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『ファヴェーラの丘』
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原題『Favela Rising』
2008年4月5日(土)より、東京都写真美術館にてゴールデン・ウィーク・ロードショー
2005年/アメリカ/カラー/81分/
監督 : ジェフ・ジンバリスト 、 マット・モカリー
出演 : アンデルソン・サー 、 ジョゼ・ジュニオール(公式サイトではホゼ・ジュニオールと表記) 、 マルシオ・ニューンズ 、 アンドレ・ルイス・アゼヴェード 、 ズエニール・ヴェントゥーラ 他
配給:ナウオンメディア
ファベーラ(公式サイトではファヴェーラと表記)で生まれ育った一人の青年が、音楽をとおして子どもたちと向かい合っている。子どもたちがギャングの手先とならないように。子どもたちが、その人生をまっとうできるように。
映画『ファベーラの丘』は、その青年の生きてきた道をたどりながら、ファベーラの現実と、そこにある問題、そしてその問題と向かい合い活動を続けている人々を描き出している。
NGO「アフロヘッギ文化グループ」での、音楽活動部門「バンダ・アフロヘッギ(公式サイトではアフロレゲエと表記)」メンバー、アンデルソン・サーは、少年時代に麻薬ギャングと、軍警察の対立の中でおこった、軍警察によるファベーラ住民への大虐殺を目の当たりにする。犠牲者の中には彼の弟も含まれていた。
軍警察への復讐ではなく、そうした悲劇が二度と起きぬように彼は模索し、ファベーラの住民自身による自治活動に参加することで、問題の本質を見つめ、その解消のため活動を続けている。
『ファベーラ』と聞いたとき、どのような場所を想像するだろうか。ブラジル映画に関心を持っている人たちならば、まず『シティ・オブ・ゴッド』(原題『Cidade de Deus』)や、『バス174』(原題『Onibus174』)などを思い出すかもしれない。あるいは『オルフェ』(原題『Orfeu』だろうか。
いずれにしろ、法の及ばない暴力の支配する地域とのイメージを持ちがちだ。第三世界のスラムは、確かに危険だし観光気分で訪れるところではない。けれど「プラッサ」でも何度も取り上げているように、そこには活発な住民自身の運動や活動がある。そこで生活する人々と触れ合えば、暴力のみで支配された町と言いきることはできないことを知るだろう。
メキシコで懇意にしてもらったスラムのコミュニティの指導者。警察による不当逮捕に屈することのない、彼の持つやさしさと、意志の強さ。
やはりメキシコで、路上生活をしている子どもたち(ストリート・チルドレン)が家庭に戻るための活動をした後、麻薬売買が地域の「産業」となっているスラムで、サーカスの芸を教えることで、子どもたちが路上に出たり、麻薬の売人とならないよう活動している青年の、和やかな眼差し。
フィリピンのごみの山で、子どもたちの教育活動に自身のすべてをかけている女性。
ブラジル北部の都市で、わたしが構えるカメラのレンズをじっと見つめながら、子どもたちについて語ったコミュニティ指導者。
わたしにとって「スラム」、「ファベーラ」とは、暴力以上にそうした人々による、人としての権利を獲得する活動の「場」でもあった。映画で描かれているアンデルソン・サーもまた、そうした人々と同じ想いの中で子どもたちと向き合っている。映像の中でそれを感じることができる。
ブラジルの『ファベーラ』も、他の第三世界の『スラム』と同じように形成されてきている。地方で生活していた人たちが、その生活基盤を失い都市へと流れ込む。都市での新しい生活を目指す。しかし住む場所もなければ、仕事もそう簡単にはみつかりはしない。だからこそ土地を不法占拠し、自分たちの住む場所をつくり、日雇いであろうと仕事を探し、その日その日の生活を支えている。
すべてのファベーラの人々がギャングであるわけではない。多くの人たちはわたしたちと同じ『生活者』だ。映画冒頭で、アンデルソン・サーはそのことを語っている。
子どもたちは、ギャングの手先となることで簡単に大金を稼ぐことができる。だからこそギャングになることを憧れもする。幼いころは簡単な手先として、ギャング気分になったりもする。しかしギャングとなることは、青年期でその生命を終えることが多すぎる。ギャング同士の抗争。軍警察(日本の警察のイメージとは異なる)による殺害。
だからこそファベーラの大人たちは、さまざまな住民自治組織をつくり、子どもたちと、自分たちの生活を守る活動を続けている。そうしたコミュニティ活動のひとつが、NGO「アフロヘッギ文化グループ」であり、その中の音楽グループとして「バンダ・アフロヘッギ」がある。
アンデルソン・サーは、音楽を通して子どもたちが暴力の世界に入ることから守ろうと努力している。「バンダ・アフロヘッギ」はメジャーデビューし、ブラジルの若者たちは彼らの演奏に熱狂する。
子どもたちは彼らの音楽活動に、ギャングとは異なった未来を見いだす。そしてNGO「アフロヘッギ文化グループ」の活動へ参加してゆく。音楽活動だけではなく、サーカスの技術などを学び、カナダでの大会を目指すなど、子どもたちが熱中することのできる多くの活動へと。
それはひとつの、けれど大きな可能性である。
次号のプラッサ27号でも『主人公はわたしたちだ』をテーマに特集を組んでいる。まさにそのことを実感させてくれる。
『ファヴェーラの丘』を観終えて、もう少し丁寧に作れなかったのだろうかと感じた。漠然とみていれば、そこには生活者としてのファベーラの人々が見えてこないかもしれない。けれど映像の奥にあるものや、アンデルソン・サーの言葉を丁寧に聞くならば、「ファベーラは悪の巣だ」という漠然と感じていたものが、それはある一面から見たものだということに気づくだろう。
知識人と呼ばれている人たちや、経済的ゆとりのある人による指導ではなく、ファベーラの住人たち自身による活動の中で、創りだされるもの。それは『夢』ではなく、『現実』としっかり向かい合ったものであることを終映後に感じることのできる作品だった。
ぜひ、しっかりと映像を観つめてほしい。その中からステレオタイプ化された概念ではなく、現実にそこで行われている活動の重要さを感じてほしい。
プラッサの編集委員でフリージャーナリストの下郷さとみさんは、ブラジルのファベーラの住民自治組織に詳しく、アフロヘッギとも10年来の付き合いがある。映画『ファヴェーラの丘』や、ファベーラのコミュニティに関しては、下郷さんが自身のブログに詳しく書いているので、ぜひご覧いただきたい。
下郷さんブログ http://hyakuishou.exblog.jp/
(2008年3月16日からの連載記事、または、カテゴリーの「ファベーラ」を選んでください)
また下郷さんは、東京都写真美術館での4月27日(日)13時からの上映終了後おこなわれる、日本アムネスティ主催のトークショーにも参加する。質問や疑問などある方は、ぜひ劇場に足を運んでいただきたい。
文責:小池 彰
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▼ 最 新 情 報 ▲
■上映会&講演会について(JICAサイトより)
http://www.jica.go.jp/hiroba/event/200806.html#a04-621-01
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JICA地球ひろば 映画上映会『ファヴェーラの丘』
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リオ・デ・ジャネイロのファヴェーラ(スラムの意)を舞台に、音楽を通して社会を変革したいと願う、「アフロレゲエ(アフロヘッギ)バンド」のバンドリーダー、実在の人物アンデルソン・サーが主人公の『ファヴェーラの丘』です。今回は7回の上映会のうち、各土曜日の14時の上映会終了後、ファヴェーラとアフロレゲエバンドについて詳しいジャーナリストの下郷さとみさんや、世界各国の人権状況を調査・報告するNGOアムネスティ・インターナショナル日本事務局長・寺中誠さんを講師にお迎えし、お話していただく機会を設けました。
トライベッカ映画祭・最優秀新人ドキュメンタリー賞受賞作
上映時間 約81分
■上映日時:
6月21日(土) 14時から 映画と講演会
上映会後 15時30分から 下郷さとみさんの講演会
6月21日(土) 17時30分から 映画のみ
6月22日(日) 14時から 映画のみ
6月22日(日) 16時30分から 映画のみ
6月27日(金) 19時30分から 映画のみ
6月28日(土) 14時から 映画と講演会
上映会後 15時30分から 下郷さとみさんと寺中誠さんのトーク
6月28日(土) 17時30分から 映画のみ
■会場: JICA地球ひろば 2階 セミナールーム202
■交通:地下鉄日比谷線「広尾駅」下車(A3出口)徒歩1分
■地図:http://www.jica.go.jp/hiroba/about/map.html
■定員:40名
■参加費:無料
■参加方法:下記問合せ先まで、電話またはEメールにてお申込ください。その際、お名前、連絡先、ご所属をお知らせください。
■問合せ先:JICA地球ひろば 地球案内デスク
電話番号:0120-767278
Eメール:chikyuhiroba@jica.go.jp
■関連リンク:
6月21日(土)と6月28日(土)の講師下郷さとみさんのブログ
http://hyakuishou.exblog.jp/
アムネスティ・インターナショナル日本のホームページ
http://www.amnesty.or.jp/
『ファヴェーラの丘』公式サイト
http://www.nowonmedia.com/favela/
『ファヴェーラの丘』公式サイトへ
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