昨日、八王子地裁の「生長の家 神の国寮」の裁判を傍聴してきた。傍聴人は10数人。午前11時から始まり、12時閉廷予定を20〜30分程度オーバーした。
まずは、法廷の入り口に貼ってある紙をみてびっくり。今回から裁判長が変わっていた。女性から男性へ。松嶋敏明裁判長。今までの裁判官の雰囲気がよかっただけに、どうなることか思った。
しかし、いざ尋問が始まると、今度の裁判官もそんなに悪くなさそう、というのが私の印象。ただ、今回の証人尋問は前回やり残したことの続きで、反対尋問から始まった。主尋問(原告側からの尋問)を書類上でしか知らないというのは、原告側にとって多少、痛いかもしれない。それに原告青年Aさんの証言も、結局、裁判長にとっては書類のみになってしまった。裁判長がどこまで書類を読み込み、原告の思いを受け取ってくれるかは未知数だ。
前回、証人であるKさんが遅れたために、反対尋問から始まった。
前回の内容の確認から始まる。裁判官が替わったためか、前回の証言との矛盾をつくつもりなのか、前回(2003/2/20 me030223参照)と同じ内容の質問が目立った。(実際の会話はですます調。原則、1回の質問で1内容だが、ここではスペースの都合上、並列表記している)
Q:「M先生が『やっていいよ』と言ったから殴る蹴るの暴行を働いた。M先生の性格やいつもの状況から、ここでやらなければ、自分がやられると思ったからやったということだね?」
A:「はい」
Q:「実際に殴れと言われて従わなかったために殴られたことはある?」
A:「自分はないが、目の前で見たことはある」
Q:「AさんがM職員に殴られている現場を見た?」
A:「直接は見ていない」
Q:「なぜAさんがM職員に殴られたと思ったのか、Aさんが弱々しく見えたということだが、血を流していたとか、あざがあったとかあったのか?」
A:「血やあざはなかった。でも、普通に立ってはいなかったので。普通だったらまっすぐ立っているところを、ちょっとかがんだ感じで普通に立っていなかったから」
Q:「あなたがAさんを殴ったり蹴ったりした時、その場にいたと記憶している職員は誰か?」
A:「M先生だけ。他は記憶にない」
Q:「M先生以外に、寮生は誰がいたのか?MOくんは?Yくんは?」
A:「MOくんはいた。Yくんはいなかったと思う」
Q:「MOくんとは別々に呼びだされていたのではないのか?」
A:「1度目は別々に呼びだされ、2度目は一緒に呼ばれた」
尋問では、佐々木明さんの名前も出た。
Q:「仕事がうまくいかないとき、結局、明くんのところに行ったりしたというのはどういう意味?仕事を世話してもらうという意味か?」
A:「そう。誰か知り合いのツテで、仕事を紹介してもらう」
Q:「そういう寮生はいっばいいるのか?」
A:「僕が知っている限りでは4人」
Q:「(神の国)寮に行って仕事を世話してもらうひとは?」
A:「頼りにすると思うが、あてにはならない」
Q:「そういう事例があるのか?」
A:「もともと関係がうまくいっていないので、そういう話自体がしずらい。結局、信頼していないし、信頼されていないから、うまくいくはずがない」
Q:「相互の信頼関係がないということか」
A:「そうだ」
Q:「卒寮してから何回か寮に行ったことがあるようだが、なぜ行ったのか?」
A:「自分の知っている子たちがいたので様子を見に行った。まだ(虐待が)続いているのかと思って。オープンには話せなかったが、軽くどうなっているのか」
その後、Kさんが自分の母親に、この事件のことを話したかどうかの質問があり、直接はないが、今回、弁護士さんから書類が来たりしていたので、裁判があることは知っているという話と、当時は話していないという内容の応答があった。
2人目の被告・神の国寮の代理人からの尋問。
Q:「2回目に呼ばれたとき、今回はMOくんがいたと答えたが、前回の証言では自分一人だったと述べているが、どっちが正しいのか?」
A:「思い出したが、MOくんが近くにいた」
Q:「前回、記憶は確かかと確認して答えたのに、思い出したと言って証言を変えるのか。また思い出したと言っては証言を変えるのではないか?」
例のAさんの尋問のときと同じように、恫喝するような強い調子の尋問に、ここで裁判長から「そういう言い方は控えるように」と注意が入った。
A:「MOくんは後から来た。自分が呼びに行ったかもしれない」
Q:「何分くらいたってからか?」
A:「正確な時間はわからない。自分が呼びに行ったのか、3分から5分たってからだと思う」
Q:「殴り始めたときにはMOくんはいたのか?」
A:「いた」
この辺りまで、代理人弁護士は非常に高圧的な態度で、口調もぞんざいな言い方をしていたが、少し態度が改まった。ですます調になる。(原告弁護団の睨みがきいた?裁判長の不快そうな顔、言いたげな雰囲気が功を奏した?)
Q:「M先生以外に先生はいなかったか?」
A:「いなかったと思う」
Q:「部屋にいたのは、あなたとMOくん、Aくん、M先生の4人か?」
A:「その通り」
Q:「利き足は左と前回、言っていたが、Aくんを蹴ったのはどっち?」
A:「左右」
Q:「蹴ったときAくんの姿勢は?」
A:「座っていたと思う」
Q:「どのへんを蹴ろうとしたのか?」
A:「たぶん頭以外」
Q:「どのへんを目指して蹴った記憶があるか?」
A:「足とか、背中」
Q:「腕に当たった記憶はないか?」
A:「何発か蹴ったので、当たっていると思う。よくわからない」
Q:「顔を蹴ろうとして、Aくんが避けようとして腕で顔を覆ったところを蹴った覚えはないか?」
A:(よく聞き取れなかったが、違うというような答え)
Q:「MOくんが話したことをS先生が報告書で出している。顔あたりを右足で蹴ったときに、Aくんが左腕で防御したために左腕で受けてしまったと書いてあるが、知っているか?」
A:(しばらく考えて)「あったと思う」
ここで、原告側弁護士が異議をはさむ。証拠保全を出してはいるが、現物の報告書がここにないこと、MOくんの居所がわからず、連絡がとれていないことなどを理由に、質問の仕方が適切でないことを指摘したが、裁判官からは、現物がなくともそういう質問の仕方はできると却下された。
そのあと、被告弁護士からは再度、前回の証言では一人だったと言い、今回はMOくんが部屋にいたと証言したのは、思い出したのではなく、原告弁護士からそのように言うように、前回から今回までの間に打ち合わせで、そういうように証言しろと言われたからではないかとの質問がくり返しあった。
Kさんは、弁護士が言っている意味がよくわからないようで、最終的に「そうです」と答えてしまった。
被告弁護士からは引き続き、他の女性の寮生のことを名指しして、知っているかなど聞かれたり、けんかや非行について、いろいろと聞かれた。(中略)
Q:「寮生の前で事件についての報告はなかったのか。Aくんのけがについて、最後までほんとうに知らなかったのか?」
A:「報告はなかった」「けがについては知らなかった」
Q:「Aくんがどうなったか気になったことは?」「食事の時、一緒だったのだから、ギブスをしているのが見えるはずではないか?」
A:「気にはなった」「距離があって、わざわざ見たりしているわけではないので知らなかった」
Q:「2〜3分、息が上がるまで蹴り続けたというが、サッカー部で、かなりキック力があっただろう。かなりのショックを与えたのではないか?相手側のダメージはわかるか?」
A:「だいたい」
Q:「蹴り続けたあとのAくんの様子は?」
A:「そこまではわからない」
3人目のM元職員の代理人弁護士からの質問。(上記とダブる質問内容ははぶく)
Q:「M先生はMOくんにも2〜3回、やってもいいと言ったのか?」
A:「MOくんにも言った」
Q:「それでMOくんは殴ったりしたのか?」
A:「いいえ。殴らなかった」
Q:「あなたは殴らないとM先生に何をされるかわからないと言っていたが、MOくんは何故殴らなかったのか?」
A:「早くこういうことから逃れようと思ったからではないかと思う」
Q:「MOくんはM先生に何かされるとは思わなかったのか?」
A:「MOくんは1度しか指示されなかった。自分には2〜3回あった」
Q:「2〜3分間、蹴ったりしたということだが、相当、頭に血が上っていたということはあるか?」
A:「けっこう、頭にきていた」
Q:「その間、Aくんは無抵抗だったのか?」
A:「無抵抗だった」
Q:「Aくんは立っていたか、座っていたか?」「倒れたか?」「Aくんの様子は?」
A:「床に倒れた」「痛々しい感じだった。横たわって丸まった感じだった」
Q:「相当大きなダメージを受けていた様子か?」
A:「表向きはそうは見えなかった」
Q:「あなたは中学生でしかもサッカーをやっていた。Aくんは小学生で細くて小さかったわけだが、心配しなかったのか?」
A:「ちょっとは心配した」
Q:「M先生は、やっていいよと言ったのか。普段からそういう口調で話すのか?」
A:「そういう柔らかい口調ではない。いつも一緒で命令形の口調。「やれ!」と言った。
ここから、原告代理人からの尋問。
最初に、先ほどの答弁のなかで原告代理人に言われて、証言を変えたのではないかという質問に「はい」と答えてしまったことについて、前回と今回との出廷の間に打ち合わせをしたのは、この法廷が始まる直前のわずか5分程度。思い出したことがあったら言って欲しい、自由に話していいという話以外には、ほとんど何の指示も受けていないのではないかということが、はっきりと確認された。
また、弁護士からの連絡ではじめてAくんの腕の後遺症害が残ったことを知ったこと、それを聞いてどう思ったか聞かれて、かわいそうだと思ったなどと述べられた。
Q:「Aくんを蹴ったり殴ったりした理由は?」
A:「やれと言われて逆らえなかった」「M先生に疑われて腹が立ったから」「自分自身が殴られたことも腹がたった」
Q:「2〜3分の殴ったり蹴ったりの暴行の間、M先生はどうしていた?」
A:「腕を組んで見ていた」
次に原告代理人の平湯真人弁護士のほうから、前回、法廷に遅れた理由について、質問形式で説明があった。仕事の関係で泊まり込みがあって時間に間に合わなかったこと。そして、今回も他の人との休みが重なって、法廷に出向くのに危ぶまれたところを、なんとか社長を説得して、今日再び主廷してきたということが話された。
Q:「仕事に差し支えるし、自分にとって何のプラスにもならないのに、証人として2回わたって来てくれた。なぜ?」
A:「寮で生活している子というのは、親がほとんどいない。親がわりの職員が面倒をみてくれないと生活できない。今後もこういう事件が二度とあってほしくないから」
最後に裁判官のほうからいくつか質問があった。
Q:「2度目に部屋に行くと、Aくん、MOくん、M先生がいた?」
A:「MOくんは後から自分が呼びに行ったと思う」
Q:「MOくんが来てからすぐにM先生はやっていいと言った?」
A:「もう一度質問されていると思う」「自分がやったんじゃないか、グルじゃないのかと責め立てられた。その後、MOくんを呼びに行った」
Q:「MOくんにやっていいと言ったのは、あなたの暴行のあとか?」「同時に言われたのか?」
A:「ほぼ同時に言われた」
Q:「あなたは暴行したが、MOくんは暴行しなかった?」
A:「はい」
その後、進行協議に入った。後遺症害の立証はどういう資料に基づいて行われたのかの問いに、原告弁護団は、身体障害者手帳申請時の診断書をあげ、その後の診断書も証拠提出できる可能性があると答えた。
また、神の国寮と、M元職員からの陳述書が出ていないことについて、5月20日までに提出してほしい旨、約束がなされた。神の国側Aさんを病院に連れていった際のカルテについては、病院がすでに潰れてしまっていること、そのあとリハビリに通った病院にもカルテの法的保存期間が過ぎているため手に入れられなかったことが出された。原告側は元寮生の佐々木さん、ほかと、児童養護施設について詳しい専門的な研究者の証人申請を口頭で行った。
Kさんは、今回もほんとうによく頑張った。法廷で、自らは被告でもないのに、ひとり加害者として責め立てられて、触れられたくもないプライバシーにまで言及されて。被告のAさんとは親しいわけでもない。誰かに義理があるわけでもない。本人に何一つ利益があるわけでもないのに。ただ、立場の弱い子どもたちが、二度と自分たちと同じ目に会わないようにと、そのために証言台に立った。けっして、誰でもができることではない。とても勇気ある行動だと思う。AさんやKさん、佐々木さんの思いが、どうか、この裁判に反映されますように!
次回はいよいよ、M元職員が法廷で証言することになった。2003年6月5日(木)。八王子地裁401号法廷にて、午後1時30分から3時の予定。どんな証言が飛び出すのか、要注目!
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