この地を愛されるように |
中西 敏夫 |
1960年代、アメリカの黒人たちはキング牧師たち指導者を中心にして、自らの社会的な権利の拡大を求めて大きな運動を展開してきた。それは、後に、公民権運動と呼ばれる歴史的な勝利の闘いへと導かれていくのだが、それとほぼ同時に、マイノリティと言われる少数民族のための闘いも粘り強く推し進められていた。 その中に、現在、ネイティブ・アメリカンと呼ばれるアメリカ・インディアンたちの闘いも含まれており、60年代のマイノリティの運動の中で、白人中心の価値観はすべて問い正されていった。 「インディアン」という言葉から、私たち日本人は何を思い浮かべるだろう? 裸馬にまたがり、バファローを狩りする姿。鷲の羽がたくさんついている髪飾りを身につけた酋長の雄姿。三角のテントの群れ・・・ 白人たちの幌馬車を襲い、頭の皮をはぎ取る。 そこにはいかに歪曲された歴史観が忍び込んでいたことであったか! この度、『ブラザー・イーグル、シスター・スカイ 〜 酋長シアトルからのメッセージ 〜』を訳出する機会を得、自らの中にある「朝鮮問題」とも重ね合わせ、感慨深いものがある。 この絵本の主人公・酋長シアトルは、1790年頃に生まれ、1866年に亡くなっている。 ちょうどこの時期は、アメリカがイギリスの植民地から独立し、一つの国家として拡大を続けた時代にあたっている。しかし、その独立は白人中心の独立であり、開拓をして白人社会を作っていく上では、インディアンはじゃま者でしかなかった。長い間、インディアンに対する迫害が続いた。 19世紀の後半、白人たちは酋長シアトルが治めていた土地の明け渡しを宣告し、条約の調印を迫った。その際に、その場にいた白人たちに演説を行なったのが記録され、100年以上も語りつがれてきたのが、この絵本に書かれてあるメッセージである。 『空が金で買えるだろうか?雨や風をひとりじめできるだろうか? 我らは知っている、大地は我らのものでなく、我らが大地のものであることを。 あなたがたの子どものまた子どもたちのために、 大地や大気や川を、いつくしみ守られるように、 そしてわたしたちが愛してきたと同じに、この地を愛されるように。』 白人たちに土地を追われ、追いつめられているにもかかわらず、酋長シアトルのメッセージは、もの静かに私たちに訴えかけてくる。そこには、自然に対する深い愛があり、人種を越えて呼びかけてくる強い平和への願いがこめられている。現代の私たちの生き方を、まるで問いただすかのように。 自らの内なる「朝鮮問題」、自らの内なる「インディアン問題」、自らの内なる「黒人問題」、自らの内なる「・・・問題」。常に、正しい歴史観と生き方を問い詰められてくる。 |