わたしの雑記帳

2005/11/20 「うつと自殺」「薬物依存症と家族」2つのセミナーに参加して

2005年11月18日、セミナー2つをハシゴした。ひとつは、「うつと自殺」について。もうひとつは「薬物依存症と家族」について。根源となるところは同じで、まるで一続きのセミナーに参加している気さえした。そして、いじめや少年犯罪を考えるうえでヒントになることがたくさんあった。私が以前から感じていながら、うまく言語化できずにいたこと、疑問におもっていながら答えが出なかったことに対して、わかりやすく解説してくださった。

専門家に対して私自身は、専門家だからといってわかっているとはかぎらない、一般人以上に思い込みが多いなど否定的な思いを抱くことも多い。一方で、やはりそのことに長年、真剣に取り組んできた人たちの洞察の鋭さ、ものごとの本質を見抜く目には太刀打ちできないと承服してしまう。

とても実りあるセミナーだったので、備忘メモを兼ねてここに報告をUPしたい。
ただし、当日のメモをもとに再構成しているので、聞き違いや思い違いもあるかもしれない。

川崎市精神保健福祉センター主催
こころの健康セミナー メンタルヘルスと自殺予防 第1回 中高年の自殺予防とうつ病
帝京大学医学部付属溝口病院精神神経科医長 張 賢徳 氏 のお話から

現在は、自殺の第3の山と言われており、1998年から毎年年次自殺者数は3万人を超え、大きな社会問題として認識されはじめた。
自殺者の70%以上を男性が占めるそれは世界的にも言われていることで、男性は女性の2倍。
女性の自殺者数に大きな変化はない。男性の自殺者の増減がそのまま全体の推移として反映されている。

過去の山を見てみると、第1の山は1955年。戦後約10年目。20台の若者の自殺が激増した。
彼らは戦争時10歳前後だった。戦後はがらっと価値観が変わった。先行き不安が自殺へと追い込んだのではないかと言われている。

第2の山は1986、7年。理由はよくわからないとされてきた。オイルショックによる経済不況から10年後に自殺者が増えている。
しかし、経済がよくなるとともに減少した(と言っても2万人台)ので、今まであまり問題とされてこなかった。

第3の山は、1991年でバブルが崩壊した後。現在は、勝ち組と負け組みなどの言い方をされるように2極化している。実際に、自殺者に無職男性が増えている。
経済的理由が自殺率を引き上げていることは確かなようだ。

女性の場合、一旦、20〜24歳でピークを迎え、30台で下がってのちは、年齢が上がると自殺率が増えている。
男性の場合、50歳前後(45-60)と75歳以上の高齢者の自殺率が高い。
とくに高齢者のうつは見逃されやすいので、注意が必要。

自殺は、理性的な自殺と精神疾患による自殺とに分けて考えられるが、自殺者の90%以上が精神障がいの診断がつく状態で、最多がうつ病。これは、時代や文化を超えて認識された事実で、アメリカやヨーロッパとも共通している。ただし、すべの既遂者が精神科医療を受けていたわけではないので、遺族からの情報をもとに精神医学的な診断をつけたものを含む。
なお、若年期(39歳以下)に絞っていえば、45%を統合失調症(かつての分裂症)が占める。
統合失調症というのは、思考力のまとまり(統合)がバランスを崩す(失調)病気。幻覚が見えたり、妄想を抱いたりする。ただし、自殺は幻覚や妄想時ではなく、むしろあとに多い。
青年期に発症しやすい。
中年期(40-59歳)は、うつ病がもっとも多く45%を占める。(いずれも救命センターの調査データを使用)

精神疾患がなぜ自殺につながりやすいのか。2つのアプローチがある。1つは生物学的な原因探索。2つは心理学的な原因探索。
抑うつ状態がなぜ自殺に関係するのかは、
@うつ病性の認知(ものごとの捉え方)障害による。弱気、マイナス思考、自責、悲観、絶望などの考え方が強くなる。
A生のエネルギーの枯渇。
B死の本能。これについては賛否両論がある。動物行動学的にみて、たとえばレミングねずみなどのように増えすぎると集団で川に落ちる、すずめの大群が集団で絶壁に激突死するなどの例が報告されている。全滅を防ぐために遺伝子レベルですでに組み込まれていて、スイッチが入るのではないか。

自殺を生物学的に見ると、うつ病のひとの自殺後に解剖して脳を調べた結果、脳のモノアミン神経系と呼ばれる3つのホルモンが減少していることがわかった。
セロトニン。減少すると、衝動的になり不安やいらいらに落ちやすい、攻撃的になる物質。
ノルアドレナリン。覚醒をつかさどる。減少すると気力が落ちる。
ドーパミン。快楽をつかさどる。
これらの減少は、話を聴いてよくなるレベルを飛び越えてしまう。医学的病気のレベル。

自殺予防に、うつ病の早期発見が役立つ。実際に自殺率を低下させた例がある。
1つは、スウェーデンで、プライマリケア医(一番最初にかかる医者、かかりつけ医)へうつ病の教育プログラムを実施したところ、10〜15%減少した。
もう1つは、日本の新潟県松之山町の取り組み。高齢化率の高いこの地域で自殺がたいへん多かった。調査の結果、自殺したひとの多くがうつを発症していたことが判明。町の高齢者全員に20項目のうつ病チェックリストをやってもらった。ひっかかった人を対象に医師が問診。うつ病を早期発見し治療することで自殺率が低下した。

うつ病発見の際に実は問題点があることがわかった。スウェーデンの研究で自殺率が低下したのは、当初は女性のみで男性は変化がなかった。
調査の結果、男性と女性ではうつ病の症状の現れ方が違うこと、同じ項目のチェックリストではあてはまらないことが判明した。男女別々のスクリーニング項目を開発することで改善した。


うつの症状は、年齢、性別ごとに出方が違う。

高齢者は、体の症状の訴えが強く出る。仮面うつ病と呼ばれる。
「あっちが痛い、こっちが痛い」「体が動かない」「ふらつく」など。しかし、病院に行って検査をしても異常は発見されない。

中高年の場合は、病院にかからないことが多い。弱音を吐かずにこらえる。微笑みうつ病と呼ばれるのはサラリーマンに多い。

男性の場合は、うつ一般で言われる、気分が落ち込むなどとは違った形で出ることが多い。
いらいらして攻撃的になる。怒鳴り散らす。焦燥感、不安感にに襲われる。アルコールや薬物に依存するなど。激越型うつ病と呼ばれる。

子どものうつ病も増えている。ストレスが多い、体を動かさないことなども要因。子どもの糖尿病が増えたことで、かつてのように「成人病」という言い方が通用しなくなり、「生活習慣病」と改められた。
子どものうつは、ストレートに症状が出ない。体に変調をきたす、不登校になる、成績が落ちる、交友関係がなくなるなど。

心があふれる状態から心身症になる。じんましん、胃潰瘍、失神するなど。根っこはうつ。
一般的にうつになると食欲が減退するが、10%は過食になる。食事をするとホルモンが増えて快感を感じることから過食がやめられない。
また、多くは睡眠不足になるが、10%は過眠になる。
うつの主な症状としては、自分に価値がないと思う。罪の意識を感じる。集中力がなくなる。決断力がなくなる。自分を傷つけたり、自殺する。
自殺は、うつの症状のひとつとして考えられている重要なもの。

うつ病はどこで発見されているか。内科で65%。婦人科で9.5%(うつの症状を更年期障害と思って受診する)。脳外科で8.4%(ふらつき、めまいから受診する)。
精神科、心療内科での発見は10%しかない。このことから考えても、一般の医師がうつ病に関する知識を持つことが大切になる。

私たちができるうつ病の発見として、
@元気がでない、気分が沈む、食事がおいしくない、睡眠もとれない、体調が悪いという状態が2週間続いたら、うつを疑ったほうがよい。
Aまずは身体科(内科、整形外科、耳鼻科など)を受診して検査を受ける。
B医師から「体はなんともない」と言われたら、精神科や診療内科を受診する。


自殺予防について。
自殺には精神病がかかわっている。したがって、自殺ゼロの国はない。
うつを病気として捉えれば、ある程度の予防はできる。
精神障がい、統合失調症の人たちと、どうやって地域で一緒に暮らしていくかは大きな鍵。

うつ病は、早期発見、早期治療が大切。
再発が多い病気。50%が再発。2回目になると80%が再々発。3回目再発すると90%が再発する。確率があがっていく。
よく「いいひとほどうつになりやすい」と言うがあたっている。几帳面でまじめ、弱音を吐けないひとはうつになりやすい。同じ性格を有していればうつになりやすい。
再発させないためには、価値観、人生観を変えること。
物質レベルでうつになりやすいひともいる。心というのは、脳の活動。したがって、心も遺伝の影響を受ける。なりやすい体質はある。悲観的に考えるのではなく、予防に役立てることが大切。

「うつ病は心の風邪」というキャッチフレーズをテレビで流している。誰でもかかる。どんなに強いひとでも、それを上回るストレスにさらされれば、うつになる。
ただし、この言い方は、風邪みたいに簡単に治るという誤解を与える。肺炎くらい大変なこと。苦しいし、そう簡単には治らない。平均で半年。1年、2年かかることはめずらしくない。俳優の高島忠雄(?)さんはうつ病であることを著書のなかで告白したが、7年かかったという。

家族の覚悟や協力、根気が必要。うつ病というのは、はっぱをかけて治るレベルを超えている。
うつ病は一筋縄ではいかない。長期になることも覚悟して。
今までできたことができなくなるのは、なまけではなく、うつ病の問題。


会場からの質問を受けて、
Q:職場での早期発見方法や接し方は?
A:周囲の「落ち込んでいるなぁ」という印象は大切。
現代は人間としてのコミュニケーション(=感情の刺激)が減っている。人と人とのつながり、感情の刺激は予防の意味でも大切。
落ち込んでいるひとに対しては、ちょっと辛い体験を話して落ち着くこともある。食事や睡眠がとれているかを聞いてあげることもいい。
すぐに精神科を勧めるのではなく、「睡眠は大切だから、改善させるためにも医者に行ってみたら」などと内科受診などを勧めて、医者が精神科などにつなげていくことが大切。内科で安定剤や睡眠薬を処方してくれることもある。
うつ病チェックの項目を年1回の会社の健康診断に組み込むことも早期発見に有効と思われる。

Q:うつ病のひとが会社に復帰してきたとき、どのように対応したらよいか?
A:これがけっこう難しい問題。現在は会社によって千差万別。サポートシステムが少ない。統一プログラムの必要性を感じている。
なかには「完治してから出て来い」という。しかし、症状がなくなった時点で職場復帰はOKとしている。そこから1年くらいは薬を続けたほうが再発は少ない。
うつ病から復帰した人は、地面がゆるい状態。あらゆるストレスに弱くなっている。ちょっとしたことがストレスになる。そういう状況が続く。
復帰しばらくは業務を減らす、残業させない。それ以外はふつうに接することが大切。ただし、意地悪はしないで見守る。
以前と同じようにやると、再発しやすい。

Q:よく、うつ病のひとは、励ましてはいけないというが?
A:段階による。うつがひどいときは、励ましてはいけない。しかし、状態のよいときは、課題を設定して「今日もがんばろう」というようなことは病院でも声かけしている。
「安静」と「休養」とは違う。うつに「安静(=動かさないこと)」はない。「休養」のみ。リラックスして好きなことをするのがよい。それが治療。
できれば笑ってほしい。本当にうつがひどいときは笑えない。笑えるときはいいとき。
テレビを見て笑っているのを責めないでほしい。よくなってきていると喜んでほしい。
抗うつ薬はホルモンの量をあげる薬。笑いにもホルモンの量をあげる働きがあることがわかっている。

Q:うつ病になって、家族に迷惑をかけるのが心苦しい。ひとり暮らしをしたほうがよいか迷っている。
A:家族とよほど険悪な関係でない限り、一人暮らしはあまり勧めない。うつは、いつかトンネルを抜けることのできる病気。頼るべきは頼って、早くよくする。

Q:うつになりやすい人はどうしたらよいか?
A:うつになりやすい人はマイナス思考になりがち。考え方を切り替える。
認知療法というのがある。自問自答して、ものごとの捉え方をブラスにもっていく練習帳も出ている。

逆の方法として、行動療法というのがある。うつ病では不安がひどくて一歩が踏み出せない。決断がつかない。考え方から変えるのではなく、行動から変えていく。小さなことから積み重ねて、やればできるという自信を取り戻していく。
うつ病を治そうという意識はもってほしい。努力は必要。

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うつ病に関して、いくつかセミナーに参加したことがある。本も何冊か読んだ。ある程度は知っているつもりでいた。しかし今回、このセミナーに参加して知らないこと、初めてきくことがたくさんあった。この分野は日進月歩であること。そして、この分野の専門医から話をきけたということは大きかったと思う。

いくつか、長い間、疑問に思っていたことが解けた気がした。
いじめで不登校になったりして心に深い傷を負ってうつ病を発症した子どもが、事件から何年もたってから自殺することが多くある。直接の原因はわからなかったり、失恋など別の原因があったりする。裁判などでは、いじめから何年もたっているのだから因果関係はないとされる。
しかし、うつ病が治癒するのには非常に時間がかかること。治ったばかりのときには、あらゆるストレスに非常に弱くなっていること。一旦、うつ病を発症するとその後も非常に再発しやすくなること。やはり、最初のうつ病の原因がいじめであった場合、それから何年もたってからの自殺であっても、因果関係はあるのだと確信する。
いじめで深い心の傷を負ったことのある人間が、1回目をクリアすることができても、2回目のときには短期間で自殺してしまうことがある。いじめで転校した先で自殺してしまうこともある。また、ちょっとした人間関係のつまずきから引きこもりになりやすくなる。すべて説明がついた気がした。

また、よく自殺するのは、うつになるのは、弱いからだといわれる。しかし、どんなに強いひとでもそれを上回るストレスがあれば、誰でもうつになるのだということ。うつ病になってしまえば、本人の意思や周りのサポートにかかわらず自殺してしまうことがあるということも、改めて病気がなせることなのだと知る。

いじめで不登校になった子どもが、家庭内暴力に走ることが多い。特に男の子に多いのも、それがうつの症状のひとつであることが理解できた気がする。


張賢徳先生は、専門的なことを実にわかりやすく解説してくださった。
同じ先生で、次回は「青年期のこころの危機」。
12月16日(金)。14時-16時。当日先着200名。無料。
高津市民会館(JR南武線武蔵溝口・東急田園都市線溝口駅すぐ) 大会議室(ノクティ2)12階。

埼玉ダルク支援センター主催
薬物依存連続講座2回目。「薬物依存症と家族」
アスク・ヒューマン・ケア研究室室長 水澤 都加佐(つかさ)先生のお話から


前回の水谷修先生の講演に引き続き、第2回目。

薬物の乱用は世界中の大きな問題。東南アジアのなかには、死刑の国もある。しかし、それでも乱用はやめられない。厳罰だけでは解決しない問題(これは話を聞いて私が感じたこと)。
薬物乱用の先進国アメリカでは、当時のレーガン大統領夫人が「Just Say No!(ジャスト セイ ノー)」、薬物にノーと言えばいいだけというキャンペーンを大々的に行った。しかし、うまくいかなかった。気持ちだけでも解決しない問題(これは話を聞いて私が感じたこと)
現在は、ゼロ・トレーランス、例外なく処罰の方向にある。たとえば学校なら退学になるが、アメリカでは義務教育で学校に行かないと親が罰せられるので、親はなんとか転校させても学校に行かせる。
子どもは発展途上であるから、過ちをおかすのは当然。忍耐することが養育することであり、教育することだと思う。


1.家族に依存症がいると、どう影響を受けるか。

家族に依存症がいると、その人にばかり焦点があたるようになる。家族は、自分に焦点が当たらなくなる。自分がなくなる(自己喪失)。悲しい。他の感情がマヒする。考え方、価値観が変わる。大事だったことが大事でなくなる。大事なのは薬物をやめることだけになる。
不合理な考え方がそのひとを支配する。不眠症になる。精神的な重圧(ストレス)に対応できなくなる。不安になる。精神に大きな影響が出て、体に影響が出る。
ストレスが行動にあらわれる。過食になることもある。食べると血糖値があがって気分がよくなる。
アルコールや薬物、浪費、適応障がいなど。

家族みんなが影響を受ける。家族が治療や援助の対象になるのは重要なこと
家族は悲しい感情を伏せて生きている。不安や恐れのなかで生きている。家族はものすごく傷つく。怒りをもつ。
これらの感情をマヒさせて、なんでもない顔をして生きる。それを何年もやると、自分の感情がわからなくなる。

苦しいひとから助かる必要がある。苦しくてたまらないひとから治療を受けるべき。困ったひとから楽になる。
最初に医療機関に行くのは、家族が100に対して、本人は1の割合。本人は痛みを薬でマヒさせているので、困っていなかったりする。


2.家族がどうだと、薬物を乱用しやすくなるのか。

両親の対立は子どもにとっていやなもの。両親の仲がよければ、子どもはうれしい。家に帰るのが楽しい。何かあったときにも話しやすい。
向き合えない両親は、子どもにとっていやなもの。夫婦が話し合っていない。家に帰りたくなくなる。そんな家族には安心感がない。

子どもが健康に育つための条件は3つある。
@きちんと食べ物をくれる。
Aその家に存在することに安心していられる。
Bそのまま受け入れられる。慈しまれる。(無条件に愛される)

本来、子どもは愛し合った男女から生まれ、祝福されるべき存在。そうでないと、子どもは満たされない。傷つく。


3.社会の問題。

テレビドラマやコマーシャルは、何かを売るための番組。もうからないものはやらない。商業主義。
飢餓感、空虚感を徹底的に持たせる。かきたてる。同時に解決策も提示する。飢餓感、空虚感を埋めるためには購入すればいい。購入すれば幸せになれると錯覚させる。
それが手に入らないとみじめな気持ちになる。健康的な埋め方を誰も教えてくれない。教えてもらわないと、子どもはわからない。

不安や飢餓感が大きいと、
@即効性のあることを選ぶ。
A激しさを求める。
ほどほどではなく徹底的。
結果、薬物や恋愛依存、アルコールなどのアディクション(嗜癖)にはまる。


なぜ、薬物依存になるのか。
@薬理作用。(薬物にはのめりこむ作用がある。とくに依存性のある薬)
A原家族で、何を与え、何を与えられなかったかが影響する。
B社会が飢餓感をもたらす。嗜癖をつくる社会。


クロスアディクションというのがある。同時多発あるいは、次から次へとはまっていく。
アディクションとは、のめりこむという意味。害があるとわかってやめられない。
薬物をやっていれば、空虚感がマヒして埋まった気になる。やめると元にもどる。翌日には効果がなくなる。せいぜい効果が持つもので2、3日。入れる、さめる、を繰り返す。
やめると満たされない自分に戻る。生きていけない。ひどい抑うつ状態になる。

薬物依存は喪失の病さびしさ、からっぽの自分(Empty Self)、空虚感を埋めようとする。
子ども時代に安心感、信頼感が得られないと、否定的な自己像を身につけてしまう。それはいろんなものをなくしてしまうところからきている。
否定的な感情は、見捨てられてしまうのではないかという不安感を生む。ストーカー行為をするのは、母親とはぐれた、あるいは引き離されそうになった子どもがしがみつき行動をするのと同じこと。
両親の仲が悪いと、子どもはなんとか間をとりもとうとする。しかし、それが叶わないと無力感が増幅する。
3歳から5歳の幼児でも怒りの感情を持つ。無力感、深い悲しみが怒りになる。

この喪失は、はんばなことでは埋まらない。人間関係が断たれていく。
健康なひとは、いろんなひととつながっていく。健康でないひとは、つながりをなくしていく。スピリチュアルな病と言われる。スピリチュアルというのは、霊的と訳されることもあるが、つながりのこと。つながりを取り戻していくことが大切。

しかし、依存症のひとにとっては、薬物ほど役に立つものはない。深みにはまる。認知の仕方がゆがんでくる。
否定的な自己像・否定的な感情・否定的な認知のシステムができあがると、自己を愛せない。それを救うのが薬物。ほかの方法が見つからなければ、生きられない。薬物から抜け出せない。薬物に頼らない生き方を誰も教えてはくれない。

子どもも親もいろんなものを喪失している。社会から飢餓感を与えられてきた。
依存症の原因は家族のなかだけでつくられるものではない。完璧なひとはいないのと同じように、完璧な家族もない。ただし、家族のなかで喪失を満たすことは必要。

たとえ親に原因があったとしても、回復は自分の責任。親にはどうしようもない。
しかし、今は手を出せばひっぱってくれる人はいっぱいいる。そういうネットワークづくりを作ろうとしている。
否定的な感情・自己像・コミュニケーション。いやだと思うひとから医師にかかり、回復していく。
依存症が家族を傷つける。傷ついた家族から依存症が生まれる。悪循環を断ち切るには、困ったひとから回復すること。


*************
会場からの質問に答えて。

Q:薬物依存を相談されたとき、どうすればよいのか?
A:大切なものをなくしたひとに接するとき、どうするかを考えればよい。共感することが大事。共感するということは、そのひとの苦しみとともに一緒にいること。何もできなくてもいい。そのひとの回復を願って、理解して一緒にいること。ただし、そのひとのために何かをしてあげたいと思い始めたらやめたほうがいい。


Q:親はいつまで親業をやらなくてはいけないのか?
A:子どもには、保護とケアが大切。とくに5歳から7歳くらいまでは信頼することを学ぶ次期。愛着を学ぶ。
職業には退職がある。親業にも退職があってもいいと思う。子どもが、高校を卒業したり、大学を卒業して社会に出るまでとか。
親業をずっとやっている家族にかぎって、夫婦が向き合っていないことが多い。子どものことだけ同じ方向を向く。それをわかっている子どももずっと子ども業をやっている。


Q:薬物依存で入院するとき、どのような治療が行われるのか?
A:体の悪いところはないかを診断し、治療する。薬物依存をしているとほかにもあちこち悪いところが出ていることが多い。薬を抜く。カウンセリングをする。薬物についての正しい知識を勉強させる。再発防止に向けての話をする。回復していく段階をグループミーティングなどで体験する。3ヶ月くらい。大切なのは、退院後のプログラムにつなげていくこと。すでに経験して知っているひとは、通院したり、最初からダルクなどのミーティングに出ることを勧めることもある。

体験者からの回答。2週間くらい保護室でカギをかけられ、出さない。その間はとてもつらい。どんなに騒いでも、来てくれない。解毒がすむとかなりすっきりする。1ヶ月くらい処方薬を出すところもある。(季刊ビィ 78 /ASK 定価840円 に体験談が乗っている)


Q:親との関係で悩んでいるひとからの質問。
A:自分の責任でおきたことではないのに辛いと思う。怒りや恨みを手放すことを勧める。
相手の行為を許すとかいうことではなく、「あなたの影響下では生きていかない」と宣言すること。

このマントラ(おまじない)が役に立つと思う。



「さようなら、お父さん。

 もう 行ってください。

 あなたは あなたです。

 私は 私です。

 あなたは あなたになり、

 私は 私になるのです。」



壁などに貼っておくのもよい。おまじないというのはけっこう有効。
1年間、ひとつのことを言い続けると、自分のものになる。ただし、途中でやめると元どおりになる。相当意識的にやらないと変えられない。



*************

水澤先生は、とてもユーモアがあって、とてもあたたかい感じがした。とても魅力的なひとだった。
話の内容も具体的でわかりやすい。話が聴けて、とてもラッキーだったと思った。

今回、2つのセミナーを通して、うつ病も、薬物依存も根っこは同じだと知る。そして、いじめも少年犯罪も、リストカットも。
家族関係の不全があったり、社会から飢餓感を与えられたり、大きなストレスを抱えたとき、ひとはうつ病になるか、あるいはそれを回避するために何かの依存症になっていく。
心の動きとしては、自己否定感、無力感、怒りをもち、それがときにいらいら感や他者への暴力、自傷となる。空虚感を埋めたり、感情をマヒさせるために、薬物依存にはまることもある。

アディクションを生み出す社会について、私が今まで認識していたのは、物質社会と拝金主義的な価値観が、親の子育て観にも大きく影響すること。子どもたちの遊び、楽しみにはすべて金が必要になり、それしか楽しみ方を知らない子どもたちは小学生からの恐喝事件などにつながること。学校教育を含めた世の中全体が、物をつくり、消費することばかりに関心が向いていくことなどだった。
それ以上に今回、垂れ流されるテレビのCMや理想化されたドラマが、私たちを常に飢餓の状態にしていることを知った。いつも満たされない。満足することがない。お腹をすかした人間の行動をみれば、影響が想像できる。いらいらする。お腹をいっぱいにすることしか考えられなくなる。ひとにやさしなどできない。

では、どうすればよいか。物質的なものは、一時は私たちの心を満たしてくれる。しかし、その効果は長続きしない。心を満たしてくれて、かつ、減らないもの、満足感が長続きするもので、満たしていくのがよいのではないか。
それは、そのひとによって異なるとは思うが、たとえば、家族、友達、恋人との人間関係、愛し愛される喜び、夢や希望、美しいものをみる感動、美しい音楽をきく感動、楽しい思い出。そんなもので心が満たされていたとしたら、少しは、薬物や他人を支配することで得られる喜び、満足感を排除していけるのではないか。
そして、私たちはそのことをどれだけ子どもたちに伝えているだろう。

薬物の問題は、知れば知るほど深刻で、生半可なことでは太刀打ちできないと知る。
「やめたい」と思っているひとが、多くのひとの支援を受けながらも回復することがこんなに大変な状況で、本人がやめたいと思っていないのに、周囲の気持ちだけでやめさせることがいかに困難なことか。
いったんはまってしまったら本人も周囲も膨大エネルギーを必要とする。時には何もかも破壊しつくしてしまう。やはり、なってしまってから悩むのではなく、何より、ならないための予防が大切だと思う。

「何かしてあげたいと思い始めたらやめたほうがいい」という言葉は、長年、支援してきたひとの言葉だけに重く、衝撃的だった。それだけ、この問題は難しい。巻き込まれたときのダメージの大きさ、その危険性の大きさ。「病」をひとの思いだけで治すことはできないということをはっきりと教えてくれる。
そして、家族も苦しんでいること。本人より苦しんでいることもあるということが少し理解できた気がする。悪循環を断ち切るためにも、苦しんでいる家族が先に楽になっていいんだということ。そのことに踏み切れずに、ともに堂々巡りのなかで今なお、苦しみ続けているひとたちがいるのではないか。救われることばだと思った。





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