このお話の中で、バディは少年にとって“親友”だけではないのです。少年は筋ジストロフィーという病気で、手足が自由に使えません。そこでバディは、少年が一人ではできないことを手助けします。この少年は、誰かの援助なしで、普通の子どもたちにとって、あたりまえのことができません。バディと少年は、“一心同体”なのです。(帯文より)*
それは筋ジストロフイーという病気です。米国に住む男の子「ぼく」は、筋肉が弱って様々な日常の行動が徐々にしづらくなっていきます。この絵本はこの少年が今は親友となった介助犬バデイとのことを私たちに話して聞かせてくれる物語です。
ペットとしての犬はもともと人間によって不安を減らし喜びを増していきます。人間のほうだってセラピー・アニマルとして犬をその心身の健康に役立ててきました。けれどもこの犬は単なるペットとしてではなく仕事をする犬として少年と共に言葉に尽くせない訓練の時を重ねて来ました。
優秀な犬と強い魂を持った少年。お互いが苦しい時を経て、放り出したくなってもなお諦めず理解しようと努めていきました。そうして少年と犬の心がひとつになった時はじめて得られた幸福。それはいったいどんな境地なのでしょう。
いっしょに眠りいっしょにシャワーを浴びたその日々。今では学校でも商店でも「ぼく」を助けて行動するバデイに少年は大きな信頼を返していきます。周囲の人間も犬がきちんと仕事が出来るように心得なければならないことを知っています。
自分自身のからだが思うように動かない人たちがこうしてまったく自由に日常生活を楽しむ、その不自由を介助犬がコンスタントに、そう、いつも変わることなく補っていきます。共に生きる。この話を少年に語られて知り、さいごに私はほっとくつろぐ気持ちになりました。
やさしくてしかも元気のいい水彩の絵本です。絵はページをめくるたびに視界いっぱいに広がります。日本語に訳された文は、子どもにとってちょっとむずかしい言葉も漢字になっていてすべてふりがな付き。自然な流れになっています。
この本の終わりでもうひとりの語り手が登場し、その合同訓練の日々、克服、現在の様子を伝えています。同じ病気から介助犬と共に生きています。やはり「こんなひどい試練を受けるなんて」と何度も投げ出したくなったそうです。しかし今では犬と多くの協力者からかけがえのない心をもらった、とその人、野口利男さんは結んでいます。私はこれまでの生活で身近な動物から、共に生きるための苦しみではなく野口さんの言葉にある「やすらぎとありのままの心」という部分だけをもらってきました。こうした仕事をする犬は米国では20年以上の歴史を経て1000頭を越え、日本ではただいま3頭ということです。この本を閉じた時、私は介助犬のことを今後折りにふれて学び、こうした人と犬の友情が少しでも多く育っていくことを強く願いました。
松本 乃里子
|