ビデオ勉強会報告
アメリカという経済大国の影の部分

堀 径世



5月25日(日)、阿佐ヶ谷地域区民センターで、「ストリートチルドレンを考える会」と合同の勉強会がおこなわれました。参加者は24名で、『アメリカ最貧層の子どもたち』というドキュメンタリー番組を見たあと、それぞれの感想、意見などを話し合いました。



 アメリカ合衆国(以下アメリカ)は世界最大のGNP約2兆ドルを誇る経済大国ですが、1500万人(5人に1人)もの貧困層の子どもを抱える国でもあります。これは、福祉予算の大幅削減や物価高などが原因としてあげられますが、一口に貧困層といってもそれぞれの人によってその理由も背景もさまざまです。『アメリカ最貧層の子どもたち』(1996年 アメリカ制作)は、全く異なる環境で育った3人の子どもたちがどう貧困と立ち向かい、抜け出そうとしているかを記録したものです。

 ニコル(16歳)は黒人の女の子で、もう4世代にもわたって福祉の世話になっています。生活手当に頼りきった生活は、税金を泥棒しているようで、とても引け目を感じます。自分の母親にもきちんと仕事をしてほしいし、自分も大学を出て仕事を見つけ、自立した生活をしたいと強く望んでいます。何世代にもわたる、福祉への過度の依存がまねいた貧困から抜け出そうともがいているのです。

 デメトリオ(16歳)はメキシコ系の移動農業労働者の子どもです。移動農業労働者は作物の収穫の時期に合わせて、1年に何度も移動します。労働が過酷なうえに、暑さによるストレスや化学肥料による疾病の危険があります。子どもたちも幼いころから働かされ、転校のくりかえしで、勉強が妨げられます。デメトリオは自分の両親の辛さを見て、勉強して収入の安定した仕事をもつことが貧困から抜け出す方法と考えています。

 クリス(14歳)は、白人の中産階級の子どもで、両親の離婚をきっかけにホームレスとなりました。ホームレス・シェルターに親子で滞在し、その間に母親も仕事を探そうとはしましたが、結局喪失感や絶望から薬物を乱用し、クリスの母親としての資格がないと見なされます。クリスにはすぐに里親が見つかりますが、何が間違っていたのか、どうやって正しい道にとどまるべきか、と自分の経験をもとにしっかりと足元を見つめて生きていこうとしています。



 この番組を見たあと、小池さん(プラッサ)、工藤さん、中西さん(ストリートチルドレンを考える会)からアメリカ経済、社会などに関して人種、移民、家族の問題をふくめた説明がありました。

 つぎに参加者がビデオを見た感想を述べ、それぞれの意見がでました。多くの人の共通した感想が「このビデオの中の3人は、とても強い意志と意欲をもって、しっかり自分の将来を見つめている。しかし実際は、多くの子どもが絶望のなかで生きているのではないか」というものでした。アメリカ社会では本人がその気になれば夢は叶う、というアメリカン・ドリームが前提にありますが、それはある意味で「何もしようとしない人は何もできなくて当たり前」というシビアな暗黙の了解でもあります。そのため貧困層に属する人びとはチャンスを生かしてこなかったクズ、のように思われがちなのです。

 3人とも高学歴を得るということに、貧困からの脱出を見いだしていましたが、それが唯一の解決法であるのか、という問題提起もされました。現代の社会ではホワイト・カラーの仕事が過大評価されていて、肉体労働があまりにも軽視されています。だから高学歴を得ようとすることが彼らの向上心や自尊心と結びつきやすいのかもしれません。しかしそれ以外の道で人びとがプライドをもって生きていけるような社会を実現していかないかぎり、社会の不均衡がなくなることは難しいのかもしれません。また子どもの話であっただけに教育、親の責任、家族の役割についても話がおよびました。

 参加者ひとりひとりが意見を述べる機会があったので、いろいろな視点から問題を考えることができました。

 これまでどちらかというと、アジア、アフリカ、ラテンアメリカといった途上国の子どもの問題に偏りがあったプラッサですが、アメリカという経済大国の影の部分にも目を向けることで、これからまた新しい切り口で子どもの問題と取り組んでいけるのではないでしょうか。この勉強会がいいきっかけになったと思います。




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