【中学生が見たベトナム】

〜ストリートチルドレン
「子どもの家」を訪ねて〜

ベトナムの「子どもの家」を支える静岡の会:笠井 英彦



(1)はじめに

 1996年3月21日から26日まで、静岡と東京の子どもたち13名(中学生は9名)がベトナムへのボランティアの旅を行いました。この旅は、日本の子どもたちがベトナムの子どもたちに支援物資を届け、また枯葉剤によって障害をもってしまった子どもに車椅子を渡すという画期的な旅でした。そして、この旅で日本の子どもたちは、多くの得難い体験をし、お金には代えられない貴重なものを学びました。このことを子どもの感想を交え書いてみたいと思います。


(2)ベトナム派遣に至るまで

 昨年静岡にできた、『子どもの権利条約』を学び実行する子どもたちの自主的な組織「Think of Earth 愛の子ども委員会」は、昨年夏ベトナムの4人の学生を招いてサマーキャンプを行いました。このサマーキャンプには50人を越える小中学校生たちが参加し、ベトナムについて学び交流しあいました。そしてこの中で、子どもたちは自分たちの代表をベトナムに派遣しようと考え、行動し始めました。募金集めやバザー、学習会をなん回となく取り組み3月を迎えたのです。この企画を全面的に支援・協力してくれたのが、東京の「ベトナムの『子どもの家』を支える会」(代表 岩辺泰吏さん)と、「支える会」のベトナム事務所長として現地で旺盛な活動を繰り広げている小山道夫さんでした。小山さんは、子どもたちが出した要望をほとんどすべて取り入れて、日程を組んでくれました。


(3)絶対的な貧しさのあるベトナム




 僕がサイゴンで買い物をしていると、“物乞い”する親子が近づき、僕に手を出してきました。僕はどうしてよいのか分からず戸惑ってしまいました。お母さんは抱いている赤ちゃんをさしながら、「この子は最近何も食べていません。だから死んでしまいます。」と言うような目で訴えてきました。

 結局、同情してお金を上げたのですが、そうすることが正しいか間違っているのかは今でも分かりません。なぜなら、“物乞い”する人が、そのお金だけを頼りに生活してしまい、自立できなくなってしまうからです。
(派遣団長 中学3年)

 ベトナムは国連が「世界最貧国」に指定する国ですが、私たちが目にしただけでもそのことがよく分かりました。「ホーチミン」でも「フエ」でもストリートチルドレンと見られる子どもがかなりいました。ベトナム政府の発表によると、今ベトナムにストリートチルドレンは5万人以上、フエ市だけでも300人以上いるということです。“物乞い”する人は子どもから大人まで、私たちのバスが停まるところにはどこにでもいました。長いフランスの植民地のあと、日本軍の支配、そしてアメリカとのベトナム戦争とベトナムの国土は荒らされ、人々は長い間苦労を強いられました。日本の子どもたちが戸惑ったように、ベトナムには日本にない「絶対的な貧困」がありました。これが「社会主義」ベトナムの現実でした。


(4)元ストリートチルドレンとの共同作業

 次の日私たちは空路フエ市に向かいました。フエ空港に着くと、「子どもの家」の5人の子どもたちが花束をもって私たちを出迎えてくれました。これには皆感激でした。

 私たちは、この後、フエ市の歓迎式典に参加し、ハイバーチュン中高学校の訪問を行いました。そして、「子どもの家」で元ストリートチルドレンと交流しました。子どもたちは、私たちが持っていったおもちゃに大喜びでした。また外に出て一緒に遊びました。夕食は元ストリートチルドレンと交互に座り、話しながら食事をとりました。

 元ストリートチルドレンと行った最大の行事は、何と言っても共同作業です。職業訓練所の建設のため、砂運びやレンガ積みを共に行いました。

 この日は晴天で気温は35度を越えていました。ただ立っているだけでも暑い中、2時間にわたって共同作業を行いました。ここでは元ストリートチルドレンの逞しさに圧倒されました。



 3日目は、第2ストリートチルドレンの家の建築工事の手伝いをしました。立っているだけで汗が出てくるほどの暑さの中、仕事は続けられました。仕事の内容は、スコップや荷車のような物を使って土を運ぶという単純作業の繰り返しでしたが、意外に体力が必要でとても疲れました。しかし、ベトナムの子どもたちが、楽しそうに、うれしそうに労働している姿を見て、私も頑張らなくてはと思いました。

 小山先生は、「日本の子どもたちは労働する場がなくてかわいそうだ。」と言っていました。私も全くその通りだと思います。労働することによって、お金のありがたみを感じ、むだのない生活をすることができるからです。この「子どもの家」の子どもたちはみんな、とってもかわいくて、とっても優しくて、とっても素直な子どもばかりでした。
(中学3年 女性)



 「子どもの家」の子どもたちはとても元気がよく、明るく、優しい子どもばかりでした。共同作業の時、子どもたちの体力には驚きました。僕は疲れてしまっているのに、僕の何倍も働いている子どもたちは疲れていないみたいで、しかもとても楽しそうにやっていました。
(中学1年 男性)

 子どもたちは元ストリートチルドレンとの共同作業を通じ、自分を見つめ、ベトナムの子どもの逞しさや、生きる強さを学びました。これはお金には代えられない得難い経験でした。


(5)笑顔という大きな贈り物をもらった

 4日目、私たちは枯れ葉剤によって障害をもってしまった子どもに車椅子を渡しました。この車椅子は「ベトナムの『子どもの家』を支える会」の会員が寄付してくれたもので、日本から子どもたちが運んだものです。私たちは、小山さんの案内のもと、車椅子を渡すため、障害をもってしまった3人の子どもの家を訪ねました。


 4日目、障害児の家庭訪問。全部の家を通じて、後から聞かされたびっくりしたこと。まわりにいた人達が家族でないということだ。自分のことのように心配して、涙を流して一緒に喜んでいる。これが本当の愛だ。その病気にかかってしまった子どもも、車椅子に乗れてあんなに喜んでくれるなんて。
(中学3年 女性)

 アメリカはこの枯れ葉剤については、謝罪もしていないし、何の保証もしていません。20年たった今も被害は減ってはいません。猛毒ダイオキシンは森から地下へ、川から海へと流れだし、新たな被害を生んでいます。そして、被害を受けた多くの子どもたちは、全く保証のないまま生活しているのです。私たちのしたことは、ここからすればほんの小さなことです。しかし、これは誰かが、小さなことから始めていくしかないのです。


(6)ベトナムから学んだこと

 子どもたちは、この6日間のベトナムの旅から多くのことを学びました。その一部を子どもたちの感想文から拾ってみます。


 ベトナムへ行く前は、とても貧しい国で、人々もちゃんと服を着ていなくて、少し汚いイメージをもっていました。しかし、今では、そのようなことを思った私を恥ずかしく思います。貧しいというのは本当ですが、それは、長い間戦争にまきこまれていたからです。しかし、人々は全く違います。ベトナムの人は、みなが明るく、親切です。そして、とても温かです。ベトナムに来て、私が一番学んだことは笑顔の素晴らしさです。話しが通じなくても、分かち合うことができました。ベトナムという国は、活気あふれた、とても温かい人間のいる国で、たくさん学ぶことがあり、行ってよかったです。
(中学3年 女性)



(7)子どもたちがつくったビデオレター

 今まで私が書いてきたベトナムでの模様は子どもたちがビデオに収めました。そして、それを子どもの視点で編集し、28分間の「ビデオレター」としてまとめました。私たちはこの「ビデオレター」を普及する中で、ベトナムのストリートチルドレン支援の輪をさらに広げていきたいと思っています。興味のある方、ぜひ購入してください。1本1,000円です。




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