本日(2004年3月24日)13時30分から、横浜地裁602号法廷にて、小野朋宏くん死亡に関する損害賠償請求の民事裁判の第3回口頭弁論が行われた。
24の傍聴席は空席をひとつ残すのみでほとんど埋まった。
裁判長はまず原告代理人弁護士に「事実関係について補充することはないか」と尋ねた。原告側は「事故直近の報告書」が事実である旨を強調。裁判長は被告の学校・神奈川県に対して、「事実を軽く見せるために(事故報告書を)書き直してはいないか?」と確認し、被告代理人が否定した。
前回(2月4日・雑記帳参照)の懸案となった生徒のアンケート回答のマスキングが外したものを提出できるかどうかについては、30数名中11名分については同意が得られなかったが、残りについては同意が得られたとして、マスキングが外されたコピーが証拠提出された。ただし、原本が鉛筆書きのものもあってコピーが不鮮明で読みとりができない箇所があるということで、より鮮明なものが被告・学校側から再提出されることになった。
原告側は、生徒のアンケートで事実関係は把握できたと思う。学校の対応としては救急車を早期に呼ぶべきであったことは争いの余地はないと思われるので、裁判所がもしそれを認めて和解勧告をするなら受けたい旨を発言。対して、被告側は事実を争うとして、現段階での和解勧告を希望しない旨を表明した。
裁判長のほうでは、人証つまり誰を証人尋問に呼ぶかということについてはや、言及。原告側に対してアンケートにある生徒を証人とする予定はあるかと聞き、代理人弁護士は検討すると回答。そのほかに、原告のほうでは「早期に救急車を呼ぶべきであるという論文」を書いている学者の意見書を提出したいと申し出た。
それはすでに具体化しているのかという質問に対して、すでに内諾済みであること、ただし多忙につき期限はまだ明らかでない旨の報告があった。
被告側に対しては、体育教師、養護教諭、副担任の3人を証人として法廷に呼ぶ前に改めて陳述書を提出してほしいと要請した。
次回は、立証の方針について詰めていきたいと言う。日程について、双方の弁護士各2名、計4名の都合がなかなかあわず、結局、5月26日(水)11時30分から(602号法廷にて)に落着。
正味、20分足らずで口頭弁論を終了した。
**********************
原告側弁護士は今回、提出されたマスキングのはずされたアンケート回答について、「朋宏くんは具合が悪くても、体育の教師に言いづらい雰囲気があったのではないか」と主張していたが、そのことが立証されたとする。生徒の具体的な記述、「きびしい」「先生の圧力がある」「気分でやらせる」「(教師の)言葉遣いが悪い」「目つきが悪いと言われた」などから、異変があっても言えない雰囲気がわかるという。
多くのシゴキ事件、熱中症事件、学校事故で、この「言えない雰囲気」が共通する。部活動の顧問や体育教師の指導が日頃、厳しすぎる、暴言が多い、体罰をする、気分やである、などの場合、生徒は自分の体調に異変があっても、あるいは仲間の生徒に異常を感じていても教師に何も言えない。場合によっては、生徒だけでなく、教師同士であっても、相手の反応を恐れて言えないことがある。
一方で、事件・事故があると必ずのように、生徒自身が自己管理をしてきちんと教師に報告をしていれば、避けられたのではないかという批判がある。生徒が異常を訴えなかったのだから、教師が気づかなかったとしてもやむを得ない、言わなかったほうにも過失があると言われる。
多くの事件、事故はその時の要因だけで起きるわけではない。日頃の教師と生徒の人間関係、生徒と生徒の人間関係、教師と教師の関係のなかにこそ、多くの問題が含まれている。それが、何かアクシデントがあったときに噴出する。子どもの自己責任を問う前に、子どもたちの人権は守られているか、正しく状況を判断できるだけの情報が与えられているか、意見表明権は守られているか、自己決定権はどこまで委ねられているのか、大人たちの姿勢を問い直してほしい。
そして、意見表明権ということから言えば、小森香澄さん自殺に関連する生徒の作文(me031109 参照)といい、今回の小野朋宏くん死亡に関連する生徒のアンケートとといい、従来は生徒のプライバシーを盾に、裁判で争ってさえ見ることができなかったものが、書いた本人たちの意思を確認するという形で、原告側が見ることが可能になってきた。画期的なことだと思う。
ひとつには裁判が迅速に行われるようになった成果でもあるかもしれない。もちろん、小野さんが朋宏くんの死から裁判を決断するまでの期間が比較的短かったこと、アンケートについてすでにある程度の内容を把握していたことも大きい。今回は被告の学校を通じて現役の生徒に開示の意思を尋ねることができた。
|