わたしの雑記帳

2004/10/23 子どもたちの身近にせまる薬物汚染


薬物防止教育について、よくPTAから「寝た子を起こすな」という言葉をきく。子どもたちは本当に寝ているのか。
惰眠をむさぼっているのは、むしろ大人たちではないのか。

ここのところ、学校での薬物使用が事件となっている。しかし、私自身は、もっと以前から、子どもたちに、シンナーを含めた薬物がかなりまん延しているのではないかと思ってきた。なぜなら、非行少年を扱ったルポルタージュやインタビュー、手記のなかで、少年たちの口から、薬物の使用や売買の話が当たり前のように出ているからだ。
にもかかわらず、ニュースで取り上げられる件数はあまりに少ないというのが、私の実感だ。いじめやリンチなどの少年事件にも、実はシンナーやドラッグの影響が少なからずあるのではないかと思っている。

また、メキシコでストリートチルドレンと接して、居場所のない子どもたち、自尊心を持てない子どもたちがはまりやすく、最初はシンナーや接着剤を吸うことから、次第にもっと刺激の強い薬物へと移行していくことも知った。タバコやシンナー、接着剤が手軽に入る日本の子どもたちも、同じ状況にあるのではないかと思っていた。そして、子どもたちのシンナーや薬物に対する知識に偏りがあることも、想像し得ていた。覚せい剤使用で捕まった女子生徒は、「こんなことで逮捕されるとは思わなかった」と言ったという。

インターネットの普及で、社会状況の変化も著しい。大人と子どもの情報量に差がなくなりつつある。むしろ、子どもにとって関心の強い、セックスや薬物を含めた娯楽関係の情報は、口込みを入れると、子どもたちのほうがよほど新しい情報を得ているだろう。パソコンや携帯メールには毎日のように、怪しげな誘惑情報が飛び込んでくる。
かつては、怖いヤクザのお兄さんが売買していた。やがて外国人。そして、ネットを通して、相手の顔も見ず、自分の顔も知られずに、手に入れられるようになった。サラリーローンが無人貸付機で飛躍的に伸びたように、子どもたちにとって、お手軽になったのではないだろうか。好奇心から手を出してみるということが充分にありえる。それは今や、インターネットを駆使する小学生にさえ可能となる。

少子化のなかで、子どもたちの小遣いも大人たちのターゲットになった。好奇心が旺盛で、危険への認識が甘く、後先考えない子どもたちはヤクザの格好の資金源となる。大人たちの手の届かないところで広がる子どものネットワーク。今や子どもたちが、売人として働くまでになっている。大人たちから仕入れる以上に、子どもたち同士の売買には、警戒心が薄れていく。「誰もがやっている」という安心感、仲間うちの流行に乗り遅れまいとする心理も働く。組織の規範、上下関係の厳しいヤクザの手足となる若者が減る一方で、薬物に依存するようになった子どもたちは、大人の自由になる。性の商品として扱われたり、犯罪の片棒を担がされる。大人社会のなかを自由に泳ぎ回っている気になっている子どもたちは、自分たちが食い物にされていることに気づかない。

時代は親たちが思っている以上に早く進んでいる。にも、かかわらず、正しい知識を教えることのできる大人があまりに少ない。子どもたちの身近に魔の手が伸びていることを大人たちは知らなすぎると、私は感じている。
学校の外で起きていることは全て、学校内でも起きうる。過去の新聞や書籍から、学校、教師、青少年にかかわるシンナー、薬物関連の事件を集めてみた。


日付 学校・教師・青少年のシンナー、薬物関連の主な事件 種類
1965
(S40)
1/23 福岡県の中学校で、鎮痛剤遊びが流行。酩酊状態になった男子生徒2人(中3)が、4回にわたり4人の教師を殴った。 鎮痛剤
1968
(S43)
1/30 群馬県前橋市での高校で、男子生徒(高2・17)が授業中にシンナーを吸い、注意した教師(26)の腹を蹴り、メリケンサックで右頬を殴り、頬に穴のあく重傷を負わせた。 シンナー
1973
(S48)
10/5 神奈川県立高校の教師が覚せい剤の常用で逮捕される。同教師は教員採用される前に、詐欺や恐喝など8回の逮捕歴があった。暴力団員らとたびたび徹夜マージャンしては、疲れると覚せい剤を使用していた。 覚せい剤
1974
(S49)
新潟県糸魚川市で、女子高校生らが買春。暴力団が少女らに覚せい剤を打ったり、ホテルに軟禁するなど関与。 覚せい剤
1978
(S53)
2/14 京都府京都市の中学校で、先輩に「シャブをうつと気持ちがいい」と密売所と購入時の合い言葉を教えられた生徒7人(男子生徒6人、女子生徒1人)が、小遣いを出し合って覚せい剤を購入。学校や仲間の勉強部屋で注射していた。 覚せい剤
1980
(S55)
1/10 北海道で、高校生男女4人がシンナーを吸って飛び降り自殺。 シンナー
1980
(S55)
2/ 京都で、中学生が受験勉強の眠気覚ましに覚せい剤を使用して逮捕。 覚せい剤
1980
(S55)
7/16 大阪府茨木市の市立中学校で、男子生徒2人(中3)が、美術教室の戸棚でシンナー遊びをし中毒死。前日の授業から行方不明だった。 シンナー
1980
(S55)
10/31 栃木県の県立高校の体育教師(38)が、暴力団と交際し覚せい剤を常用したり、無許可の火縄銃を売買していたことが判明、駒込署に逮捕される。同教師は教員歴16年、体育の主任教諭を務めていた。目がすわていたり、脈略のないことを口走るなど覚醒剤中毒の症状が出ていた。 覚せい剤
1982
(S57)
8/6 香川県仲多郡の町立小学校の教頭が、覚せい剤取締法違反で逮捕される。息子と教え子の2人に覚せい剤をやめさせようと「私も打つからもうやめろ」と言って注射をしたことから病みつきになってしまったと自供。 覚せい剤
1983
(S58)
1/31 奈良県上牧町の貸ガレージの乗用車内で、女子高校生(高2・17)ら4人がシンナー遊びをし、3人が中毒死、1人は助かる。 シンナー
1983
(S58)
5/8 北海道札幌市のラブホテルで、覚せい剤常用の少女中2・13)が、覚せい剤使用の暴力団幹部(42)に殺害される。 覚せい剤
1983
(S58)
11/ 神奈川県川崎市で、14階建ての団地ビルから女子生徒中22人が飛び降り自殺。同じビルで、シンナー仲間の男子生徒2人が飛び降り自殺した後を追ったものと思われる。 シンナー
1984
(S59)
9/17 家出中の中学生を含む少女12人を覚せい剤づけにしたうえ、温泉地に売り、売春させていた新宿の暴力団一味を逮捕。判明しただけで2000万円を稼いでいた。 覚せい剤
1987
(S62)
9/5 北海道胆振管内白老町で、兄(16)と弟(14)、弟の友達(14)の少年3人が小屋でシンナーを吸ったあと、首吊り自殺。3人は幼友だちで、つっぱりグループの一員と見なされていた。1週間ほど前、シンナー仲間の兄貴株だった青年(23)2人が相次いで自殺していた。 シンナー
1988
(S63)
2/22 大阪府岸和田市で、左官見習いの少年(16)が一緒にシンナーを吸っていた元同級生(16)をコンクリート塊で撲殺。少年は男子生徒に日頃からいじめられていた。 シンナー
1988
(S63)
3/2 兵庫県神戸市西区で、通園途中の男児(5)が若い男に車で公園に連れていかれ、泣くと首をしめられ、ライターで背中に火をつけられて火傷を負った。3/17区内の無職・男性(22)を誘拐・傷害容疑で逮捕。シンナー常習による幻覚症状で犯行に及ぶ。 シンナー
1990
(H2)
9/11 大阪府門真市のアパート廊下で、店員・古林隆さん(20)が顔見知りの無職少年(16)にパン切りナイフで刺殺される。門真署の調べでは、古林さんや少年ら8人ほどがアパートの一室でシンナーを吸っていたが、古林さんに「若いのに生意気や」といわれ口論。仲間が止めて、いったん収まったが、少年は部屋を出た後、古林さんを廊下に呼び出しナイフで刺した。 シンナー
1991
(H3)
5/16 兵庫県姫路市網干区の技能訓練生(17)が、一緒にシンナーを吸っていた同区の大工職の少年(17)にシンナーをかけ火をつけた。6/2入院先の病院で死亡。 シンナー
1992
(H4)
6/11 東京都江東区で、中学生2人(中3)が覚せい剤使用容疑で逮捕。 覚せい剤
1992
(H4)
6/17 大阪府泉南郡熊取町で、1ヶ月の間に知り合いの少年ら5人が次々と死亡。4/29Hくん(17)がシンナー吸引中に池へ転落死、5/29Nくん(17)自室でシンナー吸引中急性心不全で死亡、6/4Yくん(17)タマネギ小屋で縊死、6/10Kくん(18)納屋で縊死、6/17Tくん(18)農作業小屋で縊死。思い当たる動機はなく、Kくんが以前「白い車に追いかけられている」と話していたことから、他殺との噂が広がる。 シンナー ?
1992
(H4)
12/31 茨城県水戸市で、新治郡内の同じ中学校女子生徒(中3)5人が、シンナーを吸ったあと、マンションの7階と8階の間から飛び降り、3人が死亡、2人が重体。「シンナーを吸っていたら誰ということなしに死のうということになった」と助かった一人は話している。教護院から逃げ出してきていたリーダー格の少女の境遇に同情しての自殺とみられる。 シンナー
1996
(H8)
3/15 福岡県嘉穂郡内の県立高校の生徒が、校内で覚せい剤を使用していたことが発覚。 覚せい剤
1996
(H8)
3/25 千葉県松戸市の小・中学生ら4人が覚せい剤を使用して補導される。 覚せい剤
1996
(H8)
5/9 東京都内と埼玉県内の高校生ら9人が覚せい剤吸引で逮捕される。 覚せい剤
1996
(H8)
9/26 沖縄県那覇市若狭のホテルの一室で、県立高校生の少女(高2・17)が那覇市内在住の無職少年(19)にシンナーをかけて火をつけ殺害。調べに対して少女は、9/25、女子生徒は少年5人とともにホテルに投宿。室内でシンナーを吸っていた。内2人は同夜のうちに帰宅し、残り4人は宿泊。焼死した少年とはこの夜、初めて知り合い、朝方になって関係を迫られたため、吸い残りのシンナーを浴びせてライターで火をつけたと話した。 シンナー
1997
(H9)
栃木県北部の高校3年男子生徒4人を含む覚せい剤乱用グループを摘発。 覚せい剤
1998
(H10)
1/8 大阪府堺市の路上で、シンナー常用の無職少年(19)が、包丁で通学中の女子高生(18)、登園途中の大国加奈ちゃん(5)を刺殺。園児の母親佳美さん(35)にも重傷を負わせた。逮捕後、少年は「過去に後輩にいじめられたことを思い出して、腹が立ち、誰でもいいから刺してやろうと思った。やらなければ、やられると思った」と供述。2000/2「シンナー吸引による有機溶剤精神病で心神耗弱の状態であった」と判断したうえで懲役18年判決。犯行時は未成年だったが、「事件が重大で年齢も成人間近」として成人同様の裁判が進められた。 シンナー
1998
(H10)
2/20 東京都新宿区に住む小学校の女性教師(32)が、覚せい剤取締法違反で、千葉県警に逮捕。1日に5回から10回のペースで覚せい剤を使用していた。1年前から学校内でも奇行がみられるようになっていた。5/14千葉地裁で、懲役2年6カ月、執行猶予3年の判決。 覚せい剤
1998
(H10)
3/19 東京都の私立高校の教師(37)が、グループで覚せい剤を譲り合い、所持していた容疑で逮捕された 覚せい剤
1999
(H11)
7/12 山梨県富士吉田市の市立中学校屋上から東京都内の私立高校の男子生徒(高1・16)、と富士吉田市内の県立高校の女子生徒(高1・16)が飛び降り自殺をはかり、男子生徒は頭を強く打ってまもなく死亡。女子生徒は腹部などを強く打ち重体。2人は友人らと同市内の高校の校庭でシンナー遊びをしているうちに、「死にたい」などと言ってその場からいなくなったという。 シンナー
2000
(H12)
3/13 福岡県福岡市西区愛宕で、無職男(34)と無職少年2人(15.16)を、覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕。男は一昨年6月頃から、少年らに「シンナーよりいいものがある。かぜ薬のようなものだから心配しなくていい」と持ちかけ、月2回ほど無料で覚せい剤を注射。昨年6月頃から注射1回1万円程度を要求。少年らは代金として高級酒を万引きし、男がスナックなど転売。少年らの使用は各30−50回。1人が家族の金を盗もうとして事件が発覚。県警は覚せい剤使用容疑で中学生の少年少女(14)、無職少女(16)3人の計5人を補導。 覚せい剤
2000
(H12)
5/21 兵庫県神戸市東灘区の十階建てマンションの屋上から、近くに住む市立中学男子生徒(中3・15)が転落死。中学生は約30分前から屋上で、同級生ら遊び仲間の少年7人(13-21)と、シンナーを吸っているうちに、突然、隣のマンションに向かって走り出し、転落したという。死亡した中学生を含め6人が同じ学校の生徒。 シンナー
2001
(H13)
9/20 北海道余市町の私立高校で、大麻やシンナー吸引を理由に、全校生徒の1割を超える79人の生徒(高1−3)が処分(自主退学2人、家庭謹慎4〜3週間77人)された。8月末頃、「校内で大麻を吸っている生徒がいる」という噂を聞いて、学年ごとに集会とホームルームを開き、「過去に大麻やシンナーを吸ったことがある者は申し出るように」と生徒に訴えた結果、79人が自主的に申告してきた。
同校は1988年から高校中退者の転・編入制度をつくり、全国から中退者や不登校の生徒を受け入れている。
シンナー
大麻
2001
(H13)
12/24 神奈川県川崎市川崎区の友人宅の部屋で、同級生3人(中2)とライター用のガスをポリ袋に入れて吸っていた男子中学生(中2・13)が、ガスを吸い始めて約10分後に倒れ、間もなく死亡。中学生らは以前からガスを吸って遊んでいたという。 ガス
2003
(H15)
3/14 北海道札幌市南区で、授業中に大麻を同級生に譲り渡したとして、市立中学校の男子生徒(中3・15)2人と、道立高校の男子生徒(高1・16)を大麻取締法違反容疑で逮捕。同法違反容疑で女子生徒(中3・15)を書類送検。生徒たちは学校内での大麻のやりとりは認めたが、使用はしていないという。 大麻
2004
(H16)
7/14 埼玉県で、少年少女9人(17-18)を大麻取締法違反と窃盗などの容疑で逮捕。グループから大麻を購入し乱用していた少年13人を補導。高校生の“大麻密売ネットワーク”は埼玉県内6つの高校に広がっていた。 大麻
2004
(H16)
9/29 北海道小樽市の私立高校で、女子生徒の1人が教室の隅に隠していたたばこの箱に大麻があるのを担任教師が発見。校内で大麻を売買したなどとして、小樽署は少年11人(16-19)を覚せい剤取締法違反(使用)、大麻取締法違反(所持、譲り渡し)の疑いなどで逮捕。 大麻



シンナーをたかが子どもの火遊びくらいにしか考えてはいないだろうか。使用している本人たちも、大したことをしているとは思っていない。なかには、大人の前で堂々とシンナーを吸う子どもたちもいる。
簡単に手に入り、警察の処分も軽い割には、依存症になると結果は深刻なものがある。
私はこの目で、メキシコのストリートチルドレンがシンナーや接着剤を吸引するのを見聞きしてきた(番外編 2002.メキシコ 参照)。酒に酔ったのと同じような状態に子どもがなる。目がトロンとしてうつろになる。ふらふらと歩く。陽気になるものもいれば、怒り出す子もいる。道端で大の字になって寝てしまう子もいる。

吸っているときは、寒さも、空腹感も、世の中の嫌なことも忘れられるという。やがて依存するようになる。心に鬱屈を抱えている子どもほどはまりやすい。
もやる気がなくなる。根気がなくなる。思考ができなくなる。怒りっぽくなる。いきなり攻撃的になる。歯が溶ける。骨が溶けて成長が止まる。そのうち脳が溶け出す。廃人になる。糞尿を垂れ流すようになるという。
避難所と呼ばれるストリートチルドレンのための施設で、年齢の割に小さな体だったり、まだ幼いとさえ言える年齢なのに老人のような顔をした子どもたちを見た。親からの虐待の影響もあるのだろうが、シンナーなどの影響もあるのだろう。

そして、酩酊状態から廃墟のビルから転落死する子、ふらふらと道路を歩いていて車に引かれる子、けんかに巻き込まれて、あるいは自ら起こして、殴り殺される子。自殺。シンナーが子どもたちの命を奪っていく。
そして、やめたあとも、女性の場合、お腹のなかの子どもが未熟児だったり、障がいを持って生まれたりする。やめて何年もたってからフラッシュバックすることもあるという。いつも、その恐怖に怯えていなければならない。

そして、大麻や覚せい剤などのドラッグ。流行やファッションとしてもてはやされた時代もあった。海外留学や旅行が盛んな現代では、旅の恥はかきすてとばかり、犯罪であるという意識も薄れ、好奇心にかられて試してみる人間も多いのではないか。「パーティーでみんながやっていたから」「このドラッグは依存性がなく安全だから」と何も目くじらをたてるほどのものでもないという大人たちも増えてきた気がする。
ひとによって効き目が違うという。最初は効かなかったのが、いきなり効くこともあるという(ものの本には、偽物を買わされても、はじめてだとわからずにいることも多いとあった)。「いつでもやめられるから」。そう言い訳しながら、続けていく。その頃にはもうやめられなくなっている。一度やめても、何か面白くないことがあると、またすぐに手を出してしまう。肉体的にだけでなく、精神的な依存も大きい。

なぜドラッグはやめられないのか。私には合点がいかない部分があった。もっぱら強調されるのは、気持ちよくなるとか、元気が出る、幻覚をみる、多幸感がある、やせられる、眠くならない、痛みや恐怖を感じない、お腹がすかないなどの効用ばかりで、負の作用についてはあまり知らされていない。

「(アヘンは)短時間の使用でもある程度の禁断症状、発汗、吐き気、脱力感、頭痛、落ち着かない、苦痛の増大などが起こる。また、耐性もあっという間にできあがるので、次々と量を増やさなければならなくなる
「ヘロイン中毒患者たちは、この薬を手にいれ、快感を感じて眠り続けて、起きたら禁断症状のための不快感を癒すためにヘロインを使用するという繰り返しで生きていくようなものである」
「中にはバッドトリップといい、服用すると不安でパニック状態におちいったり、このまま発狂してしまって、もとの現実には復帰できなくなるのではないかと恐怖感を感じる体験もあったのだ。そのために、幻覚作用がきれた後でも、憂鬱や不安がぬぐいきれなかったり、心理的トラブルを起こしていたりするのである。また、そのような不安が暴力や事故、自殺に結びつくこともある」「バッドトリップを体験したものは、血の池でもがいたり、巨大な虫が襲ってきたり、世の中がぐるぐる回って自分は気持ち悪さばかりで吐き続けたりという最悪の世界へ行き、トリップ作用がきれてからもその衝撃が脳裏にやきついたり忘れられずに、精神に変調をきたしたものもいるのだ。フラッシュバックすることもある」
「(マリファナも)中毒症状がまったくないわけではなく、精神的な依存はおこるだろうし、慢性中毒になると無気力怠惰で、希に精神病のような症状を起こすこともあるようだ。また、トリップ状態では人は別世界にいるのだから、その時に何が起こるかわからないという危険性もある。実験で、ラットにマリファナの成分を注射して、1ぴきだけを単独飼育させたところ、たいへん凶暴になり、そばにいたラットをバリバリと食べだしたり棒をくだいたりしたという異常行動をみせた」
(「」内は、「悪い薬」/中山純著/1990.11.21データハウス発行」 参照)

この記述を読んで少し理解できた気がする。ドラッグはそれを使用したときの快感と、やめたときの不快感の間で、もう使用前の状態には戻れなくなる。禁断症状の不快感から逃れて、快感を手に入れるために、体によくないとわかっていながら、自分や周囲のひとの生活を破壊するとわかっていてやめられなくなるのだろう。

そして、「合法ドラッグ」と呼ばれるものも、けっして害が少ないわけではない。次から次へと新種のドラッグが開発され、あるいは幻覚作用のあるものが発見されて、法律が追いつかない。まだ、規制されていないということだけで、安全だという保証がされているものではけっしてない。禁止されているドラッグ以上に危険なものもあるという。

大人でさえやめられない。それはその人の意志の弱さだけでなく、それだけ依存性が高いということだろう。だからこそ、違法だとわかっていて、繰り返し使用する。犯罪を犯してまで手に入れようとする。世界中に広がるのも、ヤクザなどの資金源となるのも、その依存性の強さから、多くのひとが逃れがたいからだろう。
強い意志さえあればやめられるなどと安易に考えるべきではないだろう。手を出さないのが一番だが、もし、身近なひとがドラッグに手を染めたとしたら、前科がつくのがしのびないなどと中途半端な情けをかけずに、専門家に任せるべきではないか。個人の力では、立ち直るのは難しいのではないかと思う。
何度も痛い目にあいながら繰り返す、芸能人をみていればわかるだろう。

ドラッグは、ひとの肉体も、精神も破壊する。人間関係も、生活をも破壊する。自分や他人の命を奪う。国をも滅ぼす。ただ蓋をすることだけでは解決しない深刻な問題だ。ドラッグが痛みを忘れるためのものであるなら、その痛みを生み出さないような、誰もドラッグに手を出さなくてもすむような社会をつくらなけばいけない。ただ、禁止するだけでは収まらないのではないかと思う。





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