2005/11/20 | 「うつと自殺」「薬物依存症と家族」2つのセミナーに参加して | ||
2005年11月18日、セミナー2つをハシゴした。ひとつは、「うつと自殺」について。もうひとつは「薬物依存症と家族」について。根源となるところは同じで、まるで一続きのセミナーに参加している気さえした。そして、いじめや少年犯罪を考えるうえでヒントになることがたくさんあった。私が以前から感じていながら、うまく言語化できずにいたこと、疑問におもっていながら答えが出なかったことに対して、わかりやすく解説してくださった。 専門家に対して私自身は、専門家だからといってわかっているとはかぎらない、一般人以上に思い込みが多いなど否定的な思いを抱くことも多い。一方で、やはりそのことに長年、真剣に取り組んできた人たちの洞察の鋭さ、ものごとの本質を見抜く目には太刀打ちできないと承服してしまう。 とても実りあるセミナーだったので、備忘メモを兼ねてここに報告をUPしたい。 ただし、当日のメモをもとに再構成しているので、聞き違いや思い違いもあるかもしれない。 |
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川崎市精神保健福祉センター主催 こころの健康セミナー メンタルヘルスと自殺予防 第1回 中高年の自殺予防とうつ病 帝京大学医学部付属溝口病院精神神経科医長 張 賢徳 氏 のお話から |
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現在は、自殺の第3の山と言われており、1998年から毎年年次自殺者数は3万人を超え、大きな社会問題として認識されはじめた。 自殺者の70%以上を男性が占める。それは世界的にも言われていることで、男性は女性の2倍。 女性の自殺者数に大きな変化はない。男性の自殺者の増減がそのまま全体の推移として反映されている。 過去の山を見てみると、第1の山は1955年。戦後約10年目。20台の若者の自殺が激増した。 彼らは戦争時10歳前後だった。戦後はがらっと価値観が変わった。先行き不安が自殺へと追い込んだのではないかと言われている。 第2の山は1986、7年。理由はよくわからないとされてきた。オイルショックによる経済不況から10年後に自殺者が増えている。 しかし、経済がよくなるとともに減少した(と言っても2万人台)ので、今まであまり問題とされてこなかった。 第3の山は、1991年でバブルが崩壊した後。現在は、勝ち組と負け組みなどの言い方をされるように2極化している。実際に、自殺者に無職男性が増えている。 経済的理由が自殺率を引き上げていることは確かなようだ。 女性の場合、一旦、20〜24歳でピークを迎え、30台で下がってのちは、年齢が上がると自殺率が増えている。 男性の場合、50歳前後(45-60)と75歳以上の高齢者の自殺率が高い。 とくに高齢者のうつは見逃されやすいので、注意が必要。 自殺は、理性的な自殺と精神疾患による自殺とに分けて考えられるが、自殺者の90%以上が精神障がいの診断がつく状態で、最多がうつ病。これは、時代や文化を超えて認識された事実で、アメリカやヨーロッパとも共通している。ただし、すべの既遂者が精神科医療を受けていたわけではないので、遺族からの情報をもとに精神医学的な診断をつけたものを含む。 なお、若年期(39歳以下)に絞っていえば、45%を統合失調症(かつての分裂症)が占める。 統合失調症というのは、思考力のまとまり(統合)がバランスを崩す(失調)病気。幻覚が見えたり、妄想を抱いたりする。ただし、自殺は幻覚や妄想時ではなく、むしろあとに多い。 青年期に発症しやすい。 中年期(40-59歳)は、うつ病がもっとも多く45%を占める。(いずれも救命センターの調査データを使用) 精神疾患がなぜ自殺につながりやすいのか。2つのアプローチがある。1つは生物学的な原因探索。2つは心理学的な原因探索。 抑うつ状態がなぜ自殺に関係するのかは、 @うつ病性の認知(ものごとの捉え方)障害による。弱気、マイナス思考、自責、悲観、絶望などの考え方が強くなる。 A生のエネルギーの枯渇。 B死の本能。これについては賛否両論がある。動物行動学的にみて、たとえばレミングねずみなどのように増えすぎると集団で川に落ちる、すずめの大群が集団で絶壁に激突死するなどの例が報告されている。全滅を防ぐために遺伝子レベルですでに組み込まれていて、スイッチが入るのではないか。 自殺を生物学的に見ると、うつ病のひとの自殺後に解剖して脳を調べた結果、脳のモノアミン神経系と呼ばれる3つのホルモンが減少していることがわかった。 セロトニン。減少すると、衝動的になり不安やいらいらに落ちやすい、攻撃的になる物質。 ノルアドレナリン。覚醒をつかさどる。減少すると気力が落ちる。 ドーパミン。快楽をつかさどる。 これらの減少は、話を聴いてよくなるレベルを飛び越えてしまう。医学的病気のレベル。 自殺予防に、うつ病の早期発見が役立つ。実際に自殺率を低下させた例がある。 1つは、スウェーデンで、プライマリケア医(一番最初にかかる医者、かかりつけ医)へうつ病の教育プログラムを実施したところ、10〜15%減少した。 もう1つは、日本の新潟県松之山町の取り組み。高齢化率の高いこの地域で自殺がたいへん多かった。調査の結果、自殺したひとの多くがうつを発症していたことが判明。町の高齢者全員に20項目のうつ病チェックリストをやってもらった。ひっかかった人を対象に医師が問診。うつ病を早期発見し治療することで自殺率が低下した。 うつ病発見の際に実は問題点があることがわかった。スウェーデンの研究で自殺率が低下したのは、当初は女性のみで男性は変化がなかった。 調査の結果、男性と女性ではうつ病の症状の現れ方が違うこと、同じ項目のチェックリストではあてはまらないことが判明した。男女別々のスクリーニング項目を開発することで改善した。 うつの症状は、年齢、性別ごとに出方が違う。 高齢者は、体の症状の訴えが強く出る。仮面うつ病と呼ばれる。 「あっちが痛い、こっちが痛い」「体が動かない」「ふらつく」など。しかし、病院に行って検査をしても異常は発見されない。 中高年の場合は、病院にかからないことが多い。弱音を吐かずにこらえる。微笑みうつ病と呼ばれるのはサラリーマンに多い。 男性の場合は、うつ一般で言われる、気分が落ち込むなどとは違った形で出ることが多い。 いらいらして攻撃的になる。怒鳴り散らす。焦燥感、不安感にに襲われる。アルコールや薬物に依存するなど。激越型うつ病と呼ばれる。 子どものうつ病も増えている。ストレスが多い、体を動かさないことなども要因。子どもの糖尿病が増えたことで、かつてのように「成人病」という言い方が通用しなくなり、「生活習慣病」と改められた。 子どものうつは、ストレートに症状が出ない。体に変調をきたす、不登校になる、成績が落ちる、交友関係がなくなるなど。 心があふれる状態から心身症になる。じんましん、胃潰瘍、失神するなど。根っこはうつ。 一般的にうつになると食欲が減退するが、10%は過食になる。食事をするとホルモンが増えて快感を感じることから過食がやめられない。 また、多くは睡眠不足になるが、10%は過眠になる。 うつの主な症状としては、自分に価値がないと思う。罪の意識を感じる。集中力がなくなる。決断力がなくなる。自分を傷つけたり、自殺する。 自殺は、うつの症状のひとつとして考えられている重要なもの。 うつ病はどこで発見されているか。内科で65%。婦人科で9.5%(うつの症状を更年期障害と思って受診する)。脳外科で8.4%(ふらつき、めまいから受診する)。 精神科、心療内科での発見は10%しかない。このことから考えても、一般の医師がうつ病に関する知識を持つことが大切になる。 私たちができるうつ病の発見として、 @元気がでない、気分が沈む、食事がおいしくない、睡眠もとれない、体調が悪いという状態が2週間続いたら、うつを疑ったほうがよい。 Aまずは身体科(内科、整形外科、耳鼻科など)を受診して検査を受ける。 B医師から「体はなんともない」と言われたら、精神科や診療内科を受診する。 自殺予防について。 自殺には精神病がかかわっている。したがって、自殺ゼロの国はない。 うつを病気として捉えれば、ある程度の予防はできる。 精神障がい、統合失調症の人たちと、どうやって地域で一緒に暮らしていくかは大きな鍵。 うつ病は、早期発見、早期治療が大切。 再発が多い病気。50%が再発。2回目になると80%が再々発。3回目再発すると90%が再発する。確率があがっていく。 よく「いいひとほどうつになりやすい」と言うがあたっている。几帳面でまじめ、弱音を吐けないひとはうつになりやすい。同じ性格を有していればうつになりやすい。 再発させないためには、価値観、人生観を変えること。 物質レベルでうつになりやすいひともいる。心というのは、脳の活動。したがって、心も遺伝の影響を受ける。なりやすい体質はある。悲観的に考えるのではなく、予防に役立てることが大切。 「うつ病は心の風邪」というキャッチフレーズをテレビで流している。誰でもかかる。どんなに強いひとでも、それを上回るストレスにさらされれば、うつになる。 ただし、この言い方は、風邪みたいに簡単に治るという誤解を与える。肺炎くらい大変なこと。苦しいし、そう簡単には治らない。平均で半年。1年、2年かかることはめずらしくない。俳優の高島忠雄(?)さんはうつ病であることを著書のなかで告白したが、7年かかったという。 家族の覚悟や協力、根気が必要。うつ病というのは、はっぱをかけて治るレベルを超えている。 うつ病は一筋縄ではいかない。長期になることも覚悟して。 今までできたことができなくなるのは、なまけではなく、うつ病の問題。 会場からの質問を受けて、 Q:職場での早期発見方法や接し方は? A:周囲の「落ち込んでいるなぁ」という印象は大切。 現代は人間としてのコミュニケーション(=感情の刺激)が減っている。人と人とのつながり、感情の刺激は予防の意味でも大切。 落ち込んでいるひとに対しては、ちょっと辛い体験を話して落ち着くこともある。食事や睡眠がとれているかを聞いてあげることもいい。 すぐに精神科を勧めるのではなく、「睡眠は大切だから、改善させるためにも医者に行ってみたら」などと内科受診などを勧めて、医者が精神科などにつなげていくことが大切。内科で安定剤や睡眠薬を処方してくれることもある。 うつ病チェックの項目を年1回の会社の健康診断に組み込むことも早期発見に有効と思われる。 Q:うつ病のひとが会社に復帰してきたとき、どのように対応したらよいか? A:これがけっこう難しい問題。現在は会社によって千差万別。サポートシステムが少ない。統一プログラムの必要性を感じている。 なかには「完治してから出て来い」という。しかし、症状がなくなった時点で職場復帰はOKとしている。そこから1年くらいは薬を続けたほうが再発は少ない。 うつ病から復帰した人は、地面がゆるい状態。あらゆるストレスに弱くなっている。ちょっとしたことがストレスになる。そういう状況が続く。 復帰しばらくは業務を減らす、残業させない。それ以外はふつうに接することが大切。ただし、意地悪はしないで見守る。 以前と同じようにやると、再発しやすい。 Q:よく、うつ病のひとは、励ましてはいけないというが? A:段階による。うつがひどいときは、励ましてはいけない。しかし、状態のよいときは、課題を設定して「今日もがんばろう」というようなことは病院でも声かけしている。 「安静」と「休養」とは違う。うつに「安静(=動かさないこと)」はない。「休養」のみ。リラックスして好きなことをするのがよい。それが治療。 できれば笑ってほしい。本当にうつがひどいときは笑えない。笑えるときはいいとき。 テレビを見て笑っているのを責めないでほしい。よくなってきていると喜んでほしい。 抗うつ薬はホルモンの量をあげる薬。笑いにもホルモンの量をあげる働きがあることがわかっている。 Q:うつ病になって、家族に迷惑をかけるのが心苦しい。ひとり暮らしをしたほうがよいか迷っている。 A:家族とよほど険悪な関係でない限り、一人暮らしはあまり勧めない。うつは、いつかトンネルを抜けることのできる病気。頼るべきは頼って、早くよくする。 Q:うつになりやすい人はどうしたらよいか? A:うつになりやすい人はマイナス思考になりがち。考え方を切り替える。 認知療法というのがある。自問自答して、ものごとの捉え方をブラスにもっていく練習帳も出ている。 逆の方法として、行動療法というのがある。うつ病では不安がひどくて一歩が踏み出せない。決断がつかない。考え方から変えるのではなく、行動から変えていく。小さなことから積み重ねて、やればできるという自信を取り戻していく。 うつ病を治そうという意識はもってほしい。努力は必要。 ************ うつ病に関して、いくつかセミナーに参加したことがある。本も何冊か読んだ。ある程度は知っているつもりでいた。しかし今回、このセミナーに参加して知らないこと、初めてきくことがたくさんあった。この分野は日進月歩であること。そして、この分野の専門医から話をきけたということは大きかったと思う。 いくつか、長い間、疑問に思っていたことが解けた気がした。 いじめで不登校になったりして心に深い傷を負ってうつ病を発症した子どもが、事件から何年もたってから自殺することが多くある。直接の原因はわからなかったり、失恋など別の原因があったりする。裁判などでは、いじめから何年もたっているのだから因果関係はないとされる。 しかし、うつ病が治癒するのには非常に時間がかかること。治ったばかりのときには、あらゆるストレスに非常に弱くなっていること。一旦、うつ病を発症するとその後も非常に再発しやすくなること。やはり、最初のうつ病の原因がいじめであった場合、それから何年もたってからの自殺であっても、因果関係はあるのだと確信する。 いじめで深い心の傷を負ったことのある人間が、1回目をクリアすることができても、2回目のときには短期間で自殺してしまうことがある。いじめで転校した先で自殺してしまうこともある。また、ちょっとした人間関係のつまずきから引きこもりになりやすくなる。すべて説明がついた気がした。 また、よく自殺するのは、うつになるのは、弱いからだといわれる。しかし、どんなに強いひとでもそれを上回るストレスがあれば、誰でもうつになるのだということ。うつ病になってしまえば、本人の意思や周りのサポートにかかわらず自殺してしまうことがあるということも、改めて病気がなせることなのだと知る。 いじめで不登校になった子どもが、家庭内暴力に走ることが多い。特に男の子に多いのも、それがうつの症状のひとつであることが理解できた気がする。 張賢徳先生は、専門的なことを実にわかりやすく解説してくださった。 同じ先生で、次回は「青年期のこころの危機」。 12月16日(金)。14時-16時。当日先着200名。無料。 高津市民会館(JR南武線武蔵溝口・東急田園都市線溝口駅すぐ) 大会議室(ノクティ2)12階。 |
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埼玉ダルク支援センター主催 薬物依存連続講座2回目。「薬物依存症と家族」 アスク・ヒューマン・ケア研究室室長 水澤 都加佐(つかさ)先生のお話から |
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