2000年7月26日に自殺した大野悟くんの4年越しの裁判が、ついに結審した。
書類のやりとりが長かったわりに、人証調べは教頭(校長が病気のため)と担任、悟くんのお母さんの3人のみ。当初は、加害少年らの証人尋問を自ら口にするなど、意欲を見せていた廣田民生裁判長だったが、裁判の迅速化が課題として科せられたあたりから、進行に焦りが見えた気がした。
それまでは、被告代理人が、次回まで用意すると約束した書面をいつまでも出さないなど、約束反故があっても、特に責めるでもなく悠長に構えていた。そのために、裁判が必要以上に延び延びになっていた。
それが、ここ1年ほどは、書類の遅れを追及し、待っていられないという様相をみせた。そして、双方が主張していた証人のほとんどを切り捨ててしまった。
また、裁判官は3年ごとに人事異動があるとかで、3月の異動を前に、腰が落ちつかない状況にあるようだとか。
結審ということで、双方から最終準備書面が提出された。法廷でのやりとりは10分程度で終わっていまったが、原告側の桜井和人弁護士が、いろいろと解説をしてくださった。
最終準備書面では、双方が今までの主張を整理し、まとめて出す。
原告の大野さん側からは、
1.いじめがあったことは、学校側の調査結果、いじめた生徒たちの自白、原告らの調査結果、警察官の取り調べ結果、記者会見における校長の発言や実演により、明確。
2.いじめと自殺の因果関係、自殺前に「ヘルプ」と書かれたメモが残されていたことからも、わかる。
3.いじめた生徒の父母の責任は、担任教師やや校長、教頭の証人調書や法廷での証言で、明確。被告側が主張するように、何も知らされず行ったら、犯人に仕立てられたわけではない。
4.川口市の責任。担任はいじめに関心がなく、三者面談ほかで伝えていない。また、生徒のアンケート結果からも、当時、いじめが多発していたにもかかわらず、年度計画で、教職員に向けた研修がなされていなかった。
など、これまでの主張がまとめられたという。さらに、校長の尋問のときに出す予定でいたビデオテープも証拠提出された。
被告の市ほうは、自殺についての医者の論文を新たに提出。いたずら半分で首吊りの真似事をしているうちに、死んでしまった事故であって、自殺ではないのではないかという主張や、悟くんが好きだったブルーコメッツのメンバーが自殺していることなどをあげてきたという。
(自殺の真似ごとをしていたら間違って死んでしまったという主張は、いじめ自殺した佐藤清二くん(850926)の裁判や体罰自殺した内海平くん(940909)の裁判でも、使われた。)
子どもたちのほうは、学校に突然呼びだされて行っただけで自発的ではないこと、いじめになるかどうか、共謀ではない旨などを改めて挙げてきたという。
いじめていた子どもたちが、一人ひとり、遺族の前でいじめを告白して謝罪した数少ない例と思われていた、このいじめ自殺事件。争いの余地がないほどわかりやすいと思われていたものが、裁判がはじまると途端に、内容が見えないものになった。
とくに、生徒側の主張が見えて来なかった。裁判を起こされても、まるで他人ごとのようで、陳述書も弁護士が何度も約束しながら、集まらない。悟くんが亡くなってから5年という月日を、親と子がどのように過ごしてきたのか。もう関係ない、忘れたい。裁判では、そんな被告たちの姿しか見えて来なかった。
加害者たちに何も教訓として残すことができないのなら、せめて、社会には教訓として残したいと思う。何も言わずに、いじめに耐えて耐え抜いて、そして恨みこどひとつ残さず亡くなっていった悟くんの命の重みをどこかで、誰かが受けとめなければと思う。誰に訴えるでもなく、電話のメモ用紙に書き付けられた「HELP」の文字。今も、多くの子どもたちが心のなかで「HELP!」と叫んでいる。いじめをなくすための教訓となるような判決を期待したい。
判決は5月18日(水)、13時10分から、さいたま地裁504号法廷にて。
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