わたしの雑記帳

2009/2/5 柔道事故・斉野平(さいのひら)いずみさんの民事裁判、控訴審

2009年2月3日(火)、午後1時30分から、東京高裁424号法廷で、斉野平(さいのひら)いずみさんの控訴審第5回目が開かれた。裁判長は渡辺等氏、裁判官は西口元氏、山口信恭氏。

控訴人(斉野平さん側)は、前回、裁判長から求められた「安全配慮義務違反」について、具体的に、誰に、どういう義務違反があったと設定するのか。安全配慮義務をつくすためには、誰に、どういう行動が求められるのか。準備書面を提出した。

渡辺裁判長は、主張の整備がなされ、問題点が出てきたとしたうえで、「本件事故は合宿中に起きた。親の観護のもとを離れて運動部の活動に参加。その時に、合宿について指導なり監督なりする立場で、事故を認識したとすれば、どういう行動をとるべきであったか、問題点は出ていると思う。裁判所としては和解を勧告する準備はできているが、準備書面6への反論を出したうえでのほうがよいか、どうか?」「議会との協議もありますよね?」と被控訴人である埼玉県に尋ねた。

埼玉県の代理人弁護士は、次回、反論を出してからのほうがよいと答えた。
次回、3月17日(火)、午前11時から、東京高裁424号法廷で、弁論を行ったのち、和解のための話し合いに入る予定。
一審で原告敗訴したこの裁判で、裁判長が和解を口にしたことで、少し希望が見えてきた気がする。

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裁判終了後、原田弁護士らから、支援者に説明があった。
今回の柔道部合宿中の事故について
、いずみさんが植物状態になった原因は、「セカンドインパクト症候群」であることは、いずみさんの主治医の意見書でも、県側の医師の意見書でも、同じような内容が出てきており、医学的な論争にはなっていないという。
この「セカンドインパクト症候群」というのは、頭を打って脳に血腫ができた状態で、回転力が加わり、脳内の架橋静脈が切れたことをいう。こ
れは、広く知られていることであり、顧問教師には、起こさないよう注意する義務がある。
準備書面では、かつて原田弁護士が担当された高知県高知市の私立土佐高校の落雷事故(S960813)の教師の「思ってもみなかった」から「予見できなかった」という主張の「知らなかったら責任なし・知っていたら責任あり」を否定した判決を引用して、
、部活顧問の安全配慮義務違反を主張したという。
また、柔道事故については、日本体育・学校健康センターが発行している「学校の管理下の死亡・障害事例と事故防止の留意点」にもたくさんの事例が紹介されているのを証拠提出した。

そして、顧問教師が、いずみさんの頭痛を知らなかったということはありえないということの主張に準備書面の多くを割いたという。地裁判決では、母親が生徒の証言を集めた録音テープを「信用性がない」と否定された。
しかし、それをもう一度、母親の陳述書として提出。
また、生徒の証言や顧問らの陳述書をもとに、時系列で細かく、いずみさんの行動を特定し、一覧表に作り変えた結果、今回の傷害の原因となる頭部を打ったのは、合宿2日目の午前練習であると推測。3日目の朝には血腫ができて、頭痛を訴えるなどいたとしている。
それが、合宿最終日の5日目に、無理に乱取りに参加させたことで「セカンドインパクト症候群」により、脳内の架橋静脈が切れたと主張。

いずみさんが「頭が痛い」というのを一切聞いていないという顧問らの証言はきわめて不自然だが、仮に知らなかったとしても、3日目にいずみさんが、ほとんど練習に参加できず応援に回っていたときに、理由をきくなど声かけをすべきだったこと。4日目に柔道場で横になって休んでいたとき、あるいは5日目の玄関と柔道場の間の廊下の真ん中で寝ていた状況をみて、医師の診断を受けさせるべきだったと主張した。

大きな過失としては、4日目にいずみさんが泣き出したとき、5日目の乱取りに参加させたときに気づくべきだったとする。
柔道の本には、「初心者が技をかけようとしたときには、上級者はかけられなければいけない」と書いてある。しかし、いずみさんは技をかけようとしても、技をかける力が残っていなかった。ここで異変に気づくべきだったが、顧問は投げ技をかけ、背中から落ちて、立ち上がれない状態になった。

また、控訴人の弁護士らは、顧問が2人いながら、合宿の途中、2日目、3日目、4日目と顧問は1人ずつになっていることにも注目。適正な引継ぎが行われなかったことも、原因のひとつではないかと主張している。

さすがに、多くの学校事故の裁判を扱っている原田敬三弁護士らしい、明快な主張の展開だと感じた。
ぼんやりとしていたものが、私たちの目にもわかるように、だんだんはっきりと見えてきた気がする。

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今回、上記の主張に加えて、斉野平さん側の弁護団は看護費用の算定を見直して、申請したという。
現在入院している病院を近く、出なければならないが、差額ベット1日1万円から2万円のところしか、もう受け入れ先がないという。
患者の病院たらい回し事件は後を絶たないが、救急搬送だけでなく、重度の障がいを負って、継続的な医療でしか命をつなぐことができない人たちの受け入れ先が見つからない。常に、次の受け入れ先の心配をしなければならない状態がずっと続いている。
子どもの重度障がいという精神的なショックに加え、介護の肉体的負担、そして重くのしかかる経済的負担。先が見えない、安心のない医療体制による精神的重圧。被害者とその家族が、なぜここまで大きな負担を背負わされなければならないのかと思う。

事故は起こしていけない。しかし、残念ながら、必ず起きてしまう。
そのあと何ができるのか。再発防止と、障がいを負っても安心して頼れる国のセーフティーネットの充実しかないと思う。
どちらも、ちっとも進まない、もしくは大きく後退している。この国の政策のツケが、苦しんでいることたちをさらに追いつめていると思う。




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