増える子どもの孤食

生協総合研究所 研究員 西村 一郎




☆子どもにいくつものコ食



 最近の子どもの食生活をみるときに、次のようないくつものコ食で表現することができます。

(1) 小食; ダイエットのブ−ムを反映し、小学校高学年あたりから食べる量を意識して減らしている子どもがいます。

(2) 戸( 外) 食; ハンバ−ガ−などのように、好きな場所で歩きながらでも食事をすることができます。

(3) 粉食; めん類やピザなどのように、粉を主体とした柔らかい食事が多くなり、ドリンクと一緒に早く飲み込み、その結果として噛む力がおろそかになるようです。

(4) 混食;和食や洋食とこだわるのでなく、ト−ストに納豆をのせるなどして食におけるボ−ダレスがすすんでいます。

(5) 娯食; 食事は栄養やエネルギ−をとるためでなく、楽しい仲間や雰囲気が大きな要素となっています。

(6) 五食;朝、昼、夜の3食だけでなく、おやつと夜型の生活で夜食がふえ、1日に5回の食事の子どもがふえています。

(7) 孤食; 家族や友人といっしょではなく、1人だけでモクモクと食べる子どもがふえています。

(8) 子食; お子様ランチのように、かわいい演出をねらった食事が好評です。

(9) 個食; たとえ家族で食べていても、個人によって好みを主張して別々の食事をとっていることがあります。

(10) 濃食; 全般的に味の濃いメニュ−が好みで、とくにスナック菓子などは塩や砂糖などが多く問題をふくんでいます。

 ここでは孤食について、その実態を報告します。


朝食で増える孤食


 孤食が社会で話題になりだしたのは、1981年にNHKが中心となって子どもの全国調査をおこなったときからです。そこで集計された調査結果は、テレビの電波にのったり単行本となって全国へ流れました。

 その結果、「子どもが一人で寂しく食事をしていてかわいそうだから、大人は子どもたちと一緒に食事をしましょう」といった議論が少なからずありました。

 あれからすでに16年たっているわけですが、子どもの孤食はどうなっているのでしょうか。NHKの調査からまる10年たった1992年に、日本生協連では同じ調査項目で全国調査をおこない1453件のサンプルを集めました。

 その結果を朝食について対比させたものが図1です。



 残念ながら一人で食べる孤食が17.8%から23.1%へと5.3ポイントふえ、逆に家族全員で食事をしている人がその分だけ減少しています。どうも対策が効果的ではなかったようです。


朝食の雰囲気は


 ではその朝食を食べているときに子どもたちは、どのように感じているのでしょうか。「朝食はどうだったか」の設問に対して、以下のような回答でした。

  楽しかった       37.4%

  つまらなかった     10.7

  どちらとも感じなかった 50.6

 育ち盛りの子どもにとって食事は本来楽しいはずですが、1割の子どもはつまらなかったと答え、半数が「楽しい」とも「つまらない」とも感じていません。つまり約6割の子どもは、朝食に対して消極的なままでのぞんでいます。

 そうした子どもの受け止め方に、家族の誰と食べていたのかが大きな影響を与えています。表1は、誰と食べてどのように感じたのかクロスさせたものです。



 この表を見ると、家族全員で食べた子どもは「楽しかった」と多くが答え、逆に一人で食べた子どもは「つまらなかった」の割合が高くなっています。

 家族がそろっていれば、それだけコミュニケ−ションが多くとれます。つまり食事の楽しみとは、ただ皿の上にのっている料理だけでなく、あたたかい人間関係によって成り立っているようです。


朝食前の空腹感は


 食欲と深い関連のある空腹感についてたずねると、次のような回答でした。

  ペコペコにすいていた       12.2%

  少しすいていた          51.9

  すいていなかった         22.0

  わからない            12.7

 このデ−タ−でみると、食欲があまりないと判断できる「すいていなかった」と「わからない」で34.7%をしめます。つまり子どもの三人に一人は、いっぱい食べてやろうという積極的な食欲がないまま食卓にむかっています。

 そうしたおなかの状態には、子どもの起床時間が大きくかかわっています。表2は、起床時間と朝食前の空腹感をクロスさせたものです。



 6時台に起きた子どもにはペコペコに感じている割合が多く、7時や8時台に起床した子どもには食欲のない子が多くなっています。

 子どもの生活が夜型となり、朝は登校するギリギリまで寝ていようとするため食欲がなくて食卓にむかっているようです。


朝食における孤食の風景は


 子どもたちに、朝食の風景を書いてもらいました。家族がそろって楽しく食卓を囲んでいる風景もありますが、中には以下のような事例もあります。

 図2は、顔に目鼻を書かず私と字を入れて、さらにはていねいに「1人」と横に添え書きをしています。食卓にはト−ストとコ−ヒ−だけで、主菜も副菜もありません。一日のスタ−トを切る朝食としては、内容的にも不充分のようです。

 体調について本人は、「胃の調子がおかしくて、食事がおいしく食べられない」とか「夜もよくねむれなくて体がだるい」と答えています。

 顔の表情を書かず、かつ両方の手も見えていません。食欲があまりないことの現れとみてよいでしょう。



 図3では、一人で鼻唄をうたいながら食べています。そのテ−ブルの上を見ると、練り梅やどくだみ茶などが並び、この家庭ではかなり健康に気配りしていることが想像できます。

 しかし、本人はあまり喜んでいるようではありません。実際に「食事がおいしく食べられないし、元気がでない」とか「体の調子がよくない」などと答えています。



 図4では、食卓の上にド−ナツとジュ−スのみで、朝から糖分などの取りすぎが気になるところです。



 あえて図の中に「私一人で朝ごはんを食べた」と記入し、アンケ−ト用紙には「朝みんないっしょにおきて、みんなで楽しく食事したい」と書いています。さらには「パンばかりでなく、ごはんもたまに食べたい」とメモし、体調については、「風邪をひきやすい」「だるくなりやすい」「元気がでない」など9項目の不定愁訴をだしています。

 ところでこの子どもは、この日は「朝食の手伝いをした」と答えています。ド−ナツの箱を開けたり、もしくはジュ−スを冷蔵庫から出すことを手伝いと認識しているようで、同じ日本語を使っても大人とかなりのズレがあります。


☆子どもの孤食で問われているものは何か


 こうして孤食をする子どもが存在しますが、何が問われていてどのように対応すればよいのでしょうか。少なくとも、これまでの「孤食は子どもがかわいそうなのでやめましょう」のように行為のみを問題にしても、改善につながらないことはこの間の推移が示しています。

 まず第1には、孤食の実態をきちんと認識し、家族などの間で話題にしていくことです。親子でのコミュニケ−ションを高めることによって、大人の視線だけでは見えてこない子どもの世界がよく理解できることも少なくありません。

 そのことを抜きにして、いつまでも上から被せるような発想で、一方的に「こうすべきだ」とか「これをしてはいけない」と決めつけるのでは問題の解決にならず、むしろ子どもの成長を精神面で阻害するような別の問題を引き起こすことにもなりかねません。

 第2には、そのコミュニケ−ションを通じて、何か1つでも改善できることはないのかいっしょに考えることです。

 平日は家族そろって食事をすることがむりであっても、土曜とか日曜には工夫すれば全員が食卓を囲むことができるかもしれません。

 たとえ一緒に食事をすることができなくても、簡単な手紙をそえるなどしてコミュニケ−ションをはかることはできます。逆に同じテ−ブルに座っていても、学校や塾の成績ばかりを親が話題にしていると、子どもの食欲は減退していくことでしょう。

 孤食を通して、一歩でも子どもの食生活の改善につなげていくことが求められています。




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