子ども買春は犯罪です

ストップ子ども買春の会:高橋 利枝



東南アジアへの『売春ツアー』という言葉が、マスコミを賑わせたことがありました。しかしなぜ『売春』なのでしょうか。日本から出かけていく男性が行う行為は、『売春』ではなく『買春』行為のはずです。これは男性中心の社会の中で、女性への性的搾取を隠蔽する言葉のトリックです。『援助交際』が騒がれている今、東京都もやっと「買春処罰規定」を制定しました。法や条例に置いても、『買春行為』は犯罪であり、道義的にも許されざる行為なのです。

子ども買春根絶を目指すECPATの主要グループである「ストップ子ども買春の会」事務局の高橋さんに、買春行為根絶のための活動について書いていただきました。



 今年4月大阪府警が「援助交際は売春です。」のコピーでルーズソックスを履いた女子中高生と思われる少女と買春者と思われる男性の後ろ姿の足の部分だけを写したポスターを作成しました。これは昨年8月スウェーデンのストックホルムで開催された「子どもの商業的性的搾取を阻止するための世界会議」以来日本国内で、社会全体の認識、対応の遅れを痛感したという政府代表団の反省のもとに外務省の呼びかけにより制作された「犯罪です、子ども買春」のポスターと視点を全く逆にするものとなりました。日本国政府が「子どもの権利条約」に批准して3年、「援助交際」と呼ばれる子ども買春が存在している経済大国日本鋸の状況は、世界の国々にどんな問題を提起しているのでしょうか。



 これまで東南アジアの国々で起こっている子どもの人身売買を含む商業的性的搾取の要因として考えられてきたのは貧困であり南北問題といわれる経済格差でした。富める北の男性が貧しい国の女性や子どもを買いに来るという構図がありました。これ等の現状を踏まえアジア観光のなかでの子ども買春根絶を目指すECPAT(エクパット)の活動は、様々な試みをしてきました。

 その第一歩はこの様なこと(大人が子どもから性的サービスを受ける目的で子どもを買う行為)があるという事を知らせることからでした。最初なかなか事実を信じてもらえなかったそうです。しかし一部のマスコミによって報道されたことにより一般的に知られるようになったのです。そして2番目にしたことは、子どもを商業的性搾取から守るための教育をしていく事でした。教育を促進する中、教育だけをやっていても駄目だと言うことが解かってきたのです。法整備が不十分であるため子ども買春が合法的に許されてしまうという問題に気が付き、3番目にした事は立法措置に向けての政府への働き掛けでした。ここまでやってきたECPATの活動のなかで解かってきたことは法律だけあっても駄目だということでした。

 第4段階を迎えた今後、何を問題にするべきか、それは昨年世界会議のなかで最も強調された「価値観」の問題に行き着いたのです。子ども買春、子どもポルノを黙認し、容認している社会の価値観こそ最大の要因であることを私たちは知らなくてはなりません。

 アジア観光における子ども買春問題のなかで日本は多くの買春者を送りだしでいる加害国として世界から指摘されてきました。現在もこの状況は続いています。これまでの子どもの商業的性搾取を引き起こす原因が経済問題とする考え方のなかで、日本の子ども達は少なくとも「貧困」という問題は抱えていないのだからこの様な事態に巻き込まれる事はないと言う認識が強かった様に思います。しかし、テレクラなどによる「援助交際」といわれる日本の少女達に対する買春行為、それを助長するかのような子どもポルノの氾濫など今日の日本の現状を考えれば、これ等の問題の根源が「貧困」にあるのではない事は誰の目にも明らかでしょう。



ECPATの活動を担うグループの一つとして発足した「ストップ子ども買春の会」は日本国内において様々な活動をしてきました。タイ、フィリピンで行われている子ども買春の実態をメンバーの一人が新聞社に精力的に訴える事から始め、「日本旅行業界」「運輸省」への働き掛けも会として試みました。台湾で日本人によって作られた子どもポルノが売られているとの報告や、フィリピンからは日本人が子どもを性虐待しそれをビデオ撮影した事件が起きたが保釈金を積んで日本に逃げてしまった事なども報告されました。

 そして1994年日本政府が「子どもの権利条約」に批准した頃から、日本国内にある子どもの性搾取や虐待に気がつき、日本国内の子どもポルノウォッチングを始めました。郵便ポストに投げ込まれたチラシから宅配ビデオのロリコンものを購入しそれの内容を確認した上で、警視庁に持ち込む事などもしました。これ等の活動の中で判ってきたことは、日本国政府は各警察署に対して「子どもの権利条約」について周知徹底することを怠っていること、そしてこれだけの子どもが性的搾取、虐待により人権侵害にあっているのにこれらのことに適切に対応できる法律がないということでした。



 「子どもの権利条約」に批准したとき、日本政府はすべて担保されているとして法改正の必要はないとの考えを示しました。また「犯罪です、子ども買春」のポスターが出来上がったとき、このポスターの意向の一つとして「日本の国内法でも子どもへの買春行為は充分に処罰されることを知ってもらいたい」と外務省の人権難民課長のコメントがありました。法律があるにも拘らず子どもポルノを含む子ども買春問題が解決することなく今日までほっとかれるに等しい状態が続いてきたのか、もう少し具体的に考えてみたいと思います。



 日本において子ども買春に関係する法律は「売春防止法」(この中で売春行為が禁止されているだけでなく『その相手方となってはならない』と買春者についても記述されていますが処罰規定がなくその為『援助交際』を大阪府警は売春として売った側の子どもを一方的に悪いとする判断をしたと考えます。)のほかに「児童福祉法」「刑法」があります。後者二つの法律の中で子どもとの性行為を禁止していますが、子どもとしている年齢(『子どもの権利条約』では18歳未満を子どもとしています。)が統一されていないこと、保護者の存在や親権に重点が置かれていることなど幾つかの問題点が指摘されています。

 その他に「刑法」では猥褻なものを販売、陳列、配布することを禁じています。つまり「公序良俗に反するわいせつ性」が認められた場合のみ、違法行為として扱われることになります。ここで問題となるのは何がわいせつであるかという事です。日本で猥褻とは何かを決定する基準は、果たして女性や子どもの人権の立場から考えられているのか、それどころか男性優位社会の偏った視点からのみ定まってきているように感じます。そのため子どもポルノがせっかくある法律から漏れてしまう結果をもたらしています。(しかし『ストップ子ども買春の会』では子どもポルノと大人のポルノは本来はっきりと区別して考えるべきものと認識しています。また反子どもポルノの法律は日本には存在していないので立法措置の必要性とそこにある理念は『わいせつ性』で解決されるものではないと考えています。)

 また法律が有効に機能しているのかを考えたとき、例えばレイプなどの性暴力事件は親告罪でしかも6ヵ月以内と申告する期間が決められているため海外で日本人が事件を起こした場合、精神的にも傷ついた子どもが現実的には不可能な告訴を外国にしなければ事件として扱われない事になります。あるいは被害者が日本人の子どもであったとしても性暴力にあった子どもはそれを言えずにいることが殆どで、6ヵ月というのはあまりに期間が短すぎる等の問題が指摘されています。実際に捜査や裁判の段階においても子どもの、人権に対する配慮不足(ビデオによる被害者の証言が認められないため証言台に子どもを立たせなければならない等)が弁護士等によっても指摘されています。システムに問題があるため法律が有効に機能せず問題解決に向かわない状況を招いているのです。どんなに法律があっても、その法律が不適切で不十分であればただあるということです。

 要するに「子どもの権利条約」にある「あらゆる形態の性搾取、性虐待から保護される権利」を守る法律は日本に存在していないのです。この実状は子どもを性の対象とする事や子どもから性的サービスを受けること更には人身売買が私たちの社会のなかで黙認され、容認されている結果なのです。「援助交際」と呼ばれる子ども買春問題が子どもの側の問題(性非行)なのではなく、社会の問題であり大人の子どもに対しての犯罪であることをもっと認識しなければならないのです。



 昨年の世界会議では、子ども買春・人身売買・ポルノという子どもの商業的性搾取の主要な形態に対応する9つのテーマ(子どもポルノ・法の改正と執行・性搾取者・観光旅行における性搾取・健康・保健問題・予防と心理的、社会的リハビリテーション・教育の役割・メディアの倫理・人間の価値観)に重点をおいて話し合われました。

 その中の一つ「性搾取者」について書かれたレポートのなかで自国内で営利目的以外に子どもに性虐待をする男性に関する調査からの分析があるので引用したいと思います。



 虐待が生じる背景には、子どもとセックスしたいという欲求はもちろん、(中略)虐待をする大人は外的な抑制を克服し、彼らが虐待という行為を行なえる状況を生み出さなければならない。その為には(中略)犠牲者を手なずける事が要求される。第二に、虐待者は犠牲者による抵抗を克服する必要がある。それは(中略)贈り物を通じて達成される。(中略)虐待を生じさせるために払われる努力の大きさは、営利を目的としない場合でも、状況によって変化する。(中略)ペドファイルと選好的な子ども虐待者の大多数は、自分たちで行動が違法であり、社会的に非難されるものである事を知っているので、虐待を実行するためには、心のやましさを克服しなければならない。彼らはまた、虐待に対して「同意」という虚構を必要とする。(中略)虐待する大人がある概念を歪曲して認識することは、自分の行動を正当化し、言い逃れ、自分自身に対して自分が搾取している子どもは明確な同意の上で、セックスをしているのだと思い込みたいためである。(中略)



 そしてさらにレポートのなかで「性搾取者」がどのような概念上の歪みや信念を持っているかについても述べられているので幾つかピックアップしてみたいと思います。

 ・子どもは大人との性交渉によって傷つくことはない。

 ・子どもは同意できるし、そこから利益を得ることができる。

 ・子ども自身が「売春する」と見なす。

 ・子どもは、自分より前にすでに他の大人と性的な接触を強いられているのだから、自分の行為は真の犯罪とはいえない。

 ・売春する子どもたちは、(中略)民族や文化の道徳に反して性的に「だらしがなく」、「不道徳」である。

 ・子どもたちはすでに「売春婦」であり(つまりすでに汚れていて、まっとうな人間ではないのだから)自分たちが虐待しても何ら害を生じさせることはない。



 ここにあげたものは、世界会議のレポートのなかで「性搾取者」達がどのような考えのもとに子ども買春を行ない、自分たちを正当化し弁護しているかについて記述されている箇所からの抜粋です。

 このレポートが示すように、買春者は自分を買春者とは認めません。子どもが売春していると考えています。私たちは私たち自身の中に、あるいは私たちの社会の中に(法執行機関やマスコミのなかに)、買春者と同じ歪んだ概念が潜在していないか考えてみてください。そして、もしこの様な歪んだ概念から「援助交際をする女子中高生」を含む子どもを視るのならば、それこそが子ども買春を助長するものになることをはっきりと理解してほしいと思います。また、たとえ性行為が目的でないとしても18歳未満の子どもが被写体となた「子どもポルノ」を性的刺激を得るために買ったとしたら、これも子ども買春に関わった事になります。(「子どもポルノ」については制作、販売、所持までが犯罪であると考えています。)世界から発信基地と指摘を受けるほど子どもポルノが蔓延している日本社会のなかで麻痺してしまった人たちからすれば、子どもを性の対象とし性的サービスを受ける目的で子どもを買う行為を犯罪だと、子どもではなく大人が悪いと認識することは容易なことではないのかもしれません。戦後の高度成長期以降、「消費文化」によって発展してきた日本のなかで物やお金以外に価値を見出すことも同様に困難な事なのかも知れません。

 しかし、日本が法治国家として、あるいは「子どもの権利条約」批准国として子どもの人権を本当に重んじる国であるならば「性搾取者」達と同じ考えを捨て、虐待されている子どもがどこの国の子どもであったとしても子どもに対する買春行為は絶対に許されないとする考えのもとに法律が設置されるべきなのです。その為には、子ども買春は貧困が生み出す社会現象でもなく、子どもの非行性でもなく犯罪であることを認識し、大人がこの問題の根源がどこにあるのかを考え、子どもに責任を負わせることで問題処理するのではなく、日本においては法律の面からも社会の不十分さを認めることから始めなければならないのです。

 今年5月、スウェーデン大使館主催のもと東京で行なわれた国際シンポジウムのなかで国際ECPAT議長のロン・オグレディ氏が、日本に対する期待として「事実を知らせ、世界で何が起こっているのかを日本人が知ること」だと述べました。日本人男性がアジアの国々で10歳前後の子どもを買春し、虐待し、外国において逮捕までされている事、そして日本の普通の書店で、日本の子どもや東南アジアの子どもを使ったポルノが当たり前のように売られている現状を知ったとき、有害な伝統慣習に踏み止まらずに私たち一人ひとりが国際社会に向けてなにを発言していくべきなのか、その一歩として日本社会のなかで何かアクションを起こさなければならない必要性を確認できると思います。



 「ストップ子ども買春の会」では、昨年から署名を集め「子どもの性搾取・虐待をなくすための立方措置を求める請願」を国会に一人でも多くの議員に提出してもらうために、今年の通常国会からロビー活動を行なってきました。そして、6月与党内に今秋の臨時国会を目指し、「子どもの商業的性的搾取に取り組むプロジェクトチームが設置されることになりました。さらにロビー活動は続けていく予定でいます。また全国の地方自治体に対しても、子どもの商業的性的搾取に反対する意見書を採択してもらうよう「陳情書」を提出しました。

 「子どもの権利条約」34条で保証している権利が今後どのように実現されていくのかは、やっと動き出した国会内の取り組みと、私たち市民の社会に対する価値観そしてアクションに期待したいと思います。





ストップ子ども買春の会


 エクパットとは、アジア観光の中での子ども買春を根絶しようという国際キャンペーン(The International Campaign to Child Prostitution in Asian Tourism)のことで、このキャンペーンを英語の頭文字を取ってECPAT=エコパットと呼んでいます。1990年5月にタイのチェンマイで会議が開かれ、観光のためにたいへんな数の子どもたちが、売買春の被害にあっていることが話し合われました。そして観光旅行者を送り出している国の組織とアジア諸組織が協力し合って、ECPATの活動が始まりました。これは2000年を目指した取り組みです。「ストップ子ども買春」の会は日本でのこの活動を担っている主なグループの一つです。

 世界各地のエクパット活動と協力して、アジア観光の中での子ども買春根絶に取り組んでいます。そのためにも加害者を送り出している日本の社会を変えていくことが重要です。「子どもの権利条約」に基づき、国内はもちろん「海外での子ども買春禁止法」制定に向けて活動しています。

 まず、子ども買春の事実を知って、この問題に関心を持ってください。このキャンペーンのためには、多くの人々や団体の力が必要です。ぜひ、あなたも私たちと一緒に子ども買春根絶に向けて行動を起こしましょう。




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