自分の、そして社会の価値観を見直すことが、児童労働問題の解決の重要な糸口であるとする記事に私は大賛成である。同じく数字だけでは現実が見えてこないとの意見にもうなずける。
しかし一見岩のように冷たく強固に見える数字でさえ、扱い様によっては“数字の魔術”といわれるような面があることに気付くのである。まして数字に比べ、限りなく抽象的な“価値観”を見直そうというのだ。この戦いに毎日を費やす人々には、私のように後方で応援している者の想像を越えた苦労があると思う。
以上のことを踏まえた(つもりの)上で、記事のコメントをしたい。
ミンギ記者が指摘した保護貿易問題は注意すべきであり、児童労働問題が、企業や国家間の市場競争の結果でありながら、争いのカードの一枚にすり替えられていることである。市場理論という価値観を温存できたからこそ、ボイコットの脅しにブラジル企業は我先に、またあっさりと「悪者」から「正義の味方」に転向しえたのだ。
実業家であるグラジェウ氏が市場理念に基づいて問題解決を試みるのは当然である。ミンギ記者への反論で彼は、子どもたちを有能な労働力に育てるべきと述べている。このような労働力を必要としている国家や企業が、これらをふんだんに使えるとなれば嬉しいことである。したがって戦いは単純労働を必要とする業界間のものになり、価値観の見直しは行われていないのだ。
このように記事が伝えるキャンペーンは記事の期待とは裏腹に、単なる市場競争の一環に成り下がっているのである。従ってそこに述べられている解決も局部的かつ一過性のものに過ぎないであろう。
児童労働問題が深刻化した原因の一つが価格競争に勝つための安価な労働力の確保であったことを考えると、“安いことはいいことだ”的な消費者の価値観を見直さねばならず、また“有能な労働力に育てることすなわち子供の幸せ”的学校教育観も見直すことが、労働に従事する児童のみならず、子どもたちを幸せにすることにつながると思う。
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