少なくない。 「いやだった」という一方で、「やさしかった」などと言う。それを聞いた親の怒りが子どもに向かうこともある。 ・秘密を共有することで、加害者に共犯意識を感じさせられ、罪悪感を抱いている場合も多い。 「ふたりだけで秘密にしておくことだよ」「知られたら、友だちもいなくなる」「話したら、みんなに信用されなくなる」「バラしたら殺す」などの脅しも。 B語れない状況に追い込まれている場合が少なくない。 ・「そんな目にあったお前は恥ずかしい存在」「あんたがぼんやりしていたから」など、親から叱られると思い、沈黙する場合もある。 ・親を心配させ、悲しませることを恐れて話せないこともある。 ・言っても、「信じてもらえなかった」「あんたの考えすぎじゃない?」と実際に言われたケースもある。 マッサージと称して触られたと訴えても「考えすぎ」と言われたり、夜布団に入ってきたと言っても、「寝ぼけて間違えたのではないか」と言われるなど。親が動揺して信じたくないためこのように言ってしまい、あとになって、冷静になって聞こうとしても言わなくなることもある。 C語れる言葉をもっていない場合もある。 ・いやだと感じるが、性器について正しい名称も知らず、被害が説明できない。 子どもを狙う加害者は性器の名称をきちんと言える子どもを避ける傾向があるというデータがある。 幼稚園までに、性器の科学的名称を教えることは意義がある。 カナダのメグ・ヒックリング著『メグさんの性教育読本』 ・俗称で性器を呼ぶと、「そんなことを言うんじゃない」「下半身にまつわることは言ってはいけない」と思わされているため、性器に関することは「話してはいけない」と感じている。 |
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3.被害の影響 @身体的・情緒的影響 不安、恐怖感、憂うつ感、イライラ、易怒性、集中困難、睡眠や食事のパターンの乱れ、登校に支障をきたすほどの痛みや苦痛、動悸その他さまざまなストレスの兆候、自己イメージや自尊心への影響、性的関係や一般の対人関係での自信のなさ。 A対人関係の変化 友人を避けたり、今までとは異なる人たちと付き合おうとする。 B日常生活上の変化 欠席、不登校、成績低下。ただし、成績が上がることもある(被害を忘れたいために勉強に没頭)。 C性的な関係についての態度や振る舞いの変化。 D自傷行為、希死念慮や自殺企図、非行等の問題行動、その他。 E外傷後ストレス障害(PTSD) ・当時の情景が迫ってくるように感じ、それを繰り返し思い出す。リアルに追体験する。 事件について何度も夢をみる、突発的なパニック、感覚や反応の麻痺、外部との関わりの減少、他者と疎遠になる、事件に関係する活動を避ける、事件を象徴する事物・状況等に過剰な反応を示す、過剰な警戒的態度、過度の驚愕反応、睡眠障害、その他 ・感覚麻痺: 他人事のように淡々と被害を語るなど。 ストレス反応のひとつ。 受けた衝撃が大きすぎるため、防衛のメカニズムとして、感覚の麻痺や記憶の脱落などが生じる。 子どもに多い反応。 ※警察も被害を疑うこともあるが、このようなケースほど心理的トラウマは一般的に大きいと考えられる。 ・性的な障害: 成長後に顕著になるケースがある。多くの場合、加害者より強制された特定の性行為に対する拒否感。 性行動に長期間嫌悪感を持ち続ける人は、個人経験では約25%。 一部に、奔放な性行動(「喜び」より、スキンシップによる安心感への飢餓、セックスなんて大したことではないと、被害の「無効化」の印象。) Fサバイバーのトラウマ ・トラウマは必然的に、その人の人間観、人生観、世界観、アイデンティティなどに影響を及ぼす。 ・トラウマによる孤立無援感、他者や世間への不信感など。 ・心理的回復の過程では、家族、友人、支援者との信頼関係の形成(=新たな体験)が重要な意義を持つ。 ・平成13年4月の、厚労省「性的搾取及び性的虐待被害児童の実態把握・対策に関する研究班」調査では、 刑務所に収監された女性受刑者の7割以上が、18歳までに性的虐待を受けていた。 3割はレイプなどの深刻な被害。 2割が近親姦被害。(近親姦は、社会的地位、経済問わず。小児性愛とは別もの。) ・後遺症がない場合もある 〜 Conte(1985年)「21%には後遺症なし」の調査結果を発表。 性的虐待を受けた369人対象(76%が少女、24%が少年) 性的虐待に伴う症状を示すのは、79%と多い。 しかし、残り21%は、後遺症などの問題が生じていない。 ◎どうして、問題が起こらなかったか? その重要な因子は、虐待の事実を認め、支えた大人が一人でも存在していたこと。 ※親の二次受傷ケアが大切。 再び人間を信頼できるようなるには時間がかかる。性を含めて、人間関係には温かさ、気遣い、優しさが不可欠であると強調。 |
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4.親の二次受傷 @親の動揺と混乱 ・一般的に被害にあった子ども以上に親、とりわけ母親の動揺が大きくなりやすい。 ・被害の態様、そのときの子どもの心情について、親は最悪の想像をしたり、逆に、心理的防衛から否認や過小評価に向かうなど、混乱と動揺が大きい。 ・一般的に、性暴力被害は、身体的暴力被害以上に、親の憤怒と屈辱感がより強い。 (例えば、強姦殺人の場合、強姦の苦悩のほうが大きいなど) ・高い共感能力に伴う必然的反応。 ・被害の重大な後遺症について、子どもより親のほうが知識を有している。一方で、その知識が中途半端なことによる絶望感。 (乗り越えられる、回復可能という情報がない) ・性被害は多く、母親も被害体験を持つことが少なくない。自らの体験と重なることによる動揺の激しさ。子どもの被害をきっかけに、母親がフラッシュバックやうつ病発症など。 ・子どもの回復の遷延化(せんえんか)につながりやすいため、臨床では母親のサポートが重要な場合が多い。(母親の不安定さが、子どもに影響しやすい) ・加害者が教師の場合、子どもを保護する立場にある者の犯行だけに、とりわけ、憤りとともにやりきれなさや無念の思いに親が苦しむ。(親の苦悩を見た子どもが、その後、事件について、親子に語りたがらないこともある) ・親の苦悩と動揺に対して、子どもが性暴力被害から心理的に回復することは可能な事実を伝え、子ども自身が援助を必要と感じるときは、こちらも力になりたい旨を伝えることは、親の心理的安定化に役立つ。 A加害者が地域で「いい人」と思われていた場合 ・被害を受けた子どもが感じる「恥」や罪悪感、混乱はより大きい。 ・母親の怒りはより激しく、無力感や自責感も強まりやすい。 ・周囲の衝撃と動揺が大きい。 (例えば、「あんなに尊敬されている人がそんなことをしたなんて、本当だろうか」などと不用意な言葉を言われ、被害を受けた子どもと家族の孤立・疎外感が強まりやすい) Bかなり後になって被害を打ちあけられた母親 ・親が動揺のあまり、「なぜ、もっと早く言わなかったの」などと、自らの動揺を子どもにぶつけることがある。 ・「気づいてやれなかった」「必要なときに守ってやれなかった」などの自責感。 ・加害者に責任を問うことがより困難になったと感じる無力感。 ・直後に打ちあけられた母親に比べ、「子どものために」被害について沈黙し、秘密にする傾向がある。 (母親の無力感や自責感、葛藤がより深刻化しやすく、母子ともに適切な支援を得られにくい。) C子どもが性被害にあった親へのアドバイス(プリントを常備しておいて、口頭での説明後に手渡すとよい)
D母親へのサポート ・適切な支援により、子どもの心理的回復は可能なことを話す。 (「本人の虐待の事実を認め、受け入れる大人がいるか否かが、回復の鍵になる」など。) ・サポートする人との関係では、母親自身、どんな感情もありのままに安心して表出してよいことを話す。 ・一人ぼっちではない、こちらも力になりたいことを話す。 ・情報の提供。(婦人科受診、法律相談、加害者に責任を問う方法など) ・Cの「子どもが性被害にあった親へのアドバイス」のプリントを渡す。 ・支援機関や団体の連絡先。 ・電話による紹介、依頼状、付き添い同伴。 |
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5.支援のために知ってほしいこと @被害者への二次加害の背景に、「男性生理」をめぐるウソ。 ・「男性は強い性的欲求にかられると自らをコントロールできなくなる」はウソ。 「自動的」「衝動的」反応ではない。性的興奮から、公衆の面前で押し倒す人はいない。加害者が暴力や脅しの利用できる状況をしっかり選択している。 ・「男性は女性以上に生理的にセックスを必要とする」はウソ。 射精は生身の女性を必要としない。 A恐怖と動揺と混乱とで、「抵抗どころか叫ぶことすらできなかった」被害者が多い。 ・「逃げる」「叫ぶ」「抵抗する」のどれか一つでもとれた女性は、12%のみ。(1997年竹下氏のデータ) ・「抵抗すればレイプなどできない」「本当にイヤなら、最後まで抵抗するはずだ」の誤解。「抵抗どころか叫ぶことすらできなかった」人が大半で、「ケガもしていない」のが一般的。けっして「合意した」のではない。 B「抵抗」に関する男女意識差。アイオワ州立大学の研究。 ・男子学生の大半は、レイプに直面した女性の激しい抵抗を肯定的に評価。 ・女子学生の多くは、レイプに激しき抵抗する女性の行動に、否定的な評価。「抵抗し暴れれば、加害者のさらなる暴力を誘発し、殺されるかもしれないから、賢明で分別ある行動とはいえない」との回答が多数あった。 C「未遂」と「既遂」とで、重症度に違いはない。 ・強姦及び強姦未遂との間で、心理的後遺症の重症度に違いはない。 ・既遂か未遂かを問わず、心理的外傷は苛酷。 ・膣へのペニスの挿入を意味する「姦淫(かんいん)」より、アナルセックスやオーラルセックスの方が、身体的・心理的外傷が重篤な場合もある。強姦罪より、強制わいせつ罪のほうが罪が軽い現行の司法判断の妥当性には疑問。 D多くの人が被害者に落ち度を見つけたがるのは、「安全神話」への願望。 自分や家族は気をつけてさえいれば、安心だと思いたい。「善良に誠実に生きていれば、努力は報われる」という人生への公平さへの願望が背景に存在する。 実際には、誠実に、善良に生きていようが、被害にあうことはある。性暴力自体、本質的に理不尽なもの。 E被害者に正しい情報を伝える ・被害後、シャワーを浴びてはいけない。証拠となる残留物が全て洗い流されてしまう。 (沖縄では、110番すれば、私服女性警官が専用車両で婦人科に搬送。診察・診断書料が無料になる) F婦人科の受診の必要性。 ・緊急避妊ピルを72時間以内に2回服用すれば、妊娠を回避できる。 ・STD(性的感染症)の検査は、被害の約5日後からは、ほとんど可能になる。 ・HIVのみは、抗体ができるまでに3カ月かかるため、3カ月後からしか判明しない。 (保健所で匿名・無料で検査ができる。ただし、要予約) G被害を打ちあけられたとき、かける言葉。 ・「正直に打ちあけてくれてよかった」「正直に話してくれてありがとう」「話すのはつらかったと思う」の声かけ。 (「話してくれてよかった」+「あなたを信じます」のメッセージ) ・「(これだけはわかってほしい。)あなたは悪くない」(最も重要なキーワード) ・「あなたは一人ぼっちではない」 ・「力になりたい」 Hしてはいけない、言ってはいけないこと。
I自責感の軽減化をはかる ※心理的回復支援ではとりわけ重要 ・「怒り」はいちばん健康な回復 ・「私がばかだった」「私も悪かった」「恥ずかしい」「情けない」など、自責感を伴う抑うつは回復が長引きやすい。 ・「あなたは悪くない」「加害者だけに全面的な責任がある」と、断固たる姿勢を貫くことが重要。 J混乱と動揺、フラッシュバックに対して ・「決して気が狂ったのではありません。被害にあった人の一般的な反応です」 (どんなに激しい情動反応も、「被害にあった人の一般的な反応」と理解してもらうと、かなり落ち着いてくれる) ・「フラッシュパックが出現するのは、最悪の困難な時期を通りすぎて、目の前が安全なときだけです」 ・痛み刺激は即効性のある精神安定剤。 パニックのとき、輪ゴムを手首にはめて、バチンとやる。手のひら、へその下、大腿部、でん部などを強くたたく。 (リストカットを覚える前にこの方法を知っておくとよい。リストカットとは違い、傷跡が残らない) K激しい怒り、怒りの拡散に対して ・激しい怒りや暴力をふるう夢に、本人自身が怯えることが多い。 ・「怒りを感じるのは、順調な回復を記しています」 ・支援者は、本来加害者に向けるべき怒りの拡散の安全なターゲットになりやすい。個人的に受け止めないこと。 ・怒りを適切に方向づける。私はあなたの側に立つというメッセージを伝える。「ひどい仕打ちをした加害者に、私も怒りを覚えます」。 L「死にたい」と打ちあけられたとき ・「死にたい」気持ちが納得いくまで聴く。 ・なるべく、「なぜ」という言葉は使わない。「いつから、そう思うようになったの?」「何かきっかけでもあったの?」 ・「死にたい」気持ちの徹底受容。「たしかに死にたくもなるよね」 ・死にたい人は孤独。孤独感へのアプローチ。「あなたは一人ぼっちではない」。 ・勝手に死なない約束をする。返事をしない人、生返事は危険。「わかった」と言ってくれれば、信頼してくれている。 ・次の約束をとりつける。「○○に、どこかに行こうか」 ・キーパーソンに理解を求めることの同意を得る。「お手伝いさせてほしい」。 M全ての感情は役立つ ・「怒り」は、心理的回復を最も促進させる。人間の創造性と密接に関連。自分の納得のいく人生、決意を固めるのに役立つ。 「どんなに怒っても当然です。ただし、行動を選ぶ際には、ご自分を守れるように、気をつけてください」 ・「恐怖」は、自分を守るために用心深くなれる。 ・「不安」「緊張」は、周囲に注意深くなれる。 ・「退屈」は、新たな取組のときを気づかせる。 ・「空虚感」は、過去の人生と決別し、新たな歩みを始める前の必然的プロセス N自己分析は役立たない ・困難な時期、原因がわかれば問題が解決できるのではと自己分析する人は多いが、困難に陥る自分を上手に解釈・説明できる自己分析物語ほど、「自分がこうなるのも必然的」という宿命的無力感に縛られやすい。 ・過去は大きな影響を及ぼすが、現在や未来を縛りはしない。 最後に、臨床家アリス・ミラーの言葉 「誰か一人でもいい。その人のほんとうの気持ちを理解し、受けとめてくれる誰かがいてくれたか、否かが決定的な違いを生む」。その「誰か一人」は、血のつながりの有無も問わず、性別も問わない。 ※takeda私見 「支援のために知っておいてほしいこと」は、性的虐待被害だけでなく、いじめなどの相談をうけるときにも共通している。 |
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